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145話

 華やかな宴は続き、夜も更けていった。

 ちらほらと帰る貴族も居る中、残る貴族も居たし、民衆は民衆で楽しくやってたんで、宴はその興奮を冷ますことなく続いた。

 しかし、月も高く登る頃になると、流石にそろそろお開きにしようか、という雰囲気になってくる。

 会場の掃除は俺が無属性魔法でぱぱっとやってあげたし、燃やすものはディアーネがやってくれたし、酔っ払いにはヴェルクトが逐一酔い覚ましを配ってあげたし。

 なんだかんだ俺達も働かされつつ、宴の後片付けを行う。

 特に、貴族とか居ると、下手な対応できないしね。どうせ相手は酔っ払いだからあんまり気にしなくてもいい気もするけどね。

 ……そして、そんな時だった。


「……風が」

 ふと、頬を撫でる風に違和感を覚えた。

 生ぬるいような、ねっとりするような……少なくとも、良い予感はしない。

 ディアーネとヴェルクトも同様の物を感じたらしく、表情を引き締めた。

 そして、あーなんかやだなあやだなあ、絶対なんか来るぞこれ、と思っていたら……案の定、それらはやってきた。

 視界に映ったのは、一瞬。

 そして次の瞬間には、結婚式の会場はもう、深い闇に閉ざされていたのであった。




「おーい、みんな無事!?」

 が、ここでも俺は流石であった。

 一瞬でやるべきことを判断した俺は、会場全体を覆うように結界を張って、闇の侵入を防いだのである。

「これは一体……!?」

「なんということだ、辺りが真っ暗では無いか!」

「何、何が起きているの!?」

 が、それだって、民衆や貴族達は混乱を隠そうともしない。

 パニックはパニックを呼ぶ。そして連鎖して増幅されて、会場……俺の結界内はすぐ、騒がしくなった。

「うるせー!落ち着け!」

 なので、風魔法の妖精魔法を駆使して、全員黙らせる。

 ……こんなことをできるのも俺だからこそだね!

「落ち着け!私がここに居るのだ、誰一人として傷つけさせはしない!」

 だが、いつまでも黙らせとくのもアレなので、さっさと民衆の統治を行おう。

 静まり返った会場内で光魔法を使って、俺自身をライトアップしながら、民衆に呼びかける。

「ここにいる者は誰だ!私は誰だ!知らぬとは言わせないぞ!……私は『勇者』にして『アイトリウス次期国王』!シエルアーク・レイ・アイトリウス!世界最強とは私の事!さあ、それでも不安がある者は居るか!」

 風魔法を解いて、全員喋れるようにしたけれど、不安の声は上がらなかった。

 こうして、会場内のパニックは沈静化したのである。


 が、パニックが沈静化したからって、状況は解決しない。

「ディアーネ。これ、何だと思う」

「私達がドーマイラ近海で戦った水の大蛇。あれと同じ気配を感じるわ。どうかしら、シエル」

「うん、俺もそんな気がする」

 ディアーネに意見を求めてみたが、やっぱりディアーネも俺と同じ意見だった模様。

 ……つまりこれは。

 最近ときどーき出てきては討伐されている、謎の強い魔物と同種のものだ。

 水に魔力をただ零したが如く、闇に魔力を零して形作られたような、そんな魔物の仕業だろう。

 ……だが、今回は一味違うらしい。

「だが、気配が1つじゃない。……数えきれない数の気配が凝り固まって、1つに思えるが」

 そう。今回は、でかくて強いの一匹、では無い。小さくて強いのいっぱい、なのである。




 結界にへばりついている闇。これが多分、魔物そのものなんだろう。

 という事は、結界を解いた瞬間から、魔物の総攻撃が始まる訳だ。

 うーん、それはちょっと嫌ねー。

「この中で戦える者は進み出よ!自信が無い物は無理にとは言わない。足手まといは不要だからな」

 なので、とりあえずまずは、戦闘員と非戦闘員に分ける。

 ……結果、俺とヴェルクトとディアーネ、そして貴族の護衛をしていた騎士や術師数人、そしてアンブレイルとティーナがやってきた。

 そーいや、こいつらもそこそこには戦えるんだっけ……。

 まあいいや、こいつらにブースト掛ける方法はいくらかあるし、俺がちょっとお手伝いしてやれば結構使えるだろうし。

「では、それ以外の者はこちらへ!」

 そして、戦えない連中を一か所に集める。

 戦えないんだったら、せめてこっちが気を遣わなくてもいいような状態になっててもらわなきゃね。

「では、これから戦闘が終わるまで諸君らには結界の中で待機していてもらう!」

 ということで非戦闘員はさっさと空間(バスケットボールのコートぐらいの広さ)を作って、そこに放り込んでいった。

「……シエル、少し狭くないか?」

 人が結界の中に詰め込まれていく様子を見ていたヴェルクトは、やや慄いたような表情で俺を見ていた。

 うーん、確かにちょっと狭く見えるかもしれない。人の数は野球チーム3、4つ分なのに、結界はバスケットコートサイズだからね。

「あんまり広くするとスペックが落ちるんだよ」

 結界はその範囲が狭けりゃ狭いほど効果が高い。

 同じ分量のコンクリを使って小さいドームとでかいドームを作るんだったら、当然、でかく作ろうとする方が壁が薄くなっちゃうんだよな。

 勿論、コンクリもとい魔力の量を増やせばでかくて壁の厚い結界も作れるんだけど、それをやろうとすると今度は俺に負荷がかかりすぎる。

 なんでこれから戦うっつってんのに、わざわざ非戦闘員のために労力を無駄に使ってやらなきゃならんのだ。俺は嫌だぞ、そんなのは!


「ま、さっさと戦闘終わらせて出してあげればいい話だからな。それまでは狭いのぐらい我慢してもらおうぜ」

 ま、つまり、結論はこうなる。

「そうね。簡単な事だわ。……この程度の魔物、すぐに焼き尽くしてあげるわ」

 ディアーネも笑ってそう言うと、会場に残っていた水を一気に飲み干した。酔いを醒ましたらしい。

 既にその瞳には好戦的な炎が踊っている。

 ただ、今日は流石に携帯用の杖しか持ってないらしい。ちょっとスペックは落ちるかもね。

「……まあ、どちらにせよ、俺がやることは変わらない、か」

 ヴェルクトは苦笑いを浮かべてから表情を引き締めて、腰のベルトから二振の短剣を抜いた。

 こいつ、真面目が功を奏して、一切酔ってないからね。いつも通り、いや、いつも以上のスペックで働いてくれるだろう。

 ……いや、オーリス村で酔って暴れ回った、って話聞く以上、もしかしたら酔ってた方が強いのかもしれないけど……でも、今は理性で戦ってほしい場面だ。やっぱりこいつ、酔わないでくれててよかった。


「おい、シエルアーク!早く結界を解け!このままでは進むも戻るもできないぞ!」

 そして、こいつ……アンブレイルである。

「兄上。本当に戦うんですね?」

「当たり前だ。ここは僕の領地だぞ」

 ……ま、今は猫の手も借りたい、って所か。

「そうですか。その鎧と剣は一応、使えそうですね。ティーナ嬢は?」

「私だって、トリアスタ伯婦人なのよ?勿論戦うわ」

 うん、ティーナの方はちょっぴり期待。儀礼用の杖しか持ってないみたいだけど、まあ、その分でかい一発を撃つには中々いいコンディションだろうし。

「では、兄上。……これをどうぞ」

 という事で、俺は、その場でさらさらっ、とメモを書く。

「これは……これは!?」

「魔法剣の術式です。兄上がノートにお書きになっていたものを拝見しまして。間違っていた所を修正して実用できるように直しました。使って下さいね」

『兄上がノートにお書きになっていたもの』。つまり、あれである。

 アンブレイルの部屋から発見された、『ぼくのかんがえたさいきょうの魔法剣』のノートである。

「き、貴様、あのノートを、というか、そもそも僕の部屋を漁ったのか!?」

「兄上だって私の部屋を漁ったでしょう。それどころか、それ以上のことだって。なんならもっと言いましょうか?ん?」

 やっぱりそこら辺を恥と思う心はあるのか、アンブレイルが無意味に怒ってきたけど、それを上回る恨みつらみの片鱗を見せてやれば、ぶつぶつ言いながらもすぐ大人しくなった。これ以上つつくと鬱入ってまためんどくさいことになりそうなんで、いじめるのはやめておいてやろう。

「魔物の数は多そうですから、消耗したと思ったら潔く退いて下さいね。死者は出したくない」

「魔物如きにこの僕が退くとでも?」

「退いて下さいね。身の程は自分で正しく判断してください。そしてわきまえてください」

 当然、俺の正論に対してアンブレイルはぐうの音も出ない。

 一々こんなところで手間取らせないでほしいよね!


 今一つ頭の悪いアンブレイルにもう一度念押ししたら、次は各貴族の護衛達だ。

 術師には簡単で実用的な魔法をささっと教え、騎士には身体能力強化の魔法を掛けてあげた。

 ……これでとりあえず、この魔物の大群への対策は出来るだろう。

 簡単な事だ。99%を俺が片付けて、残り1%の撃ち漏らしを残りの連中で片付ければいいんだから。

 あとは、誰も死なないでくれればそれでいい。

「では、結界を解く。一気に来るぞ!……3、2、1!」

 結界を解くと同時に、最早1つ1つの形すら分からない程密集した魔物の大群が雪崩れ込んできた。




「先手必勝!必殺!光古代魔法ビーム!破ァーッ!」

 なのでとりあえず、一発ビーム撃っといた。

 光魔法を束ねて極太のビームにした魔法は、魔物の壁を貫き、一瞬、夜空をのぞかせた。

 ……が、その穴もすぐに埋まる。

 相当数の魔物を巻き込んだと思うんだけどね。全く、敵はとんでもない数らしい。

 ディアーネの炎が勢いよく魔物の群れを焼き、ヴェルクトも一対一は効率が悪いと判断したか、無属性魔法と風魔法で応戦する。

 アンブレイルは早速、例の魔法剣……光魔法で剣のリーチをとんでもなく伸ばす奴を使って、魔物をえっちらおっちら薙ぎ払っている。……なんか見ててハラハラするんだけどなんでだろ。

 ティーナは流石というか、闇には光だろう、と判断したらしく、光魔法の中魔法で魔物と応戦中だ。

 魔物は確実に仕留められ、確実に減っている。

 ……減っている、はずだ。

「おい、敵の数が全然減っていないぞ!」

「これ、本当に数に限りがあるのか!?」

 だが、どうにも、それを実感できない。

 魔物の群れは最早、俺達を攻撃できる距離にまで近づいていた。そうなる度に俺が光魔法で押し戻したりしてるんだけど、なにしろ数にキリが無いのだ。

 近づいたときに『多分この魔物はコウモリ型してるのね』って事が分かったぐらいで、魔物の情報もほとんど分からん。

 闇でできた、コウモリ。それも、超大群。

 そして、決して弱くは無いのだ。これが。

 ディアーネの炎や俺の魔法なら、当たれば一発KOできるんだけど、ヴェルクトの魔法レベルになっちゃうと、数発当てないと殺せない。

 しかも、俺やディアーネの魔法についても、結構避けてくる。

 1000狙って撃ったのに当たるのはいいとこ200、300……ってな感覚だ。それでも、かなり多いとは思うけどね。

 もうヴェルクトはそこらへんが分かったらしく、当たるを幸い的な白兵戦に切り替えていた。

 必ず当てて、必ず殺す。そして速い。うん、生半可な魔法使うよりはよっぽどいい。


 ティーナの魔法やアンブレイルの魔法剣も同じようなもんで、一撃で殺すには威力が足りない。

 魔物を遠ざける事は出来ても、必ずしも殺せているとは限らない。他の騎士や術師も同じようなものだ。

 時々、悲鳴が上がる。

 防御しきれずに攻撃を貰っちゃう奴も出てきた、って事だ。

 すかさず、光系の持続系回復魔法を飛ばしてやるけど、これも焼け石に水、ってかんじかもしれない。

 ……相手の数は数限りない。

 何匹居るのかも分からない。

 そして、強い。

 ……うーん、どうしたもんかな。




 魔物が1つの魔法をコアにしているなら話は簡単だ。そのコアを破壊すればいい。

 だが、これはそういう魔物じゃない。

 1匹1匹が独立した、完全な『個』の集まりだ。

 倒すには1匹1匹殺していくしかない。

 まとめて焼き払いでもしない限り、一気に殺すことはできないのだ。

 だが、まとめて焼き払おうにも、一気に殺せる数は全体の中のほんの微々たる割合でしかない。

 なんといっても、相手はコウモリ。こっちの魔法を察知して避けるぐらいはやってくるし、避ける奴を巻き込むのは難しい。

 だって、俺とディアーネが(ディアーネが不調だとしても)全力で魔法撃って、それでも魔物の切れ目が見えないのよ?ちょーっとこれ、異常だとしか思えねえ。

 ……原因が無いとは思えない。

 でも、原因が見つからない。

 ……ドーマイラの異常なしを確認した時みたいな、もやもやした感覚が襲ってくる。

 あー、気持ち悪いな!こいつらまとめてゴミ袋に入れて燃やせるゴミに出してやりてえ!

 こう、市の指定外のゴミ袋……スーパーのレジ袋とかにぎゅうぎゅう詰めて、口をぎゅーっと縛って、火の中に放り込んでやりてえ!

 或いは、鉄の金庫の中に詰め込んで、ぎっちりロックして、そのまんま火にくべてやりてえ!

 ドラム缶の中にコンクリと共に詰めて東京湾にドボンでもいい!

 ……どうでもいいのだ。もう。火にくべるんでも、剣でめった刺しでも、なんでもいい。

 何でもいいけど、とにかく『詰め込んで逃げられないようにしてやりたい』。

 そう。

 ……ジップロ○クに詰めるみたいに、な!


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