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91話

 一体何の『確認』かっつったら、そりゃ、契約内容の確認である。

 なんでわざわざ分かり切った事を確認するかっつったらそりゃ……穴を探すためである!


「ええと……『ディアーネ・クレスタルデはアルバ・クレスタルデとの契約に従い、ヴェルメルサ魔道競技大会においてアンブレイル・レクサ・アイトリウスまたはティーナ・クレスタルデと対戦し敗北することでクレスタルデ家の紋章を得る。アルバ・クレスタルデはディアーネ・クレスタルデとの契約に従い、ヴェルメルサ魔道競技大会においてディアーネ・クレスタルデがアンブレイル・レクサ・アイトリウスまたはティーナ・クレスタルデと対戦し敗北した時、クレスタルデ家の紋章をディアーネ・クレスタルデに譲渡する』」

 長い。

 第一文からこれである。先が思いやられるね。

 まあ、このぐらい相手も慎重、ってことなんだろうけど。

「くそー、ってこたあ、俺かヴェルクトが出てアンブレイルとティーナをディアーネより先にボコすってのはナシか」

 ……一番先に考えた事である。

 つまり、俺かヴェルクトも魔道競技大会に出場して、ディアーネよりも先にアンブレイルとティーナに当たればいい。そうすればディアーネは『アンブレイルやティーナに負けるもなにも、そもそも対戦する事ができない』んだから負けなくてもいいんじゃね?って思ったんだけど……。

 ……それは綺麗に封じられてるね。

 今回の条件は、『ディアーネがアンブレイルかティーナのどちらかと対戦して負けること』だ。当たらなかったら該当なしって事で、クレスタルデ家の紋章をもらう話も白紙、って事になる。

「貴方が一緒に居る時点で、お父様だってその程度は考えつくわ」

「だろうね」

 ま、いいや。次いこう、次。


 次の文は、こんなかんじ。

『ヴェルメルサ魔道競技大会における対戦と敗北については以下のように定める。

 ・対戦のルール、敗北の条件等についてはヴェルメルサ魔道競技大会ルールブックに従う。

 ・ディアーネ・クレスタルデは棄権・参加辞退をしてはならない。

 ・ディアーネ・クレスタルデはヴェルメルサ魔道競技大会ルールブックのルールを順守し、これを破ってはならない。

 ・ディアーネ・クレスタルデは対戦を放棄してはならない。

 ・ディアーネ・クレスタルデは故意に敗北したと観客らに思われない戦い方をする事を誓う。』

「徹底してんね」

 なんというか、ディアーネの親父さんだな、ってかんじである。

 娘がやりそうなことを一通り分かってるっていうか。

「……シエル、これはどういう事だ?何故棄権や参加辞退をしてはいけないんだ?」

「『綺麗に負けてはいけない』という事よ」

 ……ヴェルクトが分からないのも無理はない。普通、こんな事しないからね。

「今回、ディアーネの親父さんの目的は、『ディアーネの敗北』じゃない。『勇者やティーナの強さの証明』なんだよ。だから、『戦って』勝った負けた、ってやらないと意味が無い。勇者やティーナの強さを誇示できないと意味が無いんだ。ディアーネが棄権しちまったら、そんなことできないだろ?」

 説明してやれば、成程、と、ヴェルクトは苦い顔で頷いた。

 ね。中々嫌な契約書である。

「反則負けも駄目、ってのが嫌ねー」

「そうね」

 反則負け駄目っていう一文が無かったら、散々アンブレイルだのティーナだのをこんがり上手に焼き上げた後で反則負けして負ける、っていう、『試合に負けて勝負に圧勝』ができたんだけどね。

 流石に抜かりないね。向こうも伊達に貴族やってないって事か。

「最後の一文は……曖昧だな」

「曖昧なのがミソなんだよな。ここは『誓い』だから、ディアーネ本人がディアーネ本人に対して課してる部分。ディアーネが極端に手を抜いちゃ駄目、って、ディアーネ本人に課してるの」

 わざと曖昧にすることで、ディアーネでディアーネを縛る一文にしている。

 性格悪い!あの親父さん、性格悪い!

「……どうかしら、シエル。何か穴は見つかって?」

 と、いうことで、だ。

「……ちょっぴりお手上げ?」

 流石の俺も、ちょっとお手上げ気味なのであった。




 それからもひたすら血眼になって契約書を読み続け、1文字でも変なところが無いかの確認を行った。

 穴が1文字、いや、1画でもあればそこを突っついてこじ開けてやるんだけど……残念ながら、穴らしい穴はどこにも無かった。

「流石、お前の親父さんだよな」

「そうね。私が何を考えるか、よく分かってらっしゃるわ」

 ディアーネを釣る餌としてクレスタルデ家の紋章を持ち出したことも、ディアーネが色々やらかそうとするであろうことを見越してこんなに隙の無い契約書を作るのも、流石、としか言いようがない。

 ……だから俺、ここん家の親父さん、あんまし好きじゃないんだよなあ……いや、そこまで嫌いじゃないんだけどね、どうにも好きにはなれない。

「……となると、望みがあるとすればそっちか。ど?ヴェルクト、なんか変なルールあった?」

「いや……特におかしな点は無いように思うが……いや、すまない。俺が読んでも穴が分からないのかもしれない」

 まあ、俺だって期待しちゃいないけどね。

 ルールブック、ってんだから当然、公正・公平に作られてるはずで、そこにつけこんで何かしたりできないように作られてるはずだから。

 難しい顔をしてルールブックを読んでいたヴェルクトからルールブックを受け取って、俺もパラパラ読み始める。


 最初の『受付』とかのあたりはとりあえず飛ばす。

 ここに穴があっても正直どうしようもない。

 というか、『ルールブックの内容を順守し、破ってはならない』って契約書に書いてあるわけだし。


 ってことで次の次の次らへんにやっと、競技自体のルールが出てきた。

 ざっと、ルールはこんなかんじ。

 ・使用できる武器は、『杖』『指輪』『水晶玉』他、その他の魔法の補助となる物のみとする。

 ・対戦する術者は一度に2人とする。補助や護衛は認めない。

 ・25m離れて設置された直径1mの円にそれぞれの術者は立ち、それぞれの円から出ないように戦う。

 ・魔法以外の攻撃は禁止とする。

 ・どちらかの術者が円から出た時点、又は戦闘不能と認められた時点、又は棄権した時点で勝者が決定する。

 ・制限時間に決着がつかなかった場合は判定によって勝敗を決する。

 ・制限時間は3分間とする。

 ・禁呪の使用を禁止する。尚、古代魔法・妖精魔法・精霊魔法についてはその一部のみ使用を認める。(詳しくは別表12)

 ・会場には対戦者以外の者へ被害が及ばぬように結界が張ってあるが、万一結界が破られたときは対戦を一時中断とすることがある。


 ……まあ、こんな所か。

 当然だけど、結界をぶち壊しまくって魔道競技大会を延期にし続けるのも、禁呪使って反則負けするのも、契約書で禁止されてることに引っかかるから駄目なんだよね。

「どうだ」

「いやあ……正直、ディアーネの行動が縛られまくりなのが痛い。反則負けは駄目、ティーナとアンブレイルに当たらないようにするのも駄目、手を抜いてるように見える手の抜き方は駄目、負けなきゃ駄目、辞退・棄権も禁止、……って、ちょっと待てよ、おい、これ、『棄権』できない、って、ディアーネ、お前」

「そうね。私は『戦闘不能』になることをお父様に望まれているのでしょうね」

 ……残酷な契約、させやがる。

 魔導士達の『戦闘不能』は大きく分けて3つだ。

 魔力切れ、魔封じ、そして、重傷・瀕死……或いは、死亡。

 ディアーネの魔力は到底、魔封じされるようなものじゃない。

 そして、ディアーネ程の魔女が禁呪も使わないのに魔力切れなんかで負けたら『故意に敗北したと観客に思われる』から、これは駄目。

 ……つまり、ディアーネは重傷を負う、瀕死になる……或いは、死ぬ。この3択でしか、『戦闘不能』になれない。


「……ディアーネが怪我しないで、負けられる方法……」

 もうここまで来たら、ディアーネの面子よりもディアーネの命を考えてしまう。

 だって、向こうはどうせ、ディアーネが八百長を持ちかけられてるなんて知らされない。

 遠慮なく容赦なく、叩きのめしに来るんだろう。

 ……本来、アンブレイルもティーナも、全力を出したってディアーネに勝てっこないのだ。

 だから彼らはディアーネを殺しにかかる勢いで来るはず。……何も知らずに!

「反則負け、は駄目。棄権も辞退も禁止……」

 文面を見ながら、『怪我を治す火魔法って禁呪以外にあったっけ?』とか考えて、使える魔法一覧を見たりするけれど、当然そんなものは無い。会ったらディアーネがとっくに使ってる。

 ……タイムアウトの判定負け、は、駄目だ。

 ディアーネは『全力で』戦うふりをしなきゃいけない。少なくとも、『負けようとしている』なんて思われちゃいけない。

 だったらそもそも制限時間オーバーはおかしいし、大体、ディアーネが『負けようとしないで判定負けする』なんてありえない。

 ……ん?




 ……ちょーっと、待とうか。

 よし。よしよしよし。大丈夫。俺の頭は正常。フル回転。バッチグー。よし。

「な、もしかしてさ、ディアーネは『負けなきゃいけない』し『負けようとしてるように見えちゃいけない』けど、『負けようとしなきゃいけない』なんて書いてないんじゃねえの、これ」

「……そうね。けれど、そうなれば当然、私が勝つわ」

「いいや、負ける。『本気で勝とうとしていたディアーネ』が負ける事態が起こり得る。そう。『判定負け』ならそれがあり得るんだよな」

 ヴェルクトは頭の上に疑問符を浮かべ、ディアーネは少し考えて……はっとしたように目を見開いた。

「『不正』が働いた場合だよ!」




 そうして俺の明晰な頭脳は、最高のプランを組み立てた。

 題して、『アンブレイル君の不正!?ヴェルメルサで大暴動だ!』作戦。

 ディアーネは全身全霊で『判定勝ち』を狙うだけ。

 ……そして、ディアーネとは関係ない裏で、『アンブレイル様やティーナ様に有利な判定をしろ』って、金が動くだけ。


 となれば、早速金を調達しなきゃいけない。

 この近くで一番すぐ金になりそうなのは……。

「よし!とりあえず今日は徹夜でドラゴン狩りだ!」

『勝敗が判定まで持ち越しになったらアンブレイルとティーナを勝たせろ』って、審査員にオネガイするためのお金だ。相当な額が必要だろう。

 さてさて、ドラゴンは何体ぐらい狩れば間に合うかね?


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