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93話

 そして、ヴェルメルサ魔道競技大会は始まった。

 今回の注目カードは5枚。

 1人目は『勇者』アンブレイル・レクサ・アイトリウス。

 ま、当然だけど、注目の的だよな。

 2人目は『勇者の杖』ティーナ・クレスタルデ。

 繰り出される多彩な魔法には期待が高まっている。ま、俺に言わせりゃ器用貧乏ほどどーしよーもないものも無いけどな。

 3人目は『光姫』ゾネ・リリア・エーヴィリト。

 言うまでも無い。エーヴィリトの次期国王。シャーテのお姉ちゃん。

 光魔法が得意らしいけど、はてさて。

 4人目は『闇王子』ファンス・クロナス・フォンネール。

 言うまでも無い。フォンネールの次期国王。俺の……ええと、ちょっとまて、ええと……従兄弟にあたる。

 ゾネ・リリア・エーヴィリトとの対決が今回の1つの見どころだろうな。フォンネールとエーヴィリトってあんまり仲良くないし、ま、楽しく見せてもらいましょ、っと。

 そして5人目は我らが『魔女』。ディアーネ・クレスタルデだ。

 ……当然、事前の評判はよろしくない。

 ディアーネのお姉ちゃんたちはディアーネの事をあんまりよく言わないから、ディアーネのお姉ちゃんたちが大好きな人達は当然、ディアーネの事は嫌い。

 ディアーネ曰く、『嫉妬は醜いわね』らしいけど。ま、今回はしっかりがっつり、観客に一発でかいの見せてやれ、と、俺はとっても楽しみにしている。

 ……ちなみに、街の人々の注目は以上5人なんだけど、当然、注目すべき人物はもう1人居る。

 駆け込みギリギリ登録だったせいで注目されるに至っていないが!今大会の最有力優勝候補!『シエルアーク・レイ・アイトリウス』!つまり俺である!




 開会の言葉とかは寝てたから聞いてない。どうせ今日はいい天気とか言ってたんだろうから別に聞いてなくても問題ない。

 余談だが、俺は前世において『直立不動でうつらうつら眠る』という特技を習得した。

 よって、校長先生のありがたいお話は大体うつらうつら睡眠時間にしたし、来賓の祝辞も大体うつらうつら睡眠時間にしたし、体育祭の開会式なんかもうつらうつら寝てた。

 今回みたいに観客席の一部に座ってられるんだったらそりゃあもう、余裕をもってすやすやと快適に眠っちゃえる。それが俺なのであった。


 問題はその後。

 ……試合はトーナメント形式だ。つまり、対戦表によっちゃあ、俺とディアーネがかち合う、とかいう最悪の事態になりかねないんだが……。

『それでは気になるトーナメント表はこちらです!』

 発表と同時に、空中に大きく現れたトーナメント表を確認する。

 ……えーと……如何せん、有象無象の名前が多くて分かりづらい……あ、あった。

 うん、うん……よし。

 まず、俺を含めた注目カード6人は、どう頑張っても準々決勝まで当たらない。

 準々決勝でアンブレイルとゾネ・リリア・エーヴィリト、俺とファンス・クロナス・フォンネールが当たる。

 多分、開催者側はゾネとファンスをぶつけたくなかったんだろう。正直、俺が開催者側でもそうする。

 だって、下手すりゃ国際問題に発展するんだもん。わざわざ火種作りたくねえよ。普通に考えて!

 ……その後、俺とティーナ・クレスタルデが当たり、ディアーネとアンブレイルが当たる予定だ。

 あくまで、『予定』だ。

 ……これ、アンブレイルがゾネに勝ってくれないと、俺がティーナに負けなきゃいけなくなるんだけど。

 頑張れアンブレイル!




 そうして対戦が始まった。

 ……っつっても、あんまり語る事は無い。

 もう、あらかじめ分かってたことだけど、注目カード6枚以外は平々凡々とした団栗の背比べだからね。

 一回、アイトリアの術師が出てた時は中々面白かったんだけど、そいつも『闇王子』ファンス・クロナス・フォンネールにあっさり負けたし。俺が王になったらしごき直してやる、こんな術師!


 逆に、注目カード5枚は中々見ていて面白かった。

 まず、ディアーネ。

 当然だけど、強い。そして、手加減も上手い。……相手に棄権させるのがすっごく上手いのだ。

 炎の龍を生み出して空中で一回転させてから(ここで観客がおおいに盛り上がった)対戦相手に向かってゆったりと飛ばし、龍の咢がゆっくりと開き……。

 ……こんなん、誰が棄権せずにいられようか。いや、無理。

 炎の龍に食い殺される、という視覚的な衝撃は、多くの対戦者をさっさと棄権させていった。

 いかに世の呪術師どもが実践慣れしてねーかが良く分かる。

 ディアーネは炎の龍を巨大な火の玉発射5秒前にしたり、鳳凰にしたり、とバリエーション豊かに、かつ圧倒的に相手を棄権負けさせていったのである。


 次に、ティーナ。

 こいつもまあ、見ててそんなに飽きない。

 見せびらかすように、一戦一戦で違う魔法を使うからな。最初は水魔法を使っていたと思ったら、次は風魔法。光魔法や闇魔法にも手を出し……という具合に。

 ……ただし、火魔法はあんまり使わなかった。ディアーネがああだから、火魔法を使っても見劣りするってことが分かってるんだろう。賢明な判断だな。

 そしてティーナは、ディアーネと違って相手を完璧に伸していった。

 優秀な回復術師が居るから負傷させても大丈夫、とはいえ……あんまりスマートじゃねえな、と、俺は思う。


 それから、ゾネ・リリア・エーヴィリト。

『光姫』の名を冠するだけのことはある。流石光の精霊のお膝元エーヴィリトの次期国王、というかんじだな。

 使う魔法は光魔法のオンパレード。ただし、火力には欠ける印象だな。

 元々、光魔法ってのは対人よりも対魔で役立つ魔法だし、当然っちゃ当然なんだけどね。

 ……ただ、火力に欠ける分、耐久力はすごい。

 光の結界を張ったが最後、相手の魔法は光に力づくで掻き消されてゾネまで届かない。

 その隙に相手には光の矢が飛んで行くんだから、ま、勝てるよな。

 派手さは無いけれど堅実な勝ち方を重ねてく、ってかんじ。


 対して、ファンス・クロナス・フォンネール。

 こちらも流石、闇の精霊のお膝元フォンネールの次期国王。闇魔法のオンパレードである。

 ただしこちらは、あんまり防御がお好きじゃないらしい。

 飛んできた魔法に闇魔法をぶつけて派手に相殺するくらいで、後はひたすら攻撃攻撃攻撃、である。

 おかげで進行が速い速い。相手がすぐに負けるからね。

 ……うーん、ファンスとゾネの対戦、見てみたかったなあ……。


 そして一番気になってたアンブレイル。

 こちらはまあ、なんというか、本業魔術師じゃないのによくやるね、ってかんじだ。

 元々光魔法の素質はそこそこにあったらしいし、無属性魔法も使える。無属性魔法は相殺がとっても難しいので、対人・対魔法においてはとっても強いんだよな。

 しかし、決して魔術的技巧に長けてる訳じゃない。一発一発の出し方が遅いし、使い方もなってない。

 けれど精霊のお力、勇者に与えられる女神様の加護、って奴かな、無駄に出力が大きいもんだから、多少雑な魔法でも勝てちゃってる、ってかんじ。

 美しくはないが、実戦で使うなら十分な出力だと言える。

 ……十分な技巧が備わってないから、盾になってくれるお供の騎士とかいなかったらもうこいつ死んでるんだろうけどな。


 ちなみに、俺はひたすら判定勝ちを重ねている。

 もう、一番最初のステージで宣言しちゃったもん。

『最近アンチマジック・マジックにはまっているので今日はそれで行く!』って。

 ……俺のとっても派手なファンサービス旺盛系魔術を見たかった人達には申し訳ないけど、今の俺に使える魔術なんて1つも無いからね。

 よって、魔法のハリセン(魔力吸収剣である。一応。)を振り回しつつ、相手の魔法を全て相殺する(と見せかけて吸収してるだけ)という、とっても訳わからん戦い方をしている。

 尤も、訳わからんのは学の無い観客にとってのみで、ちゃんと魔術の勉強してる人達には『なんだあれは!?』って好評。いや、訳わからんという点では同じなんだけど、魔術的にはとっても高度なことをやってるように見える訳で。

 つまり、見た目の派手さは無いけれど、魔術的には超貴重な戦闘シーンなのである。玄人好みというか。

 ……ただ、それだけだとワンパターンで飽きられて終わりなので、ちゃんと色々用意してきた。

 服の袖から出せるようにハト仕込んでおいたり、ハリセンじゃないやつをいきなり花束にできるように仕込んでおいたり、水晶玉ジャグリングしてみせたり。

 戦闘中に余裕かましつつ、超高度なアンチマジック・マジックを展開する。

 もう、俺の魅力が留まるところを知らない!

 ちなみに、観客には結構ウケた。一番ウケが良かったのは、ハト出した回の次の回。ハトじゃなくて猫をわらわらいっぱい出したら意外性があったらしくて中々ウケたね。

 俺としては対戦中、猫を魔法から守らなきゃいけないんで、一番緊張する舞台となった。二度とやらねえ。




 こうして順調に試合は進んでいき、いよいよ準々決勝になった。

 ……有象無象対有象無象の楽しい準決勝が2つ終わったら、いよいよアンブレイル対ゾネと、俺対ファンスの戦いになる。

 さて、ここで1つ、虎の子を出してやるとするか。




 先に対戦になったのは、アンブレイルとゾネ・リリア・エーヴィリトだった。

 ……ここでアンブレイルが勝ってくれなきゃ困るので、俺は全力でアンブレイルを応援する。心の中で。

『さあ、いよいよ待ちに待った大一番がやって参りました!』

 MCの煽り文句に観客が熱狂する中、ステージに2人が現れる。

『光の国エーヴィリトより参戦!全ての光魔法は彼女の中にあり!ゾネ・リリア・エーヴィリト!』

 白いふんわりしたドレスと飾り物にすら見える華奢で豪奢な杖、という姿で優雅に観客に手を振るゾネ。まるで『戦う』ってかんじじゃない。怪我する可能性を全く考えていない服装は彼女の自信とも無知ともとれる。

『そして対するは『勇者』!アイトリウスの血を引きし者!アンブレイル・レクサ・アイトリウス!』

 そしてアンブレイルは、魔力布の戦闘用の服と、あまり使い慣れていないであろう杖。ま、アンブレイルの十八番は魔法剣らしいから、杖と魔法だけで戦うのは不慣れなんだろうな。

『どちらも優秀な魔術師ではありますが、勝ち残るのは片方のみ!……果たして、どちらが準決勝へ進むのか!』

 両者はステージ上で見合い……あ、ちょっと待て。

『では、構え!』

 これ……うん。大丈夫だ。絶対アンブレイルが勝つわ。

『……勝負、開始!』

 だって、ゾネさんの顔が憧れの人を前にしちゃった恋する乙女のそれそのまんまなんだもんよっ!


 アンブレイルが今までに、或いは最近、エーヴィリトで何をやったかは知らないけど、ウルカの話から、『少なくとも一度、アンブレイルとゾネは光魔法で勝負した』事が分かる。

 という事は少なからず接触があったわけで……そして相手はシャーテ曰くの『頭に花畑が咲き誇っている』お姫様だ。

 つまり、箱入りだし夢見がちだし、アホ。

 ……そんなお姫様が、『勇者様』と相見えることがあったら……ましてや、そこで何らかの接触があって、ちょっと親密になるような何かがあったなら。

 ……まあ、不自然な話でも無い。俺程じゃあないが、アンブレイルだってそこそこの美形と美形のかけあわせだ。

 そこそこに見目麗しい王子様兼勇者様に惚れるぐらい、まあ、あり得るだろうし。


 さて、そこ2人は『お幸せに!』ってかんじでどうでもいいんだけど、問題はゾネがアンブレイルに惚れてるって事である。

 つまりどういう事かっつうと……魔法にキレが無い!

 手を抜いているように見える程度には、魔法にキレが無い!

 流石の『光姫』も、愛する人に本気の魔法はお見舞いできないらしい。

 そのままつまんねー戦い繰り広げて、結果、アンブレイルの勝ち。

 ……結果としてはまあ、俺の望む通りになったんだけど、なんかこう……つまんねーの。




 さて、兄上がつまんねー戦いを見せた分は俺が盛り上げてやるとしよう。

『さあ、それでは準々決勝最後の試合です!……闇の国フォンネールの王子!そして、若くして闇の全てを手中に収めた優秀な魔術師でもあります!ファンス・クロナス・フォンネール!』

 俺の目の前にやってきたのは、どことなーく、俺に顔立ちが似てないでも無い従兄弟の姿だ。

 ……多分、向こうは俺との血のつながりなんて知らないんだろうけどね。

『そして対するは、アイトリウスきっての麗しき魔導士!今大会最年少にして魔術界最大の功績の持ち主!シエルアーク・レイ・アイトリウスだ!』

 ファンス王子の視線は緊張に満ちて鋭い。ここで勝てれば、ゾネ・リリア・エーヴィリトよりも『上』だって証明になるからね。多分、あの御爺様からプレッシャー掛けられてるんじゃないかな。可哀相にね。

『それでは、構え!』

 しかし、俺が相手じゃあ勝つなんて無量大数に1つもあり得ないのだ。可哀相にね。

『勝負、開始!』

 俺はゆったりした動作で、『杖』を構えた。




 今回、俺が持ち込んだ武器は2つ。

 1つは、ハリセンこと魔力吸収剣のできそこない。

 これは当然、魔法を無力化するのに使ってる。

 そしてもう1つ。

 ……『魔法の使えない俺が魔法を使う』ための装置を持ってきた。

 それがこの杖。

 ディアーネに詰めてもらった魔法と、ヴェルクトから吸ってきた魔力が詰まった、この杖である。


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