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147話

「シエル。これは……こういう魔法があるのか?」

「無いわけじゃない。無属性魔法とか光魔法の幻覚系じゃない以上、多分、闇魔法の手合いだな、こりゃ」

 空は相も変わらず暗く、夜の様相を呈している。

 しかも、ただ、夜ならいいんだ。月明かりでそこそこ色々照らされるだろうし。

 ……だが、この夜空、真っ黒なのだ。

 月も無い。星も見えない。

 暗雲でがっつり覆われている、というよりもいっそ、墨で塗りつぶしました、と言われた方が納得がいくような、そんな空。

 間違いなく、人為的な、魔術的な代物である。

 ……それも、かなり大掛かりな。

「こんなことをしそうなところは1つしかないわ。そうじゃなくって?シエル」

「うん、俺もそー思うよ」

 ……ということで、ちょっと休んだら、早速フォンネールに行ってみようじゃないの。

 あのジジイ、何しやがったんだ。




 まずは一旦、アイトリアの城に戻った。

 流石に徹夜のまま戦闘開始、ってのはいただけないからね。ちょっと寝る。

 ディアーネにも客間を用意してあげようとしたんだけど、ディアーネはゲート経由でクレスタルデに戻る、って事だったのでそういうことにした。

 まあ、ディアーネは自分の装備を自宅に置いてるからね。一度取りに戻らなきゃいけなかったし、家の方が落ち着けるんならそっちの方が良いか。


 そして昼すぎ。……つっても、未だ空は黒く暗く、全く昼間っつう感覚が無い。

 この異常事態に民衆は不安がってるが、とりあえず『俺をどなたと心得る!先のアイトリウス次期国王、シエルアーク・レイ・アイトリウス公にあらせられるぞ!』ってやって安心がらせてきた。

 アイトリアは俺のお膝元だけあって、そういう事言うとちゃんと『ははーっ』ってやってくれるノリの良い国民だらけである。気分が良い。

 ヴェルクトはその間にちょっとネビルムに寄って、ルウィナちゃんの様子を見てきた模様。

 ネビルムの結界はアイトリアと同レベルまで強化してあるからな。そうそう破られないとは思うけど、村人は心配がっていたのでそこら辺の不安解消のためにも、ヴェルクトは色々働いてきたんだそうだ。

 そんなこんなの内にディアーネが戻ってきた。

 今度は、いつもの大胆なドレスに貞淑なマント、そして炎の石がはめ込まれた、世界最強の炎の杖、っていう装備をしている。これならディアーネも本気で戦えるね。




 ってことで、気は進まないんだけどしょうがない、フォンネールの首都キュリテスに瞬間移動する。

 ……が。

「あれっ、おかしーな」

「おかしいのか?」

「うん。城の中、玉座の間に瞬間移動したつもりだったんだけど」

 そう。フォンネールはキュリテスの城、ジジイが居るであろう玉座の間に直接お邪魔しますするはずが、キュリテス郊外に到着してしまった。

 そして、目の前には壁がある。

 濃い闇でできた壁はドーム状にキュリテスを覆っているようで、終わりが見えない。

 ただでさえ空が暗くて真っ暗なのに、更に濃く真っ暗ってどういうことだ。

「シエル、この壁を破れるかしら?」

 ディアーネはお手上げらしい。ちょっと炙ってみたりしてたけど、多分、炎で散らせる類のものじゃないんだろう。

「んー……いや、やめとこう」

 そして俺もお手上げだ。

「珍しいな」

 ヴェルクトが珍し気に俺を見てくるが、俺だって全知全能じゃないからね。限りなくそれに近くはあるけどね。

「これ、下手に崩すと中がどうなるか分かんないから」

「……ああ、そういう事か」

 俺、自分以外のすべてをどうでもいいものとすれば、多分、何でもできるよ。嘘偽りなく、驕りでもなく、本当に何でもできると思う。

 ……が、俺、どうにも俺以外のものにもご執心だからね。俺以外の何かをどうこうする……例えば、『守ろうとする』なんて事になったら、流石に『何でもできる』とはいかない。

 今回の場合、魔法ぶっ放して闇のドームをぶち壊すことは簡単だ。

 だがそうしちゃった時、闇のドームの中に居るであろうキュリテスの民、そこに根付く文化……そういったものは失われてしまうかもしれない。

 つまり、ここが俺の腕の見せ所なのだ。


「バキバキに破壊せずに、綺麗にさくっと一部分だけくり抜ければいい気がするんだよね。んで、中に入ったら中から補強しとけば猶更安心」

 ドームは闇でできている。凝り固まって、物理的な壁にすらなる闇だ。当然、魔術的な代物である。

 つまり、魔力を見る目で見てやれば、強い所と弱い所がなんとなく見えてくるのだ。

「じゃ、ヴェルクト。ここからここまでよろしく。光の短剣でスパッと行けば多分平気。魔力と魔力が干渉して、闇のドーム側が斬られた所を補強しようとすると思うから、崩れないはず」

 そして、その中でもそこそこ強そうなところを選んでヴェルクトに指示すると、ヴェルクトは光の短剣を振り……すぱり、と、闇のドームを切り裂いてみせた。

 が。

「……駄目だ。刃渡りが足りん」

「ちょっと待てよこれどんだけ分厚いんだよ」

 光の短剣は闇のドームを深く傷つけたものの、向こう側が見えるには至らなかったのである。

 ……となれば、やることは1つだ。めんどくさいけどしょうがない。

「じゃ、ちょっとエルスロア、行くぞ」




「やっほーウルカ元気ー?」

 エルスロアはフェイバランド、ウルカの店に瞬間移動すると(瞬間移動なら道に迷う事も無いんだなこれが!)ウルカが出迎えてくれた。

「ああ、シエルアーク、よく来た!……この空は一体何なんだ?どうなっている?」

「まあまあ。それを今からどうにかしてくるから。『勇者』に相応しい剣、引き取りに来た」

 ウルカもこの黒い空の下、不安な心持で居るらしい。……いや、不安か好奇心か微妙なラインだけど。

「ああ、やっとか。全く、いつになったら来るのかと思っていたよ」

 そして用件を伝えると、ウルカは奥へ引っ込んでいって、布に包まれた剣を持ってきた。

「ほら、持っていけ。……一応、使えるところを見せてもらおうか」

 中身は『光の剣』である。

 勿論、旅の道中で俺とウルカが強化した奴ね。アンブレイルが全然刃を出せなかった奴ね。

 ま、それも今の俺にかかれば、余裕で刃を出せるんだけどね!

「ま、大丈夫。この通り」

 魔力の刃が伸び、光を放ちながらその実体のない姿をどこまでも強く目に焼き付けていく。

 一言で言ってしまえば、美しい。

 だが、一目見ただけで、その美しさの裏に残酷なまでの鋭さがあることも分かるのだ。これはもう、ある種の畏怖すら感じさせる。

 多分、武器としての美しさっていうのはこういう事を言うんじゃないかな。

「……シエルアークが使えないとなったら最早、この世の誰にも使えないだろうと思っていたが……実際に目の前で使われてしまうと、なんとも言えないな……」

 ウルカは呆れたような、感激したような、複雑な表情を浮かべて光の剣を見つめていた。

 自分の道具が正しく使われる喜びと、スペック……使用魔力量を知っている製作者からの慄きとの半々、ってところかな。うん。俺も自分でちょっと驚いてるもん。


「んじゃあ、ちょっとこれ持ってフォンネール行ってくるね」

 光の剣の刀身をしまうと、ウルカは晴れ晴れとした顔で俺達に手を振った。

「ああ。使い勝手を後で教えてくれ」

「それなら先に言っておくよ。最高だ、ってな!」

 光の剣を携えて、向かうは闇に閉ざされた城、ってな具合だ。

 うーん、中々に『勇者』っぽくない?

 ……ということは、中に居るのは『魔王』なのかね。




 キュリテスを覆う闇のドームも、光の剣によって切り裂かれ、トンネルのように入り口を作ってくれた。

「あっ、光が」

「見ろ、あっちから光が!」

 そして、ドームの中からはそのトンネルの入り口が光溢れる出口に見えたらしい。

 人々が光を求めて一斉にこちらへ向かってくるのが見えたので、流石にちょっと止まってもらう。

「はいはい、ちょっとじゃあ中も明るくしちゃうよー」

 その為に、俺は光のドームを生み出す。

 目測と魔力の流れから、闇のドームの中心を割り出し、そこを中心にして半遠隔にて光のドームを展開する、というう中々に高度な技であったりするんだけど、それはいいや。

 ……とにかく、外側から壊すとどうしても内側に被害が出ちゃうけど、中から闇のドームを押しのけるようにして光のドームを展開すれば、内部への被害は最小限に抑えられる。

 それも、高度に計算された魔法により、闇と光とで完璧に相殺するように……。

 ……あ、俺が斬って開けた分、計算に入れてなかった……。


 多少、光が過多になったけど、んなもんは誤差の範疇だ。うん。

 とにかく、闇のドームは払われた。

 外は黒い空だが、それでも闇のドームにすっぽりしてるよりはよっぽど明るい。

 さっき、ドームの外に出ようとしていた民衆たちが空を見上げ、歓喜の声を上げる。

 ……つまり、この民衆は闇のドームを望んでなかった、ってことだよね。

 うん、あのジジイ、ほんとに何してるんだろう。




 民衆のために、瞬間移動ゲートを臨時設置した。

 今から1時間だけトリアスタに繋がるっていうだけのゲートだから、魔法陣書いて魔力注ぐだけね。作りもちゃっちい。

 が、とりあえず……今、このキュリテスに人が居て、良い事があるとは思えない。民衆も多分、ここに居たくない。

 ならば、民衆の避難を手伝ってやるべきだろう。王として、勇者として。

 ……そして発展途上のトリアスタに人を送ることでより労働力を確保するチャンス!さあ移民どもよ、アイトリウスへ移り住み、アイトリウス発展に尽くすがいい!




 民衆の避難をある程度手伝ったら、城へ向かう。

 相変わらず、瞬間移動は使えないらしかった。

 なんか、電波の調子が悪いっていうか、魔力でかく乱されちゃうっていうか。そんなかんじだ。

 しょうがないから、歩いて城まで向かう。

「……あなたはアイトリウスの」

 そして、そこで門番と鉢合わせた。当然だね!

「悪いが通るぞ。怪我はさせたくない。退いてくれると嬉しいんだが」

 門番は困ったような顔で、力なく槍を構えるだけだ。

 そして、隣の門番同士が顔を見合わせて……黙って、道を開けた。

「礼は言わないからな。……南へ向かえ。時間限定の魔法陣がある。アイトリウスへ行ける」

 俺達が門番達の横を通り過ぎた後、門番達はしばらくそのままだったが……やがて、彼らもまた、アイトリウスへの魔法陣に向かっていった。




 城の中を進む。

 城の中はがらんとして薄暗い。

 元々、フォンネールからアイトリウスへ移住してくる人も多かったし、キュリテスが現に今こんな調子なんだから、人が逃げていっちゃった結果なのかもしれないね。

 薄暗いのは……まあ、あのジジイが色々やってんだろ、どうせ。

 所々に残っている人に瞬間移動の魔法陣の事を教えてやって逃がしてやりつつ、玉座の間へと向かっていく。

 深い闇色の絨毯を進んでいけば、やがて、重厚な扉の前に行き付く。

「奥から不穏な気配を感じる」

「そうね。強すぎる闇の気配……いい予感はしないわね」

 扉の奥からは、俺が倒した魔王に匹敵するかという程の気配が漏れてきている。

「よし。……覚悟はいいな?」

 ヴェルクトとディアーネが俺の言葉にうなずくのを確認して、俺は扉を開けた。


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