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4話

さて。

こうして、俺の軟禁ライフは外目からは割と穏やかに(俺の内心では全然穏やかじゃなく)スタートした。

最初の1か月は部屋の中にあるものの魔力を食いつぶしていくようにして生き延びていた。

が、その内、魔草が育ち始め、思い立って大人しい鳥の魔物だの、魚の魔物だのも部屋で飼い始め……とやっている内に、気づけば1日の魔力の消費量と魔力の供給量が釣り合うようになっていた。

……そうして俺は優雅に軟禁ライフを送っている。




俺の1日は筋トレから始まる。

ストレッチから始まり、腕立て伏せだの、腹筋だの、スクワットだの。室内でできる筋トレを思いつく限り、限界までこなす。

その後一回風呂に入ってさっぱりしたら、身支度を整えて、朝食を持ってくるメイドと兵士を待ち受ける。

朝7時になったらメイドと兵士が来るので、簡単に世間話。

1週間もした頃から、少しは世間話してくれるようになった。

半年経った今では、俺に外界の情報を教えてくれる貴重な情報源になってくれている。

……それから、人との交流ができる、ってのは……何気ない会話でも、結構気晴らしになるみたいね。俺、メイドと兵士に救われてるかも。


その後、朝食。スープは鉄格子を錆びさせるためのもの。

……朝食にゆで卵が付いている時は非常にラッキー。何故って、塩が付いてるから。

塩はいいぞ。鉄格子を錆びさせるのにもってこいだ!

……ってだけでなくて、俺がここから脱出した後も必要だからね。塩。

必要なものは第一に水だが、塩不足も怖い。

水を半永久的に出してくれる水差しはあるが、塩を延々と出してくれる魔道具ってのは、そうそう無い。塩はこういう時にせっせと貯めこんで、いざ脱出する、ってなった時に困らないようにしておかないとな。

ちなみに、ちょろまかした塩は、瓶に入れてる。

ちなみに瓶は香水瓶。高級品だけあって瓶の細工も美しい。尚、中身……つまり香水はトイレに流した。じゃないと瓶として使えないからな!


朝食が終わったら、鉄格子にスープなり塩なりを振りかけ、錆具合をチェックする。

そんなに細い格子じゃないんで折れるようになるまでにまだかかりそうだが、表面はとっくに錆に覆われている。

錆びて剥がれそうになった部分があれば、その都度引っぺがしてる。うっかり格子の欠片が窓の外に落ちちゃって、それを誰かに発見されでもしたら、俺が格子を錆びさせてることがばれるからね。

一応、カモフラージュという事で、蔓性の植物の鉢を格子の根元に置いて、錆びさせてる部分を蔓と葉で隠すようにはしている。


鉄格子のお世話の後は植物と動物のお世話だ。

植物の方は水をやって、時々屑魔石を肥料としてやって、終了。

できそうだったら魔草から魔力を収穫する。

それから、鳥と魚の世話だな。こっちも抜けた羽だの落ちた鱗だのがあれば、その都度回収して魔力を貰う。


それが終わったらまた運動。

運動して小腹がすいたら雀の涙程度に魔力を補給できるおやつをつまむ。


そして昼食が届くのでまたメイド達と世間話をしてから、昼食。そしてスープが付いていれば鉄格子に与える。


午後はひたすら魔力のコントロールの練習。

……つまり、あれだ。ものに触っただけで一気に魔力を吸っちゃったり、意図せずに魔力を吸っちゃったりするのを防ぐための訓練だな。

これに関しては結構成果が出てきている。余程気を抜かない限りは事故ることも無いだろう。多分。


後は適当に本を読んだり、思いついた魔法を書いてみたり(魔力が無くてもある程度までなら魔法陣を作成することは可能だ。勿論発動はできないけど)、この時点で魔力が足りなかったら、またおやつを食べたり。

そうやって過ごして、夕食を摂って、早めに寝る。

……どうしても魔力不足になるわけだから、せめてそれを補えるように睡眠時間はたっぷり摂るようにした。




そんな生活を1年送ったか送らないかあたりで、いくつか発見があった。

1つ目に、俺は多分、魔力を取り戻すまで……『成長』できんだろう、という事だ。

生命維持に必要なラインを越えて魔力を吸収してみた事がある。

が、生命維持に必要な分以上の魔力は……吸収したらしただけ、無駄になった。

うん、無駄。全くの、無駄。

貯蓄されて翌日以降の生命維持に使われる、とか、そういうのも無し。

……つまり、決まった大きさの桶では一定までしか水が入らない、と。そういう事なんだろうが……ううん、辛い。


それから2つ目に、魔法は使えないが、魔術の端っこの方だけなら、なんとかならんでも無いらしいことが分かった。

具体的には、簡単な魔法薬の調合とか、簡単な魔道具の作成とか。

っつっても、本当に簡単な……『紅茶に牛乳入れてミルクティーにする』とか、『塩酸に水酸化ナトリウム入れて塩水にする』とか、あるいは『電池と豆電球を導線で繋いで光らせる』とか……そういうレベルのお話なので、あんまりアテにはならないが。

しかも、作ったものを使えるかどうかはまた別の話だし!


そして3つ目に、俺は今、『魔力吸引機』だけでなく、『魔力ポンプ』の機能も持っていることが分かった。

まず『魔力吸引機』。これは簡単。ものに触っただけでそのものが持ってる魔力を吸い取れる。

次に『魔力ポンプ』。これも簡単。ものに触って吸った魔力を俺の体が消費しないようにうまく誘導して、右手から左手へ流す!……そうすると、単純な魔力を右から左へ受け流す、って事はできるらしかった。

これ、案外すごいことなのよね。少なくとも、魔力のロスがここまで少ない魔力の受け渡し法ってのは俺、他に知らない。しかも魔力の移動が滅茶苦茶速い。利用価値は十分にありそうだ。


……ってことで、俺は今、『魔力ポンプ』を実践中。

城を脱出した後、何があるか分からない。そのために、貯蓄できる魔力は貯蓄しておこう、と思ったわけよ。

前述の通り、俺の体は一定以上の魔力を蓄えておくことができない。吸った端から使い果たすか、受けきれなくなって垂れ流すかのどっちかだ。

しかし!俺の体以外に魔力を貯めておければ、魔力を貯蓄することも可能なのだ!

……これ、職業魔術師の類は普通にやることである。自分の魔力をちょくちょく魔石に封じておいて、いつあるか分からない有事に備えている。

ということで俺もそれに倣って、魔草だの魔鳥の羽だのを右手に握って魔力を吸い上げ、左手に握った魔石の装飾品に向かって魔力を流す。

……そうしていれば少しずつ、魔石に魔力が蓄積されていくのだ。

俺が手に入れられた装飾品は、そんなに質の良くない魔石のものばかりだった。少なくとも、自作した魔石は最初に身に着けてた腕輪以外全部ボッシュートだったし。

……しかし、こうやって毎日コツコツと魔力を貯めこんでやることで、それらの魔石はたっぷりと魔力を蓄えた最上級の魔石へと変化するのである!

……本来、そんなに魔力を蓄えておけない、少なくとも、人工的に魔力を蓄えさせることができないはずの宝石にも魔力を相当ぶち込めてるから、やっぱり俺の『魔力無し』の状態ってかなり特殊なケースなんだな、って思う。

旅立ちの際にはこれらの装飾品を魔力源としても使えるし、資金源としても使えるだろう。

今からちょっと楽しみである。




……という事で、今日も、脱出せずに東塔のてっぺんに陣取って、魔石に魔力を蓄えたり、低級ポーションを合成したり、筋トレしたり筋トレしたり筋トレしたりしている。

あ、鉄格子は1年目で折れた。はっはっは、魔鋼だと思って油断してるのが悪い!


脱出して外の世界で生きていくこともできただろう。が、どう考えてもここに居た方が何かと便利だった。

この王城にいれば食料も寝る場所も魔力源も心配ないし。

どうせ魔力を奪うのはちょっと諸事情あって多分、魔王と会って出たとこ一発勝負になる予定だから、その前にできることも無く、俺が色々とスタートできるのも魔王復活直前、って事になる。

それまでどうせ待機時間になるなら、城でのんびり過ごして旅立ちの準備でもしてた方がいいよね、って思う訳よ。




……。

そうして、1年目で鉄格子が折れ、生活基盤が整い。

2年目で旅立ちのために準備を始め。

3年目で運動能力がそこそこ高くなって壁を走ったりできるようになってきて。

4年目で手持ちの魔石全てが魔力でいっぱいになり。

5年目で魔草の品種改良を始め。

6年目で新種の魔草を生み出し。

7年目。

魔王が復活したとの知らせが入る。

眠りの地ドーマイラの封印が解け、濃い闇が漂うようになり、ドーマイラ近海は常に荒れ狂う魔の海域と化した。

各地では魔物が凶暴化しているとの報告が相次ぎ、東塔に閉じ込められっぱなしの俺の所にまで、そんな混乱が伝わってくるような日々が流れていき。




遂に、この日がやってきたのだった。


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