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23話

 潜入なのに段ボールが無いってのが残念だけど、気を取り直して楽しく潜入していこう。

 まず、結界だな。これは何の問題も無い。俺は魔力を生み出さない。俺の命は魔力と共にない。俺個人を示す魔力なんて俺の中に存在しない。だからこの手の結界にとって俺はそこらへんに転がってる石ころとか、或いは風とか水とか、そういうのと同じ。いくらでもスルーできちゃう。

 今回の結界も問題なくクリア。うんともすんとも言わない結界を結界とも思わずにすり抜けるだけの簡単なお仕事。

 ……さて、ここまでは想定通り。


 結界の向こうで手を振る仲間たちに手を振り返しつつ、俺は先へ進む。

 トンネルを抜けたら、水面に出る。

 人魚の島っていうぐらいだから水中に全部建造物があるのかな、とか思ったけど、そうでも無かった。

『空中に水があった』。

 物理法則のぶの字も無い。水が綺麗に形を変えて、空中に留まっている。

 真っ直ぐ伸びて宙に浮かぶ水は多分、人魚の道なんだろうな。

 道の先にはでかい巻貝(多分あれ、家なんだろうな)だったり、見た事の無い建材で作られた建物(こっちは割と普通の形)があったり。

 そして、何より目立つのは、あらゆる道が集中する先……人魚の城である。

 アイトリウスの城よりはかなり小ぶりだが、透き通った青の魔石と真珠色の石材で作られた城は1つの芸術作品のようにも見える。

 明るいときにちゃんと見てみたいな。これが朝日に輝く様はさぞかし綺麗だろうから。


 という事で、俺は人魚の城へ向かう。

 最初に目指すのはシーレ姫のお姉さん。

 今、この島がどういう状況なのか、シーレ姫は殆ど知らない。だから、どう動くべきかもよく分からない。だから誰か状況を知ってる人に話を聞きたいんだよね。

 シーレ姫から、城の内部構造はある程度聞いてるし、お姉さんが居そうな場所も教えてもらってる。

 だから、あとは城を外から見回る魔物に見つからないようにスニーキングアクションするだけである。

 ……城の外にも中にも時々、見回りっぽい魔物が居る。

 空飛ぶ魔物、とやらが空輸してきたのかね。或いは、空の魔物とやらが内側から一度結界を解除して、海の魔物を招き入れて、それからまた蓋閉めた、とか?

 どーでもいいけど、とりあえずここで大事なのは俺が魔物に見つからない事だ。

 ……けど、そんなに気を遣うまでも無い。

 だって俺には魔力が無い。だから、魔力に敏感な索敵に優れたタイプの魔物だったとしても、俺の魔力を捉えることは不可能。

 だから薄暗い中で俺がちらっと見えても『気のせいか』ぐらいに思われちゃうんだろうね。

 うーん、センサーにもレーダーにも引っかからないとか、流石俺。異世界のス○ーク。




 しかし、なんというか……この状況、少々不思議ではある。

 だって、魔物が見回ってるって事はさ、『侵入者』か『脱走者』を張ってる、って事になるわけじゃない。

 で、『侵入者』に関しては外に結界があるし、城の中まで見回る必要をあんまり感じない。

 そもそもこんな『人魚の島』なんつう、人間はおろか他の生き物すら碌に来ないような場所で侵入者を警戒する必要があるの?あんまりない気がする。

 ……なら、この魔物たちが見張ってるのは『脱走者』だろう。

 という事は、『脱走』する者がいる、って事で……即ち、人魚がまだ食われてない、って事なんだと思うんだよね。

 ……しかし、『人魚を食う』事が目的なら、もうさっさと食っちまえよ、と思わんでも無い。わざわざシーレ姫までおびき寄せてから食う必要あんの?

 つうか、本当に魔物は人魚を食う目的でここに来たの?

 なんつうか……こう、どっかで情報の齟齬が起きてる気がするんだよな。


 1つ目に、まず、『すぐに人魚を食えない理由がある』パターン。

 これは情報の齟齬もなんも無い、一番平和なパターンね。

 俺は知らないけど、満月になってから食うと人魚は美味いとか、料理人がまだ到着してないとか、理由はいくらでも考えられそう。

 2つ目に、『魔物の目的が人魚を食う事じゃない』パターン。

 ネビルムの村の事を思い出すと、これもあり得るかな、って気がする。

 ほら、あれって結局、魔物の目的は『ヴェルクトと妹をなぶり殺しにして楽しむ』事じゃなくて、『空の精霊のお気に入りを思いのままに操る』事だったわけで。

 ……前例を知らないから何とも言えないけど、今回もそのパターンである可能性は十分にある。

 例えば、シーレ姫が水の精霊のお気に入りだったりした場合は、このまま人魚を殺さずにシーレ姫を釣る餌にした方がいいだろうしな。

 んで、3つ目。今度は、『シーレ姫が誤った情報をもとに動いている』パターン。

 つまり、シーレ姫に今の島の状況を教えたっつう小魚。こいつが怪しい、っていうパターンね。

 ……ただ、小魚がそうやってシーレ姫を騙す事によって何が起こる、って、『シーレ姫が島を警戒する』ってだけなんだよね。

 魔物はシーレ姫を警戒させたかった?いやぁ、まさかね。……どう考えてもそれって、シーレ姫の行動を不確定にするばっかりで益が無い。

 そして最後の4つ目。『シーレ姫が俺達に誤った情報を伝えている』パターン。

 ……それが意味するところはただ1つ。

 それがお互いの合意なのか、それともどちらかがどちらかを脅してなのかは分からんけど……『人魚と魔物は手を組んでいる』って事だ。




 ……と、まあ、ここまでは割と簡単に推理が行き付くから、多分、島の中に入ってないディアーネでもここら辺までは考えてくれるだろう。

 よって俺はまだディアーネに『焼き払え!』の合図はしない。潜入続行。


 暫くそんなこんなで隠れながら進めば、シーレ姫が言ってた部屋の前までたどり着いた。

 ……おー、これはビンゴ。

 ドアの前に魔物が居る。不寝番かな。お疲れ様でーす。

 ……その魔物が正面、廊下から外へ面する窓の方を見てぼーっとしているのを確認して、俺は静かに抜刀して……一瞬で、間合いを詰める。

『!?』

 そして、完全に不意を突かれた魔物の頭を剣の平でぶん殴って倒す。抜刀した意味?そりゃ、鞘がガチャガチャ鳴ったらばれるからよ。

 俺、魔術が専門だったけどさ、一応は城で武術の類も学ばされてたからね。この程度の事ならお手の物。ただし、王宮仕込みのお上品な剣術よりかは今みたいな不意打ち上等な戦い方の方が好き。


 伸びた魔物は適当に柱の陰に隠して、っと。

 ……さて。

 俺はそっと、ドアの向こうの魔力を見る。

 ……多分人魚だろ、っていう魔力が3つ。

 魔物らしい気配はない。

 よっしゃ。最悪、魔法なら撃たれても無傷だし、いきなり物理的な攻撃されたらその時はその時でなんとかしよっと。よし。

「お邪魔しまーす」

 如何にも余裕です、って顔で、俺はドアを開けて中に入った。




「……誰!?」

「人間……?」

「に、人間だわ!」

 入った途端、3匹……3人?3体……?の、人魚のおねーちゃんたちがこぞって慄いた。

 ……これが演技ならまあ、大したもんだし、そうでなかったらそうじゃないってだけだし。

 何にしても、俺はシーレ姫の言葉を信じている、っつう方向で動く。

 シーレ姫があの状態で裏切ったとしても、だ。

 ……あそこに残ってるのは、海中で元気が無いとはいえ、それでも禁呪バンバン撃ってくる魔女と、魔力タンク兼物理攻撃要員よ?人魚姫の1匹や2匹、簡単に片づけられるでしょーよ。

 そして、ここで人魚のおねーちゃんたちが俺に襲い掛かってきたとしても、俺がそうそうやられるとも思えない。

 だからまあ、余裕たっぷりに振る舞ってイニシアチブを握っちゃうのが一番だよね、っていう。

「そちらにおわすのはシーレ姫のお姉様方、って事でいい?」

「シーレ?あなた、シーレを知っているの?」

 確認を取るためにシーレ姫の名前を出してみたけれど、この分ならこのおねーちゃんたちが魔物と手を組んでる、っていう可能性は低いかな。

 これで万が一、このおねーちゃんたちが大女優だった、っつうんなら俺は素直に白旗降って相手が油断した隙狙って殺すわ。

「時間が無い。俺はこの島を助けに来た。……今、この島はどうなってる?魔物の要求はなんだ?」

 人魚のお姉さん方は顔を見合わせ……ほとほと困ったような、泣きそうな顔でひそひそ話をして……。

 ……そして、遂に結論が出たらしい。

「み、水よ!呪縛せよ!」

「水よ、刃となれ!」

「水よ、固まれ!」

 ……3発の魔法が泣きそうな人魚のお姫様たちから放たれ……俺をすり抜けて、部屋の壁に着弾した。

 あーあーあーあー、折角のお城の壁が抉れちゃってまあ……勿体ない。

 背後の壁から正面の人魚姫たちに視線を戻すと彼女らは魔法を受けても身じろぎ一つしない俺を見て、いよいよぶるぶる震えはじめた。

 そんなさ、3人で固まってぶるぶるされてもさ……攻撃されたの、俺なんだけどな……。

「……で?時間が無いんで、さっさとこの島の状況、教えてくんない?じゃないと助けられるものも助けられないから」

 状況、大まかには分かったけどね。

 けど、いよいよ魔物の目的が分からなくなってはきた。

 ……なんで人間、或いは人間の首……或いは、俺自身、が、必要なの?


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