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81話

「しばらくぶりだな」

 って程でも無いけどね。

 ウルカはカウンター席で生ハムを肴に一杯やっているようだった。

 店の隅のテーブル席が空いていたので、そこにウルカも一緒に移動して、こっちはご飯を、ウルカは酒の追加を適当にオーダー。

「……ええと、名は呼ばない方がいいな?」

「あー、うん。察してくれて助かった」

 ウルカから当然な内容の確認を取られたので、肯定しておく。

 ……うん。ね。多分ヴェルクトとディアーネが居たから残りの美少女が俺だって分かっちゃったんだろうけど、あそこでうっかり名前呼ばれてたら色々やばかったもんね。


 こちらの近況報告をしている間に、オーダーしたビーフシチューとバゲットと茄子のグラタン、そしてウルカの酒と肴の追加が届いたので、食べながら話を続けることにした。

 ちなみに、俺達は飲まない。俺はこれから一仕事だし、最悪の場合そのサポートに入る2人が酔っぱらってたら怖くてしょうがないもん。

 ……酒場に居るだけでヴェルクトはほろ酔いになってる気がしないでも無いけども、まあ、こいつは飲めない分、抜けるのもそこそこ速いみたいだから……。


「で、ウルカはなんでここに?」

 ということで、真っ先に気になっていた事を聞く。

 こいつはエルスロアから滅多に出ない。なぜかっつうと、こいつの用事は全部エルスロアで済むことが多いからだ。

 とんてんかんかんできてりゃ幸せな奴だからね。他所の国に出かけてまで何か、っつうのは滅多にないはずなんだけど。

「ああ……『勇者殿』から依頼が来てな」

 ……思わず、ディアーネとヴェルクトと顔を見合わせてしまう。

「最上の剣を作れ、という事でな。材料が足りないからアイトリアまで買い付けに来た」

 あー、はいはいはい、成程。

 エルスロアは鉱石の宝庫だけど、全ての鉱石が出てくるわけじゃない。

 どの国もそれぞれが別の精霊のお膝元だから、一部の鉱石や魔草なんかは、それぞれの国でしか手に入らないこともある。

 アイトリウスは空の精霊のお膝元だから、『無属性』っていう属性の鉱石が特別に採れたりするのだ。

「必要なのは青天銀?蒼穹鋼?」

「そのあたりは一応ストックがあったんだが、積乱雲母が欲しくてな」

「えー……何に使うの、そんなん」

「剣は蒼穹鋼と光白金をベースに作るつもりなんだが、その2つは相性があまり良くない。だから、2つの素材を綺麗にまとめる為に積乱雲母を混ぜるんだ」

 へー。わざわざそんなことしてまで。

「蒼穹鋼と光白金、っていうと、無属性と光属性のミックス?」

「ああ。勇者殿は無属性と光属性の素質が高い。逆に闇属性の素質は一切無いようだが。……となれば、無属性と光属性を引き出す剣が彼にとっての最上の剣となるだろう」

 アンブレイルは一応、正当なるアイトリウスの王子様である。

 アイトリウスの血を引く者として、当然、空の精霊の加護を一応は受けているのだ。

 ……うん。まあ、空の精霊としてはアンブレイルより俺の方が好きだろうし、俺よりヴェルクトの妹のルウィナちゃんの方が好きだろうけどな!

 って事で、まあ、アンブレイルにも無属性魔法の素質はあるから……。

 ……いや。ちょっと待て。

 ちょっと待てちょっと待てちょっと待った。

「え?え、なんで?なんで闇属性の素質が無いとか……え、ちょっと待って、あいつ、俺の魔力丸ごと奪ってったじゃん!使えないのおかしくない?」




「おかしくない?と言われてもな……ちゃんと術師が検査したみたいだから間違いはないだろう」

 ……まあ、仮に捏造したとしても、『適正あり』って捏造するのは分かるけど、『適正無し』って捏造するのはアンブレイルの性格考えてちょっとありえないしなあ……。

「じゃあ、あいつの適正について、もうちょっと詳しく」

「なら、見てもらった方が早いな」

 いくらなんでも気になりすぎるのでウルカに詳細をおねだりしたところ、ウルカの鞄から綺麗に折りたたまれた紙が出てきた。

 術師が書いたらしい、『アンブレイルの魔法適正証明書』である。

 ふむ、どれどれ……。

 ……ええと、まず、ずば抜けて光属性が高いかな。7年前の時点で既にアンブレイルは光魔法の大魔法まで修めていたから、ま、妥当だけど。

 それから、無属性もそこそこ。ここが低かったら逆にこいつの血筋を疑うべきところだけどね。

 ……逆に、闇属性は0。ほんとに0。まじありえねえ。俺の魔力盗んどいて?盗んどいてこのザマ?

 ざまあみろ、と嘲笑うべきか、俺の魔力使っといてなにやっとんじゃい、と怒るべきか……反応に困る。


 ……他に、火魔法は中々。でも水魔法は凡人並。地と風はそこそこ程度、ってところか。

 ……これ、そのまんま7年前のアンブレイルの得意不得意が現れてるな。

 確かに、7年前の時点よりは相当底上げされてはいる。少なくとも、7年前はあいつ、水魔法も使えなかったし、地と風もなんとか小魔法が使えるレベルだったし。

 けど、けど……俺の能力をそのまんま上乗せしたなら、全部カンストして魔力適正スカウターが爆発したっていいはずなんだよね。少なくとも7年前の俺は一回爆発させたことある。

 ……という事は、だ。

 魔力って……他人から奪っても、所詮この程度、ってことなのかな。

 それとも、アンブレイルが7年間サボりまくってこのザマなのかな。

 ……判別できねえ。正直どっちもあり得るし。

「参考になったか?」

「あー、うん。まあ、色々と。……とりあえず今のアンブレイルの状態が分かっただけでも満足」

 多分、闇魔法が使えなくてさぞかしアンブレイルは悔しい思いをしたことだろう。

 その現場を見られなかったのは残念だけど、想像するだけで楽しいからまあそれはいいや。


「ウルカから見て、今のあいつってどんなかんじ?強い?雑魚?」

 ちょっと気になったので、総括もウルカに聞いてみた。

 ウルカは職人であって戦士では無いけれど、だからこそ客観的に戦士の強さを見る事ができる。

 こいつの人を見る目は中々のもんだと思ってるよ。

「そうだな……実際に戦っているところを少し見せてもらったが……雑魚、では無い。光魔法に関してはエーヴィリトの高名な術師すら凌ぐ、エーヴィリトの王女……次期国王すら敵わなかったらしい」

 エーヴィリトの女王……あー、シャーテ王子のおねいちゃんね。宗教を盾にして政治サボってるっていう。

 ……まあ、頭空っぽ宗教女だったとしても、エーヴィリトの王族なんだったら、相当に光魔法の腕は立つはず。シャーテは少なくとも、そこそこ強そうだった。

 ……そいつに勝った、っつうんだから、まあ、そこそこ強いんだろう。光魔法は。

「無属性魔法については、弱くは無い。……が、戦い方が下手な印象を受けたな。使い方が下手、というか……実戦ではなく演武なら映えるのかもしれないが。剣は綺麗な使い方だな。大人しい。お前の様に大胆な使い方はあまりしない。忠実に基本を守っているんだろう。ああ、それから魔法剣は光魔法一辺倒のようだったが、それで正解だろう。あまり多くの事に手を出して上手くいくような人には見えなかった」

 ……あー、やっぱりそうか。

 アンブレイルは良くも悪くも温室育ちだ。小さいころからヤンチャしてコトニスの森に遊びに行ってたような俺とはわけが違う。

 アンブレイルは死んだら代わりが居ないから、魔物と戦いに行くようなヤンチャは許しちゃもらえなかったんだよね。

 この7年で多少は強くなったんだろうとは思うけど……聞くと、そんなに成長してないような印象も受けるな。

「水魔法と闇魔法については、恐らく耐性も無いな。魔王と戦うなら少し心配だから、鎧は闇の魔法に強い物を別の職人が作っているよ」

 至れり尽くせりだなー、アンブレイル。

 エルスロアの職人に装備一式急ピッチで作らせるとか、かなりワガママだし贅沢だぞ。

 ……その金、アイトリウスの国庫から出てんのかなー……。


「そっか。……じゃーさ……今のアンブレイルと今の俺が正面からぶつかったら、どっちが勝つ?」

 そして、最後に滅茶苦茶気になることを聞いてみた。

 一応、ウルカは今の俺の戦いも見てるし、アンブレイルのも見てるらしいから、意見は参考になるだろう。

 尋ねると、ウルカは少し考えて……結論を出した。

「どうだろうな。最初から剣の打ち合いになったら体格差でお前が押されるだろう。だが、不意を突いて仕掛けるくらいの事はするだろう?となると、五分と五分、という所か。……逆に、魔法の打ち合いから始まるなら、金貨10枚をお前に賭けてもいいぞ」

 そうか。ふんふん。聞いて安心した。慢心もしてあげちゃう。

「……やっぱりあいつ、臨機応変は苦手なの?」

「みたいだな」

「成長してないんだね」

「鍛錬を怠らなかったらもう少し水魔法が使えるようになっているだろうよ」

 ……まあ、アンブレイルはただ、ジッ○ロックからはみ出かけてる魔王を叩いてジップ○ックの中に戻して、精霊たちにジップしてロックしてもらうだけだもんね。

 そんなに力が必要だとは思って無いのかもしれない。

 ……ま、必要ないよ。実際。全くもって必要ない。

 何故なら、魔王はアンブレイルがジップロ○クにしまっちゃおうねする前に、俺によって殺されるからだ!




 それから『魔王の魔力ぶん取る装置』や『魔力吸収剣』について話し、俺達の旅先での出来事を聞かせ……としている内に、そこそこいい時間になってしまったので、勘定を済ませて宿に戻る。

 ……ウルカ、どう見ても瓶に3本ぐらい開けてたのに、しっかりした足取りである。

 こいつ、ほんとにザルだな!

「ああ、ディアーネ嬢達もこの宿だったんだな」

「ええ。折角だもの、少しいい宿に泊まろうと思ったの」

 そして、ウルカも俺達と同じ宿に泊まっていたらしい。

 ちなみに、酒場を出てからはずっと、ウルカはディアーネと喋るようにしていた。

 今の俺とヴェルクトはディアーネ・クレスタルデ嬢の従者だからね。

「買い付けは今日全て終わらせたから、明日の朝、リテナへ向かってクレスタルデ経由でガフベイまで戻る予定だ」

「そう。……私達はどうなるか分からないわ。彼女の働き次第、という所かしら」

 ディアーネが俺を示しながら言えば、ウルカも俺がなんかやらかす、という事は分かったらしい。それが王城破りだとは思って無いと思うけど。

 あまり無茶はするんじゃないぞ、と、ウルカは少し面白がるような顔で言った。




 そうして、それぞれの部屋に分かれてから、『そういや、今までに集まった材料はウルカにもう預けちまった方がいいかな』と思い至って荷物の整理なんぞ始めた矢先。


 ぞくり、と、背筋が凍るような感覚を覚えた。


 直後、けたたましく鳴り響く警鐘。

 兵士らしい人達の声。

 跳び起きて宿の窓から見れば、兵士たちが町の人々を誘導しているのが見えた。

「町の西から魔物の大群と思しきものがこちらへ向かっています!住民の皆さんはアイトリア中央広場へ!結界を張っています!急いで!」

 ……魔力を見る目で見るまでも無い。

 そんなことをしなくても分かるぐらいの魔物の大群が、恐ろしい速度で西から押し寄せてくるのが分かった。

 肌が粟立つ。

 一瞬で装備を整えて、俺は行動を開始した。

 俺の明晰な頭脳は、計算結果を弾きだしてしまったのだ。

 ……あの距離からあのスピードであの大群が向かってきているのなら、兵士たちの交戦開始がどんなに速くても……アイトリアに、被害が及ぶ。

 町に結界はある。あるが……多分、破られる!駄目だ、足りない。絶対に強度が足りない!

 そりゃそうだ、こんな魔物の大群なんて想定されてない。

 しかも、いきなりこの距離だ。一体どういう魔法を使ったんだか……心当たりはあるけども!

 そして、結界が破られたら……いや、そうはさせない。

 俺が、アイトリアを守る。

 次の王として。




 俺の足は、宿を出る方向……では無く、宿の廊下を駆けていた。

 本当に、彼女がここに居るって事は不幸中の幸いだ!

「ウルカ!」

 扉を開ければ、既に準備し始めているウルカが居た。

「寄越せ!」

「ああ!持って行け!『勇者』に相応しい剣だ!」

 そして、流石のウルカだ。

 ウルカは魔力吸収剣の『できそこない』を、俺に投げて寄越した。


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