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78話

「そう。夢を見たの」

「うん。どうせアイトリアの宝物庫には入らなきゃいけなさそうだし、折角だから墓まで足を延ばそうと思う」

 朝食の席でヴェルクトとディアーネに、さっき見た夢について話した。

 つまるところの、アイトリアの城の王家の墓地の端っこにある、『アルカセラス・レイ・アイトリウス』の墓の下に星屑樹が生えている、という話。

 荒唐無稽な話ではあるが、どうにも只の夢だと思うには色々引っかかりまくるので、折角だからアイトリアの墓参りもして来ようと思うのだ。

「……アルカセラス、という名に心当たりはあるのか?」

「いんや?全く無いよ?」

「けれど、アイトリウス風、というよりは、フォンネール風の名前よね。シエルと同じように」

 ……そう。

 一応この世界、世界共通語で全員喋ってるし、書いてるんだけど……一応、国ごとに選ぶ音、っていうか響き、っていうか、そういうものが違う。

 好む言葉の響きとか、地域に伝わる古代語とか、そういうものが違ったりするから、人の名前や町の名前なんかには結構、その国特有の響きがあったりするのだ。

『シエルアーク』はまんま、フォンネールの古代言語らへんが由来である。

『アルカセラス』は、ちょっぴりアイトリウス風ではあるけど、ベースはやっぱりフォンネール風。

 星屑樹が墓の下に在った事を考えても、何らかの形でフォンネールと関わりがある人の墓なんだろうな、とは思うんだけどね。

「ま、駄目で元々、ぐらいの気構えでいくさ」

 星屑樹の実については、ほんとに打つ手がほとんどないのだ。

 できればフォンネールでクーデターは避けたいし、もしアイトリウスにあるのだったらそっちで済ませちゃいたい。




 という事で、朝食を済ませたらさっさと西に向かって進む。

 ヌポールからリテナまでの海路はそんなに長くないから、午前中の早めの便に乗れれば今日の夕方にはリテナに着くだろう。

 ……まあ、問題は、俺がリテナに居ても大丈夫か、ってことか。




 ルシフ君たちはとっても足が速いので、午前中にはしっかりヌポールへ到着できた。

 船の時刻もばっちり記憶の中にあった通りだったので、華麗に駆け込み乗船をきめてやった。

 ……まあ、ざっと見た感じ、ヌポールにフォンネールの兵はそんなに居なかったから、駆け込み乗船しなくても大丈夫だったかもしれないけれどね。まあ、念には念を入れて。


「……そういえば、船に乗るのは初めてだ」

 船に乗ってしばらく、空の青と海の青を眺めてぼんやりしていた所、ヴェルクトがそんなことを言った。

「……そういえば、この旅の中で海を船で渡るのは初めてね」

 ……ね。

 今まで散々瞬間移動の祠で海渡ってきたし、そうじゃない時は泳いだし……。

「不思議な感覚だな」

「あ、ヴェルクトお前、船酔い大丈夫?俺とディアーネは大丈夫だけど」

 俺は元々あんまり乗り物酔いしないタイプ。ディアーネは港町のお嬢様なんだから、小さいころから船には乗りまくってるし、当然船には慣れてるんだよな。

「……揺れ方が不思議な感覚ではあるが、酔いはしない。大丈夫だ」

「ん、ならよかった。……酒には酔いやすいのにねー」

「言うな」


「ところでシエル。貴方、リテナに着いてからどうするつもりかしら?」

 しばらく雑談した後で、ディアーネが遂にそれを聞いてきた。

 ……ね。そうなんだよね。

「……アマツカゼにはお前を捕らえるように通達があったらしいな」

 ね。他の国に『シエルアーク・レイ・アイトリウスを見つけたら捕まえて強制送還してください』ってお願い出してるぐらいなんだから、アイトリウス国内で警戒してないわけが無いんだよね。

 特に、リテナなんて港町なんだから、真っ先に警戒してて然るべき町だし……つまり、うっかり何の用意も無くリテナに到着してしまうと、詰む恐れがある。

 ……が!俺には最強の方法がある!

 強行突破?買収?賄賂?爆撃?……当然、そんなチャチな方法では無い。もっとスマートかつ鮮やかかつローコストな方法である。

「最悪、キュリテスの時と同じように、俺が抱えて走って、ディアーネが焼き払えば……」

「これから俺が治めるっつう国唯一の港町焼き払ってたまるか!リテナは俺のもんだ!損傷なんかぜってーさせねえ!」

 そして、当然だけど、相手は自分の国である。(ここでの『自分の国』は『祖国』って意味じゃなくて、『俺が将来治める事になる国』って意味ね。)

 だからまあ、あんまり『焼き払え!』したくは無い。

「なら、先にヴェルクトに船を降りてもらって、ある程度索敵したらどう?抜け道くらいは見つかるんじゃないかしら?」

「そんなちまちました事しなくたっていいんだよ」

 兵士が怖い?それは、見つかったらどうしようと考えるからだよ。

 逆に考えるんだ。『見つかっちゃってもいいさ』と考えるんだ。

「ってことで、ディアーネ、またお前の服、貸して?」




 船室の中でまたディアーネに着せ替え人形にしてもらった結果、世紀の美少女が出来上がった。

 うーん、俺、元々美しくはあるけども、やっぱり可愛さってのは髪型だの服だのに左右されるよな、やっぱり。

 可愛さを極限までアピールするような恰好をすれば、当然、俺は可愛くなる。普段の恰好してりゃ、凛々しい勇者様に見える。

 やっぱり素材が良いとなんとでもなるんだな。うんうん。

「……卑怯だ、反則だ、なんだこれは」

 ヴェルクトが何時ぞやのオーリス村での時みたいに、途方に暮れたみたいな顔をしている。

「ふふふ、仲の良い姉妹が居たらこんなかんじなのかしらね」

 一方、ディアーネは何やら嬉しそうである。

 ……まあ、うん。こいつは、普通の姉妹がやるような事、できなかったから。

 それに加えて、『クレスタルデのできそこない』で、『魔女』だ。普通の女が女友達とやるような事もできなかったんだろうし。

 だから、俺を飾るのは割と新鮮で楽しいらしい。……うん、俺としてはなんかちょっと複雑なんだけど、ディアーネが楽しいならまあいいか、とも思う。




 そうして船に揺られている内に、船はリテナに到着。

 夕方どころか、おやつ時についてしまった。

 なんでも、『風向きがとっても良かった』んだそうだ。

 ……今度アマツカゼに行くことがあったら、風の精霊様にお礼を言っておかなきゃな。


 ルシフ君たちの手綱を引きつつ船を降り、俺達は堂々とリテナの土を踏みしめた。

「懐かしいなあ」

「そうね……リテナに来るのは7年ぶりでしょう?」

「うん。監禁されてから来てないからね」

 見渡す町の風景は、変わっていない部分も、変わってしまった部分もある。

 そして、変わっていないのだろうけれど、変わったように感じてしまう部分も。

 ……15歳にとっての7年ってのはでかいね。やっぱり。

「私もリテナは久しぶりよ。少し変わってしまったかしら。あのお店は見た事が無いし、ここの空き地には舶来品を扱う雑貨屋があったんじゃないかしら?……それに少なくとも、前に来た時にはこんなに物々しくなかったわね」

 そして、何よりも大きなリテナの変化は、兵士が警邏をしている、という所だろう。

「ね。これ、民衆にはどう言ってあるんだろうな」

 これ、『シエルアーク・レイ・アイトリウスを捕らえる為である!』とかっつう大義名分掲げられてたら、今後俺が政治するのにめんどくさそうだからやなんだけど。

 ……知っとくに越した事は無いね。

「すみませーん」

 ってことで、兵士に向かって突撃。

「ん?……なんだね、お嬢ちゃん?」

 ま、案の定、俺が『シエルアーク・レイ・アイトリウス』だとはばれない。

 ……よく考えりゃ、城の兵士のほとんどは7年間俺の事見てないんだよな。そりゃ、顔見られてもばれない訳だ。

「何してるんですか?泥棒でもでたんですか?」

 ってことで、俺は調子に乗って聞きたいことを聞き出しちゃう。

「いや……最近は魔物が出て危ないからね。こうして兵士が町を見て回っているのさ」

「ふーん」

 ……本当にそういう目的だとしたら、こういう武装はしないだろ、っつう武装してるくせに、良く言うよ。

 魔物を相手に町を守るんなら、もっと身軽で動きやすい恰好じゃなきゃだめだ。

 こんな、『とんでもない魔導士1人を相手に戦います!』みたいな恰好してたら、説得力の欠片もありゃしない。

「そーですか。兵士さん、お疲れ様ー!」

 ま、しょうがないね。彼らも王に仕える兵士。拒否権なんて無いし、彼ら自身の考えで動いてもいない。

 俺の知ってる顔じゃないから、彼は新米兵士なのだろう。ま、がんばってくれたまえ。

 ……しかし、これでホントに、親父が俺をとっ捕まえようとしてる、って事が分かっちまったなあ……。




 油断150%ぐらいの舐めっぷりでリテナをのんびり進み、おやつにリテナ名物の月虹苺のタルトなんか食べてお茶を楽しんじゃったりなんかしてからリテナを出た。

 ヴェルクトは最初こそ、向けられる視線1つ1つに警戒してたみたいだけど、その内すっかり慣れてた。

 ディアーネは最初から楽しんでた。器の違いだな。うん。


 リテナを出た俺達はルシフ君たちに乗って、アイトリア南のカトロ湖のさらに南のコトニスの森へ向かっていた。

 ……いや、夢も気になるからさっさとアイトリアに帰っちゃってもいいんだけどさ、やっぱりこう、情勢ってもんがちょっとでも多く分かってからの方がいいかな、っていう、そういう配慮である。

 今日はコトニスの森で野宿の予定。

 そして、ついでに『魔王から魔力ぶんどる装置』の材料である『月虹草の花』と、ついでに『妖精の涙』を狙って探索する予定。

 月虹草の花に関してはもう、好きなだけ手に入ると思うけど、妖精については……運次第。

 会えるかどうかが運次第だし、そこからどうやって涙を貰うかも難しそう。

 けど、会えたら今のアイトリアの状況とかは教えてもらえるだろう。妖精はお喋り好きだから。

 ……そして、妖精に会えたかどうか、涙が手に入ったかどうか、そして手に入った情報次第では、明日にでもアイトリアに侵入するかもしれない。

 侵入経路はある程度頭にあるけど、兵士の巡回経路とか、交代時間とか、そこら辺は妖精の噂話頼りなのが痛い。

 ……なんで俺、たかが里帰りにこんな気ぃ張らなきゃいけないんだよっ!くっそ、侵入ついでに親父の寝室にも侵入して顔にインクで落書きする位してやらなきゃいけない気がしてきた……。


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