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43話

 光の塔は、エーヴィリトどころか、世界最古の建造物であるとされている。

 古代魔法仕掛けの塔は自動で修復が成され、いつまでもいつまでも、その白亜の姿を保ち続けるのだとか。

 ……が、その建造物の実態は、ダンジョン。或いは、魔物の巣。

 古代魔法によるものらしいが、内部にはとんでもないトラップが数多く存在するのだとか。

 エーヴィリト王家にはそれを解除する方法が伝わってるはずなんだけど、代々伝えていく内に忘れられちゃったのか、それとも管理が面倒になったのかは知らないけど、ここ数代の間、ずっと放置されっぱなしているらしい。

 そのせいで光の塔の内部は魔物の巣になっているらしい。

 トラップに魔物に、って、もう、ダンジョンだろ。なんで折角の古代魔法の遺物をこーいうふうにしちゃうかなあ……もったいねえなあ……。




「じゃ、入るけど、あんまり変な動きすると、罠が作動しかねないからな。気を付けろよ」

 俺達は魔獣の脚のおかげで、さっくりと光の塔の前までたどり着いた。

 ……塔の近くにひっそりと馬車が停めてあるから、もう中に誰かはいそうだな。

「それから、魔物も多いだろうし、魔王派エルフやその親玉との戦闘にもなるだろう。気を引き締めて行くぞ」

 敵の陣地に乗り込むってだけでも緊張ものなのに、その実態はトラップハウスときたもんだ。

 ……まったく、いいお宅にお住まいだよなあ……。




 光の塔の内部も、外観の白さはそのままだった。

 なんの石材なのか、ほのかに白く光を灯しているような、不思議な白亜の石で床も壁も作られている。

 うん、ちょっと、眩しい……なんでこんな素材を建材にしちゃったのか、設計者を小一時間問い詰めたい……。

 ……それはいいんだけど、やっぱりというか、トラップの気配……巧妙に仕組まれた古代魔法の気配はそこかしこから漂ってくる。

 どこか瞬間移動ゲートにも似た、しかし、もっと敵意に溢れた気配は、確実に俺達を殺そうとしている。

 ……が。


「はい、ここのトラップも解除。通っていいぞー」

「……本当にここには罠が仕掛けてあるのか?」

「古代人が見たら泣くかしらね」

 この塔、確かに、トラップだらけだった。魔力を見る目で見てみれば、大体のトラップの位置と、トラップの制御部分の位置が分かるからね。トラップだらけなのはすぐ分かる。すぐ分かるんだけど……。

 ……そのトラップの攻略、ってのが、正直、俺にとってはなんてことはない、只の作業ゲーだった。

 一応説明するとね?古代魔法に関わらず、魔法のセンサーって、大体人間ないしは生き物の魔力を感知して動くわけ。アイトリアの城の周りに張ってあった結界と一緒ね。

 だから、魔力無しの俺には、トラップが作動しない。

 ……特定のタイルの上に生き物が来たら4m四方ぐらいの床が一気に抜ける落とし穴とか、前を通ると炎を吐き出すようになってる竜の像とか、近づくとレーザービーム発射してくる柱とか、見えない結界の壁で作られた迷路とか……とにかく全部、俺には関係ないのだ。

 俺がタイルを踏んでも床は抜けないし、竜の像の前を通っても炎は出てこないし、柱に近づいてもビームは飛んでこないし、見えない迷路は全部素通りしちゃうので迷路にならない。

 なので、俺の仕事は専ら、ヴェルクトとディアーネの先を行っては、トラップを解除するための仕掛けを作動させる、という事になる。

 ……ちょっとつまんないが、これで身の安全が図れるんだから、今は文句を言うつもりも無い。

 全部終わってからこの塔買い上げて調べつくしてやる。待ってろエーヴィリト!




「この塔って、何のために作られたのかしら」

 あんまりにも塔がでかくて高いもんだから、疲れて途中で休憩を入れた。

 ある程度まで上っちゃったら、魔物の姿も無くなった。多分、トラップにやられてここまで上がってこられなかったんだろう。

 優雅にランチタイムを楽しみつつも、俺達の話題は専ら、この塔の事に尽きる。

「これだけ罠が仕掛けて……あるんだよな?……仕掛けてあって、これだけ高い。誰かを上らせる気なんて無いような構造だが、シエル。ここの最上階には何かがあるのか?」

「……気になる?」

 ま、気になるだろうね。

 これだけの建造物だ。古代魔法が主流だった当時としても、造り得る限りの最大規模の塔だっただろう。

 かなりの労力が費やされたはずだし、その労力に見合うだけの防衛機能がこの塔にはある。

 ……ならば、この塔は何を『守る』ために作られたのか。

 ヴェルクトとディアーネの視線を受けつつ、俺は、答える。

「俺も知らん」

 ……いや、だってさあ、俺、いくら割と好き勝手飛び回ってた、っつっても、当時は8歳児だったし。西大陸は割とあちこち行ってはいろんなものや人と出会って楽しくやってたけど、東大陸となると……あんまりアイトリウスと仲が良くない国もあるし、あんまり行った事が無かったのだ。

 ましてや、この『光の塔』はエーヴィリトが情報を秘匿しているもんだから、『古代魔法仕掛けの塔である』『現在は魔物さんのおうち』ぐらいしか……つまり、エーヴィリトの国民なら誰でも知っているような内容しか知らない。

「シエルも知らないの?……となると、相当秘匿したい何か、という事かしら……?」

「国宝でも隠してあるのか?だとしたら、反魔王派のエルフがもう盗んでしまっているかもしれないが……」

 ディアーネもヴェルクトも、それぞれに空想を巡らせているようだが。

「ま、実際どうだか知らないけど、この塔のおとぎ話なら1つ知ってるよ」

「おとぎ話?」

「そ。この国の民話っていうか、そんなかんじだな」




 おとぎ話の内容はこうだ。

 昔々、エーヴィリトには美しい姫君がいらっしゃった。

 姫君のあまりの美しさに、各国の王子どころか、妖精や魔物からも求婚が絶えなかった。

 そんな中、エーヴィリトの姫君の美しさに光の精霊が恋をしてしまう。

 光の精霊に求婚された姫君は困り果ててしまう。精霊の国に行くつもりはないし、かといって、無下にすれば国がどうなるか分からない。

 そうしてとうとう姫君は、自らの体を封印する事にした。

 大きな光水晶でできた棺に自らの体を閉じ込め、そこで長い長い眠りについたのだ。その間に光の精霊が自分を忘れてくれるように、と。

 国王は眠りについた姫君が誰にも眠りを邪魔されぬよう、高い高い塔を作った。

 塔は侵入者を拒み、今日も姫君を守り続けている。


 ……ってな具合のおとぎ話である。

 この話から、この国では精霊というものが単純に信仰の対象になってるわけじゃない、ってことが良く分かるよね。

「……という事は、この塔の最上階には今も」

「あったら面白いけどね。所詮はおとぎ話、って事もあり得る」

 どっちかっつうと、俺は『所詮はおとぎ話』だと思うね。この塔は教訓と信仰をもたらすための物じゃないか、と思う。

「それに、もし姫君の棺が残っていたとしても、もう反魔王派のエルフがこの塔に入っているはずよ」

 だからこの塔に何も無い、とも思わないけれど、ディアーネの言う通り、何かあったとしてももう反魔王派のエルフやその親玉によってどうにかされちゃってる可能性の方が高いんだよね。

 ……ディアーネの言葉に、ヴェルクトは突然、考え込んだ。

 そして、声を潜めて、素朴な疑問を呈した。

「……反魔王派のエルフたちは、この塔を上れるのか?」

 ……ね。どうなんだろうね。

 そういや、反魔王派のエルフは『エーヴィリトの西の塔』に依頼主が居る、とは言ってたけれど、そこに集まってます、とは言ってなかったか。

 でも、表には馬車があったし……。

 ……なーんか、嫌な予感がするんだけど。

 それも、国交問題になっちゃいそうなタイプの。


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[一言] ✖️反魔王派 ○魔王派 ですかね?
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