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65話

 という事で、精霊の祠を出たらそのままカゼノミヤを出て、アマナ山へ向かう。ナライちゃんが教えてくれた、花扇鳥出現スポットだ。

 んで、さっさと花扇鳥をとっ捕まえて羽毟って、焼いて食っちまおう。で、明日には水の国リスタキアに出発だ!




 と思ったんだけどね!

「全然いない!」

「……既視感があるな」

「有翼馬の時と同じね」

 あの時もこんなかんじだった。探せど探せど有翼馬が欠片たりとも見つからなかった。

 今も同じである。花扇鳥の欠片たりとも見つからない。ほんと、羽1枚でいいのになー。

 しかも、このアマナ山。何が問題って、すっごく魔力が濃い。

 俺は全く以て平気なんだけど、ディアーネとヴェルクトはちょっぴり呼吸が辛そう。

 魔力は濃すぎると生き物が生活するのに適さない環境になっていくのだ。

 そういう所でも生えるのが魔草であったり、そういう所でも生きるのが魔獣であったりするんだけどね。

 アマナ山にはこの山特有の濃い魔力に適応した生き物があまりいなかったらしく、とっても静かである。

 ……花扇鳥は生息してるはずなんだけどなぁ。

「……有翼馬の時は魔石でおびき寄せたんだったか」

「えー、じゃあ、もので釣る作戦やってみる?」

 有翼馬の時は『守り石』で釣れたんだけどね。

 今回は折角だから、ディアーネが国王からせしめた『花扇の羽衣』で釣ってみるか。なんか二重の意味で釣れそうだし。


 という事で、ヴェルクトが羽衣を羽織った。

 ……なんでディアーネでも俺でも無いか、っつったら、とっても簡単。この『花扇の羽衣』がとっても優れた風属性の呪物だからである。

 よって、ディアーネだと、火の精霊に嫉妬されかねない。

 俺はうっかりすると触った物から魔力を吸っちゃうので、万が一にも何かあったら大変、って事でとりあえずヴェルクトに任せた。

「……来ないな」

 が、全く手ごたえ無し。

 花扇鳥なんてそもそも存在するの?っていうぐらい、アマナ山は静かである。

 他にも『守り石』だの光水晶だの色々試してみたけれど、やっぱり釣れなかった。

「……地道に探すしかなさそうだな」

「ね」

 ……という事で、諦めて捜索続行。




「そもそも、花扇鳥とはどんな鳥なんだ」

 山を探し回る事2時間。ヴェルクトがそんなことを聞いてきた。

「知らないで探してたの、お前」

「ああ。見れば分かる程度に珍しい見目をしているのだろうとは思ったんだが。一応聞いておこうと思った」

 ……それ、もっと早く聞いてほしかった。

「花扇鳥は色々な色をしている、って言われてる。個体によってまちまち、って事ね。けど、どの花扇鳥も絶対に7つの色が入ってるらしい」

 花扇、っつうと、7種類の草花を扇にしたものの事だからね。そこらへんから名前がついてるんだろう。

「7色、か」

「うん。それが赤っぽいか青っぽいか、はたまたもっとカラフルか、ってのはまちまち。あまりに羽が美しいんで、昔乱獲されて今はめっきりいなくなっちゃったんだってさ」

『花扇の羽衣』の虹色の霞のような色は、まさに花扇鳥の羽そのものなのである。これだけ綺麗なんだから、そりゃ、乱獲されるわ。

「……そうか」

 ヴェルクトは俺の話を聞いて少し考え込む。

「ん?どした?」

「……ネビルムの近くにも、そういう獣が居た。美しい角を持つせいで乱獲されてな」

 あー、うん、知ってる。王国史で習った。

「星雲牛だろ?知ってる。絶滅した、って歴史書には書いてあるぜ」

 ……実は、昔、ロドリー山脈で1匹、見た事があるんだけどね。すごく綺麗だった。

 濃紺の透き通った宝石の中に銀の星が散りばめられたような、でも宝石より美しい角。

 それを持つその獣自身も大層美しい銀の毛並みをしていたのをよく覚えている。

「ああ。絶滅した、と思われている。……今生きのこっている星雲牛は皆、角が美しくない。そういうものばかり生きのこったものだから、単なる銀牛と区別がつきにくくなってしまって乱獲されなくなったらしい」

 ……えっ、それは初耳。

 銀牛、ってのは、毛皮が銀色してる牛さんなんだけど……確かに、時々、暗い青っぽい角をしている奴が混じってた、ような気がする。

 ……え、あれ?あれ、星雲牛なの?俺、てっきりあれって三毛猫とぶち猫ぐらいの個体差だとばかり思ってたんだけど……。

 ヴェルクトは少し辺りを見回して……木が茂る方へ歩いて行った。

「花扇鳥も美しい羽のせいで乱獲されてしまったなら、生き残りはどんな奴だろう、と思ってな」

 そして、ヴェルクトが、消えた。

 ……と思ったら、凄まじい跳躍力(たぶん魔法で強化してるんだろうけど)で木の上に飛び乗ったらしかった。

 木の上ではなにやらばたばた、と騒がしい音が聞こえ……。

 やがて、ヴェルクトは何かを抱えて木の上から降りてきた。

「こいつが花扇鳥、なんじゃないか」

 ……。

「地っ味!」

 茶色、黒、黄土色、苔色、竹色、深緑、灰色……。

 そんなかんじの、迷彩色もかくや、という、鶏サイズの地味な鳥さんがヴェルクトの腕の中に納まっていた。




「ええー……俺が想像してたのとなんか違う」

 迷彩色の鳥さんなんて、花扇鳥じゃない。

 しかも、サイズも地味!羽の形とかも地味!すごくコレジャナイ感が漂う!なにこれ!

「……大人しいのね」

 ディアーネが物珍し気に花扇鳥を撫でてみるけれど、花扇鳥はヴェルクトの腕の中で大人しくしている。

「元々この辺りなんて、他に天敵も居ないだろうしな。警戒心の少ない鳥さんに育っちゃったんじゃないの」

 アマナ山の上の方になればなるほど、生物が生きていくのにはちょっと魔力が濃すぎるようになっていく。

 そんな中でも花扇鳥は生きられるもんだから、魔草の花の蜜や魔樹の芽なんかを食べて、のんびりのんびり、天敵皆無のぬるま湯生活を送れる訳だ。

 ……その結果、とっ捕まえられる直前まで警戒心も無くのんびりと風景に溶け込み、とっ捕まえられちゃったらとっ捕まえられちゃったで諦めか危機感が無いのか、この通り大人しく腕の中でじっとしているような、そんな鳥さんになっちゃったのである。この花扇鳥って奴は!

「じゃ、羽毟ってやろうぜ」

「待て。……風切り羽を下手に毟ったら飛べなくなってしまう」

 問題ねえ。俺はその後この鳥、食う気でいたし。

「……この辺りなら問題ないか」

 しかし、ヴェルクトは花扇鳥を食うつもりは無かったらしい。

 慎重に鳥の羽をもそもそ探って抜けやすそうな羽を数本抜くと、花扇鳥を放してやってしまった。

「これでいいか」

 しかも、ヴェルクトは笑みを浮かべつつ花扇鳥の羽(しかし地味)を数本差し出してくれちゃうので、俺はもう何も言えない。

 ……なんとなく、逃がした魚は大きいというか、逃がした花扇鳥は美味そうというか……ちょっと残念だけど、まあ、絶滅しかけちゃってる生物だからね。食うのはもうちょっと待っててやることにしよう。しょうがねえなあ……。




 あんまり長く山の上の方に居ると体に障りそうなので、さっさと下山。

 下りたら昼過ぎ、ってところだったので、持ってきていたお弁当を食べる。

 お弁当は小ぶりなおにぎり4つ。具は梅干しと昆布の佃煮と葱味噌と鮭。竹の皮に包まれたおにぎりってのは、なんとも風情があっていいね。

 味も中々。特に、昆布の佃煮が絶品だった。丁寧に細く刻まれた昆布からにじみ出た旨味と、少し焦げた砂糖と醤油の風味。やや甘めかつ濃い目に味付けされた佃煮は米に包まれてその真価を発揮していた。

 うーん、幸せ。

「これでアマツカゼで手に入れなければいけない物は全て揃ったかしら?」

「だね。妖怪の鏡、フウリ旋風鋼、んで、花扇鳥の羽」

 それに加えて、当初予定していなかった花扇の羽衣だの、凪水晶の髪飾りだの、天風水晶の小手だの、色々と貰ってしまっている。中々に充実した滞在であったと言えよう。うむ。

「次は……リスタキア、だったか」

 そして、次の俺達の目的地は、水の精霊を祀る国、リスタキアである。

「そ。お目当ては古代銀と、それから一応、永久の氷の欠片。古代銀に関しては湖に潜れば多分見つかる。永久の氷の欠片はリスタキアで一番高い山にでも上ってみるしか無さそうね」

 古代銀はあるとすれば湖の底、って訳なんだけど……俺達、水に潜る、水の中を泳ぐ、って事に関しては全く心配が要らないからね。ほら、人魚のお姫様の鱗と秘薬のおかげでさ。

「火の精霊が言っていたわね。『永久の火の欠片は冥府に近き場所に、永久の氷の欠片は天上に近き場所に』と」

 永久の氷の欠片、に関しては、ディアーネが火の精霊に聞いてくれた情報しかない。

 ……まあ、何とかなるんじゃないかな。多分。

「って事で、とりあえず最初はリスタキア首都ラクステルム……がある湖だな」

「……『がある』?」

「行ってみりゃ分かるさ」

 頭の上に疑問符を浮かべたヴェルクトにはお楽しみを取っておいてあげることにして、俺達は早速、アマツカゼを発つ事にした。

 目指すは西大陸の真ん中、水の精霊を祀る国リスタキア。そしてその首都ラクステルム……世界唯一の、湖の上に作られた町である。


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