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41話

 このままでは俺だけ馬無しになってしまう。それは何としても避けたい。

 ……なんとか、魔力無しでもこのお馬さん共を従える方法を考えないと……。




 が、結局いい案が浮かばなかったので、一回宿に戻ってきた。もう夜になるしね。

 ちなみに今、この宿は俺達以外に誰も居ない。そりゃそうだ。宿の経営者が魔王派エルフだったんだから。

 村長からはこの宿を自由に使っていいと許可をもらっているので、遠慮なく貯蔵されていた食料を調理して勝手に食う。

 尚、こういう時に調理するのは専らヴェルクトである。

 俺は魔法が使えないから、調理器具を使えないんだな。蛇口から水は出ない、コンロに火は入らない。

 不便極まりないので、精々芋の皮を剥く程度である。

 ……ディアーネは、火加減の調節はこれ以上ないほど上手にできるんだが……料理自体が、あんまし得意じゃないみたい。

 俺は前世の記憶があるから料理もある程度分かるけど、ディアーネは根っから貴族生まれ貴族育ちだからね。料理なんてしたことないんだろう。




 そうして食卓には、瑪瑙鳥のソテーと根菜のポトフとパンとチーズ、という、そこそこちゃんとしたご飯が並んだのであった。

 ポトフの芋の皮は俺が剥いた。煮るのは大体ディアーネがやってた。

 それ以外は大体ヴェルクトがやってくれた。いやあ、ありがたいありがたい。

 瑪瑙鳥の肉はほろっと脆く柔らかい不思議な食感。鶏肉と白身魚の間みたいな……変なかんじだな。

 ポトフの根菜は鳥の骨から出汁を取ったスープが中まで染み込んで柔らかく煮えている。根菜自体の味が濃いんだな。シンプルながらも非常に美味かった。

 パンとチーズはネビルム村の奴が一番美味いからオーリス村のパンについてはノーコメントだ。


「……で、俺の馬、どうしよ。なんかいい案無い?」

 食事しながら、ヴェルクトとディアーネに聞いてみる。目下の悩みだからな、これ。

「あの石を渡したらどうだ」

「あの石で寄ってきた馬がみんな俺に見向きしなかったんだっつの」

 石を渡した途端にトンズラこかれたらたまんないからね。そこは慎重になりたい。

「魔力の代替になる能力を誇示すればいいんじゃないかしら?」

「剣とか?馬に剣術見せて分かるんかなぁ……」

 他には低級ポーションづくりとか?いやあ、無いな……。

 他になんかできること……容姿で釣れるならもう釣れてるだろうしなぁ……。

 ……それからもああでもないこうでも無いと言いあったが、結局は、『釣れるまで色々試すしかない』という結論に落ち着いた。

 まあ、あと2日あるしね……。のんびりやっても大丈夫だろ。有翼馬をおびき寄せる手段は分かったんだし……。




 たっぷりとふかふかベッドで眠って、翌日。

 俺は歩いて、他2人は早速有翼馬に乗って、森へ向かう。

「……シエル、乗るか?」

「いい。俺の馬見つかるまで乗らねー」

 ヴェルクトが気遣ってくれはするが、そこは俺のプライドが許さないのである。

 何が何でも有翼馬を手懐けてやるのだ。そして今後の俺の脚としてこきつかうのだ。


 森の奥に入ったら、そこで『守り石』(仮)を取り出して掲げる。

 ……すると、瞬く間に有翼馬が群がってくるので、適当に有翼馬が集まってきたところで、『守り石』をしまった。

 その途端に帰ってしまう奴も居るが、半分ぐらいはこの場に残ってくれたので、早速実験開始。

 最初に、とりあえずその場でポーション作ってみる。魔力が無くてもこのぐらいはできるんだぞ、って具合に。

 ……びっくりする位、反応が無い。

 くっそ、この駄馬どもめ!魔力使わずに低級ポーション作るのがどれだけ大変か分かってねーなこいつら!


 続いて、丁度良く魔物が飛んできたので、剣で斬って捨ててみる。

 ……ちょこっとは反応があったかな、程度。

 とてもじゃないが、俺の剣の腕に惚れこませるには魔物も時間も足り無さそう。


 それから、有翼馬たちの目の前に魔石を持ってきて振ってみる。

 そんなにランクの高い奴じゃないけれど、一応見るぐらいはしてくれる。

 有翼馬の視線が集まったところで……魔石から一気に魔力を吸い尽くす!

 それを見て驚いちゃったのか、有翼馬たちは一目散に逃げて行った。

 ……あらー……。




「駄目だこりゃ」

「……落ち込むな、シエル」

 いや、落ち込んでは無いんだ。無いんだが、こう……虚無感がすごい。

「やっぱり駄目なのね。有翼馬は賢い生き物だと聞いていたから、魔力吸収を見れば興味を持つかと思ったのだけれど」

 ディアーネも気づかわしげな視線を向けてくる。やめろ、お前にそーいう目で見られるとなんかこう、もぞもぞする。

「有翼馬は賢いのか」

「ええ。普通の馬よりはずっと賢いはずよ。魔法を使うこともあるし、人間の言葉をある程度は理解すると聞いたこともあるわ」

『学が無い』ヴェルクトにディアーネが有翼馬の何たるかを説明しているのを耳の端っこで聞きつつ……俺はちょっと、考えた。

 もうこれは、正攻法という名の邪法に頼るしかねえな、と。




 一旦森の中で昼飯を食う事にした。

 昼食はサンドイッチ。朝、パンに具を挟んで作った物を持ってきておいたのだ。

 各自でもそもそ食べて、休憩。

 尚、この間、ヴェルクトとディアーネの馬はそれぞれ、森の中に入って勝手に草食ってる。

 呼べば来るみたいだから、やっぱりお利口なお馬さんなんだろうね。

 ……有翼馬が視界の端っこを行ったり来たりする非常に貴重な映像にも目をくれず、俺はひたすらサンドイッチを咀嚼しつつ、馬相手に何をどう演説するか、考えるのであった。


 そう。演説。

 相手がお馬さんだと思うからよくない。相手を、知能のある、賢い一個体としてみるのだ。

 相手が人間だったら、動かし方なんて簡単だ。

 即ち、説得する。

 金を出したり条件のすり合わせしたり色仕掛けで釣ったりすんのはその後。とりあえず、まずは話してみる、っての、大事。相手が殺しにかかってくるとかでも無い限りはな!




 という事で、また『守り石』(仮)を出して、有翼馬を集める。

 いいかげん集まった所で、また石をしまって……俺は有翼馬に向かって、演説を始めるのである。

「有翼馬のみんな!」

 俺の声に有翼馬は数頭、こちらを向くが……ほとんどは知らんぷりである。が、俺、めげない!

 思い切り息を吸って、叫ぶ!

「ドーマイラへ行きたいかーっ!」


 大声に驚いて逃げる有翼馬も居たが、それ以上に、驚いて俺の方を見る有翼馬が多かった。

「どんなことをしても、ドーマイラへ行きたいかーっ!魔王は怖くないかーっ!」

 有翼馬は勿論、ヴェルクトとディアーネも驚いている。うーん、視線が集まるってのは悪くねえな。

 ……そこで、一旦呼吸し直して、表情も引き締める。

 白状しよう。いわゆるギャップ萌え狙いだ!

「我はシエルアーク・レイ・アイトリウス!アイトリウスの不当なる王の子にして、魔王を屠り勇者となる者なり!」

 朗々と口上を述べ、剣を抜き、天へ掲げる。

「我が求むは、勇者の脚として相応しき有翼馬!魔を恐れぬ、勇敢な者を望む!怖気づく者は要らぬ!臆病者は立ち去るがいい!」

 有翼馬にもプライドはあるから、こういう言い方したら去るに去れないらしい。ははは、人間と一緒。

 掲げた剣を地面に突き刺して、続ける。

「勇敢な有翼馬、我こそは、と思う者は進み出よ!……魔王を倒した暁には、最強の人間の従者としての名誉を与えよう!」

 堂々と言い切って、あとは有翼馬の動きを待つだけである。

 とにかく、堂々と。待ってる間も、堂々と。

 ……そして、有翼馬たちがもぞもぞまごまごしているのを眺めつつ、こりゃ駄目か、と思い始めた頃……ついに、そいつは来た。

 ……。

 そいつは、俺に頬擦りするようにして懐いている。翼をぱたぱたさせて、いかにも人懐っこそうなかんじでもある。

「お前、ほんとに馬?」

 ただし、なんか……嘴がある。前足は鳥っぽいが、後ろ足は獅子っぽい。

 頭は猛禽類のそれ。翼も猛禽類っぽい。……そして、尻尾がある。獅子の。胴体も獅子。

 ……馬じゃない!ぜったいこいつ、馬じゃない!

 グリフォンだっ!




 有翼馬を釣ろうと思ったらグリフォンが釣れた。

 鮪を釣ろうと思ってたら鯨が釣れちまったような気分である。

 ……グリフォンは、手懐けられれば有翼馬よりも優秀な脚になる。有翼馬より更に速いし、グリフォン自身が魔法を割とバンバン使う。風系の魔法が多いかな。

 が、賢い生き物であると同時に、傲慢な生き物でもある。前世の記憶でいけば、7つの大罪の1つである『傲慢』を象徴するのはグリフォンだったと思う。

 だから、滅多に人に懐くもんでも無いはず……なんだけど。

「あら……グリフォンね」

 ディアーネが珍しく、恐る恐る、というように手を伸ばして、グリフォンの背を撫でる。

 グリフォンはそれでも、大人しくしているのであるから……やっぱこいつ、なんか、変。

「グリフォンという生き物は大人しいんだな」

「いや、こいつが突然変異だと思え。他のグリフォンはもっと獰猛だし傲慢だぞ」

 だからこそ、このグリフォンがおとなしーく俺に懐いてるのか、まるで分からないんだけど。


 ……が、ま、いいや。どんな理由があろうとも、とりあえず立派な移動手段が手に入ったんだから、文句は無い。

「ええと……本当にいいの?」

 念のため、グリフォン君に聞いてみるも、くぇー、という、微妙な鳴き声が返ってくるばかりである。

 ……ううんと、うん、良いことにしよう。頭は悪くないみたいだし、分かって俺にすりすりしてきたんだろうから。

「じゃ、今日からよろしく。……ええと、お前の名前は……」

 グリフォン、グリフォン……。

 ……そういや、7つの大罪における『傲慢』の悪魔はルシファー、だったっけ。

「俺は今日からお前の事をルシフ、と呼ぶ!いいか?」

 確認を取ったところ、やっぱりまた、くぇー!という鳴き声が返ってきた。

 ……多分、肯定だと思う。




 さて。

 こうして、俺達は全員、たっぷりと時間を余して移動手段を捕まえてしまったのだった。

 一応、自分のものだ、って事で、それぞれの馬なりグリフォンなりにプレゼントをしてある。

 俺は、グリフォンの脚に俺の腕輪をつけてやった。本人……いや、本鳥?うん?……も、気に入っているらしい。

 ヴェルクトは鞍に組紐細工を付けてやったし、ディアーネはリボンを結んであげてる。

 これでこいつらは正式にそれぞれの脚になってくれるわけだ。多分。

 これからの移動がぐっと楽になること間違いなし。ドーマイラまでだって、飛んで行けちゃうかも。


 ……ってのは置いといて、だ。

 案外さっさとこいつら捕まえられちゃったもんだから、杖ができるまでにまだ時間が余る。

 ……ガフベイの方に向かってグリフォンを飛ばせば、もしかしたら、魔王派のエルフに追いつけるかもしれないけど、それを今更やる気も無い。どうせエーヴィリトの西の塔に向かってたらどこかで会うだろうし。




 という事で、俺達が残りの日数で何をすることにしたか、というと……オーリスの結界づくりである。

 ……ほら。『守り石』をパクるつもりでいるからさ。その分の補填はしとこうかなー……って。

 この村の住民は、ロドールさんをはじめとして、皆、何かしらかの職人としての腕がいい。

 特にロドールさんの杖作りの腕は素晴らしいこと間違いなし。

 そんな人材が魔物に襲われて失われでもしたら、それは世界的な損失だからね。将来的にアイトリウスと仲良くしてもらうためにも、ここは一肌脱いでおくことにしたのだ。


 オーリスに居たドワーフさんに結界の材料の鉱石を加工してもらって、7本の杭を作る。

 それから、7種類……水地火風、光と闇、そして空、の属性の魔石を1つずつ村のエルフに分けてもらって、磨いて板状にする。

 魔石の板には術式を慎重に彫り込んでいって、7本の魔鋼の杭にはめ込んでいく。

 ……それから、そこそこ魔力容量が多そうな魔石を適当に見つけてきて、一気に全部、魔力を吸って空っぽにする。

 空っぽになった魔石を杭の先に取り付けたら、あとはその7本の杭を地面に刺していく。

 村をぐるりと囲うように杭を刺したら、ヴェルクトの出番だ。

 ネビルム村の結界を再起動させた時と同じように、ヴェルクトの魔力を吸って、結界に流す。

 ……杭の先に取り付けられた空っぽの魔石は魔力を吸って、魔力の流れを作り始める。

 一旦魔力が流れ始めれば、もう大丈夫。あとは勝手に、そこらへんから魔力を吸って、結界を保ち続けてくれるはずだ。

 はー、働いた働いた、っと。


「……案外、結界というものは簡単に動くんだな」

「ま、俺の手にかかれば、ってところだ」

 ヴェルクトは感慨深げに自分の手を握ったり開いたりして見つめている。

「……俺に学があれば、村の結界を俺の手で直すこともできたんだろうか」

 ……ああ、成程ね。そういう。

「あ、無理だと思う。お前、学があってもセンスが無さそう。そういうのは本職に任せとけよ。……さっさと戻って飯にしよーぜ」

 気にすることはない、とは思わない。

 何かを学ぶという事は、多かれ少なかれ、何かの役には立つのだから、知らないよりは知って居る方がいい。

 ……けれど、だからといってヴェルクトが役に立たない訳では無い。

 知っている知識のジャンルが違うだけだ。俺は、森の様子から何かを感じ取ったり、鳥獣を綺麗に仕留めたりする技術は持っていない。

 要は、助け合い……っつうより、適材適所だと思うんだけどね。言わないけど。

 ヴェルクトの肩を叩いて急かせば、そうだな、と、ヴェルクトは少し笑って、宿に向かって歩き始めた。


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