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35話

「……ごめんなさい、噂には聞いていたけれど、ここまで酷いとは思わなかったわ」

 という事で、ディアーネ、絶賛体調不良中。

 火を嫌う森の魔力に中てられて、っていうレベルにしちゃあ少々酷すぎるんじゃないの、これ。

 あのディアーネが動くのが辛そうなレベルに達してしまったので、森の中でも比較的開けてる場所を選んで休憩中。

 ……うん、ほんと、こっちもゴメン。予め対策しときゃよかった。

 俺もまさか、ここまでディアーネが森に嫌われるとは思ってなかったんだよね……。

「海の中より森の中の方が辛いのか」

「あー、多分、相手がディアーネを脅威と見るかどうかって所じゃない?」

 海は火にとって相手が悪い。だが、それはディアーネ本人じゃなくて、火の精霊がちょっと調子悪い、ってだけなのである。ディアーネ自身は火魔法の使い勝手が悪いだけで、別にそこまで大変な事態になったりはしない。

 しかし、今回、は逆。火は森にとって相手が悪い。その結果、森は火の精霊に対抗することができないから、その依代(?)であるディアーネ本体を攻撃するしかないんだろう。

「いっそ焼き払ってしまえばいいのかしら……」

「取り返しがつかないレベルで嫌われるからやめとけ」

 俺の言葉に、冗談よ、と返ってくる声も弱弱しい。

 うーん、ディアーネがここまで弱っちゃうって事は、相当きつそうね。

「ヴェルクト、お前、やっぱここキツい?」

「違和感はある。体に蔓が絡みついているような感覚だな。痛みには至っていないが」

 あらぁ……。森に比較的好かれてるヴェルクトでもこれか。

 やっぱり、俺達が人間だからかな。……けど、ここまで酷いとは聞いたことが無いんだけど……人間以前に、ディアーネが居るからか……?

 なーんか、おかしい気もするんだよなぁ……。




 しかし、このままここで立ち往生する訳にもいかないので、応急処置。

「要は、魔力が無けりゃいい。森がディアーネを嫌う理由の1つはディアーネの魔力が膨大で、森自身が対抗できないって分かってるからだろ」

 ディアーネの許可を得て、ディアーネのほっそりした手を握って、魔力を吸う。

 勿論、死なない程度に。具体的には……ディアーネの魔力の容量の3分の2程度まで、かな。

 いつどこで何があるか分からないので、吸った魔力は垂れ流すんじゃなく、空っぽになってる魔石に詰めておく。

 こうしておけば何かあった時にディアーネがこれで回復できるからね。


「どうよ」

 魔力を吸ってある程度減らしてみたところ、ディアーネは多少、楽になったようだった。

「ええ……動けそう。ありがとう、シエル」

 魔力を減らしてるんだから、ある意味、毒を以て毒を制してるようなもんなんだけど、ディアーネは気丈にも立ち上がってみせた。

「無理はすんなよ。動けなくなったらヴェルクトがお前おぶって歩くから」

「俺がか」

「体格からしてそーなるでしょーよ」

 俺のちっささを舐めるんじゃない。

「……辛くなったら言え。それから、気休め程度だろうが」

 俺がディアーネの魔力を吸ってる間、ヴェルクトはそこらに生えてた白甘草(魔草の一種。花が甘くて美味しい)で花冠を作っていたらしい。うっわ、図体でけえ男が花冠編むとか似合わねえ。……多分ルウィナちゃん関係でこういう技を身に着けたんだろうけどさぁ……。

 まあ、ヴェルクトに似あう似合わないは置いとくとして、これはそんなに悪い手じゃない。

 森の物を身に着けておけば、多少は『火』の気配が紛れるだろう、っていうね。

 ディアーネの紅い髪に白甘草の白い花弁が映えて中々綺麗だし、まあ、気休め以上の効果はあるんじゃないかと思うよ。




 こうしてなんとか、俺達は行進を再開した。

 道中何度か魔力を吸い直したり、気休めパート2って事で魔草のお茶を飲んで休憩したり、っていうのはあったけれど、まあ、その程度で済んだ。

 つまり、ディアーネが完璧にダウンするまでに酷くなるって事は無かったし、ディアーネ抜きで戦闘しても何とかなる程度の魔物しか出なかった、って事。

 ……うん、特に魔物の方に関しては幸運だったとしか言いようがないね。

 この辺りの魔物は、森以上に人嫌いみたいだから。


 そのままやや速度を落として北に歩くこと、半日。

 ほとんど夜になった頃、俺達は遂に、オーリスへ到着したのだった。




 オーリスに到着するかしないか、という所で、嫌な事に雨が降ってきた。

 弱ってるディアーネをさらに雨ざらしにするなんて許されることじゃないので(何に許されないって俺のプライドとかディアーネの体調とかよりも、火の精霊様に許されないってのがでかい)、俺達はオーリス唯一の小さな宿屋に駆け込んだのだった。


 宿に入った途端、雨が強く降りだした。ギリギリセーフ。

 雨が降り出してからはヴェルクトがディアーネ背負って走ってくれたので、そんなに濡れずに済んだし、不幸中の幸いってことにしておこう。これ、今日野営とかだったらやばかったね。

「すみません、部屋、空いてますか」

 疲労困憊のディアーネに任せる訳にもいかないんで、俺が宿の手続きを進める。

 ……が、宿の女将さんの表情は暗い。

「ごめんなさいねぇ……明日の祭の準備があるから、宿の部屋を使ってしまっていて……一部屋は開いてるんだけれど」

 申し訳なさそうに沈んだ笑顔を浮かべる女将さんに、なんとなくひっかかるものを覚えなくも無い。

 ……祭、っつう雰囲気じゃないもん。どう見ても。

 女将さんの表情も、村全体の雰囲気もなんとなく暗いし。

 ……ま、いいや。ここら辺はまた後で探るとして……今はディアーネだな。

「ん。じゃあ、それでいいや。ベッドは3つある?」

「ごめんなさいねぇ……2つしか無くて……」

 ……ま、うん、いいよ。この雨の日に屋根と壁があるってだけでありがてえよ。うん。俺、いい子だから文句言わない。

「じゃあちょっと宿代まけて?宿代2人分で1部屋、ついでに夕飯と朝食は3人分、ってのでどーお?」

「……しょうがないわねぇ……」

 ま、ここが落としどころかな。

 俺ってばとってもいい子。




 ベッドにディアーネを寝かせて、周りに結界を張る。

 魔力の気配を遮断するための結界だ。魔物に見つかりにくくするとか、人に気付かれたくないとか、そういう時に張るやつ。

 ディアーネの花冠から拝借した白甘草の汁で、木片に術式を書く。

 それをディアーネのベッドの周りに並べたら、ヴェルクトの手引っ張ってきて、魔力を流して結界を起動。

 単に魔力流せばだれでもできるような結界だから効果は薄いけど、無いよりはマシだろうし。

「ディアーネ、調子どう?」

「ええ、大分いいわ。流石シエルね。簡易結界でしょう?楽になったわ。ありがとう。……少し眠れば体も本調子になりそう」

「ならよかった」

 ……つっても、森と相性が悪い、ってのは変えようがないしなぁ……最悪、杖職人ロドールさんの所には俺が行く事になるかもね。


「けれど、丁度お祭りの時に来られたならタイミングが良かったわね」

 さっきの俺と女将さんの会話がちょっと聞こえていたらしい。

「祭、か。ネビルムの村では秋に収穫祭をやっていたが。……オーリスでは春にも祭をするんだな」

 ……だよねえ。

 普通、こういう小さな辺境の村でやる祭、っつったら、収穫祭がポピュラーだ。

 農耕よりも狩猟で生活してるような……森と山の恵みだけで生きてるような種族の村だから、収穫祭、ってものが無い可能性はあるけどね。

 けど、さ。

「楽しみにしてるところ悪いけどさ、俺、エルスロアのオーリス村でこの時期に祭やるなんて聞いた事ねえぞ」

 大体、お祭りなんてやるんだったらさ。フェイバランドの国王様やウルカがなんか言ってくれててもいいとは思わない?




「……じゃあ、どういう事だ」

「さぁね。……ま、良い予感はしないよな」

 最初に考えられるのは……魔物関係だよね、やっぱ。

 人魚の島でもネビルム村でも、魔物の支配があった。

 それは、『空の精霊のお気に入り』を狙ったものだったり、勇者アンブレイル・レクサ・アイトリウスを狙ったものだったりしたわけだけれど、一貫して、『魔王復活の為』である。

 ならば、このオーリスにそういう何かがあるか、っつうと……思い当たるものが無い。

 地の精霊のお気に入りが他に居ないとも限らないけれど、少なくともウルカ・アドラはフェイバランドに居るんだし、アンブレイルは恐らくこっちに来ないし。

 ……地の精霊を祀る祠はフェイバランド内にあるから、地の精霊に『オーリス行ってこい』みたいなお代吹っ掛けられない限りはこっちに来ないで、さっさと港町ガフベイに戻って、そのまま東大陸に渡航する手続きするんじゃないかな。

 ……となると、だ。

 魔物の狙いが他にあるのか、それとも、この村で何か、もっと良く分からない事が起きているのか。

 何にせよ、詳細が分からない事にはどうしようもない。


 ならば、やる事は1つだ。

「じゃ、ちょっと俺行ってくる。晩飯までには戻ってくるから」

「待て。外は雨だ。どこへ行く」

 ヴェルクトが何かを悟ったように素早く俺の肩を掴んで引き留めてきた。察しのいいこって。

「いや、ただちょっと、隣の部屋の盗み聞きの準備するだけだから」




 この宿は、『祭の準備のため』1部屋しか空いていなかった。

 という事は、他の部屋では『祭の準備』をしているという事で、正体不明の祭について知りたかったら他の部屋に行って様子を窺ってくればいいって事になる!

「女将に聞いたらいいんじゃないのか」

「ばっか、それじゃ楽しくねーだろ!」

 ……それに、ほら。あんだけ暗い顔して、それでも旅人である俺達に『祭』だって言ったんだからさ。隠したいことだろうな、って事位は想像がつく。

 そして、相手が隠したい事を探るには、相手に警戒されない内から探りを入れ始める!これに限る!


 ……って事で、まずはお手洗いに行く途中で迷った、という名目の元、宿の中をうろうろして宿の構造を大体把握した。主に、部屋の位置関係ね。

 なんでそんなことするの、っつったら、当然、『ただドアの前で立ち聞きするんじゃ芸が無いから』である。

 そして、宿の構造を把握した俺は、部屋に戻ってきて……天井の板を外した。

 破壊した訳じゃないよ。当然、そういう構造になってる場所を探して外した。この宿を出る時には原状復帰していくから問題なし。

「……俺は知らないからな」

「おう。寝てろ寝てろ。寝てて『従者のガキの悪戯に気付きませんでした』って事にしとけ」

 最悪、俺だけなら『子供の悪戯』で済む。

 ……『ガキの内ならやって許される』っつう特権は往々にしてあるもんだからね。

 魔力不足で成長不足なこの体、余すことなく使い尽くしてやるわ!

「じゃ、行ってくるね」

「……ああ……」

 ということで、俺は屋根裏に潜入!これよりスニーキングミッションを開始する!


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