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2話

 生き残る。そう。俺、生きのこることすら今、難しい。


 魔力を丸ごと失ってる俺は、いわば、水源を無くした泉……に住んでる魚みたいなもんなのだ。

 もう泉に水は湧いてこない。だから、このままだと俺は死ぬ。

 ……じゃあ、どうすればいいかっていうと、簡単だね。

 1つは、泉に新たな水源を用意してやるって事。

 最終的には魔王から魔力をぶんどることでこれを実現したいと思う。

 そして、2つ目は……せっせと、泉……というか、タライに、水を汲んできて入れる、という……。

 ……具体的には、俺が生命維持に使わないといけない魔力を外部から吸収して、間に合わせる。なんというか、エブリデイ応急処置。これから7年間、毎日が応急処置。

 ……気が重いけど、しょうがないんだよなぁ……。


 さて。

 では、俺の『魔力を含んでいるものから魔力を吸収する』っていう事の実現に関してだが。

 ……これに関しては、実はもうやった。というか、やっちゃった。

 俺が身に着けていた、大粒の魔石をあしらった腕輪。

 今見たら、最上級の魔石だったものが只の宝石になり果ててやがった。

 普通、ありえない事だ。こんなに短期間で魔石が只の宝石になり果てるとか、あってはならない事なんだよな。なっちゃったけど。

 更に、魔力を込めて丁寧に織りあげられた最上級の魔力布の服も、インナーの類は全部只の布の服になってる。

 こっちは魔石よりもあっちゃならない事だ。遺跡から発掘された1000年前の魔力布とか、未だに防具として使えるのに!

 懐に隠してあった魔法銀の短剣は無事っぽい。あーよかった。

 ……これ、多分、寝てる間に魔力切れで死にかけて、無意識に近場の魔力を吸ったんだろうな、俺。

 魔石は多分、内包してた魔力が桁違いに大きかったから無意識に選んじゃって、服は多分、単純に肌に直接触れてたから吸っちゃったんだろう。

 これ、コントロールできるようにならないと、思わぬところで事故りそうで怖い。

 ゆくゆくはなんとかコントロールできるようになろう。




 ……という事で、俺は今、部屋の中を探索している。

 魔力を外部から摂取しないと死ぬから、とりあえず手近な所にある魔力源を確保しとこう、と思ったわけなんだが……案の定というか、まあ、あんまりよろしくない事実が分かった。

 俺が現在いる、この部屋。

 いわゆる、座敷牢、って奴だった。


 っつっても、部屋の一部を木の格子で仕切ってある和風タイプじゃなく、1部屋どころか3部屋丸ごとが牢になってるお部屋タイプ。

 あれだ。昔々、アイトリウスがよその国と戦争したりしてた時に外国のお偉いさんを捉えたらこういう所に閉じ込めておいたって聞いたことがある。多分ここは、そういう貴賓座敷牢なんだろうな。

 部屋は全部で3つ。居室と寝室と水回り。それぞれの部屋は自由に行き来できるが、外に出るためのドアにはがっちり鍵がかけてあるらしい。開かない。

 更に、窓には装飾的ながらも滅茶苦茶頑丈な魔鋼製の格子が嵌っており、やはり脱出不可能。

 ……ただここで生活するだけなら、問題なかっただろう。

 多分、食事は3食ちゃんと出るだろうし、欲しいものがあったらある程度は聞き届けてもらえるだろうし。

 ……しかし、しかし、だ。

 俺は前述の通り……外部から魔力を摂取しないと生命維持に必要な魔力が足りなくて、死ぬ。

 つまり、定期的に魔力源となる……魔石だったり、魔鋼だったり、或いはもう魔草でもなんでもいいんだけど、とにかくそういうものから魔力を吸収して、それらを『消費』していく必要があるのだ。

 ……しかし、ここは、座敷牢。

 閉鎖空間。

 ……脱出するにしても、時間はかかる。その間、どうやって、そういう魔力源を手に入れようね?




 とりあえず、魔力がまた足りなくなってきた感覚があったんで、窓の格子から魔力を吸っといた。

 いやぁ、しかし、この格子が魔鋼でできてて本当に良かった。

 魔鋼ってのは、鋼に限らず様々な金属に魔力を浸透させて(或いは天然ものなら、鉱山にある間にじっくりじっくり魔力を蓄えて)できるものだ。

 だから魔鋼って、ピンキリはあるが、大抵は魔力をそこそこたっぷりと含んでるんだよな。

 窓は全部で4つ。居室に2つ、寝室と水回りの部屋に1つずつ。

 それらすべてに当然魔鋼の格子が付いているわけで……中々の総魔力量である。これなら窓の格子だけで今日と明日位までなら凌げるんじゃねえかな。分かんないけど。

 ……なんとなく、魔力不足の山場は超えた感覚がある。

 腕輪の魔石、あれ、俺の自信作だったんだけど……あれが寝てる間だけで消費されちゃった、ってのは、単純に、一気に魔力が無くなったから、フィードバックが上手くいってなかった、って事だと思うんだよな。

 多分、これからなんとか生命維持していくだけなら、そこまでの魔力は必要ないんじゃないか、と思う。

 ……うん、生命維持していくだけなら、な。

 俺、8歳の子供だから。つまりもれなく成長期なんだけど……多分、そんなに成長、できないだろう。

 生命維持だけでいっぱいいっぱいになること請け合いだ。

 生命維持だけを考えて、ちびちびと魔力を吸ったとしても、この部屋に閉じ込められっぱなしだったら、精々もって2週間、ってところか。

 ここが王城の貴賓用座敷牢だからこそ、高級品に溢れてて魔力源もそこそこあるが、普通の地下牢とかにぶち込まれてたら餓死でも衰弱死でもなく魔力不足で普通に死んでただろう。九死に一生ものである。


 ……さて、このままここに閉じ込められっぱなしてたら、死ぬ。魔力源が無くて死ぬ。

 ということで、早速だが脱出計画の第一歩を進める事にしよう。


 もしうまいこと外部と接触して魔力源を定期的に持ってきてもらえたら、脱出するよりここに居て、魔王復活まで7年待った方が絶対にいい。

 俺を殺さずにわざわざ座敷牢に閉じ込めてるんだから、食事は3度出るだろうし。衣食住に困らない生活が城の外でも保障されるわけがないからな。

 だが、まあ……それが上手くいかなかったときのために、対策はいくらでもしておくべきだよな、っていう。

 ……あと、脱出って、なんか、こう……ワクワク、しない?しない?俺はする。




 ということでまず、部屋中をひっくり返す勢いで、探す。

 何を探すかっつったら、『錆』だ。錆びてたらなんでもいい。釘でもスプーンでもいい。も、ほんとになんでもいい。

 結局5分も探したら、布張りの椅子の裏で布を留めてる鋲が錆びてるのを発見した。

 なので、椅子の布が外れない程度に鋲を外していく。画鋲を外す感覚でごりごりやれば案外外れるもんだ。

 外し終わったら、一旦寝室の枕の下にでも隠しておいて、今度は布を用意。

 これもなんでもいいんだが……無くなっても気づかれない、ってのが大切。

 さっきの鋲は椅子をひっくり返してみなきゃ分からないだろうし、万一気づかれた時も、経年劣化で外れてどこかに落ちたんだろう、ぐらいで済むだろう。

 布は錆びたものに比べればそりゃ大量にある。が、布ならなんでもいい、っつっても、ドアからすぐ見えるカーテンを裂いたりしたら何かに使った事がモロバレである。そういうのは流石におバカなので避けるとして……。

 ……探し回ったら、箪笥の引き出しの奥に滅茶苦茶年代物っぽい下着シャツが落ちているのを見つけた。

 多分、この箪笥の中身がいっぱい入ってたころ、この引き出しを開け閉めするうちにこのシャツが引き出しの裏側に落っこちちゃって、そのまま忘れ去られたんだろう。前世では靴下の片方とかがよくこの手法を用いてドロンしてやがったから分かるぞ。

 ということで、早速化石一歩手前のシャツを裂いて細長い布きれにする。

 そこにさっきの錆びた鋲を打ち込んでいって……あとは、ちょっとこのまま隠しておく。まだ材料が届かないからな。

 材料が届き次第、窓の魔鋼格子を錆びさせるステップに移る!




 それからしばらく、部屋の中にあった本でも読んで暇を潰している内に、メイドが兵士と一緒に食事を運んできた。

 メイドはメイドだけど、兵士は俺の脱走防止用に来てるんだろうな。ご苦労様なこって。

 ……ドアからの脱出を試みてみようかとも思ったんだが、ちらっと見たら、外へ繋がるドアの向こうにすぐまたドアがあるのが見えちゃったので……諦めた。

 どうせ二重構造になってるって事は、外側のドアの方はメイド達が通った後すぐに鍵をかけて、万一にも俺が脱走しないようにしてあるんだろうし、鍵がかかってなかったとしても、ドアの向こう側には兵士が張ってるんだろうし。

 流石に魔力が無くなった今、複数の兵士と渡り合うのは難しい。俺、無謀な事はしないタイプ。


 何か欲しいものがあったらこちらの紙にご記入ください、紙はワゴンと一緒にしておいてください、ワゴンは入り口付近に置いておいてください、と事務的な対応だけして、メイドと兵士は居なくなってしまった。速い。

 次の食事の時に新しいワゴンを持ってきつつ、今回のワゴンを下げるんだろうな。効率的である。

 ……あれだな。俺との接触時間をできる限り短くするためにそういう指示が出てるんだろう。ここら辺は今まで散々、気難しい城の術師達と仲良しになるっつうような前科をやっちゃってるから、警戒されて仕方ない。

 ……まあ、うん、欲しいものがあったらある程度は融通利かせてもらえるみたいだし、文句はないさ。


 ……本日の食事は白身魚のムニエルにトマトベースのスープとシーザーサラダっぽいサラダがついて、あとはバゲットの切った奴とバターと果物。王族の食事としては1ランク劣るが、別に質素でもないし、非常に美味い。軟禁生活でも食事の心配しなくていいってのはいいな。うん。




 ……という事で、楽しくお食事タイムも終わったところで、さっきの鋲付き布きれの登場だ。

 これを残しておいたスープに浸す。

 布がたっぷりスープを吸ったら、それを寝室の窓の格子の内、目立たない位置の一本に巻きつける。そして縛って固定。

 これでほっときゃ、あとはスープの塩分が錆びさせてくれる。既に錆びてる鋲は錆びを促進させてくれるだろうから、スープ単品よりは錆びるのが速いはずだ。

 ……本来、魔鋼ってのは錆びない。

 丈夫だし、劣化しない。加工によってはもっと変な効果が付いたりすることすらある。炎吹くとか、雷纏うとか、ね。そういうのは武器に使われるけど……。

 ……この窓の格子に使われてる魔鋼は、ひたすら硬さと丈夫さに特化させた魔鋼だ。

 だから、決して錆びる事は無いし、やすりでゴリゴリやろうが金槌でガンガンやろうが傷つく事は無い。

 ……が、それは『魔鋼』の話なのだ。

 今、この格子は、俺に魔力を吸われて只の鉄になり果てている!

 つまり、錆びる。

 あとは毎日スープなり塩水なりをぶっかけてやりつつ、空気にも触れさせてやり……とお世話していれば、いつかは錆びて折れてくれるはずだ。

 それがいつになるかは……未定だけど。




 さて、鉄格子のお世話も終わったという事で……これだ。

『何か欲しいものがあったらこちらの紙にご記入ください』の紙。

 ここに何を書くか、っつうのが、次の課題かな。

 怪しまれなくて、普通に貰えそうで、それでいて……魔力をたっぷり含んでるようなもの、だ。


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