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150話

 俺が大魔王から魔力を奪おうと思ったら、障害がいくつかある。


 1つに、俺は今、魔力なしの状態じゃない、って事。

 もう俺は魔王の魔力をぶんどって、使いこなしてる状態。

 つまり、魔力をぶんどるための材料が足りない、って事ね。

 これを解決するには、魔力なしじゃなくても魔力をぶんどれる仕組みを新しく作るか、また魔力なし状態になるべくなんかやるか。

 これについては、多分、前者が簡単だね。

 つまり、アンブレイルが俺にやったことを俺が大魔王相手にやってやればいいのである。

 当然、禁呪の構築し直しの手間はあるけど、魔力なしになる、とかいう訳わからん工程を踏まずに済むし。うん。多分こっちでいく。


 そして障害2つ目。

 大魔王の居場所が分からん。


 ……予想はついてるんだ。

 多分、大魔王、どこか別の空間に居る。

 だってそうでも無きゃ、俺が大魔王の場所を感知できないわけがない!

 ……それから、クルガさん。エーヴィリトでシャーテを手伝ってる悪魔のクルガ女史。あの人。いや、あの悪魔。

 あの悪魔、シャーテの世界裁判の前に会った時、『まだまだショーは終わらないわ。きっとね』なんて言ってた。

 つまり、あの時点でクルガ女史は大魔王の存在を認知していた、と考えるのが妥当である。

 そして、俺達人間とは異なる空間に居る悪魔、そして、自らの空間と人間の空間を勝手に繋げて行き来できる悪魔だからこそ、きっと、他所の空間についても敏感なのだ。

 そこらへんを考えても、やっぱり大魔王はどこかに空間を作って、そこに住んでる、と考えた方がいい。


 しかし、それを暴く方法がまるで分からん。

 大魔王の空間を探して乗り込まなくても、大魔王に会う方法はある。あるっちゃある。

 ……つまり、大魔王からこっちに来てくれりゃいいのだ。

 しかし!当然ながら、そんなことはさせられない。

 当然だね、だって、そんなことしたらこの世界に甚大な被害が出る。

 魔王とのドーマイラでの戦いは、魔王が魔法をあんまり使わなかったし、俺も魔法を使わなかったから被害が少なかった。

 だが、今回はそうもいかないだろう。

 俺はバンバン魔法使うし、大魔王はバンバンどころじゃなく魔法使うだろうし。

 ……大魔王を見つけられないんだったら。こちらから攻めることができないんだったら。

 当然、俺は、この世界を守る方法も考えなきゃいけないのである。




 さてさて、そうなるとどうしても色々と困って来たぞ。

 俺、攻め入るのは好きだけど、防衛はあんまり好きじゃないタイプ。

 だってさあ、全ては相手のタイミング次第、ってことじゃん。下手すると永遠にその時が来ないじゃん。

 ある程度は誘っておいてから待ち受ける、って形にするにしても、それでも細かいタイミングは完璧に相手次第じゃん。

 防衛ってのはどうしても、コスパが悪い。特に、大魔王、なんつう強敵相手だと。

 ……だから、俺は早急に!大魔王が攻めてきてもいいように!対策を取る必要があるのである!




 最初になんとかすべきなのは、禁呪だな。

 この世界を守れないことよりも何よりも、大魔王を『倒すことすらできない』ってのが一番困る。

 俺は強い。めっちゃ強い。多分、人間最強である。

 ……が、大魔王相手に戦って、100戦して100勝できる自信はない。

 滅茶苦茶強いであろう相手と戦うのに、驕る気にはなれない。

 ……とりあえず、例の禁呪が成功しさえすれば、後はいくらでも勝てるはずなんだ。あれさえ決まれば勝てる。相手の強さに関係なく。

 そういう必殺技があるのとないのとじゃあえらく違う。

 というか、俺、大魔王に対して確実に勝てる手段、ってのが魔力奪取以外に思いつかない……。




 ということで、俺は城の自室にこもって、昼夜を問わずに禁呪の読解に努めたのだった。

 ……が、どうにもうまくいかない。

 いやだってさあ、この禁呪の魔導書、言うなれば料理のレシピ本なわけだけど、そのレシピが『人参となんかを適当に切ってレンチンします。それから醤油と適当な調味料で適当に和えてから煮るか焼くかして下さい』みたいなかんじだったらさ、もう、お手上げじゃね?

 ほんと、アンブレイルの時は何をどうやって禁呪を形にしたんだよ。まじありえん。

 クルガ女史もクルガ女史だ。これを元にして何をどうやって『魔力ぶんどる装置』の構造を作ったんだ。まじありえん。




 こういう時は経験者に語らせよう。

「兄上ー、お伺いしたいことが」

「なっ!?ど、どこから入ってきたシエルアーク!」

 窓からお邪魔したら、アンブレイルは大層びっくりしてたけど、部屋に直接瞬間移動しなかっただけありがたいと思ってほしい。

「ええとですね、兄上。私から魔力を奪った時、何をどうやって禁呪を形にしましたか?」

 アンブレイルはほっといてさっさと聞きたいことを聞くと、アンブレイルはあからさまに顔色を悪くした。

「な……そ、それは」

 ……うん、アンブレイルも今更ながら、罪悪感に駆られているらしい。

 或いは、処断されることへの恐れが出てきたか。

「あ、今更それを罰しようなどとは思っておりませんのでご安心を。で、禁呪の構造を教えていただきたいのですが。或いは、禁呪を行った術師を紹介してください」

 ここでつついていじめてやってもいいんだけど、そんな暇はないのでさっさと聞く。

 ……が、アンブレイルからの返事は芳しくなかった。

「そんなことを言われても……僕はまだ幼かったから術の内容は知らされなかったし、術師はすぐに姿を消したからな、どちらも分からない、としか言いようがない」

 なんと。

「自分のことなのに丸投げなさったんですか兄上」

「しょ、しょうがないだろう!大臣や側近がそのように……!」

「主体性が無さすぎじゃないですか兄上」

「当時の僕は、と言っただろう!今同じことをやるならもっとうまくやるとも!」

「そんな状態で王になろうとしていたんですか兄上」

「だから……ええい!だから、あの時はすまなかったと思っているとも!」

「ですから、別に謝って頂きたい訳ではありませんよ兄上」

 ……アンブレイルから収穫無し、となったら、仕方ない。

 アンブレイルは禁呪について俺に貢献できないんだから、精々いじめられて俺のストレス解消に貢献してもらおう。




 アンブレイルを一通りいじめて、アンブレイルがティーナに泣きついた辺りでお暇した。

 続いて向かうのはクルガ女史の所だ。

「こんにちはー」

「あら、シャーテ王ならいつも通り執政室よ」

 瞬間移動してエーヴィリトの城に入ると、いつも通り、クルガ女史に行き会えた。ナイス幸運。

「ううん、今日はシャーテじゃなくてクルガさんに用事」

「珍しいわね。どうしたのかしら?」

 ……さて。ここで、この悪魔から情報を引き出すのには、何をどうすりゃいいんだろうか。

 悪魔だ。相手は悪魔だ。

 生半可なことしたら、俺の魂持ってかれるぞ。

 だから、取引は……極限まで、こちらを守る姿勢で行く!

「クルガさん、何か欲しいものなーい?」

「あら、何かくれるの?」

「うん。魔王討伐の時に『魔力ぶんどる装置』が役に立ったからさ。お礼に何かプレゼントしたいんだけど、正直悪魔が欲しがるものなんて分かんねーのよ」

 俺がそう切り出すと、珍しく、クルガさんは少し困ったような顔をした。

「そうね……」

 ……困ってる。困ってるぞ。

 悪魔との取引は、正当な対価を元に行われる。

 つまり、俺があげちゃったら、クルガさんはやっぱり俺に何かをあげなきゃいけないのだ。

 当然、クルガさん側としては『自分が欲しいものの情報』を俺に与える、って事もできる訳だけど、そんなことをすると、『二度目以降』で困る。

 次からは俺にその『欲しいもの』を持ってこられて、もっと大きい要求をのまされることになるからね。

 だから、クルガさんの最善手は、ここでうまくはぐらかすこと!そして、欲しいものは言わず、俺からのプレゼントはつっぱねること!

 だが、そうなっても俺は無理やり色々クルガさんにプレゼントするぞ!

 ほら、俺、防戦は嫌いだけど攻めるのは好きなタイプだから!

 ……なんて、思っていたんだけど。

「……あなたなら、私のコレクションを増やす手伝いをしてくれそうね」

 あ、あらっ?

「私、『矛盾したもの』が好きなのよ」

 ……あっさり、情報を頂けてしまった。




「矛盾」

「そう。矛盾。……『赤い青い鳥』、『丸い四角』、『純粋無垢な殺人鬼』。それから、すべすべしていないスベスベマンジュウガニとか、トゲナシトゲアリトゲトゲとか……『人の命を取っていない死神草』とか、ね?」

 コレクション、見る?と、ありがたい提案を頂いてしまったので、クルガさんに連れられてクルガさんの空間にお邪魔する。

 クルガさんは空を指でなぞると、そこに入り口ができて、中には豪奢なコレクション・ルームがあった。

 ガラスケースに収められているものは、成程、確かに『矛盾』したものだらけであった。

 ……トゲアリトゲナシトゲトゲとか、俺、初めて見た……。

「素敵でしょう?」

「うん、素敵」

 クルガさんはガラスケースの中をうっとりと見つめている。

 うん、その表情が素敵。

「でも、矛盾を探すのは悪魔にとっては難しくてね?悪魔は不条理な存在だから、矛盾を矛盾と判断するのに時間がかかるのよ。だからこそ、矛盾を眺めているのは楽しいのだけれど」

「そこで、俺が手伝えばもっといっぱい矛盾を集められる、ってことか」

「そう!シャーテ王はそのあたりの機微に鈍いでしょう?けれどあなたならこういうことも得意そうだわ。矛盾を集めてくれたら、あなたの望みを叶える手伝いもしてあげましょう」

 成程。これも取引の形か。

 お互いがお互いを貪りあうような取引じゃない取引って、悪魔とやってるとなんか変な気分だね。

「オッケー。じゃあ、俺は矛盾してるようなものを集めて持ってきてやるよ。そしたら、クルガさんは『魔力を奪う禁呪』の術式を教えて?」

「ええ。必ずやお手伝いしましょう。交渉成立ね」

 クルガさんと握手して、交渉成立。

 ……となれば、もう禁呪の心配は要らないかな。

 矛盾してる物なんて、詳しい奴が知り合いにいっぱい居る訳だし。




 ということでやってきましたコトニスの森。

 会いに来ました妖精さん達。

 当然、『矛盾してる物が欲しいんだけど』なんて言わない。

 そんな言い方をして、この妖精共が素直に言う事を聞いてくれるわけがない。

 なので俺は考えた。

 ……『矛盾してる物を持ってくる競争』を開催した!

 優勝賞品はおやつ。参加賞もおやつ。

 そしたら妖精共持ってくるわ持ってくるわ、矛盾したものの数々。

 こんがりきつね色してる白天葵とか、がっちがちの白雲蔦とか、めっちゃでっかい姫鈴蘭とか。

 酷い奴だと、確かに『硬鋼石』なのに、ぷよんぷよんしてるとか。

 多分、妖精魔法を掛けていたずらした代物だろうけど、どうなってんだこれ。

 あとは、妖精たちがそういったものをもってきて『どうだ!どうだ!』ってやるのを褒め称えてやり、全員にご褒美としてたっぷりおやつを与えれば、妖精も嬉しい、俺も嬉しい。誰も損をしない素敵な関係。

 さーて、これクルガさんに持っていって禁呪の術式もらってこよーっと。




 クルガさんにそれらをまとめて持って行くと、大層喜んでくれた。

 そしてまた素敵な笑顔を浮かべながら、コレクションルームのガラスケースにそれらを納めてまたうっとり。

「魔力を奪う禁呪の術式なら、明後日までに組み上げるわ。楽しみにしていてね」

 そして、ひどくご機嫌な悪魔は、そう言ってまた、一気に増えたコレクションを見てうっとりし始めたのだった。

 幸せそうで何より。




 こっちが済んだら、もう1つの方の問題だな。

 ……つまり、俺が防戦側になる以上、どうやってこの世界を守るか、である。


 ただ単純に守る、っつっても、結界で世界を覆う程度じゃ、到底間に合わないだろう。

 間に合わせようと思ったら、俺をあともう2人ぐらい連れてこないと駄目だと思う。

 大体、結界だけに全力を尽くしちゃったら、大魔王を倒す人が居なくなっちゃうし。

 大魔王と世界を隔離するにも、大魔王を別空間に入れて、そこで戦う、ってのもナシ。

 だって、どう考えても今の俺よりも大魔王の方が魔力量が圧倒的に上だもん。

 そんな奴が俺の作った空間を内側から破れないわけがない。

 ……だが、天才たる俺は、こんなこともあろうかと!この世界を守る方法を前々から考えていたのだ!

 材料は足りる。前々から用意してたからね。

 あと、必要なのは……俺への忠誠。圧倒的忠誠。そして、信頼。

 世界中の生きとし生けるものすべてが、俺に対して命を捧げる程の忠誠、信頼を寄せてくれることだな!

 ん?勿論、大丈夫大丈夫。彼らを犠牲にしようって話じゃないから。

 ただちょっと、俺に世界を捧げてもらうだけだから。


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