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83話

 さて。さっさとパフェ食って寝て、延期になっちゃった城への潜入に備えたいんだけど、そうは魔物が許してくれなかった。

 アイトリアの街壁から魔法がバンバン来てるから、それに当たって結構死んではくれるんだけど、如何せん、数が多い。

 しかも、火のパイルさんが俺のことを『勇者』だっつってくれちゃったもんだから、魔物たちも『敗走するよりはここで勇者の首を獲ってやれ!』みたいな意気込みになっちゃってるらしい。

 非常に迷惑な事に、魔物は俺を殺そうと頑張ってくれちゃってるのであった。


 そうなると、俺は1人、ひたすら剣で戦うしかない。

 なんで1人かって、そりゃ、普通に考えれば白兵戦より遠距離魔法射撃の方がよっぽど効率が良いからだよ!

 ……つまり、今、俺がここで戦っている間にも、俺を巻き込む形で無数の魔法が飛んできている。

 よって、俺以外の誰かがここで白兵戦なんぞやろうとしたら、そいつは魔法に巻き込まれてさっさと死ぬのは明白。

 ディアーネには、呪術師たちに『あそこで戦っている者は高位の魔術結界を張っているため、いくら魔法に巻き込まれても無傷だからバンバン魔法撃ってください』みたいな説明をお願いした。

 ディアーネは上手くやってくれたんだろう。だから現にこうやって魔法が飛んできてるんだし。

 ……多分、魔法の援護射撃が無かったら、流石の俺もこの数の魔物に囲まれて死んでると思う。

 やっぱ魔法って強いんだよね。


 ちなみに今、俺が使っているのは魔力吸収剣の方じゃない。魔法銀の普通の剣だ。

 ……魔力吸収剣はまだ剣として使えるものじゃないからね。まあ、これだけ弱った魔物相手なら、むしろ魔法銀の剣の方が役に立つ。

 襲い掛かってくる魔物を最小の動作で斬って捨てていく。

 できるだけ、無駄は無く。速く。それでいて正確に。

 実戦仕込みの俺の剣術は、こういう混戦でも十分役に立ってくれた。

 最小の動きで確実に急所を狙って、魔物を『殺す』。

 相手は人間じゃない。動きは人間のそれじゃないし、急所も微妙に違う。(いやだってさあ、普通に心臓が3つある奴とか首がいくつもある奴とか逆に首が無い奴とかいっぱいいるんだもん)

 それぞれの魔物を最短で殺すルートを瞬時に頭の中で組み立てて、その通りに体を動かす。

 使えるものは何でも使う。俺の武器は剣だけじゃない。頭脳と、臨機応変な対応も、だ。

 だから、殺した魔物の死体を蹴りあげて盾にしたり、同時に複数方向から襲い掛かってくる魔物を誘導して同士討ちさせたり、切り飛ばした魔物の首でサッカーやってみたり、と、バリエーションに富んだ戦い方で戦い抜く。

 ……最初は、『とりあえずアイトリアまで帰還できれば後は呪術師がやってくれるだろ』って思ってたんだけど……どうもそれも難しそうである。

 だって魔物、全員俺の事狙ってくんだもん!逃げようがないわ!

 そうなると仕方ない、俺は魔物が全滅かそれに限りなく近い状態になるまで、ここで戦い続ける羽目になるのである……。




 空がすっかり青くなって、お日様がすっかり顔を出した頃、俺は魔物の死体の山の中に満身創痍で立っていた。

 やりきった達成感と、眠気と疲れとその他諸々で今にもぶっ倒れそうである。パフェとかもういいから寝たい。ねむい。

「シエル!」

 そして、そんな俺を迎えに来てくれたのは有翼馬に乗ったヴェルクトだった。

 有翼馬を巧みに操り、魔物の死体を踏みながら猛スピードで駆けてきて、俺をすぐ有翼馬の上に引っ張り上げた。

「まずいことになった。どうする、今すぐ逃げるか?」

「なに、なにがあったの。俺は眠い」

「『高位の魔神を1人で倒し、魔物と1人戦い続け、アイトリアを守った者を表彰したいから連れて来い』だそうだ」

 ……は?

「今、ディアーネが王の足止めをしてくれている。ウルカは宿の荷物を回収してくれる手筈だ。このまま逃げるならヴェルメルサのレリッサで落ち合う」

 ……色々と気になることは山のよーにあるけど、ま、そこら辺は置いといて、だ。

「王が直接来てんの?」

「ああ、そうだ。兵を連れている。数は24。全員相当強者揃いだろう」

 24人の兵、っつうと、国王の親衛隊かな。ま、当然だけど全員強いよね。うん。

「ふーん。……ってことは、王に会う時は街の中?」

「……そうだな。その後で王城に召集されるんだろう、とディアーネは言っていたが」

 ……うん。よし。

「じゃ、折角のお迎えと脱走準備、無駄にしちまって悪いけどさ。戻る。戻って表彰される」


「……いいのか」

 ま、当然、リスクはあるよ。

 だって俺、諸外国にお触れが回る程度には指名手配中だもんね。

 その敵陣に真っ向から突っ込む訳だから、まあ、リスクは言うまでも無い。

「うん。流石に、民衆が見てる中で『アイトリアを救った英雄』を殺す事は出来ないでしょ。……っていうか多分、親父はその『アイトリアを救った英雄』が俺だって知らないんじゃない?」

 けど、これはチャンスでもあるのだ。

 この訳わかんねー指名手配状態を脱するチャンスでもあり、そして何より……俺が王になるための、チャンスである。




 とりあえず、有翼馬の特性を生かして、街門じゃなくて外壁を飛び越えて街の中に入った。

 さっき西側に結界を集中させたおかげで、ここらへんのセキュリティはガバガバ。よってヴェルクトも有翼馬も侵入は容易。ははは完璧。

 ……そして、こっそりと宿に戻ると、そこにはウルカが待機していた。

 ヴェルクトがディアーネに魔法で合図して、ディアーネがウルカへの伝令になる予定だったらしい。

 俺が居ないってのに、良くやってくれたもんである。つくづく、いい仲間に恵まれた。

「じゃ、俺の荷物貸して」

「ああ、行ってこい、シエルアーク」

 ウルカは多少心配そうな顔こそしたものの、あっさり俺に荷物を返してくれた。割とこいつ、肝は据わってるし楽しいことも好きだからね。

 荷物をごそごそやっていつものマントがすぐ取り出せるようにしたら、もう一度アイトリアの外へ出る。

 そこでヴェルクトと一旦別れて、俺は1人、てくてく歩いてアイトリアへ戻るのだ。




 街門を抜けてすぐの広場近辺では、ディアーネが兵士達と呪術師込みで話をして、時間を稼いでくれていた。

 ……後で何を話してたのか聞いたら、結界を弄ってしまった事のお詫び(という名の自慢)と、その補修・改修についての嘆願をしていたらしい。

 そこへ俺は颯爽と戻ると、ディアーネが振り向いて一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐにいつもの笑みを浮かべて、優雅に一礼して下がり、俺に場所を譲った。

 途端、後ろに居た兵士たちが居住まいを正す。

 24人の国王親衛隊がざっ、と動いて隊列を作ると、奥から……国王……俺の親父である、ラノシス・レクサ・イディオス・アイトリウスが、奥からやってきた。

「お主が此度、魔神の軍勢に1人立ち向かい、アイトリアを守った者だな?」

「はい」

 俺は胸を張ってそれに応える。

 親衛隊の端っこに居た奴が、『王の御前だぞ、跪け、無礼になるぞ!』とありがたい忠告をしてくれたが、気にせず王の目の前に立ち続ける。

「かように小さな体で、よくぞ戦い抜いてくれた。国を代表して礼を言おう」

 民衆たちは王と俺のために場所を空け、輪になる様にしてこちらを見物している。

 当然だが、その眼は素直な尊敬と感謝でできている。

「して、お主、名を何と言う」

 王の言葉に答えず、俺は鞄を開く。

 王の御前で何を、と、親衛隊が警戒する暇も与えない。

 鞄から勢いよく引っ張り出したマントは、綺麗に宙で広がり、その場にいた全員の目を引いた。

 ふわり、と宙に舞ったマントをその勢いのまま纏い、胸の前で留め金をかける。

 朝陽にきらり、と、アイトリウスの紋章が輝いた。

「我が名はシエルアーク・レイ・アイトリウス!我が国を救うため、私は帰ってきた!」

 俺の声は朗々と広場に響き渡る。

 王だけでない。兵のみにもとどまらない。

 広場に居た全員……数多の民衆たちにも、俺の声は、確かに届いた。

「お久しゅうございます、父上?」

 驚きのあまり固まってしまっている親父に満面の笑みを向けたところで、爆発するように民衆から歓声が沸いたのであった。


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