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61話

「しっかし、なんでナライ、こんなとこに居るの」

「人から忘れ去られた妖ほど空しいものもあるまい?」

 ……聞けば、ナライちゃんをはじめとした、妖怪の里の妖怪たちは、人間に化けて、度々人間の里に下りてくるんだそうだ。

 んで、人間と交流したり、人間にちょっぴり不思議体験させたりする、ってのが妖怪たちの楽しみなんだそうで。

 ナライちゃん他強い妖怪たちは、その強さを生かして、人間との交流と自分の腕磨きの為、月に一度の『8人破り』に出場したりしているんだそうだ。

「ちなみに、ここの人間たちってナライ達が妖怪だって知ってるの?」

「さあなあ。……王にはばれているやもしれんが、咎められるでも無い。だからこうしてかれこれ50年ほど、『8人破り』に出場しているのだ」

 ……。

「50年」

「50年だ。……ぬ?何かおかしなことを言ったか?」

 ……この国の人達、妖怪に対してとっても大らかみたいね。




 という事で、無事、俺達は3人とも『8人破り』を通過してしまったのであった。

 ヴェルクトは全部辛勝だったみたいだけど、本人は満足げだった。まあ、2本のうち1本が普通じゃない短剣だったとしても、8勝するのに相当な技術と体力が必要だったことは確かなんだし。よくやったと思う。

 ディアーネは全部圧勝……っていうか、こいつの場合は『初手で勝てなかったら負け』みたいな戦法なんだから、それで当然か。相手が火魔法にあんまり強くなかったのも大きいかもね。いや、ディアーネが規格外ってのはそうなんだけど。


 そんなわけで俺達は王の御前に集められたのであった。

「ヴェルクト・クランヴェル、ディアーネ・クレスタルデ、シエルアーク・レイ・アイトリウス。よくぞ我が国の精鋭たちを撃ち破り、見事栄冠を勝ち取ったな」

 王はもうここまでくるといっそ気持ちいいらしい。そしてちょっぴり『してやったり』みたいな顔している。

 ……まあ、うん。アイトリウスとの関係は間違いなく悪くなるけどね。けど、まあ……この王様も俺の親父やアンブレイルに対して思う所が何かあったのかもしれないよね。


「では、お主らに約束通り、褒美を取らせよう。……各自、述べるが良い」

 ここで『ギャルのパンティ』って言えたら滅茶苦茶気分いいんだろうなー、と思いつつ、しかし俺は残念ながら他にお願いしなきゃいけない事があるのだ。

「風の精霊様にお目通りする機会を与えて頂きたく思います」

「風の精霊?良いが……あの御仁は気まぐれでな、我とて自由に目通る事は叶わぬのだ。風の精霊の祠への立ち入りは今後自由にしてもらって構わぬが、会えるかどうかはあちら次第だ。それでよいか?」

「はい。ありがとうございます」

 ……ま、いいよ。最悪、火の精霊伝いに声かけてもらえるし。


「そうか。ではそのように。……そちら2人は」

「陛下。私は花扇鳥の羽を賜りたく存じます」

 ディアーネは装飾品貰う、って話だったはずなのに、これである。

 ……いや、なんか、こいつらしくていいけどさ。

「花扇鳥の?」

 が、俺達の狙いからちょっと外れた何かが起きたらしい。王の表情が少し、変わった。

「……ふむ、それは『直ちに』か?」

「ええ」

 ディアーネもそれに気づいたのか、言葉は無駄に使わない。こういう時は相手が語るに落ちてくれるのを待つのがいいよね。

 ……そのまましばらく待つと、王は悩んだ末にため息を吐いた。

「どこで聞いてきたのかは知らぬが、仕方あるまい。花扇の羽衣をお主に授けよう」

「ありがとうございます」

 そりゃ一体何だ、ってかんじだけど、多分、王の反応見る限り国宝級の何かじゃないかな。うーん、得しちゃったね。


「では、ヴェルクト・クランヴェル。お主は何を望む」

 俺が安上がりだった分ディアーネで高くついた王は、はてさて、ヴェルクトで何が飛び出してくるか、という具合である。

 ただ、それで心配したりそわそわしたりするでも無くどっしりあきらめの境地なのがカッコいいよね。

 そして、ヴェルクトが口を開いた。

「……俺は学が無いので、そんなものがあるかも分からないが」

「言うてみよ」

「火の精霊に愛されている者が身に着けても火の精霊の機嫌を損ねない、魔法の装飾品の類はあるだろうか」

 ……。

 そーっ、と、ディアーネの様子を窺ってみると、珍しく、ほんとに珍しく……目を丸くしていた。

 そして、次の瞬間、ディアーネはころころ笑い出した。

「ふふふ、ヴェルクト。それは私に、という事かしら?」

「……欲しがっていなかったか」

「私のことなど気にせず貴方が欲しいものを頂けばいいのに」

 くすくすころころ笑うディアーネに、ヴェルクトは少し困ったような顔をしている。多分、欲しいものを思いつかないんだろう。欲の無い奴。……まあ、欲を覚えるような生活状況に無かった、って事なんだろうけどさ。

 くすくす嬉しそうに可笑しそうに笑うディアーネと、困っているヴェルクトを見て……王はなんとも微笑ましい、というように口元を緩めると、側近に何かを言づけた。

「ヴェルクト・クランヴェルよ。お主は欲が無いようだな」

「……学が無いから、何を望めばいいのか分からない」

「そうか。……なら、お主に相応しい品をこちらで見繕って褒美としよう。それでどうかな?」

 ヴェルクトが俺を見てくるので、『いいんじゃないの』という意を込めて頷いて見せてやれば、ヴェルクトはそれで了承した。

 ディアーネで大分毟り取ったみたいだから、ヴェルクトで何が出てくるか分かんないけど、まあ……悪いものは出てこなさそうだよね。




 果たして、それはやってきた。

「まず、シエルアーク・レイ・アイトリウス。祠の前の兵にこの書状を見せよ。お主は何時如何なる時でも風の精霊の祠への立ち入りを自由としよう」

 まず、俺。王直筆の書状を頂いた。

 書状は上等の厚い和紙みたいな、長い繊維が複雑に絡まってできた紙でできていて、その端にはごく薄く削られた緑色の魔石が漉き込まれている。中々珍しい魔石の使い方だな。今度俺も真似してみよっと。

「次に、ディアーネ・クレスタルデ。……花扇の羽衣を授ける。これに見合うだけの戦いぶりであったぞ」

 ディアーネの手元に届いたのは、美しい羽衣だった。

 薄絹よりも更に薄く柔らかな衣には縫い目が見当たらない。世界中の美しい花から色を抜き取って注ぎ込んだような、虹色の霞のような、不思議な色合いをしていて、この世ならざるものの雰囲気がとんでもない。

 これは……大儲け通り越してなんか申し訳なくなるレベル。

「そして、ヴェルクト・クランヴェル。天風翡翠の小手……と、凪水晶の髪飾りを授ける」

 天風翡翠はアマツカゼでしか採れない貴重な魔石である。淡い浅葱色をした石には無属性と風属性の魔力が秘められている。ヴェルクトにはとっても使い勝手のいい道具になるだろう。

 ……そして、凪水晶、ってのは、魔力が無い魔石である。

 魔石にしては珍しいんだけど、魔力が無い。……じゃあどういう石か、っつったら、『術者の魔力をほぼロス無しに出し入れできる』石である。

 普通、魔石に術者の魔力を貯めておこうとすると、とんでもないロスが出る。100入れて1入るかな、ぐらいの。

 そして、100入れたものを取りだそうとすると、大体70~40ぐらいになっちゃう。

 でも、凪水晶ではそれが無い。100入れたら99は入るし、取り出すときは99.8ぐらい出てくる。

 だから、凪水晶はとっても貴重な魔石。魔法を使う者なら誰でも欲しがるアイテムなのだ。

「凪水晶なら火の精霊にも嫉妬されぬだろうからな」

 なんとも太っ腹な王様に、俺、もう脱帽する。

 ……うーん、なんかこの王様、俺達にたっぷり褒美を与えて逆に申し訳なくさせる作戦でもとってるんじゃないか、とか、そういう疑いを持っちゃうなあ。

 いや、ここは素直に受け取るけどさ。

 が、数年後には覚えているがいい。俺が王になった暁には、アイトリウスご当地魔石を友好の証としてプレゼントしてやる!

 ……何か貰うとお返ししたくなっちゃう、前世の性。




 晴れて自由の身になっちゃったので、とりあえず風の精霊の祠に行ってみることにした。

 そして風の精霊に会って、花扇鳥の場所を聞きたい。(流石にあの羽衣を素材として使いたくはない!)

 ……ついでに、アンブレイルが来たらとんでもない貢物せびってあげてください、ってお願いしたい。むしろこっちが本命。

 いや、別に俺、アンブレイルに嫌がらせしたい訳じゃないのよ?ただ、アンブレイルが魔王封印する前に俺が魔王を殺さなきゃいけない都合で、時間稼ぎしたいってだけでね?


 案の定というか、風の精霊を祀る祠は王城の隣にあった。ここなら警備の目も行き届く。……この王城、ちょっと土を盛って高くしてあるんだけど、そのおかげで城からは町が一望できる。……そして小高いから、妖怪の里のある山から祠がよく見えるだろうしね。

 妖怪にも風の精霊を守ってもらえる、って事だろうね。

 さて、風の精霊は『気まぐれな御仁』とのことだったけど、果たしてどうなるかね。

「シエル、あれは……なんだ?」

 ……が。

 祠に入る前に、ヴェルクトが不審げに、ある一方を指さした。

「……シエル?私達の出番じゃなくって?」

「そーみたいね。……あーあ、また王様からご褒美せびらなきゃだよ」

 アマツカゼの町の南門に向かって、南から魔物の大群が押し寄せてきているのが見えた。


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