表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/158

24話

 俺が詰め寄っても相変わらずがたがたぶるぶる、っていう様子のお姫様たちを見て、そろそろ俺の堪忍袋の緒が切れた。

「……んじゃー、俺が推理してこの島の状況言ってくから、間違ってたら反応してよ」

 呪いのせいで喋れなくなったヴェルクトにネビルムの村の様子を聞くときもこんなんだったっけな、なんて、少々デジャヴを感じつつ、俺は話し始めた。


「大方、この島が魔物に占拠された後、人質を取られるかなんかで魔物のいう事聞かされてるんだろ?で、その要求を飲むべく、一番年下の王族だったシーレ姫が『島の外に出された』」

 何と言っても、この状況は『出来すぎてる』。

 人魚が釣られたっつうのは十分おかしいし、その後すぐに『人間を信用する気になる』のもおかしい。

 何と言っても、人間と人魚なんて、記録が殆ど残ってないレベルで交流が無かったのだ。なのに会っていきなり人間に協力を求める?いやあ、無いね。このおねーちゃん達、俺を見て最初に滅茶苦茶怯えたし。

 多分、シーレ姫自身もおそらく『人間嫌い』だ。

 名乗った時の一回以外、名前呼ばれてないもん。全部俺達の事を指すときは種族名。だったしね。

 ……ただし、シーレ姫が俺達を殺すつもりでいたかは微妙。

 だって、殺すつもりなら魔物の事なんて言う必要は無い。人魚の島に遊びに来て、でもいい。もっと上手い言い訳はいくらでもある。

 それに、結界の事なんて言わずに俺達3人を通して、魔物に発見させればそれでシーレ姫の仕事は終わったのだから。

 わざわざ不確定要素を増やしたのは、それ相応に理由があったはずだ。

「そしてシーレ姫は、魔物の要求通りに動いて、かつ、『連れてきた人間が魔物を倒してくれるのを期待した。』……ここまで、オーケイ?」

 俺の言葉に人魚のお姫様たちは揃って頷いて見せた。示し合わせた様子は無い。

 ……『連れてきた人間と魔物が同士討ちしてくれるのを期待した』とは言わなかった。

 疑いはしてるけど、疑いを表に出すメリットは無い。それに、同士討ちしてやる気はさらさら無いからね。


「よーし、分かった。ま、いいや。さっき攻撃してきたことは水に流そう」

 水の中だけに。(山田君は俺に座布団ありったけ持ってきてくれていいよ。)

「更に更に、ついでにこの人魚の島、俺が華麗に救ってみせましょう」

 人魚のお姫様たちは怯えの中に期待と疑念を浮かべつつ、俺を見つめている。

「アイトリウスの血にかけてお約束しますよ、お姫様」

 片膝ついてお姫様たちを覗き込むようにしながら、お姫様の手なんて取っちゃったりしつつ、顔面を有効活用しながらにっこり微笑んでみせる。

 ……人魚のお姫様たちは揃って頬を染めたり恥じらったりしている。よし。手ごたえばっちし。

「だから、教えて欲しい。どこにどう人質が取られている?魔物の数は?魔物の親玉はどこにいる?……魔物の要求はなんだ?」




 それから人魚のお姫様たちはぽつぽつ、と、この島の状況を教えてくれた。

「この島は魔物だらけ。お父様は玉座の間で侵入者を見張る鏡を動かされています」

「人魚は皆この城に閉じ込められています。お父様は玉座の間に。他の者は皆地下牢に」

「シーレ以外にも、私たちの姉妹が何人も海に出ています。……アイトリウスの勇者を探しに」

 あー、やっぱり目的はそっちか。

「アンブレイル・レクサ・アイトリウスを……『勇者』を探していたんだな?」

 問えば、人魚たちは頷く。

 成程ね。魔物も考えたもんだ。確かに、人魚を思いのままに動かせれば勇者を探すことぐらい容易い。

 ……って事は、アンブレイルの動向は魔物に筒抜けになってるって事か?……いや、考えれば分かるか。

 勇者が各国の祠を回るだろうって事は簡単に予想できるし、そのためにヴェルメルサからエルスロアへの道に海路を選ぶだろうって事も分かる。

 それに、今回のヴェルメルサからエルスロアまでの航路の次にも、どうせ東大陸に渡る時に船には乗るのだし……ま、海を味方に付ければ勇者の捕獲は容易いもんね。うん、賢い賢い。

 ……俺のマントの留め金にはアイトリウスの紋章が刻んである。だから、シーレ姫はそれを見て俺の事をアンブレイル……『勇者』だと思ったんだろう。

 或いは、ヴェルクトの膨大な魔力で見当を付けたか、ディアーネの魔力に怯える海の様子を察知してとりあえず様子見に来たか。

 ま、なんにせよ俺はこうして連れてこられたんだから結果オーライだったんだろう。

 ……いや、まあ、俺はアンブレイルじゃないから魔物の要求に答えた事にはなってないんだけど、まあ……『勇者』の称号は俺が掻っ攫う気でいるから一周回って大正解ではあるな。うん。

「勇者を連れてこなければ人魚の仲間たちを殺す、と……」

「なので、勇者に警戒を抱かせないような……見目の良い私達の姉妹が、勇者をおびき寄せるために海へ出て行きました」

 うん、確かに、シーレ姫もこのおねーちゃん達も綺麗どころではあるね。

 それに……うん、まあ、こんな綺麗な人魚姫に助けを求められたらなら確かに、アンブレイルはホイホイ釣れるだろうし。

 ……あれ、ということはもしかしてアンブレイルって、このままほっとくと人魚に誘われて……エルスロアへ行く前にこっちに来ちゃったりする?

 ……ま、いっか。それまでにはおさらばしとこ。

 なら余計にさっさと片付けちゃわないとね。


「成程、じゃあ、とりあえず牢の人魚とあんたたちを助けられれば、あとは王様だけ、って事でいい?」

「え、ええ……え、でも」

「地下牢はとりあえず地下ってくらいだし下でしょ?玉座の間は?」

「この部屋を出て真っ直ぐ右に出た所に……」

 あら、じゃあ、案外近いのね。よっしゃ。

「なら、あんたたちはこの部屋に立て籠もっていて。魔物に人質に取られないでくれればいい。……多分、こっちまで魔物が来るほどのの余裕はないと思うけど、一応警戒してね」

 ぽかん、としている人魚姫たちに手を振って、俺はさっくり部屋から出る。




 魔物が警戒して外へ出ていくのをやり過ごしながら、俺は玉座の間へ駆ける。

「こんにちは!」

 勢いよく扉を開ければ、案の定、そこには威厳溢れるおっさん人魚と、その傍にいるひときわ強そうな魔物、そして周りには複数の魔物たち。

 ……その場にいた魔物たちは、皆一斉にぽかん、とした。

 そりゃ……想定してた人物じゃない奴が来たら、そりゃ、ビビるよね。

 ははは、ごめんね、アンブレイルじゃなくて。

「よお、魔物。話は人魚のお姫様から聞いたぜ。『勇者』を狙ってるんだって?」

「……貴様、誰ダ?」

 魔物の親玉はおっさん人魚(多分国王陛下)の首に爪をあてて俺を警戒しながら、ジリジリと後退。

 それと同時に、周りにいる魔物たちが一斉に武器を構えて、俺を囲んだ。

「警戒しなさんな。俺は勇者じゃない。……あんたと仲良くなりに来た」

 背中から剣を鞘ごと取って、それを目立つように床へ放る。

 がしゃり、と音を立てた剣は注目を集め、俺が武装解除したことを際立たせた。

「……仲良ク?」

「ああ。……聞いたこと、無い?アイトリウスの『不当なる』王の子の話」

 にやり、と笑ってみせれば、魔物ははっとしたような顔をする。

「……聞いたことガあるゾ。アイトリウスの妾ノ子……」

「そう。俺がその妾の子。シエルアーク・レイ・アイトリウスだ」


 マントの留め金を見せつけるように胸を張れば、それが証明になる。

 アンブレイルの容貌とは違うが、王家の血を引く証明である『碧空の瞳』と、紋章の入った留め具。そして王族らしい堂々とした態度と容姿。

 俺が『シエルアーク・レイ・アイトリウス』である証明としては十分だよね。

「お前達以上に兄上……『勇者』アンブレイル・レクサ・アイトリウスにはお世話になっててね。『恩返し』してやりてえと思ってる。魔物なら分かるでしょ?俺のアンブレイルへの憎しみって奴がさあ!」

 にやり、を通り越してにたり、と笑ってやれば、魔物はおっさん人魚から離れて俺に近づき、値踏みするように俺を見た。

「ど?俺と手を組んでアンブレイルに痛い目見せてやらない?多分、そこらへんの利害は一致すると思うんだよね」

 魔物の視線を堂々と浴びて、両手を広げてあくまでにこやかに、魔物が好きそうなタイプの笑顔を浮かべて魔物の反応を待つ。


 そして、遂に魔物は一歩、俺に近づいた。

「勇者では無かッたが収穫ダな……」

「ね?収穫でしょ?……って事で、俺と手、組まない?俺、お前らが喜びそうな情報はたっぷり持ってるし、アンブレイルに痛い目見せてやる為なら魔物と手を組むことも厭いません、ってぐらいの根性はあるよ?」

 右手を魔物に差し出せば、魔物は俺に向けて手を伸ばし……。

 ……手を払った。


 が、それで十分なのだ。




「あら、残念」

 手を払うために魔物の手が俺の手に触れた、その一瞬。

 その一瞬で吸えるだけ、魔物から魔力を吸い取る。

 それだけで初手は十分。

 魔物が異変に気付いた時にはもう遅い。

 次の瞬間には俺は左手を逃して魔物の腕をがっつり捕まえている。

「何ヲ!?」

「はー、交渉決裂ね。はいはい、面白くねー」

 魔物からギリギリまで魔力を吸って魔物を動けなくしてから、懐に隠していた短剣を抜く。

 光る魔法銀の刃を魔物の喉に添えてやれば、周りに居た下っ端魔物も動けなくなる。

「はーい、じゃ、お前ら動くなよー。お前らが動くとお前らの大事な親分が死んじゃうぞー」

 正直、短剣が無くても触ってりゃ殺せるんだけど、やっぱり分かりやすいビジュアル的な効果ってのも大事だからね。

「全員武器を捨てろー」

 にやにやしながら親分魔物の喉に刃を食いこませれば、下っ端魔物たちは混乱しながらも全員武器を捨てた。

 それをしっかり見届けてから、俺はおっさん人魚を振り返る。

「国王陛下、ご無礼は今ばかりお許しいただきたい。……ついてきてください。アイトリウスの不当なる王の子、シエルアーク・レイ・アイトリウスがあなたをお助けします」

 ばっちりウインク決めながら言えば、おっさん人魚は戸惑いながらも頷いて見せた。




 ……さて、アレの出番だ。

 人魚の王様と親分魔物を連れて玉座の間を出たところで、懐から魔石を取り出す。

 ディアーネに魔法を込めてもらった魔石だね。

 ……ここに込めてもらったのは、単に花火が出るだけのかわいい魔法だ。これを撃ちあげれば合図になる。

 魔石に込められた魔法を見て……その式の一部分をピンポイントに吸収した。

 元々は赤と緑と青の花火が上がる魔法だったわけだけど、これで赤の花火だけが上がる様になった。はず。

 それから、魔法を封じている魔法を切った。つまり、これで手榴弾のピンが抜けた状態ね。

 あとは、ぽいっ、と魔石を窓の外に投げるだけ。

 ……衝撃が加わった魔石はあっという間に魔法を放出し、でっかく、花火を空に打ち上げた。


 ……ちなみに、赤はディアーネが一番好きな色である。

 つまり、『焼き払え』の色ね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ