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153話

 俺の注文に対して、2人はそれぞれ、『体得してやるからその分の費用を出せ』みたいな主張をしてきた。

 なので、聞いてやった。うん。元々そのつもりだったし。

 まず、ディアーネ。

「この禁呪が私にも使えるように、火の精霊にお願いしなくてはいけないわね。何かプレゼントしたいのだけれど」

 うん。ディアーネはもう、『無属性』だって使えない、生粋の『火魔法専門』だからね。この禁呪も、そのまんまじゃ使えないのである。

 ディアーネがこの禁呪を使おうと思ったら当然の様に火の精霊の力を借りる必要がある。

 つまり、「私に他の精霊の力を借りさせたくなかったら貴方、なんとかしなさいな」とディアーネが火の精霊にワガママ言うのである。

 ……そして、そのワガママを聞いてもらう代わりに、何か一応、プレゼントをする、と。

 いや、俺、正直……ディアーネが1つ微笑んで御礼でも言ってやれば、それだけで火の精霊はバリバリ働く気がするんだけどね……。

 まあ、相手は精霊だ。1人の女の子にぞっこんラブのデレッデレで嫉妬深くても、精霊は精霊だ。礼儀は尽くしといた方が何かと便利。

 ってことで、ディアーネにはでっかい火竜の肺からとれた竜息石をあげた。

 火竜が吸い込んだ塵が竜の肺の中に溜まって、竜の肺の中で精錬されて、魔力を浴びて、魔石になったものだね。

 これはそういう、中々に珍しい石なのである。

 これなら火の精霊も喜んでディアーネのために働いてくれるだろう。


 で、ヴェルクト。

「シエル、悪いが教授を頼む。一通り読んだがまるで分からん」

「はいはいしょーがねえなあ」

 ヴェルクトの注文は、優秀な先生だった。

 ので、まあ、しょうがない。俺が付き合ってやる。

 ディアーネは才能もあるし、術師として基礎の基礎からみっちり勉強してるし精霊もついてる(というか憑いてる)から高度な禁呪も習得できる。

 が、ヴェルクトにはその『基礎』が薄い。

 基礎の基礎だけ教えて、後はとにかく実戦用の魔法だけ仕込んだ、ってかんじだから結構付け焼刃だし、そもそも術師としての経験も浅い。

 今回も基礎が無い上に高度な術式をのっける訳だから、かなりの苦戦が見込まれる。

 ……が、苦戦はしても、ヴェルクトなら多分なんとかなるだろ。

 こいつ、知識が無くて経験が無い、ってだけで、地頭は悪くないし、精霊にも好かれてるし。

 だから『基礎が無い上に高度な術式を乗っける』どころか、『空中建築』ぐらいなら、案外無理できちゃうのである。

 今までに教えた結界だの身体強化だのの魔法も、『空中建築』じみた事やってるしね。今回もなんとかなるでしょ。

 大体、俺という超優秀な大魔導士が先生についてやるのだ。なんとかならないわけがないね!




 そして、夜が明けた。

 俺、睡眠時間が足りないせいで自分のスペック落ちるのやだから、試験前でもなんでもちゃんと寝たいタイプ。

 よって、寝た。

 良く寝て起きたら、ヴェルクトの周りにクラゲ型人工妖精が浮いてた。

 ……禁呪の真ん中らへんの術式を盛大に間違えると、人工妖精の錬金術式になっちゃうのよね、これ。

 つまりこれって、変に術を間違えた時にも酷いことにならないように、ってクルガさんが施してくれた『安全装置』なんだけど。

「し、シエル……これは、これは一体……」

「寝ろアホ」

 つまりこうなってるってことは、ヴェルクトが『盛大に間違えた』って事だ!

 俺、睡眠時間が足りないせいで他人のスペック落ちるのもやだから、試験前でも無理矢理他人を寝かすタイプ!




 一方、ディアーネの方も難航しているらしかった。

「あら、シエル。御機嫌よう」

 ディアーネは昨日からアイトリアの城の客間に泊まっている。

 自宅に帰らないの?って聞いてみたんだけど、無属性の魔力が濃いアイトリアでの方がうまくいきそうなんだそうだ。

 しかし、御機嫌よう、と言いつつ、ディアーネはあんまりご機嫌よろしくなさげである。

「ご機嫌よー。……進捗は?」

「拗ねられたわ」

「あらあ、やっぱり」

「だから今、拗ね返してやっている所よ」

 ディアーネの背後でそろそろ『どうしようどうしよう』みたいになってきた火の精霊が見える。ちょろい。

「夕方にはなんとかなると思うわ。火の精霊だって愚かではないのだし、私の夢に協力もしてくれるはずだもの」

 ……ディアーネの言葉に、火の精霊が反応するのが見える。うん、やっぱちょろい……。




 しばらく寝かせといたヴェルクトを昼前に起こして術式の講釈をしてやりつつ、アイトリアの庭先で火柱が上がるのを見つつ、またしても俺の部屋の中には人工妖精クラゲが浮かび、ちょっと焦げた庭木の復活のために俺が駆り出され……。

 ……そして、夕方ごろ。

「よし、これで大丈夫だろ、多分」

 なんとか、2人は禁呪を習得したのであった。




 一応、他の人を巻き込んだりしないように、城の地下の呪術室に向かった。

 これより、俺は人生2回目の魔力なし状態になる訳だ。はー、ありえねー。

「ところで、シエル」

「何よ」

「お前の魔力を奪ってしまって、お前は大丈夫なのか。死なないのか」

 ……そして、1度大丈夫だったからといって、2回目も大丈夫、っていう保証はない。

 が、大丈夫!

「うん。もし死んだら、俺の口にこれ突っ込んどいて」

 前回とはわけが違う。

 前回、アンブレイル達は俺を殺そうとして、禁呪を使った。

 が、今回は俺を殺す目的じゃ無い!よって、俺は死ぬわけがない!

 ……そして、俺にはファンルイエの樹があるからね。

 既に墓の下からファンルイエの樹の実をいっぱい持って来てある。

 これつまり、『人を生き返らせる実』だ。

 ……これで何回死んでも大丈夫!何度だって死の淵から華麗に舞い戻ってこられるって訳だ!ってことでレッツゴートゥーサンズリバー!




 俺がぶっ倒れた時のために魔法陣の上に毛布を敷いたり、クッションを置いたり、死んでも生き返らせられるようにファンルイエの樹の実を一口サイズに切って用意して、魔法薬の類も用意して……と、万全の準備を整えたところで、満を持して禁呪が始まった。

「じゃあ、いくわよ」

「い、いいのか?本当にいいんだな?」

「おう、いつでも来い」

 余裕たっぷりディアーネと緊張でがちがちヴェルクトは、2人で1つの魔法を編み上げていった。

 俺が描いた魔法陣に2人の魔法が乗って、大きな魔法になって俺を包む。

 涼やかで透明な魔力と、熱く燃える魔力、2つの魔力が俺に……やや遠慮がちに、刺さった。




 それからは二度目の体験なわけだけど、何が何だか分からなかった一回目とは違って、何が起きてるか全部理解した上での『魔力が抜けていく感覚』だから、まあ、耐えられないでも無かった。

 頭痛いし気持ち悪いし寒くなってくるし、碌な感覚じゃないが、今の所大魔王の空間をぶっ壊して大魔王を引きずり出す手段がこれしかないのだ。諦めよう。

 俺の体が生命の危機を訴えまくってるんだけど、それは理性が棄却する。

 そして俺は、この『禁呪によって魔力を奪われる』という滅多にない経験から色々と学ぶのだ。

 ……そうでもしねーとやってらんねえよこんなのっ!


 延々とそんなかんじに気分のよろしくない感覚が続き、俺は延々とそれを感じ続け、禁呪を味わい、学び……やっと終わった。

 うん、終わった。




「……エル!シエル!しっかりしろ!」

「うっせえあと5分」

「……どうしましょう。大丈夫そうだけれど、寝かせておいてあげましょうか?」

「うんうん、そうして」

「……本当に大丈夫そうだな……」


 さて、どうも意識が飛んでたみたいだけど、無事、俺、復活。

 体の感覚がまた『からっぽ』なかんじ。うーん、ちょっとぶりの感覚。

 つまり、俺はまた『魔力無し』になったのである!

 ただいま!魔力無し生活!




 このまま二度寝すると魔力切れで永眠しかねないんで、起きた。

 で、起きてヴェルクトから魔力を吸わせてもらった。この感覚も久しぶり。

「で、どーよお前ら」

 念のため、ファンルイエの樹の実を食べつつ(とっても美味しいんだなこれが)、2人に『魔王の1/2の魔力が増えた』感想を聞いてみる。

「ええ。最高よ、シエル。……今なら私1人でも十分にリスタキアを滅ぼせるでしょうね」

「体の調子が良い。身体強化も大幅に効果が上昇しそうだ。シエルは大丈夫か」

 ふんふん、成程。

 ま、2人とも、とっても生き生きとしてるから、問題も無さそうね。念のため、ファンルイエの樹の実を食わせとくけど。

「俺もまあ、平気。折角手に入れた魔力が失われたショックが体にちょっとあるけど、寝て起きりゃ戻ってるだろ。何せ、ちょっと前までずっと魔力無しで生活してたんだし」

 理性が棄却しても、本能が『死ぬ!死ぬ!魔力無くなって死ぬ!ヤバい!死ぬ!』って騒ぐことに変わりはない。

 今、そこらへんで本能君がパニくってるから、落ち着くまでに少しかかりそうなかんじ。

 まあ、二回目だし、一回目よりはすべてが好調なんだけどね。

「そう。でも、それもほんの少しの辛抱ね、シエル」

「うん。ま、1失って10返ってくりゃ、丸儲けだもんね」

 そして何より、明日にでも大魔王から魔力をぶんどるのだ、というワクワクが俺を支えている!

 明後日の今頃には、俺は既に世界最強、創造神の名をほしいままにしているのだろう……うふふ。




 俺の体調の事もあったし、ヴェルクトとディアーネにしても、流石に禁呪を使って疲れていないわけも無い。

 ということで、今日はもう休んで、明日の朝、大魔王をぶち殺しに行くことに決定。

 そうと決まれば話は速い。

 寝る。寝るに限る。

 ……決戦前夜の情緒なんていらん!




 とっても合理的なことに、俺達は特に何をするでもなく、ぐっすり眠って翌朝、爽やかな目覚めを迎えた。

 身支度をして、朝食を摂って、全員が本調子に戻っていることを確認したら、決戦直前の作戦会議だ。

「いいか。まず、ディアーネ。お前は、絶対に物理的な攻撃をくらうな。くらう位置に出てくるな。ヴェルクトに魔法が届くギリギリまで下がって、『ディアーネとヴェルクトに、対魔法の無効化魔法』を使い続けろ。途切れさせるな。オッケー?」

「ええ、分かったわ。従ってあげる」

 ディアーネは、ディアーネとヴェルクトを魔法から守る。

 俺は魔力無し状態だから魔法から守らなくったっていいからね。とりあえず、ディアーネ本人の身を守る事と、ヴェルクトが前線で集中して戦えるように、っていうことを優先。むしろ、それ以外には何もいらない。

「んで、ヴェルクト。お前は、最前線だ。俺を大魔王の物理攻撃から守れ。ただし、戦線崩壊は許さねえ。だから、お前は俺だけじゃなくて、お前自身も物理的な攻撃から守らなきゃいけない。できるな?」

「勿論だ。やり遂げてみせる。今ならなんだってできる気がするんだ」

 そして、ヴェルクトは自分の身を守りつつ、俺を守る。それ以外は何もいらない。

 ……こうする事で、俺達3人とも、魔法からも物理的な攻撃からも身を守ることができる、って訳だ。完璧。

「そして、俺は大魔王から魔力を奪う。一発勝負、出落ち上等だ。瞬殺でいくぞ」

 そして!俺は花形、攻撃役だな!

 今回は、魔王と戦った時みたいにグダグダしない。

 勝負は一瞬でつけてやる。

 消耗戦に持ち込んだ時、分が悪いのは俺達だからね。

 大魔王が俺達の連係プレーも、俺の『魔力無し』の特性も何も理解する前にやっちゃうに限る!




 左腕に、『魔王から魔力をぶんどる装置』改め『大魔王からも魔力をぶんどる装置』を装着。

 ルウィナちゃんが青空を織り上げて作ってくれた服に、ウルカの鎧。ディアーネがくれた剣。それに装飾品をいくらか。これで俺の装備は完成。

 ヴェルクトは『曇り空』を織り上げた服に、ウルカの鎧と天風翡翠の小手。そして、光の短剣と、俺の魔法銀の短剣だな。

 ディアーネは『夕焼け』を織り上げたというドレスを身に纏い、その上に最上級魔力布のマントを羽織って火炎電気石のブローチで留める。そして手には『炎の石』の杖、髪にはアマツカゼでヴェルクトが貰ってくれた『凪水晶の髪飾り』を飾って完了。

 ……さて。

「じゃ、準備はオッケー?」

「ああ」

「いつでもどうぞ?」

 2人の同意を得て、俺は『空間の外』に出た。




『空間の外』、つまり『無』の中に出ると、ヴェルクトとディアーネが息を呑むのが分かった。

「……シエル。これが空間なのか」

「綺麗……空の星のようだわ」

 うんうん。この光景はいわば、俺が作りだした宇宙そのもの、ってかんじだからね。美しくないわけがないのである。

「さてさて、綺麗なのはおいといて、だ。……前方斜め右30度の方向に見えますのが、大魔王のおわす空間でございまーす」

 そして、その美しい空間群の中、まがまがしい気配を発する空間を示し、そちらへ近づいてく。

 ヴェルクトもディアーネも、そこに何がいるかなんて、とうに分かってる。

 しかし、それを恐れるでもなく、むしろ笑顔を浮かべるぐらいなのだ。

 これはこれは、相当やる気なご様子。俺も負けてらんないね。


 そして、大魔王の空間の前に着いた。

 仄暗く、禍々しく、どこまでも醜悪に魔力が凝り固まる空間。

 この魔力がこれから全部作り替えられて、俺のものになるのだ。たまんないね!

「……じゃ、ぶっ壊すぞ。大魔王、出すぞ。オーケイ?」

 笑顔で2人が頷いたのを見て、俺は、大魔王の空間に触れた。


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