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67話

 そうして朝がやってきた。

 ……昨日までアマツカゼに居たもんだから、こう……布団と畳がちょっぴり恋しい。うう、こういう形で前世ホームシックになるとは思わなかったぞ……。


 朝食はパンと白身魚のリエットとスープ。

 美味いんだけど、味噌汁が恋しい。あと、リエットはやっぱりクレスタルデで食った奴の方が美味かった。

 けどその分スープが魚の出汁たっぷりで中々美味かったんで良しとしよう。




 そうして俺達はのんびり出発した。

 今日はそんなに急ぐことも無い。

 ラクステルムでの用事は精々水の精霊にアンブレイルの邪魔してもらうぐらいだけど、それをやるにはリスタキア王に会わないと正式な手続きができなくて、つまり、アマツカゼの二の舞待ったなしである。

 よって、水の精霊はスルーする方針で行こうと思う。

 ……今多分、アンブレイルはアイトリウスに一回戻って、光の精霊プレゼンツのお使いイベントをこなしているところだ。

 そこからエーヴィリトに戻って光の精霊にお使い達成の報告をするか、或いは先にフォンネールに向かっちゃうか。

 どっちにしろ、アンブレイルはまだまだあと3つの(エルスロアで地の精霊をスルーしてたならあと4つの)精霊の助力を取りつけないといけないのだ。

 その中でも風の精霊は既に、アンブレイルに非協力的。そこで大分時間を食われる事は間違いないから、わざわざリスクを負ってまで水の精霊に会わなくてもいいよね、って事である。

 俺、やらなくていいことはわざわざやらないタイプ。




 そのままルシフ君たちに流して走ってもらった所、昼前にはラクステルムに到着した。

「……想像以上だ」

「え?警備のザルさが?」

「いや、湖の大きさが、だ……これじゃ、海とそう変わりないじゃないか」

 ヴェルクトは目を見開いて湖をまじまじと眺めていたが、無理も無い。

 リスタキアの王都ラクステルムがあるこのぺルム湖は世界最大の湖だ。

 アイトリウスにもアイトリアの南にカトロ湖があるけど、ぺルム湖はカトロ湖の2倍以上の大きさを誇る。

 見渡す限りの湖は、確かに海と見まごうほどの迫力を持ってして、俺達の目の前にただただ静かに広大な湖面を揺らしている。

「こうしてみると綺麗な町ね。クレスタルデには劣るけれど」

「ね」

 そして、その広大な湖の中央に向かって伸びる橋と、その先にある町。

 鏡のような湖面にその姿を映す湖上の都市は、それはそれは綺麗なものである。

「ま、もうちょっと近づいてみようぜ。そーすっとお目当ての物も見えるから」

 が、俺達の目的は湖の上じゃない。

 ある程度までルシフ君たちで近づいたら、そこから先は念のため徒歩でラクステルムに向かう。

 そして湖に渡された橋の上に立った時、俺達はそれを拝む事ができたわけだ。

「はい。あれが今回の俺達の目的。リスタキアの湖底古代遺跡」

 透き通って底の底まで見える水の底、確かに古代遺跡が沈んでいるのが見える。




 とりあえず今すぐに湖に飛び込む訳にもいかないので、ラクステルムの中に入る。

 門で仕事をしていない門番の横をすり抜け、いとも簡単に町の中に入る。

「……水の国なんだな、本当に」

 町の中は、まさに水の国。

 湖の上に建物を建て増ししていったような造りだから、町中水路だらけ。そこを小さな舟が行き来している。

 子どもたちが素朴な舟で舟遊びをする傍ら、貴婦人が使用人の漕ぐ華美な舟に乗っている。買い物帰りらしい主婦が巧みに舟を操るのを見る事もできるし、荷物を大量に積んだ舟を商人らしい人がせわしなく漕いでいるのもちらほら見られる。

「ほら、とりあえず宿取っちまおうぜ。観光はその後」

 物珍し気な様子のヴェルクトとディアーネをせっつきつつ、街の外れの方で粗末な宿を取る。

 町の外れの方が外出しやすいし、できるだけ町の中心……つまり、城付近には近づきたくない。

 その分安宿になっちまうけれど、それもまた風情ってことにしとこう。


 宿を確保したら、昼食を摂って町へ繰り出す。

 一応、念のため、古代銀が市場に出回ってたりしないか、っていう確認。

 尤も、これはすぐに確認が終わっちゃった。

 何と言っても、一軒目で『古代銀ありませんか』って聞いたら『そんなものうん百年前に無くなっちまったよ。もうラクステルムには1欠片もないよ』というお答えを頂いてしまったからである。

 これが本当なら本当に市場には出回ってないって事になるし、そうでなかったら俺に古代銀を隠している訳だから、面倒ごとに首を突っ込む事になる。

 そこまでしてやりたくも無いので、事前の予定通り盗掘することに決定。分かり切ってたことだけどね。


 ……それから、この国特産の霊水の類を見て回ったり、霊水の天然氷で作られたかき氷なるものを食べてみたり。

 かき氷は割と美味しかったんだけど、素材としての霊水の方はあんまり収穫無し。多分、アイトリアなりエルスロアなりに行った方がいい霊水扱ってる。

 リスタキア国内でも王都じゃなくてもっと別の町に行けばもうちょっと霊水扱ってるのかもしれないけどね。


 という事で、俺達は今晩の盗掘の準備をすることになった。

 使い捨てにしてもいいようなナイフを2本、瓶詰の光魔法をいくつか、水袋をいくつか、強めの酒。

 ナイフは色々使うだろうから。瓶詰の光魔法はランプ。水袋は荷物を入れておいたり取った古代銀を隠すため。酒は使わなければ使わない。

 ……という事で、準備も終わっちゃっていよいよやる事が無くなった俺達は宿に戻って仮眠をとることにした。

 決行は夜中だからね。先に寝ておく。俺、成長期だからね。睡眠時間はいっぱい欲しい。どうせ成長しないけどね。そうでなくても、俺、一日8時間以上寝たいタイプ。




 宿の布団でゴロゴロうとうとしてるうちに夕方になって、夜になった。

 夕食を摂ったら早速町の外へ……ってところで。

「あっ、ちょっとそこのお兄さん!そんな子供連れてこんな時間にどこ行くんだい!」

 ……宿の人に止められた。

 勿論、止められたのはヴェルクトである。

 まあ……この中で一番、『夜の街』に用事がありそうな奴ではあるけどさ。

 当のヴェルクトはまさか呼び止められるとは思っていなかったらしく、咄嗟に言い訳も思いつかないらしい。

 ……仕方ないので俺が助け舟を出すことにした。

「あのね、夜に湖の外からこの町を見ると綺麗なんだって!」

 如何にも無邪気な子供、というように満面の笑みで答えてやれば、ディアーネがそれに合わせて、楽しみね、と微笑む。

 俺の美しさとディアーネの美しさが揃えば宿の人も納得させられてしまうらしい。

「そうかい。でも、外には魔物が出るよ?」

 しかし、魔物への恐れはあるらしい。外出の理由に納得はしてもお勧めはできない、ってことらしい。

「……腕には覚えがある。魔物が出ても対応できる。それに、こいつらはそうは見え無いかもしれないが一人前の魔導士だ。心配はいらない」

「ああ、そうなのかい。でも、気を付けていくんだよ」

 が、ヴェルクトが拾ってフォローすれば完璧。伊達に美男美女揃いのパーティじゃねーっつうの。顔面有効利用すれば多少挙動不審でも許されちゃうんもんだ。

 ……つくづく、俺、美形に生まれてよかった。




 のんびり、挙動不審にならないように街門へ向かう。

 一番人通りが多いのは南門だから、北門から外へ出ることにした。それに合わせて、宿も北門の側に取ってある。

 案の定、門番は門番としての仕事をしていないので、会釈して通れば咎められることも無く素通りできる。

 まだ宿の人の方がまともにセキュリティしてたぞ。どうなってんだこの町。


 ラクステルムと湖の外を繋ぐ橋の上に出たら、やっぱりのんびりと橋を渡って……ある程度まで進んで、門番から見えないぐらいになったら……歩行速度を観光客ペースから旅人ペースに戻す。

 湖の外に出たら、そのままぐるりと時計回りに湖沿いを進んで……橋と橋の間、どちらの橋からも見えにくい位置……ラクステルムの北東に、辿りつく。

「人魚の鱗があるとはいえ、一応準備体操してから入るぞー」

 そしたら、そこである程度運動して体を解す。

 ……余談だが、俺、前世で、プールに入ってる途中で足攣っておぼれかけた事がある。あの時は冗談じゃなく死ぬかと思った。それ以来、水に入る前の準備体操は真面目にやるようにしている。


 準備体操が終わったら、荷物が入った水袋と古代銀採取用の水袋を背負い、ナイフをベルトに固定し、人魚の秘薬を唇に塗り、人魚の鱗を確認して……いざ、入水!

「さむーい」

 ……ここらへんはアイトリウスだのヴェルメルサだのよりよっぽど涼しい気候だからね。夜間の水泳はあんまりお勧めできない。さむい。

「水の中に入ってしまえばそんなに酷くない」

 ヴェルクトはさっさと潜って、湖底目指して泳いでいってしまった。

 置いていかれるのも癪なので、ディアーネを連れて俺も水の中に潜っていく。

 当然だが、夜だから暗い。湖の底ともなれば、もっと暗い。瓶詰の光魔法を手に、辺りを照らしてなんとか進んでいく。

 呼吸は問題なくできるんだけど、やっぱり寒いのと暗いのとで陰鬱な気持ちにならんでも無い。

 水はどこまでも澄み切って透明なくせに、閉塞感があるような、奇妙な感覚である。

 相変わらず、水の精霊とはあまり仲が良くないらしいディアーネの手を引いて水の底へ水の底へ、と降りて行きつつ、辺りを観察する。

 ……見るべきものは湖の底だけだと思ってたんだけど、湖の『側面』も、十分に見る価値のあるものだった。

 湖の側面。岩石と粘土で覆われているのだろうと思っていたそこには、ぐるりと石板がはめ込まれていた。

 そこには壁画が描かれ、所々に古代文字が書き込まれている。

 ……ちらっと見ただけで、いくつかの古代魔法が読み取れた。

 うわあ……これは……これは……今まで全然調査しなかった奴は本当に馬鹿だな!勿体なさすぎる!こんなに優れた魔法が幾つもずっと眠っていたとは……恐るべし、ぺルム湖。




 夢中になって湖の壁画を観察して幾つかの古代魔法を習得し(今は使えないけども!)、湖の底へ降りれば、先に潜り切っていたらしいヴェルクトが待っていた。

 ジェスチャーで『遅い』みたいな事を言ってきたので、顔の前で手を合わせておいた。

 別に、成仏しろよ、みたいな意味では無い。俺だって素直に謝る時は謝る。

 ……湖の底は、全くの別世界であった。

 白っぽい石材で作られた建物。塔。

 それらが綺麗に組み合わさって、1つの都市の形を成していた。

 ……湖底の古代遺跡は、昔々の……古代人たちの、町だったらしい。


 命が消えて久しいこの遺跡は、水の底に沈んでいる、というだけでなく、どこか沈鬱で静かで、そしてどこか厳かな気配を漂わせていた。

 ……眠りの地ドーマイラもかくや、といった静けさ。眠りの気配。放置されて捨て置かれて忘れ去られた文明。失われた技術。死んだ魔法。捨て置かれた遺産。

 ……つまり、だ。

 ここは、ロマンの塊であった!


 ……俺から離れて遺跡を見ていたディアーネが不意に、瓶詰光魔法を振って合図してきたのでそちらへ向かえば、まるでゴミの様に古代銀が転がっているのが見つかった。

 これで目標達成なんだけど、これだけで帰っちゃったらいくらなんでも勿体なさすぎるので、そのまま探索続行。

 ……ヴェルクトが『これはなんだ』ってかんじのジェスチャーを送ってきたのでそっちに行ってみれば、今度は水鏡石が転がっているのが見つかった。

 水鏡石は魔法増幅装置の材料である。これがあれば1人で2人分の魔法を一気に唱えることも可能。増幅させまくれば初歩の初歩の小魔法でも大魔法以上の出力にすることが可能!浪漫砲!

 ……それから更に探索を続ければ、出てくるわ出てくるわ、宝の山。

 オーパーツらしき魔道具も見つかったし、古代魔法の結界を封じた魔石だの、古代魔法の術式を記した石板だの、そういう魔法関係も大量に出てきた。

 ウルカが喜びそうな鉱石の類も大量に。

 ……もしかしたら、この湖底遺跡って、丁度鉱脈の所にあるのかもね。




 それはそれは楽しく探索を続けて1時間程。

 ……俺は、とんでもないものを見つけてしまった。

 魔鋼細工と思しき、ゲート。

 ……俺、湖の底に古代魔法の……瞬間移動のゲートがあるなんて、聞いたことないんだけど。


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