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34話

 ヴェルクトが起きた所で、『光の剣』ならぬ『光の短剣』の説明をして、運用できるようになってもらった。

 これに関してはまあ、慣れが必要だろうし、長い目で見てやっていってもらおう。魔王と戦う時に完璧に使いこなせるようになっててもらえればそれでいい。

「さて、シエルアーク。お前たちの装備は悪くないが、もっといい物が私の店にはいくらでもあるぞ」

「当然!ここにはお前の武具を買いに来たようなもんだ」

 笑顔を浮かべつつ、ウルカはまた壁の向こうの隠し部屋へ入っていき……いくつか、品物を取って帰ってきた。

「残念ながら魔力布に関してはそんなにいい物が無いが。ヴェルクトの鎧とシエルアークの鎧は是非見て行って貰いたい」

「え、俺も?」

「ああ。非常に軽い防具も揃えているぞ。シエルアークでも装備できるだろう」

 いや、確かに、さっきまで来てた甲冑は甲冑の割にかなり軽かったけどね。

 けど、流石に着て自由自在に飛び回れるぐらいの軽さ、ってなると、どうよ。

 ……って思ったんだけどね。


「シエルアークはこれ、ヴェルクトはこっちだな。どうだろうか」

 手渡されたのは、肩と胸を守るだけの簡素な鎧だった。

 青っぽい銀色をしたそれは、華奢なつくりで、装飾的ですらある。儀礼用の鎧なんじゃないかな、って具合に。

 ……が、とにかく、軽い。

 デザインも何も目に入らないぐらい、軽い。なにこれ。あれか。軽さが売りのスニーカーか何かか。当ランドセルは新素材を使用することによりお子様の負担にならない軽さを実現!ってか。

「白雲鋼を青天銀で補強してある。使用者を魔法からは守ってくれないが、シエルアークには必要ないだろう?魔力布よりは防具として優れているはずだ」

 雲のように軽い鎧を身に着けてみると……うん、動きの邪魔にもならないし、殆ど鎧を着けているという感覚が無い。

 これはいいものだ。買いだな。


 ヴェルクトの方はというと、これまた不思議な金属でできた鎧だった。

 黒っぽい金属でできた鎧は、金属の割に妙にしなやかで、そして軽い。

「動くならこういう素材の方がいいだろう?魔法にも衝撃にも強い。そこらの鈍らじゃ傷1つつかないだろう」

 ヴェルクトの顔を見る限り、着け心地も悪く無さそうね。うん。これも買い。


 そして、それだけでなく、ディアーネの装備もあった。

「これ、なんだが……必要ないだろうか」

 それは、赤みがかった金色の指輪であった。

「散った魔法から余剰の魔力を吸収してくれる指輪だ。長旅になるなら持っておいてもいいと思うが」

 ディアーネは不思議そうにその指輪を指に嵌め……小さな炎を浮かべ、消した。

 その時、指輪にほわほわ、とわずかながら魔力が集まっていくのが見えた。

 指輪を着けているディアーネ自身には、もっと実感があったんだろう。珍しく、ディアーネの顔が年相応の輝き方をした。

「……シエル、先立つものに余裕はあるかしら?」

 はい、これもお買い上げね。了解了解。


「ってことで、全部合わせておいくら?」

「金貨50枚は頂きたいが、35枚にまけてやろう」

 相応かな。むしろ品物の質を見たら安すぎるぐらい。

「死神草の現物でいい?駄目ならツケでお願い」

「死神草!?……まあ、構わないが……」

 いいってことなので、死神草をカウンターの上に5本乗っける。

「シエルアーク、これだとちょっと多いぞ」

 まあ、フィロマリリアでは1本金貨17枚だったからね。

「ヴェルクトの分と俺の分。それでも余ったら先行投資、って事で」

 こういう所でも無い限り、そうそう金を使わない、ってのもある。

「……そうか。なら、ありがたく頂いておこう」

 このお金でウルカがまた面白いもの作ってくれたら俺は大勝利だしね。使う所ではガンガンお金使っていくよ。




 という事で、他にこまごまとした道具(武器じゃないナイフとか、魔鋼のロープとか)も買い込み、それからディアーネとヴェルクトは食料の買い出しに出かけた。

 俺はお留守番である。だって俺、下手にアンブレイルに会ったら殺されちゃうもん。

「……ところで、シエルアーク」

 店番しながら、ウルカはふと、俺に聞いてきた。

「お前、鞭は使えるか」

「むち?鞭ってあのムチ?」

「ああ、鞭だ」

「ごめん、俺、そーいう趣味は無い」

「どういう趣味だ。……私が言っているのは、お前がオーガと戦った時の事だぞ」

 ……あー。オーガ相手に、魔鋼のロープで戦ったアレか。

「魔鋼のロープ程度じゃすぐに駄目になってしまったが、お前の『魔力を吸収する』という能力を極限まで生かした武器を作れば、あの戦い方を主流にして戦えるのではないか、と思ってな。どうだ、シエルアーク」

 成程。確かに……『鞭』なら、リーチはあるし、自由自在に動かせる。

 一応、城では一通り武器の扱いを学びはしたから、鞭も使えない事はない、と思う。

 ……けど、なあ。

「正直、メインウエポンとして使うには不安、かな。剣程扱いに慣れてる訳でも無いし」

「剣、か。……となると、鞭と比べてリーチが短くなってしまうが、それでもいいぞ。『魔力を吸収する』という能力を放っておくのは勿体ないからな」

 そーなんだよね、折角だからさ、こう、もっと、でっかく……。

 ……あっ。

「あのさ、ウルカ。『光の剣』って、俺が使うとどうなんの?ああいうふうに魔力吸収剣みたいなのってできない?」

「『光の剣』をシエルアークが使っても何も起こらないと思うぞ。あれは魔力を形にするものだから。……しかし、言いたいことはなんとなく分かる。『魔力を吸収する』という現象を剣の形にできないか、という事だろう?」

 話が早いっていいね。

「では、『魔王の魔力を奪う道具』の術式が完成するまで、私は『魔力吸収剣』を作っていることにしよう。『光の剣』をベースに魔力の動く向きを真逆にすればいい訳だからな。そんなに難しくは無いだろう」

 お。それは楽しみ。

 ……って事で、ま、俺の武器の心配もなくなった訳だ。

 あとは、さっさと『魔王の魔力を奪う道具』のための術式を組まなきゃなー……。

 ディアーネの杖を作るためにこれからオーリスのロドールさんを訪ねる訳だけど、杖職人なら術式の組み換えにもそこそこ詳しい……かもしれない。

 ま、エルフは古代魔法に詳しい人が多いからね。オーリスに着いたら杖ができるまで、術式完成目指して動いてもいいかも。




 ディアーネとヴェルクトが帰ってきた頃、俺はウルカと夕飯の支度をしていた。

 ウルカが数日前に獲って吊るしておいた肉があったので、それを豪快に焼いて食う。調味料は塩と胡椒だ!

 ……ってのがメインで、あとはパンとスープ。

 スープはミルク仕立てのまろやか味。きつめにスモークがかかったベーコンがいい出汁と塩味を出してるんだな、これが。

 野菜よりもひたすら肉を食うようなメニューだけど、まあ、これがフェイバランドのご飯である。

 山だからね。野菜とか、あんまり採れないんだよね。まあ、オーリスに行ったら今度は肉抜きで野菜ばっかりな食事になりそうだから、今のうちに肉くっとこ、って所である。


 ご飯が終わったら、……雑魚寝である。

 まあ、そりゃ、布団がいっぱいあるような家じゃないしな、ここ。

 つっても、屋根も壁もあるし、魔物は来ないし。野営用の寝袋に潜ればかなり快適な睡眠を摂ることができる。

 久々にゆっくり寝られる、という事で、俺達はぐっすりたっぷり早めに寝ることにしたのであった。




 そして朝。

 勇者の朝は早い。何故かっつうと、ニセ勇者(予定)に見つからない内にさっさとオーリスに出発しちゃいたいからである。


 半熟ベーコンエッグをパンに乗っけて食べるという至高の朝食を済ませたら、ウルカとの挨拶もそこそこに、俺達はフェイバランドを発った。

 ……っつっても、どうせ術式が完成したらまたここに来るんだから、そんなに長いお別れにはなりそうにないけど。




 オーリスは、フェイバランドからイネラ魔鋼窟を超え、更に北へ北へと行った先にある。

 フェイバランドが殆ど山脈の頂上だもんで、オーリスまでの道は殆ど下り坂。

 山道ってのはね、上りよりも下りの方が危険。

 ちょっと気を抜いたら死にかねないからな、慎重に慎重に先へ進む必要がある訳だ。

「シエル、魔力の少ない場所を教えて頂戴な」

 ……おう。慎重に頼むぜ、ほんとに……。


 案の定、ディアーネは岩を溶かして溶岩の川を作り、優雅に川下りして下山していった。

 ヴェルクトは器用に危なげなく、岩から岩へ飛び移って下山。

 俺はそーいう芸当はできないので、諦めてそこらへんの川(溶岩じゃなくて水のね!)に飛び込んで、泳いで川下りした。

 一番遅かったのは俺だった。解せん。




 朝早くに出発したのに、下山したのは昼だった。

「案外かかったな」

「2人とも遅いのだもの」

「そりゃお前に比べりゃな……」

 下山した先に広がっているのは、平原……では無く、森。

 とにかく、森。ひたすら、森。

 ……アイトリウスにも森はある。

 アイトリアの南にあるカトロ湖を囲うようにしてあるコトニスの森と、ネビルム村の南、ロドリー山脈沿いにあるイネリアの森だ。

 ……だが、エルスロアの森は、アイトリウスの森を森と呼べなくなるぐらいには、森なのだ。

 まず、とにかく、広い。

 そりゃそうだ。エルスロアの国土は殆ど山か森なんだから!

 そして次に、濃い。

 魔力の濃度自体はアイトリウスの方が高いけど……アイトリウスの森は、比較的人間を歓迎する森である。

 あれだ。シイタケみたいなもんだ。美味しく進化することで人間にたくさん栽培してもらって子孫を大量に残す、ってタイプの森。

 逆に、エルスロアの森は、人間を拒む森である。

 こっちはあれね。毒茸みたいなもん。毒を持つことで天敵に食われないようにして生き残る、っていうタイプの森。

 だから、人間が不用意にエルスロアの森に入ると、魔力に『中てられる』。

 それのせいで道に迷ったり、体調を崩したりするものだ。


 ……ま、俺には関係ない話。

 だって俺、『中てられる』も何も、影響される魔力が無いからね。

 そして、ヴェルクトも比較的、森には好かれる性質らしい。元々こいつは半分ぐらい森の民生活してたわけだし。

 ……問題は、ディアーネだった。

 まず、こいつ、海の民である。クレスタルデは港町だから。

 だから、森にはちょっと相成れないところがある。

 そしてそんな問題吹っ飛ばす勢いで問題なのが……『火』。

 ディアーネの周りに濃く漂いすぎな『火』の気配が、森を警戒させるのだ。

 ……うん、森に火って、相性悪いの、考えなくても分かるもんね。

 ……それが、思わぬアクシデントを生んだのであった。


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