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152話

 さて。

 多分、中には賛同してない人も居るんだろうけど、これだけの数が賛同してりゃ、残りを魔力でねじ伏せるぐらい簡単だ。

 ……息を吸って、吐いて。

 気合を入れて、空間を作る!

「全ては我が手の中へ!」

 一気に、俺の魔力が広がっていった。


 驚くほどに抵抗は無かった。

 世界の全てを俺の手の内に収めようというのにも関わらず、だ。

 多少は無いでもなかったけれど、そんなのは押しつぶせちゃう程度のものだった。

 ……しかし、予想以上に魔力の消費が激しい。

 旅の途中、逢魔四天王の地のなんちゃらと戦った時に散々作り溜めておいた魔石を全部使いきって、城下から買い占めた魔石も使い切って、俺の魔力も使いきって。

 それでもまだ足りない。

 空間の魔力消費はサイズに比例する訳だから、相当な魔力消費になる事は分かっていた。

 けど、流石に予想以上だったというか……。

 ……けど、こんなところで『はい、だめでした』とかやってられるか。

 そんなの、俺の沽券にかかわる!そんなカッコ悪いことするぐらいなら、俺はこの城の魔力全部使い切ってアイトリア城を破滅させるぞ!


 ……なんて、孤軍奮闘していた所、不意に、魔力の消費が緩やかになった。

 気が付けば、俺の横に、魔力の線が生まれている。何本も何本も、空間に繋がっている。

 どこからともなく伸びたそれは、俺が作る空間に魔力を注いで、俺を助けてくれているらしかった。

 このキラキラした魔力は多分、妖精のものだな。

 どっしりずっしりしてるのは……ええと、何これ?え?樹?あ、植物?……うん、植物からの援助っぽい。

 じゃあ、こっちのもっふりしてるのは獣からの援助かな。

 ……そして、何より、人の。俺が今までに出会ってきた人達から送られてくる力が多かった。

 熱く暖かく、活力に溢れてるのは、ヴェルメルサ帝王やクレスタルデの人かな。

 きらきら光る水飛沫みたいなのは、シーレ姫達、人魚のもの。

 滑らかで重くて堅牢なかんじのは、ウルカやエルスロア王や、ドワーフ達。

 涼やかでさらっと軽やかなやつは、オーリスのエルフかな。……渋いのはロドール老かも。

 眩く明るく鋭く強く光り輝くのは、シャーテと……多分、光の姫君もなんかやってるんじゃないかな。

 速く軽く、鋭くて真っ直ぐなのは、アマツカゼからだろう。中に、ナライちゃんたち、妖怪のものも混じってる。

 冷たくてあったかい不思議なのは、リスタキアのグラキスからだな。

 しっとりつべたくて心地いいのは、避難させたフォンネールの人達か。

 透き通って透明で懐かしいやつは、きっと、アイトリウスの民達だ。

 ……そして。

 中でも一番華やかで、一番派手で、一番妖艶で、一番強く熱く激しいもの。これが、ディアーネ。

 一番透明で、一番目立たなくて、一番存在感がなくて、一番俺の近くにあるやつ。これが、ヴェルクト。

 それから、細くて細くて、見えないような線。

 暖かい暁色。優しく柔らかい濃紺。真っ直ぐな空色。

 こういう、世界中からの力が、俺の空間に注がれていく。


 ……あーあ、かっこつかねえじゃん。

 ここは俺1人で涼しい顔してキメてやって、おどけて一礼でもして、拍手喝采を浴びる、って所だったと思うのよ?それがなんだってこんな、古い漫画みたいな事をやらなきゃいけないのよ、この俺が!

 くっそ、覚えてろ、こうなりゃもう自棄だ!

 俺はカッコつけるために!この空間を作り上げて!……さっさと大魔王ぶっ殺してその首をはく製にしてアイトリアの城の一番目立つところに飾って俺の功績を世界中に讃えさせてやる!


 そうして、空間づくりはいよいよ終わりを迎えようとしていた。

 世界を包んだ空間は、いよいよ、世界を剥離させにかかる。

『全』を剥がして、包んで、『無』の中に浮かべるイメージ。

 世界が空間に包まれて剥離すれば、その裏に何もない『無』が表出する。

 そして、大魔王の空間をはじめとして、今まで世界のどこかにあった他の空間も放り出されて、『無』に浮かぶ。

 ……つまり、あれだ。

 空間がおにぎり、この世界がご飯だったとしよう。

 今までご飯の上にお握りが乗ってた状態だったけど、そのベースご飯もお握りに変えちゃって、他のお握りと一緒に皿に並べ直した!そんなかんじ!うん、我ながら分かりやすい!


 そしてついに、それは完成する。

 ぽん、と。ふるり、と。

 どこまでも軽く穏やかに、どこまでも重く厳かに、世界は、1つの空間として、『無』に浮いた。

 ……そして俺は今、この世のすべての外側から、この世の全てを見ていた。

『無』の中に浮かんだ、数々の空間。

 俺達の世界。あっちの賑やかなのは悪魔の世界かな。じゃあ、そっちのやたら眩しいのは光の精霊の空間か。

 それぞれ、精霊だの妖精だのの空間がふわふわ浮いてて、時々、魔物のものらしい空間も浮いてたり。

 ……それから、生命の樹の空間も見つけた。アイトリウスが作り損じたらしい、無人の空間とかも。ついでに、誰も使ってないっぽい放置空間とかも。

 うん、そっか。

 こうやって、今まで『全』だった世界を空間にしちゃうことで、他の空間の『外側』を見られるようになったわけだ。


 こりゃまるで、宇宙から銀河を眺めてるみたいな気分。

 空間は、宇宙に浮かぶ星々。

 俺達の居た世界は地球かな。

 ……滅茶苦茶光ってる空間が光の精霊の空間だから、あれが太陽って事になりそうなのがなんか気に食わないけどな!

 そして俺は、その宇宙を揺蕩う宇宙飛行士か……或いは、神、か!うん、いいな、神!とってもいいな、神!

 そっか、俺はある意味、この宇宙の創造主になったわけだ!もうこれは神を名乗っても許されるな!

 よーし、俺、今この瞬間から、『勇者兼アイトリウス次期国王兼神』って名乗ろう!

 はい、決まり!今日から俺、神です!よろしく!




 1人でテンション上がったところで、大魔王の空間を探した。

 ……いや、探すまでも無く見つかったんだけどね。

 いっとう強く、まがまがしい気配を発する、小さな星。空間。

 あれが大魔王の空間じゃなかったら、他にどれが大魔王だよ。俺、やだよ?あんなんがゴロゴロしてたら……。




 念のため、あちこち眺めてみたけれど、幸いなことに、まがまがしい気配を発するような空間は1つしか無かった。

 あー良かった俺、とてもじゃないけど、魔王より強い奴100人抜きとか、流石にやりたくない。

 だってさあ、そこまでいっちゃうともう、誰も俺の強さを評価できないじゃない。

 評価されない強さって、持っててもなんか空しいだけじゃない。

 世界一強い奴が居たとして、そいつの強さを測る奴がいなかったら、ほんと空しいだけじゃない!

 うん、改めてよかった。大魔王っぽいのが1つしか無くて。

 そして、大魔王に次ぐ大大魔王とかがいなさそうで。


 じゃ、早速だけど、善は急げっていうし、大魔王の空間にお邪魔しようかしら。

 ……あれ、いや、ちょっと待てよ。

 この空間は……ええと、この、大魔王の空間は、どうやったらこじ開けられるのかな?


 前述の通り、空間ってのは、内側からは比較的脆いんだけど、外側からはもう、ほとんど無敵なのである。

 そう。この宇宙を作り上げた神たる俺ですら、ちょっとどーしよーか考えちゃう程度には。

 ……前回、魔王の時は、簡単だったんだよな。

 あれ、封印だったから。

 装置による空間だったし、それを破壊するのも、『魔力無し』だった俺には超簡単だったのだ。

 しかし、今回はそうもいかない。

 この空間は恐らく、大魔王ご本人が作ったものだし、そうなると真っ向から壊しにかかって壊せる可能性はとっても低い。

 つまり、正攻法じゃない壊し方……ええと、何をどーやったら壊せるんだ?


 ……考えていたら、ちょっと思わぬ事態が発生した。

 急に俺の世界の空間の抵抗が強くなったのである。

 えっ、なにこれ?と思いつつ、空間の内側を覗いてみると……見ちゃいけないものが見えた。

 そこにあったのは、空間の内側で滅茶苦茶に抵抗し始めた真っ赤に燃えるお嬢様と、やっぱり滅茶苦茶に抵抗し始めた主人に従う気が欠片もねえ騎士であった。

 ……うん、ま、言いたいことは分かるさ……。




 しょーがねーから、一回世界の空間に戻った。

「おい、シエル!」

 そして、アイトリアの城の屋上で、魔石の残骸だのなんだのの中、頭を抱えていたら、案の定というか、ヴェルクトがバタバタと屋上へやってきた。

「……まさか、1人で行くつもりだったんじゃないだろうな。許さんぞ。俺も連れていけ」

「お前、主人に口きいてる自覚ある?というか、次期国王陛下に口きいてる自覚あるの?ん?」

 この騎士、躾が足りてねえ!主人に対して何言ってんだこいつ!誰だこいつを躾けたのは!俺か!

「……あれを見ろ」

 子育てを間違えた親の気持ちになっていたら、北西の方角から、紅く輝く……不死鳥?なんか、そんなものが見え……あ、あれ、炎か!炎の翼か!ってことはあれ、ディアーネかよ!

「ディアーネだ」

「分かるよ!」

 あいつ、俺が折角瞬間移動のゲートをこしらえたというのに、わざわざ自前で飛んできやがって……。


「シエル、御機嫌よう」

 そして、滅茶苦茶ご機嫌悪そうなお嬢様は、周りに火の粉を散らしながら、優雅に俺の前に降り立ったのであった。

「あー、ご機嫌よう、ディアーネ」

「あら、私の機嫌が良いように見えるのかしら?……ねえ、シエル。私も連れてお行きなさいな?」

 ……ディアーネの背後で、火の精霊が火を吹いているのが分かる。

 怒っている、怒っているぞ、このお嬢様と精霊様は……!

 俺には分かる。だってディアーネ、俺よりちょっぴりお上品なだけで、俺と思考回路がほとんど一緒だからな!




 俺が最早神にも等しい何かになったっつーのに、この2人はあいも変わらずであった。

「俺が全力で一撃加えれば、一瞬の隙を作る程度はできると思うが」

「そうね。シエルが例の禁呪を使うにしろ、その隙は必要だわ。……それに、ねえ、シエル。炎なら目眩ましには丁度いいんじゃなくって?」

「……足手まといと言われたらそうなのだろうが。だが、俺はお前の盾になることはできる。シエルに教えてもらった強化魔法を自分なりに改善した。強化魔法の展開系で対物理の結界らしいものを作ることもできる。物理的な攻撃なら、どんな攻撃でも一撃は必ず、防いでみせよう。お前の盾となって散ることも厭わない」

「アホか。お前らに目の前で死なれてみ?俺、間違いなくテンション下がるよ?なんでわざわざグロ画像を見せられなきゃいけないわけ?お前は俺の士気を下げたいの?」

 何こいつ、飛んで火に入る兎さんなの?

 俺、自ら焼かれて死んだ兎さんとか気持ち悪くて食いたくないタイプ。

「安心して頂戴な、シエル。私、そこは弁えてるの。死ぬときは貴方の背後で死にますから。どうぞ安心なさって?」

 目の前じゃなくて目の後ろならいいっつう話にはならねえよ!とんち合戦やってるんじゃねえっつの!このお嬢様はお上品な顔して何言ってんだよ!

「私もね、どんな魔法でも一撃は必ず相殺してみせるわ。その代わりに火の精霊の元へ行くことになろうとも、ね」

 ……頼むから、その情熱は別の方向に向けてくんねえかな?

「それから、シエル。俺は、お前が作った『魔法を無効化する魔法』も運用できるようになったぞ」

「あら、なら私だって。暇さえあれば溶岩に浸かって魔力を高める訓練をしていたもの。旅の時の私より、ずっと強くなっているはずだわ」

 ……という具合に、2人のアピールタイムは延々と続いた。

 俺が何も言ってないのに、である!

「さあ、シエル。観念なさい。貴方は私を大魔王の元へ連れていくのよ」

「無理矢理にでも着いていくからな。今回ばかりはシエルの命令に背かせてもらうぞ」

 俺に詰め寄る仲間2人に対して、俺は……やれやれ、という具合に肩を竦めて見せた。

「あのね、俺はお前ら連れてかないなんて言ってねーぞ」


 最初は、連れて行かないつもりだった。

 大魔王って、どう考えても強いんだよ。それこそ、俺が本気出しても勝てるかな、ってぐらいの予感がする。

 だから、ヴェルクトとディアーネを連れて行ったら、最悪、2人を無駄に死なせるだけの結果になりかねない。

 だから連れて行かないつもりだった。

 ……が、仲間が居ることのメリットは多い。

 人数が増えるって事は、手数が増えるってことであり、異なる特性を持つ仲間同士と組むことでお互いの短所を補いあうこともできる。分業もできるし、手段も増える。

 つまり、そのまんま戦力が大幅に上がる、って事になる。

 例え、ずっと防御して耐え続けることしかできない仲間だったとしても、居る意味は十分にあるのだ。

 ……けど、それはその仲間が死なない、って事が大きな前提。

 つまり、『一定以上の強さ』が必要なのだ。

 ……そして、今回。大魔王に対するにあたって、ヴェルクトとディアーネの強さには不安があった。

 大魔王相手に防御一辺倒でも、死ぬ恐れがあるように思えたのだ。

 ……だが、そうも言ってられねえ。

 相手は大魔王だ。なら、こっちだって死力を尽くして挑むべきだろう。

 手数が1つでも多く欲しい。1つでも多く、盾が欲しい。

 だが、その手数や盾を失いたくはない。

 ワガママ?いいや、俺に限ってはこんなもん、ワガママの内に入らない。

 だって、これは実現可能なのだから。

 ……要は、ヴェルクトとディアーネを、大幅にドーピングできればいいのだ。




 部屋に戻って、禁呪の術式が記された紙を持って戻ってくる。

 で、ちょっと直して、2人用の術式に書き換える。この程度の書き換えなら簡単だから問題ない。

「じゃ、お前ら、明日中にこの禁呪、体得しといてね」

 ディアーネとヴェルクトが紙を覗き込んで……それぞれ、驚いた顔をして見せた。

「で、俺の魔力、半分ずつ奪ってもらうから」


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