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50話

 ということで、俺は後ろからくっついてくる光の精霊と会話しつつ、グリフォンルシフ君に乗って光の塔を目指していた。

「あそこに見える塔のてっぺんに姫君がおいでですよー」

『ああ、あそこが……妙に何も見えない場所があると思ったのだ、そうか、そういう事であったか……』

 光の精霊の言葉から鑑みるに、多分、光の塔って光の精霊避けの術式が組んであるんじゃないかな。だからこそ、魔物の巣窟になっちゃった訳だけど。

『姫……ああ、待ち遠しい。今まで待った時間より、今この一瞬一瞬を長く感じるぞ』

 気持ちは分からんでも無い。

 しかし、良いのか。こんなに浮足立ってていいのか。そわそわしてていいのか。俺への返事がかなり適当になってるけどいいのか。

 ……いいんだな?俺に、突拍子もないお願いされて、適当に了承しちゃっても、いい、ってことだな?


「あちらの光の塔の建材には光魔法の魔力が感じられますね」

『そうだな』

「おやおや、あちらに咲いている日向たんぽぽは見事ですね」

『そうだな』

「ところで、本日は光の精霊様への来客が多かったとか?」

『そうだな』

「もしやそれは、勇者を名乗るアンブレイル・レクサ・アイトリウスだったのでは?」

『そうだな』

「そして更にもしや、アンブレイルはあなたに助力を求めたのでは?」

『そうだな』

「そしてそして更にもしやもしや、あなたはその条件として光の姫君を連れ戻すように言ったのでは?」

『そうだな』

「なら、これから光の姫君にお目覚め頂いてしまう以上、別の条件をアンブレイルに提示しなくてはいけないのでは?」

『そうだな』

「……精霊様?」

『そうだな』

「精霊様―?」

『そうだな』

「アジフライ?」

『そうだな』

「……光の精霊様!」

 延々と相槌を打つ壁に向かって話しかけるような時間を終えて、少し強めに呼べば、光の精霊はびくり、としつつも、我に返ったらしい。

 うん、まあ、すぐにまた戻ってもらうけど。

『……なんだ』

「あのー、もしや聞いておいででは無かったとか?」

『い、いや、そのような事はないぞ!』

 聞いてなかっただろうが。お前の脳味噌アジフライでできてんのか。

「ああ、ならよかった!……で、どのようになさるおつもりですか?」

 笑顔で脳味噌アジフライ精霊に聞いてやれば、当然、困り果ててしまう。

『ぬ、そうだな……その』

 そわそわ、わたわた、としながら、光の精霊は窮地を脱する方法を考え……俺の罠に掛かってくれた。

『お、お前はどう思う』

 ……きた。

「そうですね。……やはり、ここは光の精霊様を安売りするようなことになってはならないと思うのですよ」

『う、うむ』

「となると、当然、タダで、という訳にはいきませんよね?」

『そ、そうだな……』

 一体何の話をしているのかはわざとぼかしつつ、光の精霊相手に言葉を重ねていく。

 ここで俺のテクニックが光る訳ですよ。へっへっへ。

「ならば、ここは精霊様の広いお心とさりげない気遣いを知らしめるチャンス、という事で、利用してみてはいかがかと」

『ふ、ふむ?というと?』

「ここエーヴィリトの国から最も遠い国はアイトリウスです」

 ……一応、解説すると、アイトリウスは西大陸の一番南。エーヴィリトは東大陸の一番北西。

 アイトリウスから一番遠い国はエーヴィリトじゃないけど、エーヴィリトから一番遠い国はアイトリウスである。

「そして、アイトリウスは空の精霊様の国です。ご存知かとは思いますが」

『ふむ』

「なので、光の精霊様からの贈り物、という事で、空の精霊様宛に何かを届けさせてはいかがでしょうか?」

 いかがでしょうか、なんて聞かれても、光の精霊、耳にアジフライ刺さってて俺の話聞いてなかったからね。困るよね。

「我ながら良い案だと思うのです。これなら光の精霊様の威厳も保たれますし、他の精霊様とのつながりを主張する事もできます」

 ね?とでも言うように、期待に満ちた目を光の精霊に向ければ……精霊、折れた。

『う、うむ、いい案であると思うぞ』

「ああ、それは良かった!では、光の姫君を目覚めさせた暁には、勇者アンブレイル・レクサ・アイトリウスにそのように仰せになってくださいね!」

『う、うむ?……ああ、分かった。そのようにしよう』

 光の精霊は前後の会話から話の流れを察知したんだろう。そう言って確かに頷いた。

 ……もしかしたら、俺の真意まで筒抜けた上でそう言ってくれてんのかも知んないけど、そこは気づかないふり、ってのが賢いやり方である。




 そうこうしてアンブレイルを邪魔する手立てもできたところで、俺達は光の塔に着いた。

 光の塔の裏口はシャーテから聞いているから、前回の様にトラップと魔物まみれの階層を頑張って上る必要は無い。

 エレベーターみたいな装置でてっぺんまで一直線である。俺達の苦労は何だったんだろうね。元々、あんま苦労してないかもしんないけどね。

『ここは……私を拒むようにできているな……』

「そのような目的で建てられた塔らしいですからねー」

 ま、念願のお姫様に会えるんだからそのぐらいは我慢してよね。


「こちらです」

 さて、そしていよいよ、光の精霊を塔の最深部に招待した。

 そこにあるのは、巨大な光水晶と、その中に眠る姫君。そして、その傍に居たシャーテとヴェルクトとディアーネだ。

 ディアーネは一発で状況を理解したように薄く笑って頷き、シャーテは一気に緊張を表し、ヴェルクトはそもそも俺の後ろに居るのが光の精霊だっつう事を今一つ理解できていない様子で首を傾げた。

『ああ!姫君!こんな姿でこんなところに……!』

 光の精霊は光水晶の棺に寄っていくと、姫君を間近で見て、満足げな、しかし焦燥感を滲ませた表情で、俺を振り返った。

『さあ、早く姫君をこの檻から解放するのだ!』

「待っ」

「はい!勿論ですとも!……シャーテ、大丈夫だから頼む」

 反応しかけたシャーテを押さえるように声を掛ければ、シャーテは表情だけで俺を訝しんだが……俺が黙って頷くと、恐る恐る、というように、光水晶に近寄り……手を触れ、魔術を編み上げ始めた。

 そんなに難しい魔法じゃない。シャーテの中に流れるエーヴィリトの王族の魔力を、光水晶に少しばかり流してやるだけである。

 魔術にそんなに時間はかからなかったらしい。

 シャーテは光水晶から手を放し、一歩後ろへ下がった。

 ……一瞬、場が静まり返る。

 何も起きず、ただ、そこに居る全員が黙って光水晶の棺を眺めているだけ。

 これはもしや失敗したか、と思ったその瞬間……不安を払拭するかのように、光水晶の棺は眩い光を放ったのである。




 光が収まり、目を開けると……そこには、美しい姫君が立っていた。

「こ、ここは……?」

『姫!ああ、会いたかった……!』

 困惑気味の姫君に、光の精霊が寄っていって抱きしめる。

 ……と。

「なっ……!光の精霊っ!ぼっ、ボクから離れろっ!」

 姫君は真っ赤になってそんなことを言ったかと思うと……優雅なドレスの裾を華麗に捌いて、実に綺麗な……回し蹴りを、光の精霊にくらわせたのであった。

 ……ディアーネもヴェルクトもぽかん、としているし、シャーテは光の精霊のイメージと光の姫君のイメージがなまじっかなしっかりあったみたいで、その分強力なショックを受けていた。

 正直、俺も、なんか、こう……思った。

 ……思ってたのと、違う。




 それから光の精霊が蹴られたり、姫君が蹴ったりするのを眺めつつ、両者が落ち着くのを待って、とりあえず、という事でお茶のテーブルを囲む事になった。

 もう少しで夕食だけど、ご飯食べながらよりはお茶飲みながらの方が落ち着いて話せるよね、っていう。

 ……光の精霊はもう、満面の笑みで姫君の隣の椅子に腰かけ(ているように陣取り)、姫君は光の精霊の隣で真っ赤になりつつ、もじもじしていた。

 そんな1体と1人を前にして、シャーテが緊張気味に諸説明を行った。

 つまり、今は姫君が封印されてから大分時間が経っているいうこと。

 シャーテはこれからエーヴィリトを転覆させようとしているということ。

 その為に助力を願い出るつもりだったということ。

『光の精霊と対立してでも光の姫君を無理やり動力にしてやるつもりだった』って辺りはうまく隠してるあたり、シャーテのアドリブ力はそこそこ高かった模様。はー、心配して損した。


「ええと……とりあえず、説明は以上です」

 一通り説明を終えてシャーテがそう締めると、姫君は頭を抱えてため息を吐いた。

「……つまり、ボクは父上に封印されちゃったままずーっと寝てたって事だよね?……はあ、なんで父上、そんなことしちゃったかなあ……」

 どうやら、姫君は自ら進んで眠りについた訳では無かったらしい。

『姫君が素直にならないからこんなことになったのだぞ』

「う、うるさいっ!ぼ、ボクは別にお前の事なんか好きじゃないんだからなっ!」

 姫君は真っ赤になりながら全く以て説得力の無い弁明をし、光の精霊を却って喜ばせている。

 うん、まあ……うん。俺、何も言わない。

『しかし、姫君の父上には感謝せねばな』

「は、はあっ!?なんでさっ!そのせいでボクはお前と会えなっ……やっ、違うっ!そ、そうっ、そのせいで起きたら何百年も経ってるしっ!」

 姫君の可愛い弁明に光の精霊は優しく微笑みつつ、続けた。

『そのおかげで、姫君は誰に嫁がせられることもなく、王として国に縛られることも無く、私の手元へ来てくれた』

「あ……」

 ……姫君の表情を見る限り、多分、そういう事なんだろうなぁ。

 この姫君は、昔々のエーヴィリトの、第一子だった。

 エーヴィリトは女も男と同様に王位継承権があるから、当然、姫君がエーヴィリトの王になることになる。

 そうなれば当然、光の精霊につれられて精霊の世界に行く事なんてできない訳だ。

 それにもし、姫君を光の精霊に嫁がせようとしていたら、当然、当時の求婚者たちから非難が殺到しただろうし。

「……父上は、ボクのこと思って、くれてたの、かな」

『そなたの父上の分まで、私は姫君を愛そう。……姫君、私と共に来てくれるか?』

 光の精霊は優しく笑って、姫君に手を差し出し、姫君はその手を取り……。

「あ、ちょっとその前に」

 そして、俺は水を差す!

「約束は守って頂きたく思います!」

 今いい雰囲気だったのに、みたいな、じっとりと非難を含んだ眼差しを光の精霊に向けられても、俺はたじろがない。俺、笑顔。とっても笑顔。

 ……俺、差すべきところではちゃんと水を差すタイプ。


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