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44話

 しかし、何がどーだったとしても、ここで引き下がるってのはナシだ。

 俺の野望の手がかりになるなら、相手が誰であろうが遠慮はしない。

 悪いことしてんのは向こうだからね。正義は必ず勝つ、の方針で行かせてもらおう。


 休憩後も、延々と塔上りである。

 魔物の心配はしなくてよくなったけど、トラップは階層を重ねるごとにどんどん複雑になっていく。ほんとに、誰かを上らせるって気がさらさらない心折設計である。俺だから上れちゃうけど。

 ……それだけ、最上階を守りたい、って事なんだろうか。

 おとぎ話を信じてる訳じゃあないが、何もない、とも思えない状況ではある。

 ……魔王派エルフたちは、この塔に居るという誰かの依頼で、例の魔導装置を作っていたわけだ。

 当然、あんな兵器作るんだから、殺傷が目的でしかない。……となると、この塔に居るという人物は、魔王派なのか、魔王派エルフを利用していただけなのかはともかくとして……絶対に、物騒なお方である、っつうことは分かる訳だ。

 そして、この塔。セキュリティ抜群、トラップ盛りだくさん魔物もあるよ!なこの塔、上れる人は限られる。

 つまり、俺みたいな完全無欠な誰か……とかではない。俺みたいな素晴らしい芸当ができるのは世界中探しても俺だけだっつの。

 ……こんな上り方するでも無しに、塔のてっぺんまで行こうと思ったら、そりゃもう、『正規の』ルートを辿るしかない。そう。この塔を管理する者ならば、この塔のトラップを作動させずに上る裏道みたいなものを知っていて然るべきなのである。

 ……そして、それが誰か、っつったら……この国、エーヴィリトの、王家、なんだよなぁ……。




 上った先に王様居たらどうしよ、とか思いつつ、俺達はえっちらおっちら塔の中を進み……遂に、俺達は最上階一歩手前まで辿りついた。

「……何か聞こえる」

「話し声だな。よっしゃ、盗み聞きしてやろーぜ」

 最上階へ上がる階段の手前で耳をすませば、上から誰かの会話らしきものが聞こえてくる。

 そして、そうなったらもう、盗み聞くしかないじゃない?え、無くない?いや、俺、盗み聞けるんだったら盗み聞いちゃうタイプ。

「……れでは話が違うではないか!」

「申し訳ございません!我々としてもまさか、只の旅人風情がかように強いとは……特に、生贄役にした娘は、武器も無い状態で1人で……9人の手練れを……」

 あ、俺達の話してる。え、強い?俺強い?うん知ってる。知ってるけど改めてこう言われてるの聞くと気分いいね。えへへ。

「御託はよい!……それより、貴様ら、おめおめと戻ってきよって……覚悟はできておるのだろうな?」

 物騒な台詞!いかにも悪役が言いそうなタイプのっ!そして鍔鳴りが聞こえたから、多分、抜刀までいってる!

 あー!駄目!そいつら殺しちゃ駄目!俺、そいつらから禁呪について聞きださなきゃいけないのに!

 一瞬、振り返ってヴェルクトとディアーネを確認したら、もう武器を構えていた。あー、優秀な仲間が居て俺ってば幸せ者。

 俺も剣を抜いて、一気に階段を駆け上がる。

「待て!」

 そして、屋上に躍り出れば、一気に視線が集中した。

 視線は置いといて、俺は最奥に居る人物を見て、予想が外れていなかった事を知った。

「……シャーテ・リリト・エーヴィリト殿下、だな」




 シャーテ・リリト・エーヴィリト、ってのは、現エーヴィリト王の長男である。が、上におねーちゃんであるゾネ・リリア・エーヴィリトが居る。

 そして、エーヴィリトはアイトリウスなんかと同じで、男女による王位継承権の違いが無い国である。

 ……ま、つまり、目の前に居るシャーテ王子は王位継承権が2位、って事ね。

 普通にしてたら王にはなれない王子様なわけだ。

 今回の犯行ってそこらへんが原因なのかなー、とか、思わんでも無い。まあ、そこらへんは知らないふりで通すけど。

 だって、向こう、俺の事分かってなさそうだから。なら知らんぷりしといた方が、未来の国交の為ってもんである。

「……誰だ?」

 ほらね、やっぱり分かってない!一応、俺達、会った事あるんだけどね!

 まあ、向こうはアンブレイルしか見てねえんだろうし、妾の子なんぞに構ってたら品位が落ちる、とでも思ってるんだろうから、そんなにおかしいことでもねえけど……ねえけど、俺、アイトリウスの王族じゃなかったとしても、世界指折りの魔導士ではあったんだけど。それを知らねえっつのはちょっと問題ない?

 いや、いいけど。俺としても、こんな奴に知られてなかったぐらいの事、気にしねえけど。むしろ、今回はこいつの無知さ加減が未来のアイトリウスとエーヴィリトの友好関係を保ってくれそうだけど!

「勇者、と名乗らせてもらおうか」

 なので、まあ、名前ははぐらかす。別に間違った事は言ってない。俺が勇者になるんだから。

「はっ、舐められたものだな。私の名を知っているなら、私がアイトリウスの王子を知らぬわけが無かろうとは思わなかったのか?この私が『勇者』であるアンブレイル・レクサ・アイトリウス王子の姿を見間違えるわけが無い!」

 シャーテ王子の表情があざけるようなものに変わっていく一方で、周りに居た魔王派エルフたちの顔色が悪くなっていく。

「……で、殿下……こ、こいつです!こいつらが、オーリスの!」

「我らの計画を邪魔した者たちです!」

「我らもあの鈍色の髪の男に……ん?なんか雰囲気が違うような……」

 やめてあげて!ヴェルクトがなんかまた自分を恥じて鬱入りそうだからやめてあげて!

 ヴェルクトが酔っぱらった挙句に我を失って大暴れして君たちをころころしたなんて言わないであげて!

「この者らが、か?何故ここを」

 シャーテ王子も、俺達が『侮るべきでは無い敵』だという事が分かったらしく、身構えた。

「んー?エルフのおにーちゃん達が教えてくれましたー」

 言外に、『拷問したら口を割りました』って言ってる訳で、魔王派エルフたちは震えあがり、シャーテ殿下は額に青筋を浮かべる訳である。まあ、裏切りだもんね。

「……何が目的だ?まさか貴様らは私の目的を邪魔しようと……?」

 何が目的か、良く分かってないんだけどね。魔王派エルフとどういう利害の一致があるのかも分かんないから、単純にシャーテ王子を魔王派だって決めつけるのも短絡的だし。

「いいや?逆、逆。……場合によっちゃ、殿下への協力もやぶさかではございません」

 なので、俺はにっこり笑って、そう言うのである。




「……協力、だと?」

「そ。協力。利害の一致が無いとも言えないんだ、これが」

「魔導装置を破壊し、オーリスからこやつらを根絶やしにせんとした者の言葉を信じられるとでも思ったか!」

 うーん、まあ、そりゃそうなんだけど、言い訳のしようはいくらでもあるんだよね、それ。

「魔導装置を破壊したのは、俺が殺されそうだったから。オーリスで暴れたのも、俺の仲間が危険だったから。先に手ぇ出しといて被害者ヅラしないでいただこうか」

 あくまで、オーリスでの破壊行動(って言っちゃうとヴェルクトがかわいそうなんだけどね)は目的ではなく手段だった、とアピールしておく。

 つまり、オーリスでの敵対と、今回の『協力』は無関係だ、と。

「……ならば、何が目的だ」

 さて、ここでどう答えるか、っつうのも1つの大きな分岐点だけど……ここは、正直にいこう。

「禁呪の制御。あわよくば、古代魔法とのミキシング」

「……は?」

 ……ま、案の定というか、シャーテ王子ご本人は魔導装置開発に全くのノータッチなんだろうな。だから正直に答えたんだけど。

 だって、魔法関係に詳しいなら、俺の事知らないのはおかしいもんね。

「あの魔導装置を作ったのは誰?俺はそいつに会いに来た。会わせてくれるなら、殿下の計画に協力してもいいよ、ってこと」

 俺が実に友好的にそう持ち掛けると、シャーテ王子は顔を顰めた。

 ……まあ、こっちの武力は魔王派エルフたちが証明済み。

 俺達がオーリスでこいつらの邪魔をしたことは確かだけど、それには一応、筋が通ってる。通って無かったとしても、真っ向からやりあうのは馬鹿だってことはシャーテ王子もお分かりのご様子。

 ……なら、どうするのがお利口か、っつうのも、王子はご承知でいらっしゃったみたいね。

「……お前達は、私の計画の全貌を知っているのか」

「うっすら、ぐらい?」

 シャーテ王子は少し考えて……俺達に手招きした。

「ついて来い」




 屋上のタイルをシャーテ王子が一定の順番で踏むと、隠し階段が現れた。

 そこを下りていき、通路の角、何もない行き当たりの前でまた特定の床の踏み方をすると、また隠し扉が現れる。

 そんな具合に、巧妙に隠された隠し通路を行ったり来たりして、遂に、俺達はそこに辿りつく。

 ……思わず、息を呑む光景があった。いや、ほんとに俺でもちょっとびっくりした。

 この塔に、幾重にも幾重にも隠された通路の先。

 塔の中心部であろうそこには……眩い光水晶の、棺があったのである。

「私はこの光の姫君を蘇らせる」


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