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28話

目次の一番上に世界地図をアップしました。

町の名前や位置関係がごっちゃになった時にご覧ください。

 さて。

 エルスロアが首都、フェイバランドに着いた。

 距離がそんなにあった訳でも無かったから、山道もそんなに苦じゃ無かったかな。

「……不思議な町ね」

「まあ、町っていうか、半分ぐらい岩山に見えるよな」

 ……フェイバランドはそんな趣の町である。

 岩肌に半ばめり込むように作られた家や、掘り進んだ洞穴をそのまま家にしたようなものが並び、岩を掘り抜いたままの坑道のような道がうねる様は、まさに『ドワーフの国』らしいと言える。

 そんな町だから、昼前にも関わらず、全体的に薄暗い。

 魔石硝子のランプが灯す橙色の光は却って影を色濃くし、この町独特の雰囲気を作り上げていた。

「本当にエルフとドワーフの国なんだな」

 しかし、そんな薄暗い景色の中を行きかう人々は生き生きと働いている。

 鍛冶の材料となる鉱石を運び、精錬するために火をおこし、と、あわただしく動き回るドワーフ達は、寡黙ながらも楽し気に作業を進めている。

 木材を手にし、削り、時には曲げ……と作業を進めるエルフたちは、時折歌なんか歌ったりして。

 ……鉄を打つ鋭い音や鑿を打つ固い音があちこちから響き、時折、静かな話声や歌声が混じる。

 そんな町は、アイトリウスやヴェルメルサのどことも違う、独特の面白さを持っていた。




 ……ただ、面白いんだけど、便利かって言われると、微妙。

「……ここ、丸ごと掘ったな……」

「シエル、道に迷ったのか」

「ちげーよ。俺が迷ったんじゃねえよ。道の方が迷ってやがるんだよ……」

 事実である。

 俺が8年ほど前にフェイバランドに遊びに来た際には、こんな道は無かった。

 ……掘ったんだろうな。こいつらにとって道っつうのは坑道の事で、道を作るために掘るんじゃなくて、結果として掘ったら道ができちまった、っていう具合なんだろうから。

「あら、困ったわね。急ぐんでしょう?」

「うん。急ぐ。しょーがねーから人に聞いてくる。……すみませーん」

 こっちは急いでフェイバランドを脱出したい身だ。もたもたしてる暇があったらさっさと道を人に聞くに限る。

 そこらへんを歩いていたドワーフのおっさん(に見えるけど20歳ぐらいかもしれないし、100歳超えてるかもしれない)に声を掛ける。

「……なんだ」

 あ、当たりを引いた。

 このドワーフさんは少なくとも、極度の『人見知り』ではなさそうだ。

 じゃあ早速。

「8年ほど前にこの辺りにあった、『ウルカ』の鍛冶屋は今、どこにありますか?」

 ……が。

「『ウルカ』だと!?」

 ドワーフさんは俺を驚いたように見て……急に慌て始めた。

「……し、知らねえ。悪いが他所をあたってくんな」

 そして、ぷい、と、そっぽを向いて、そのドワーフさんはそそくさと去ってしまった。


「……シエル」

「おう」

「その『ウルカ』という人は、犯罪者か何かか」

「いやあ、真っ当な鍛冶屋だったはずだけどなぁ……」

 ……口に出しちゃいけない事なのか、それとも……よそ者に教えちゃいけないのか。

 うーん……。


「ねえ、シエル。その『ウルカ』さんは今も鍛冶をしてらっしゃるの?」

「多分な」

 少なくとも、引退する年じゃないし、怪我をしたりするような奴とも思えない。

「そう。なら今、火の精霊に聞いてみましょう。鍛冶をするなら火を使うでしょう?火の近くにその『ウルカ』さんが居れば、火の精霊が教えてくれると思うわ」

 お前の精霊なんなの?便利過ぎない?都合よく使われちゃっていいわけ?

 ……が、まあ、ありがたいよね。ここはありがたくお世話になるとしよう。

「ええと、じゃ、特徴を言えばいいか?……っつっても、最後に会ったのが8年前だからなぁ……」

「そうね、髪と瞳の色、種族、年齢、ぐらいが分かればいいと思うわ。……ドワーフもエルフも、年をとってもそんなに容姿は変わらないでしょう?」

 ……まあね。うん。

「ええと、じゃあ、言うぞ。……名前は『ウルカ・アドラ』。目は琥珀色、髪は鉄色。肌はドワーフにしちゃ白っぽい方。年齢は24。性別は女。種族はドワーフとエルフのハーフ。……んで、地の精霊のお気に入り」




 ウルカ・アドラは世界に名を轟かせる名鍛冶師である。アイトリアに居てもその名が聞こえてくるほどの。

 女でこの若さで鍛冶屋、しかも世界に名を轟かせるレベルの、っつうのは、珍しい。普通ならあり得ない。

 それに、俺が会った時なんてまだ、16だった。

 ……それでも、この国で指折りの鍛冶屋だった。

 何故って、どんなに気難しい鉱石でも、彼女の前では従順になるから。

 地の精霊に愛された彼女は、変な特性を持っている鉱石を打つ事に関しては他の追随を許さない。

 アイトリアの城の俺の部屋に置きっぱなしになってる(か、もう処分されちまったかは分からないけれど……)短剣は、ウルカが打ったものだ。

 ……斬ったものが砂糖菓子になる、という、みょうちきりん極まりない特性を持った魔鋼でできている短剣であった。切れ味こそペーパーナイフ程度なもんだったけれど。

 うん、小腹が空いたときにお世話になりました。

「……それだけ珍しい方ならきっとすぐ見つかるわね。聞いてみましょう」

 ディアーネはそう言うと、明後日の方を向いて、俺達には理解できない……言語とも呼吸とも魔力のやり取りともつかない『会話』を行った。

 そしてしばらくそのまま、明後日の方を見つめていたと思うと……表情を曇らせた。

「駄目だわ。少なくともそのウルカさん、火の側にはいらっしゃらないみたいね」

「精霊繋がりで地の精霊には聞けねえの?」

「残念だけれど」

 うーん、そっか。

 ……今、ウルカは鍛冶をしていない。そして、ウルカの鍛冶屋の場所は、言っちゃいけない。

 どういう状況だ、これ。




 ……さて。

 俺は学習する生き物だ。

 人魚の島での出来事を思い出せ。

 だから……マントの留め金を外した。

 さっき聞き込みした時、道行くドワーフさんは俺を見て口を噤んだ。

 何故なら、俺が『アイトリウスの紋章』を身に着けていたからだ。

 ……そう考えれば、辻褄が合う。かもしれない。




「すみませーん」

 そして、聞き込み続行。また、道行くドワーフのおっさんに声を掛ける。

「なんだよ」

 またしても当たりを引く。今日は運がいいね。人見知りドワーフに声かけちゃったらすぐ逃げられちゃうからね。

「ウルカ・アドラを探してるんです。……どこにいるか知りませんか?」

 ドワーフのおっさんはじろじろと俺を眺めて、鼻を鳴らした。

「さあな。……ウルカの場所なんざ知って、どうする気だ」

 ……さて、ここでどう答えるか。

 さっきは、『鍛冶屋』の場所を聞いてアウトだった。

 なら、そこは避けるべきか。

「貰った砂糖菓子のお礼を言いたくて。とっても美味しかったから」

 なので、誤魔化す程度に嘘とも嘘じゃないとも言えないレベルの理由を言うと……。

「……なんだよ、知ってやがんのか」

 急におっさんの態度が軟化した。

 え、何を?……とは言わずに、ちょっと微笑むぐらいにしておく。

「ならいいや。あいつならイネラ魔鋼窟に隠れてる。……会いに行くんなら、アイトリウスの奴に後付けられねえようにしろよ」

 ドワーフのおっさんはもそもそ、とそう言って、またどこかへ歩いて行った。

 ……さーて。

 これで『なぜウルカの場所を教えられないか』が分かったな。

 ……どうもウルカは、アンブレイルから隠れてやがるらしい。




「さて、なんとなく状況が分かって来たな」

「アンブレイルからウルカさんは隠れているのね。……何のために?」

「ウルカ、という人は、精霊の寵愛を受けているんだろう。それじゃないのか」

「或いは、アンブレイルがウルカの武器を欲しがってるか、かな」

 更に或いは、両方かもね。

 ま、どっちにしろ、俺達はアンブレイルとは関係ない。……ちょくちょくとばっちり食ってるけど。

「で、どうするんだ。そのイネラ魔鋼窟、とやらに行くのか」

「もちろん。行くよ」

 ……昼飯食ったらイネラ魔鋼窟、だな。

 ここの人達が『アンブレイルが来る』って事を警戒してる以上、アンブレイルはじきにここに来るんだろう。なら、できれば日帰りしたいところだが……厳しいかな。

 かといって時間を潰してから戻ろうにも、ウルカが目的なら、またここでアンブレイルは待ちの一手かもしれない。なら、どんなに時間を潰そうが同じことだ。下手に探しに来られでもしたらまた面倒だし……。

 つくづく、迷惑な奴である。




 仕方が無いので、とりあえず飯食ってから考えることにした。

 飯屋の基準は簡単。

 ……小汚い所。少なくとも、アンブレイルと鉢合わせしそうにない所!


 ということで、今日の飯は山で育った獣の骨付き肉を豪快に塩とスパイスで焼いたものと、根菜のシチューと、パン。

 シンプルながらも手のかかった料理であった。

 こんがりと焼けた肉の表面を食い破れば、中から熱い肉汁が溢れ出てくる。

 数種類のスパイスと強めの塩味、そして野生の肉特有の歯ごたえと濃い旨味が溶け合って、最高に旨い。

 スパイシーな肉とは対照的に、シチューはこっくりまろやかなお味。パンともよく合うね。

 旅先の飯ってなんでこんなに旨いんだろ。


「イネラ魔鋼窟へ行くのよね。それで、ウルカさんを探して、どうするの?」

 食べ終わってお茶を飲みながら、ディアーネがそんなことを聞いてくる。

「売ってほしい武器がある。……在庫が無かったら、打ってもらわなきゃならないだろうけどな」

「俺のナイフ、か」

「そ。……ええとね、魔力を刃にする、っつうか……なんというか……」

 ……前世的な言い方をすれば、ビーム●ーベルとか、ライト●ーバーとか、そういうかんじのサムシング、ということになるだろうか。

 つまり、実体の無い刃、魔力の刃……を生み出すナイフの柄部分、という事になる。

「……全く想像がつかん」

 まあ、この世界に生きていたら、そんな代物を想像する機会もあまりないだろう。

 ……何を隠そう、ウルカに疑似ビーム●ーベルのアイデアを提供したのは俺なのだ。

『変な鉱石』の使い道に悩んでいたウルカは早速疑似ビーム●ーベルの制作に取り掛かり……完成を見ることなく、俺は軟禁された。

 だから、俺もそれが果たして完成したのかどうかすら、知らない。

 ……多分完成してると思う。そう思ってここまで来たんだから、完成しててくれなきゃ困る。

「それから、俺の方の用事と……ディアーネの杖をやってくれそうな職人の紹介をしてもらわなきゃな」

 もしかしたら、ディアーネの杖に関してはまた別の町に行かなきゃならなくなるかもしれないけど、まあ、それはそれ、だな。

「……なんにせよ、ウルカという人を見つけた後、どうするかが問題だな」

「そうね。下手に連れて帰ってきてしまったらアンブレイルから隠れているのに台無しになってしまうけれど、帰ってきて貰わないと武器を買えないわね」

 アンブレイルの目的は何か。

 この町の住民は、どのぐらいウルカとアンブレイルの関係について知っているのか。

 ウルカは何故隠れているのか。

 ……うん、情報が足りねえな。分からないことだらけだ。

「でも、ま、最悪の場合、ここはスルーして次の目的地へ進む、って事にしてもいいんだし、ウルカに話だけでも聞きに行こうと思う」

 少なくとも、ウルカに会えれば、ウルカがアンブレイルから隠れている理由が分かるし、芋づる式に他の情報も出てくる可能性が高い。


「そうね。……なら、行きましょうか。早い方がいいでしょう?」

「ん。そーね。じゃ、悪いけどまた付き合ってもらうから、覚悟しといてくれよ」

 食事の会計を済ませて店を出て、早速イネラ魔鋼窟へ向かう。

「……シエル」

「何よ」

「イネラ魔鋼窟、というのは、『魔鋼』窟、なんだよな」

 ……大変申し訳ないが。

「『魔』鋼窟、に決まってんじゃん」

 あそこは化け物の巣窟である。


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