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154話

 こういう風に魔力を吸うのも久しぶりな感覚だけど、多分、『慣れない』感覚があるのは久しぶりだから、ってだけじゃない。

 ……多分、俺の『魔力無し』度合いが上がってるのだ。


 元々の俺の魔力は相当多かった。それこそ、人間の中でなら上から数えて1番?2番?ってな具合に。

 が、魔王から魔力ぶんどった俺は、それを上回る魔力量を手に入れてしまった、という訳であり……つまり、『失ったものが大きい』分、魔力を失った時の反動がでかい。

 具体的にどういう風に『第一回魔力無し状態』と違うのか、と言えば、そりゃ、圧倒的パワー!としか答えられない。

 そう。魔力吸収のスピードが速すぎる。

 今の状態を吸引力の変わらない只1つの掃除機だとするなら、『第一回魔力無し状態』の時はフィルターの交換を2年行ってなかった掃除機。

 そのぐらい、感覚が違うのだ。

 ……多分、ヴェルクトから魔力貰った時にこの違いに気付けなかったのは、ヴェルクト自身の魔力量も上がってたし、魔力を失った直後で色々コンフリクトしてたからだろうな。多分。


 ……まあ、結局、何が言いたいのか、っつうと、だ。

「お邪魔します!」

 元気にご挨拶しながら空間の魔力を吸い取ってやれば、予想より遥かに速く……ほんの一瞬で、大魔王の空間は消え去ってしまったのだった。

 ……『お邪魔します』と言った割には、そのお宅が消えてしまった。挨拶を間違えたかも。


 空間の浮く『無』の中に放り出された大魔王は、静かに目を開いて俺達を見た。

 ……それだけで感じる威圧感。圧倒的強者の気配。

 いやあ、たまんないね!これからこいつの力を奪えるってんだからさ!

「何用だ」

 そして、一言だけ、大魔王が静かに発すれば、それだけで『無』が震える。

 ……が、その中に大魔王と同じように浮かぶ俺達は、震えない。怯えない。

「美味そうなディナーが居るから、食いに来た」

 当然だ!飯を前に、何を怯える必要がある!




 長たらしい前口上も何も無く、戦闘は始まった。

 大魔王が魔法を使う体制に入った瞬間、俺達は無言でたがいに動く。

 ディアーネは遥か後方へ退避し、ヴェルクトは愚かしいまでに突出した位置をとる。

 俺は中庸。どちらでもない位置に陣取り、大魔王が一発撃ってくるのを待つ。

 ……そして、大魔王の指先から魔法が発動された。

「灰より燃え上がり、燃え尽き灰となれ。命よ、世界よ、炎よ、円となり繰り返す者よ。燃え上がりし魔を再び灰へ還せ!」

 が、ディアーネの詠唱がそれに重なると、大魔王の魔法の端に火が付いた。

 薄紙に火を付けたかのように、火は一瞬で魔法を舐めとる。

 後には、魔法の残滓と火の粉が残るばかりであった。

 これが、火属性魔法しか使えないディアーネが編み出した『火属性の魔法無効化魔法』である。

「……何」

 大魔王は少し不愉快そうな表情をとっただけで、動じなかった。

 すぐさまその腕が唸り、『無』の中で風を切り……次元すら引き裂くような圧倒的破壊力をもって、ディアーネへ襲い掛かる。

 ディアーネは笑みを浮かべたまま、動かなかった。代わりに動く者を知っているから。

「無駄だ」

 ヴェルクトは大魔王の腕より速く動き、目にもとまらぬ速さで光の短剣を振り抜く。

 すると、大魔王の腕が半ばから切れ飛んだ。

 足場の無い『無』の中でこの動きができるのは、ヴェルクトが身体強化の魔法を極限まで高め、また、空中に無属性魔法の足場を生み出して戦っているからである。

 極限まで研ぎ澄まされた技術はきっと、大魔王に痛みすら与えずその腕を切り落としたのだろう。

 だが、大魔王は少々目を瞠るのみで、すぐに腕を一振りして腕を再生した。

 そこを立て続けに火柱が襲い、剣戟が襲い、大魔王も負けじと魔法を放ち、腕を振るう。

 激しい攻防は、『無』を揺らし、そこに浮かぶ空間を揺らし……世界を数度、いや、数十、数百と壊してもまだ余るほどの破壊力をもって、ぶつかり合い続けた。


 ……その中で俺は、ただ、等速でゆっくり、大魔王に向かって歩き続けた。


 そう。この空間の中で、『ただ等速でゆっくり大魔王に向かって歩き続けられた』。

 大魔王が接近する俺に気付かないわけがないし、警戒しない訳も無い。

 だが、俺は変わらず歩き続ける。

 大魔王の表情には次第に苛立ちが混じり、それは焦りへと変わり……恐れ、へと変貌を遂げていく。

 だが、大魔王がいくら攻撃を強めても、数を増やしても、俺に攻撃は届かない。


 魔法は容赦なく飛んでくるが、効かないから問題ない。

 物理的な攻撃は俺に届くことなく消えていくから、やっぱり問題ない。

 俺への物理的な攻撃を遮るヴェルクトを攻撃しようにも、それは後方のディアーネによってやはり守られている。

 ディアーネを攻撃しようにも、その隙はヴェルクトが潰していくから後方へ手を伸ばせない。

 ……そう。ヴェルクトとディアーネは、俺を守り、それでいて大魔王と完全に拮抗してみせていた。

 勿論、持久戦になったら負けるだろう。いくら俺の魔力のおさがりをあげたからっつっても、大魔王の魔力量と比べるべくもない。

 ……だが、俺が居る。

 等速で大魔王へ歩を進める俺が居る。

 大魔王がどうすることもできない、俺がここに確かに居るのだ。

「……何故だ」

 俺も全神経を集中させて歩いてるから、大魔王にお返事はできない。

 ディアーネの魔法の邪魔にならない所を歩いて、ヴェルクトが俺の動きを読みやすいように等速を守り続けて。

 案外これはこれで難しいことなのだ。


 そして、大魔王まであと数歩、という所で。

「人間よ、誇るがいい。貴様は我に本気を出させた!」

 そう、大魔王が言ったかと思うと、大魔王の腕がヴェルクトを引き裂いた。




 だが。

 俺は歩みを止めない。

 当然、大魔王の攻撃は俺を狙う。

 だが、それは寸での所で火柱によって逸らされ、俺のすぐ横を通り過ぎていく。

「邪魔だ!」

 後方のディアーネに魔法が放たれる。

 そして、その魔法が止んだ時、既にディアーネの形はどこにも無かった。




 だが。

 俺は歩みを止めない。

「何故、止まらぬ!」

 集中して、俺は魔力を読む。

 打開する道を。

 ほんの一瞬開ける未来を。

「だが、貴様らの命も、目的も、これで終わりだ!」

 俺が大魔王に触れる、というその時、大魔王の腕と魔法と……すべての攻撃が、俺に集中した。




「あら、目的は達成できたわよ?」

 だが、大魔王の腕は俺に届かなかった。

 魔王の魔法の範囲外から急に現れたディアーネは、炎の石の杖を大魔王の腕に深々と突き刺していたのである。

 そして、大魔王の腕の中で発動した火炎の渦は、大魔王の腕を破壊しつくした。

「残念だったな、俺は生きてる」

 そして、もう片方の大魔王の腕は、ヴェルクトが放った無属性極太ビーム魔法によって焼き切られていた。

 ヴェルクトを大魔王の魔法から守っているのは、緊急用の結界だ。

「でも、『これで終わり』は正しい。部分点をくれてやるよ!」

 そして、もう俺は、大魔王に触れている。


 それが全てだ。




 ディアーネが使ったのは、俺がアイトリウスの特産品として売り出し始めた『瞬間移動の魔石』。

 これで瞬時にはるか遠くまで移動して大魔王の魔法を回避したディアーネは、大魔王の攻撃が全て俺に向くタイミングを狙って、大魔王の腕へまた瞬間移動したのである。

 そして、ヴェルクトが使ったのは、俺があげた騎士の紋章。

『死にかけたら一応回復魔法が発動するようにできてる』だの、『魔力を流せば結界が発動するから緊急時には使え』だの、『天弓石を砕くと輪の中央からビーム魔法が出る』だの、そういうギミックが仕込んである説明は前にしておいたからね。今回、フルに使ってくれたらしい。

 そして、俺の行動に説明はいらないね。

 大魔王の魔力を奪った。

 以上だ!




 俺達3人の元気具合とは対照的に、すっかり魔力を失った大魔王が呻いた。

「……何が目的、だったのだ」

「え、何の?」

「何故、貴様らは命を、賭してまで、我に、立ち向かってきた」

「そりゃ、俺が楽しく遊んで暮らすためだよ」

 とっても正直に答えたんだけど、大魔王はそれをどうも曲解したらしい。

 つまり、『楽しく遊んで暮らせるぐらい平和な世界のため』みたいな。

 俺の答えに大魔王は皮肉気に笑うと、言葉を続けた。

「……貴様、らが、我を倒したところで……平和な世など、人間の間に……訪れは、しないのだ!『女神』が生まれた、ように、な!」

 そこまで言って、大魔王はその命を途切れさせた。




「いや、聞けよ。俺はアイトリウスと同じ運命を辿る気はない。ましてや、『居もしない女神』を作りだす必要も無い」

 言いたいこと言って俺の言葉を聞かずに死ぬとかちょっと俺に対して失礼なので、俺は大魔王の口にファンルイエの樹の実を突っ込んだ。


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