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140話

 さて、フォンネールの事はもう知らん。

 フォンネールが持ってる一番怖い武器は封印したも同然だし、これ以上何かしようったって、もうどうしようもないだろう。

 今までは多分、暗殺者みたいなのを雇って(或いはそういう仕事をする奴をフォンネールの城で囲っておいて)、そいつによって毒物ピンポイント爆撃みたいなことをしてたんだろうな、と思うんだ。

 しかし、毒物が使えなくなった以上、その暗殺者くずれは純粋な武力で戦わなきゃいけない。

 そして、各国がそれに警戒しない訳が無いし、防衛するだけの武力が無いわけがない。

 よって、実質、フォンネールがこっそり裏から各国に手を回す、なんてことは出来ないのである。

 それだけでなく、フォンネールは各国に対して滅茶苦茶心象が悪いので、多分、これから相当苦しいんじゃないかと思われるね。

 ……一応、今回の毒物騒ぎに関して、フォンネールには逃げ道がある。

 なんせ、星屑樹はフォンネールでしか産出されないけど、その葉や枝が各国に流通してない訳じゃない。フォンネールは星屑樹で一財産築いてるんだ。当然、売ったりもしてるから、別にフォンネールだけが星屑樹の毒を手にすることができる訳じゃない。莫大なお金と相当な技術があれば、フォンネール王家じゃなくたって星屑樹の毒を入手することは可能だ。

 だから、いざとなれば『フォンネールの犯行に見せたい誰かの犯行だ』とか、『フォンネールの過激派組織が勝手にやった事だ』って言い逃れできるんだよね。

 ……けど、いくら証拠が無くて訴えられないっつっても、心象ってのはどうしようもないからね。

 ましてや、今までフォンネールは星屑樹を輸出することで立場を保ってた所があるけど、それも今や、『暁の樹』に需要を取って代わられている。

 となれば、もう各国にはフォンネールと仲良くしてやる意味が無い。

 ……そうなればフォンネールは貧しくなるし、国が貧しくなれば国民はよその国に流出していく。

 そうすればますます国が貧しくなっていくから、フォンネールは滅亡の危機である。

 優秀な人材ほどさっさと流出していくからね。多分、お隣さんであるアイトリウスにはフォンネールの優秀な人材がいっぱい来てくれることだろう。

 俺はそれを期待して、門戸を大きく開いておくことにしようかな。




 実質的に新制エーヴィリトを認めることになった件の世界裁判から1週間。

 俺は世界裁判の準備中に溜めてしまったお仕事をざっくり終わらせて、エーヴィリトに遊びに行くことにした。

 何のためかっつうと、ディアーネのため……もうちょっと詳しく言うと、ティーナ・クレスタルデとアンブレイルのため、である。


「こんちわー。シャーテ居る?」

「本人を目の前にそれを言うか」

 執務室にはもうお邪魔したことがあるから、瞬間移動で直接執務室にお邪魔した。

 シャーテはエーヴィリトの新しい体制づくりのため、昼夜を問わず働いているらしい。まあ、元々出来上がっていたものをぶっ壊して、新しく作り直して、それを動かし直す、ってのは相当に大変な事だからね。お疲れ様。

「今暇?」

「暇に見えるのか」

 そして当然ながら、暇そうには見えない。

 この忙しさを世界裁判からずっとやってるんだとしたら、こいつは社畜の鑑だな。いや、国畜か。うん、公務員としては正しいことこの上ないね。お疲れ様。

「……だが、休憩を挟むくらいはしようか。流石に疲れた」

 が、流石に魂が不滅でも体は普通にガタが来るもんね。休憩も大事だと思うよ。

 ……俺が来なかったらシャーテ、過労死してたかもね。いや、その前にクルガ女史からストップ掛かるか……あれ、じゃあ、まだストップがかかって無かったって事は、まだシャーテは働けた……?いや、それでも効率は落ちるもんね。うん、適度な休憩は大事。




「あのね、お前のおねーちゃんの様子を聞きに来たわけよ。色々とアンブレイルに報告してやりたいし」

「ああ、成程な。アンブレイル殿下への報告、か。……本当に、うちの姉がそちらの兄上には失礼をしたな」

「うん。ありがたい。婚約破棄のおかげでアンブレイル、相当凹んでたし」

 むしろもっと大体的にフって頂いてだな、もっとアンブレイルを凹ませてくれても良かった。

 元々はエーヴィリト革命に巻き込んで凹ませる予定だったからね。もっともっと凹んでくれる予定だったっていうのに、結局アンブレイルに入ったダメージって、婚約破棄された分だけだもんね。

 もうちょっとアンブレイルはダメージ喰らってもいいと思う。うん。




 ってことで、早速地下牢に案内してもらった。

 エーヴィリトの地下牢は、魔を滅する聖石でできている。

 魔鋼の格子さえなければ、ただの真っ白くて綺麗な石造りのお部屋である。……真っ白すぎて気が狂いそうになるかもしれないけどね!

「……少々うるさいかもしれないが、それは我慢してくれ」

 先を行くシャーテの言葉の意味はすぐに分かった。

 シャーテが地下牢にやってきたと分かるや否や、囚人たちの声が降り注ぐ。

 それは許しを請う声であったり、シャーテへの罵倒であったり、祈りの句であったり。

 だが、シャーテはそれらに耳を貸すことなく、さっさと歩いて先へ向かう。

 ……しかし、ここら辺にぶち込まれてるのは腐敗してた聖職者や貴族、って事なんだろうけど、結構な数が居るね。

 通路の両側に牢が並んでるんだけど25は牢を通り過ぎたから……50人ぐらいは収監されてる、って事なのかな。

 勿論、この50人のうち35人ぐらいは元・聖職者である。全く、よくもまあ、こんなにいっぱい腐ったもんだね。




「姉上と父上はこの奥だが。……姉上とだけ話せればいいだろうか?」

「あー、うん。それでいいや。お前の親父さんがこの期に及んで何言ってるのかは気にならんでも無いけど」

「気にするほどのものでも無いぞ。『今なら許してやるから早くここから出せ、女神様の天罰が下る』。それだけだ」

 成程、本当に気にするほどのものでも無い。

 改めて、シャーテがエーヴィリトをぶっ壊して作り直してくれてよかったなあ、と思う程度でおしまい。

「全く、父上も姉上もせめて、現状を理解して、改めるべきところを改めてくれればよいのだが。……あれで未だに国王気取りに次期国王気取りなのだから困る」

 シャーテはぶつぶつ言いながら、牢屋の鍵を開けてくれた。

「一応、何かあったら呼んでくれ。魔封じはしてあるが、飛びかかってこないとも限らないからな。私は一度、腕に噛みつかれている」

 え、何、噛みついてくんの?一応、仮にも、数週間前まで普通にお姫様してた人が?

「お前のねーちゃんは狂犬かよ!ったく、それじゃあもう王族らしさの片鱗もないのな?お姫様が聞いて呆れる」

「それをお前が言うか?」

 えー、俺は実に王族らしい王族だと思うけどお?

 ……うん、まあ、うん。シャーテの言い分も分からんでも無いけどね。


 牢屋の中に入ると、そこは案の定の真っ白空間であった。

 そして、聖石のブロックと純白漆喰の真っ白けな牢獄の中に、淡い金髪に淡い緑の目のパステルカラーなお姫様。

 一見、砂糖菓子か何かでできた光景のようにも見える。

 ……パステルカラーなお姫様が飛びかかってこなけりゃな!

「私を誰だと思っているの!私こそがエーヴィリトの次期国王!エーヴィリトの王になるゾネ・リリア・エーヴィリトよ!」

 雄叫びを上げながら襲いかかってくる、パステルカラーなお姫様。もう、雰囲気がパステルじゃない。お砂糖菓子じゃない。甘くない。人生は甘くない。塩辛い。そう思わせてくれる光景である。

 お砂糖菓子なのはこのお姫様の頭の中だね!




 さて、パステルカラーなお姫様は風魔法の妖精魔法をかけて大人しくさせた。

 元々は気性の荒い獣を大人しくさせるための魔法なんだけどね……効いちゃったんだからしょうがないね……。

「……で、一応、婚約破棄の理由ぐらいはちゃんと聞いておきたいんだわ。アイトリウス代表ってことで。理由によってはこっちも出るとこ出なきゃいけないしね」

 すっかり大人しくなったゾネ・リリア・エーヴィリト。気分が落ち着いちゃったせいか、もう、単刀直入に言われても動じなかった。

「女神様のお告げがあったの。アンブレイル様は王にも勇者にもなり損なったのだから、エーヴィリトの王たる私には相応しくない、フォンネールのファンス王子こそ伴侶として相応しい、とね」

 落ち着いてしれっとこんな事言うもんだから、俺としてはこの場にアンブレイルを呼んできたいぐらいである。

「つまり、アンブレイルが落ち目だったから、丁度良く来てくれたフォンネール王子に乗り換えた、と」

「すべては女神様のご意志なのよ」

 つまり私は悪くありません、と。ほーほー、ここまで来ると、いっそもう強かというか、なんというか。

「世界裁判じゃ、アンブレイルは勇者として認められたけど。アンブレイルを勇者に選んだはずの女神様がアンブレイルを勇者と認めないって事?」

「女神様の崇高なご意志なんて私には分からないわ」

 つまり私は思考停止します、と。取り繕う事すらしないんだから、もうなんか、あっぱれである。ほんと、アンブレイルに聞かせてやりてえ。

「ふーん。ところで、こんな状況になった今、フォンネールとの婚姻なんて到底結べない訳だけど、これからあんたどーすんの?」

「いいえ。フォンス王子は迎えに来てくれるわ。私、信じていますから」

 ……いや、無いだろ。

 多分、フォンス・クロナス・フォンネールとゾネ・リリア・エーヴィリトとの婚姻の取引って、フォンネールがエーヴィリトに出兵するための口実づくりみたいなところあったし。

 大体、俺の血すら欲したあのお爺ちゃんが、正当なる孫を、フォンネール王家の血を外国へやるわけがないし、エーヴィリトの姫君と結婚させてわざわざフォンネール王家の血を薄くするわけもない。

 最初からゾネとフォンス王子を結婚させる気なんて無かった気がするんだよね……。

 ……が、まあ、信じて待つって言うなら、その夢は壊さないでおいてあげよう。

「ああ、そう。んじゃあ頑張ってね。ところで、アンブレイルはもういい、ってことでいいの?」

「私は女神様のご意志に従うまでです」

「つまり、アンブレイルはもう放流ってことでいいのね?」

「ええ。私にはフォンス王子が居るもの」

「じゃあ、念のため一筆貰っておいていい?」

「仕方ないわね」

 ……ということで、ゾネからちゃんと『アンブレイルなんぞもう要らん』っつう一筆を頂いて、俺は牢屋を後にした。

 これで安心して、アンブレイルをティーナにあげられるね!




「……驚いたな、あの魔法は一体なんだ?」

 牢屋の外から中の様子を見ていたらしいシャーテが、出てきてすぐにそう問うてきた。

「あー、うん。どうせお前に教えてもお前使えないだろうから、魔石にいくつか入れていってあげるよ。そしたらお前でも使えるだろうし」

 が、魔法ダメダメなシャーテ君が妖精魔法なんざ使える訳が無い。

 旅の途中、ディアーネが魔石に魔法を詰めてくれた時みたいに、魔石にさっきの妖精魔法を詰め込んでいってあげればシャーテ君でも使えるだろうから、そうしていってあげよう。

「それはありがたい!……あの姉上がまともに話している所なんて、久しぶりに見たんだ。最早あれは気が触れたのだろうと半ば諦めていたのだが、まさか理性を取り戻すとは……やはりシエルは、すごいな。悔しくもあるが、私は良き友人を得たと思っているよ」

「そりゃどーも」

 良き友人、ねえ。

 ……うん。そーね。ある意味、俺と完全に対等な友人なんて、今後、ほとんど得られないだろうから。

 ヴェルクトは友人であり仲間であり、でも、部下だ。

 ディアーネは友人であり仲間であり、でも、隣国の貴族の娘。俺よりは立場が低い。

 そう考えれば、シャーテは国王だ。表でも裏でも、俺と対等な位置に居られる奴である。

 ……そういう意味では、俺も貴重な良き友人を得た、と思ってもいいのかもしれない。




 エーヴィリトから戻って、アイトリウスの仕事をまたちょっとこなして、翌日。

 俺はアイトリウス王国シェダー領、アンブレイルの居る屋敷に向かう事にした。

 主な用事はアンブレイルじゃなくてティーナ・クレスタルデとお話することだな。今は多分、アンブレイルよりもティーナの方が言葉が通じるだろうし。

 けど、一応、あんなんでも俺の兄上。いずれは王兄になる人だからね。アンブレイルの様子も見て来ようと思う。

 ……さてさて、アンブレイル君はどのぐらい立ち直ったかね。


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