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139話

 アイトリアの庭、俺専用の魔樹・魔草栽培スペースに瞬間移動してすぐに『暁の樹』の葉を採集した。

 どーせ成長の早い樹だし、地魔法で成長にブースト掛けてやればその分すくすく育つから、丸裸にせん勢いでバリバリ葉っぱを刈り取っていく。

 採集するだけ採集したら部屋に戻って製薬の器具を取って、また大会議場に戻って、各国の王様を全員連れて瞬間移動。はー忙しい忙しい。


 取り合えず最初にエルスロアに向かったら、王城の一室に向かう。

 そこには毒にやられたらしき職人たち数人が安静に寝かされていた。地属性の結界ががっつり張ってあるのは、毒の効果を遅くするためのものらしい。苦肉の策ってかんじだね。

「つい先日貰った『試作品』を薄めて全員に飲ませている。結界も使った。毒はまだそれほど回っていないだろう」

「ご慧眼です。陛下の対処が無ければ死人が出ていたかもしれません」

 誰かを完治させるのではなく、全員の死を遅らせただけ。

 その先で俺が手を打てなかったら全員アウトだったんだし、そう考えるとこの王様も結構賭けに出たかんじだね。

 まあ、俺に賭ければほぼ勝てるんだから、意味の無い賭けかもしれないけどね!


 早速、その場で簡易的な薬を調合して、飲ませて解毒。

 その時にちょこっと、使われた毒の解析なんかもしてみたけれど、案の定というか、使われた毒は星屑樹由来のものだった。流石フォンネール。ご当地毒薬を使ってくるとは。

 ……しかし、この『暁の樹』。

 俺はこの樹を、『星屑樹の効果を打ち消す』ように作りかえたはずだ。

 暁の樹は、それ自体が『対・星屑樹』の効能を持つ。よって、とりあえず星屑樹由来の毒なら何でも治せるっていうものなわけで……。

 ……ということは、もう一々暁の樹の葉を薬になんぞしなくても、葉っぱだけもしゃもしゃ食わせとけばいいんじゃないだろうか。うん、理論上はそれでいける。

 ……試しに、今回の毒の被害に遭った最後の職人……地の精霊の愛し子、ウルカ・アドラには暁の樹の葉をそのまんまもしゃもしゃしてもらう事にした。

「……ん、シエル、アーク、か……?ははは、ならもう私も助かった、ということか……」

「うん。助かる助かる。って事で食え食え」

「ああ、助かっ……まて、なんだこれはおい押し込むなシエもごもご!」

 弱り切ったウルカの口にもそもそ葉っぱを突っ込んでみたところ、咀嚼数度目にしてさっさと元気になってしまった。

「は、助かったか!シエルアーク!礼を言うぞ!……しかし、流石シエルアークだ、と言いたいところだが、これでも私は毒に侵されてさっきまで病人だったんだぞ?病人の口に葉を突っ込むのは少々頂けないな!」

 突っ込まれた葉っぱを飲みこんですぐ、これだけの文句が言えるんだから、もうウルカの心配は要らなさそうね。

 うーん、やっぱりわざわざ薬にするまでも無さそうだ。

 もう手の内を隠しとくつもりも無いし、時間節約のために葉っぱを突っ込んでいくスタイルに切り替えよう。




 ウルカへの挨拶もそこそこに、次はさっさとヴェルメルサへ向かう。

 ヴェルメルサでは薄めた解毒剤の他に、火竜の心臓から作った薬で毒の効果を遅らせていた模様。

 そしてそこでもやっぱり毒にやられた人達の口に暁の樹の葉を突っ込んで元気にしてあげた。

 ここにきて、暁の樹を『美味しく』作りかえた意味があったってもんだ。

 葉っぱそのまんまもしゃもしゃ食わせても文句が出るどころか、「なんか美味しかった」みたいな感想が出てくるんだからね。これ、滅茶苦茶に苦くてまずい葉っぱだったら、毒が治ってもありがたみが半減してたかもしれない。あぶねえあぶねえ。


 ヴェルメルサも助けたら、すぐにそのままアマツカゼへ。

 アマツカゼでは案の定というか、妖怪たちがこぞって人間たちの身代わりになっていたらしい。(妖怪の中でも人に化けられる奴らね。)

 妖怪は人間より余程丈夫だ。解毒剤を薄めて飲ませておくだけでも余裕で延命できていたらしい。

 彼らの丈夫さを讃えつつ、彼らの口に、やっぱり暁の樹の葉を突っ込んでもぐもぐさせて治した。

「ふむ、今回は数が相当に多かったと思うが、よくもまあ、妾達全員を治すだけの薬が手に入ったものだな」

 今回もやっぱり身代わりになっていたナライちゃんが、感心したように呆れたように言う。

「うん、そりゃあ俺だから」

「まあ、しえるだからなあ」

 ナライちゃんをはじめとして元気になった妖怪諸君、そして各国の王様方が『シエルアークだから』で納得しちゃうあたり、俺の有能っぷりがいかに知れ渡っているか、よく分かるってもんである。


 ……さて、これで、『俺に助けを求めてきた』国は全部救った。

 が、もう一仕事しておくと、俺の未来が安泰なのでもう一仕事しておく。




 アイトリアに戻ると、大会議場の出口でリスタキア王と大臣が頭を抱えているのを発見した。

「おや、リスタキア王。どうなさいましたか」

「あ、こ、これはこれは、アイトリア次期国王殿下。……いえ、なんでもないのです。どうぞ、お気になさらず」

 が、声をかけてみるも、大臣によってそんなかんじのあしらわれ方をするばかり。

 ……ここでうだうだしてても話にならないので、ここは単刀直入にいこう。

「いいんですね?」

「は?」

「『お気になさらず』と仰いましたが、本当に私は気にしなくて、よろしいのですね?」

 リスタキア王の目を見て言うと、明らかに戸惑いの色が見えた。

「私ならお困りごとを解決できるかもしれませんよ。本当によろしいのですか?」

 ゆさぶりを掛ければ、大臣もリスタキア王も、顔を見合わせて迷い始め……。

「時間が無いのではありませんか?助けが必要なら速くそう仰ってください。こちらも準備がある」

「……よく効く、解毒剤や回復薬のようなものをお持ちなら、私達に分けて頂けないでしょうか」

 そして遂に、リスタキア王にそう言わせることに成功したのであった。




 それから、他の国の王たちに『もうちょっと待っててね』とお願いしてから、ちょっと準備をするふりをして、そして、リスタキア王と大臣を連れて、リスタキアの首都ラクステルムに瞬間移動。

 この街に前来た時はただ遺跡泥棒して帰っただけだったから、城には行った事無いんだよね。だから、ラクステルムの街中に瞬間移動して、それから城までは、氷の橇(グラキスで氷の魔女が使ってた魔法のコピーね)で移動する。

 城に着いたら、いかにも『秘密裏!』ってかんじに城の裏手を連れ回され、そして、やっぱり『秘密裏!』ってかんじの一室に通された。

 多分、人質にされてる人達も『秘密裏』の人達なんだろうなあ。つまり、最悪の場合、死んでもなんとか隠し通せるような、そういうかんじの。

「原因は分からないのですが、何かの毒にやられてしまっているようで……原因は分からないのですが」

 リスタキアの大臣も国王もひたすら『原因は分からん』と主張してくるんだけど、そんな主張されてももう俺、フォンネールが犯人だって知ってるからね!

「ははあ、原因が分からないと。ということは、毒の成分などは……いや、それならば水の古代魔法の中に体内の毒素を調べる魔法がありましたね。なら毒の成分はもうお分かりですか?」

「い、いや……たまたま、その魔法を使える術師が国外に研修に行っておりまして……」

 元々リスタキア如きが古代魔法の復刻なんざできるわけねえだろうが。このアホめ。

「そうですか、なら、少々お時間はいただきますが、私が調査致しましょう」

 これ以上リスタキア王をいじめるのもアレなので、さっさと患者を調べにかかる……ふりをする。

 そりゃそうだよ。だって俺、もう毒の成分なんて分かっちゃってるもん。

 念のため魔法でもう一回見てみたけど、案の定、星屑樹の毒だったからね。もう分かってる分かってる。

 ……しかし、ここで無駄に時間を掛ける理由はちゃんとあるのだ。

 その間、魔法を使っているふりをし、その合間に患者に真摯に声をかけ、励まし、とにかく頑張っているアピールをする!ついでに、患者たちやリスタキア王たちの心象も良くする!

 特に王よりも患者の方ね。俺はもう、リスタキアは草の根運動で征服すると決めたのだ。となれば、一本きりで倒れたら終了な巨木よりも、抜いても生える、しかも増える、っていう雑草……つまり、庶民、市民、或いはそれ以下の存在……そんな奴らから取り込んでいった方がいいもんね。


「分かりました!これは星屑樹由来の毒物です!」

 毒の周りを遅くする水の古代魔法で結界を張り、患者を楽にするための回復魔法を使い、患者の手を取り、脈をとり、声をかけ、毒を調べるふりをして……無駄に5分ぐらい費やしたら、分かり切った事を口にする。

 後ろの方でリスタキア王と大臣が『ぎくっ!』みたいな顔してるけど、お前ら、色々ばれるのと人命とどっちが大事なのよ。

 さて、そしたらすぐに薬の調合に入る。

 今回はもう、葉っぱそのままもしゃもしゃ治療はしない。ありがたみを増すため、そして原料について明かさない為、ちゃんと調合して薬にしてから使う。

 暁の樹の葉がキーだってばれないように、色々材料を使う調合で薬を作る。

 妖精の涙(あり余ってるからね)とか、グリフォンの羽毛(丁度ルシフ君が抜け毛の季節だったんだよね)とか、霊水(っぽい立派な瓶に入ってるただの水)とか、謎の薬(中身はお茶)とか、そりゃあもう、いろんな素材を使って作ったとも。

 如何にリスタキア王がおバカでも、俺が使ってる素材の高価さは分かるらしい。いいよいいよ。後で代金請求するから安心してね。


「できました。では、これを早速……」

 ごちゃごちゃやって薬を作ったら、患者に片っ端から飲ませていく。

 すると、みるみる患者は元気になって、自力で起き上がれるようにまで回復した。

「おお、なんという……!」

「信じられない、まさか、これほど速く……」

 大臣とリスタキア王が感激している中、俺は患者を全員助けて、これにてお仕事終了である。


「終わりました。もうしばらく安静にしていれば完治するでしょう」

「いや、ありがたい。どうもありがとう、シエルアーク・レイ・アイトリウス殿下。おかげでリスタキアの民を死なせずに済みました」

 助けた患者やリスタキア王からひたすらお礼を言われる中、ちょっと大臣に隅の方に引っ張っていかれる。

 おっ、代金の話だね?

「して、シエルアーク様。此度の治療のお代はどのように……」

 うん、こういうみみっちい話を国王にさせるわけにはいかない、って事なんだろうな。

 だが、その手には乗らん!

「ならば、国王陛下と少しお話させて頂けませんか?」

 俺は国王にだってみみっちい話をさせるし、するぞ。




「改めて、御礼を。我が国の民を救って頂き、本当にありがとうございました」

「いえ、勇者として人間として当然のことをしたまでです」

 礼儀正しいと卑屈が紙一重な王様から改めてお礼を貰ったところで、お礼返しをして、『本題はお前が出せよ』と暗に示す。

「……では、此度の治療に関して、御礼はどのように致しましょうか。見たところ、貴重な素材をもお使いになっていたご様子でしたが」

「いえ、材料は大したものではありません。あれらは全て、魔王討伐の旅の道中で手に入れたものです。どうかお気になさらず」

「いえ、しかし……そういうわけには。妖精の涙など、シエルアーク殿下とて、そうそう手に入る物でもないのでは?」

 いや、ごんぎつねを聞かせればいくらでも出てくるんだけどね。

「人命には代えられませんから」

 ……そして俺はあくまで、御礼を断る姿勢をとる!

 これに困ったリスタキア王、どうしたら俺に借りを作らないで済むか、考え始めてしまう!

「……ですが、もし国王陛下がお気に病まれるようでしたら、その、アイトリウスと今後も友好を深めてはいただけないでしょうか。実は、アイトリウスとリスタキアとの間で術師見習いの交換留学を行いたいと考えておりまして」

「……交換留学?」

 そして、思考のドツボに嵌っていた国王、目の前にぶら下げられた餌に食いつく!


 ……そりゃあね。

 リスタキアはアイトリウスの魔法技術が欲しい。だから今までも散々せびってくれてたんだし。

 そんな国が、術師の交換留学を行いたい、なんて言ってくるんだ。もうこれって、アイトリウスには利が無くても、リスタキアには利がありまくる話なのだ。

 ……そして、俺が『交換留学』で狙ってるのは、草の根運動である。

 リスタキアの未来を担う術師見習いたちを、アイトリウス大好き人間に変えてしまう。

 あわよくば、そのまんまリスタキアの現体制に不満を持ってもらって、革命でも起こしてもらう。

 ついでに、こっちから優秀な術師を送り込んで、リスタキアで草の根運動してもらう。

 そう。これは単なる『交換留学』ではない。洗脳とスパイ活動だ。

 外から中から、リスタキアを揺るがす戦略なのである!


「ならば、是非そうさせてください。それで御礼になるとも思えませんが……是非、リスタキアとアイトリウスの間の友好を深めていきましょう」

 そして国王は釣れた。もう、当然の様に釣れた。

 満面の笑みで釣られた国王と握手して、『詳しい話はまた書簡で出すね』みたいなかんじに話を終わらせて、俺はリスタキアを辞する事にしたのであった。

 さて、帰ったらリスタキア侵略のために色々考えなきゃね!




 さて、忙しいけれど更にもう一仕事。アイトリアに戻ったら、待たせておいた各国の王様たちに『暁の樹』のお披露目を行う。

「これが今回、星屑樹の毒の解毒に使った植物『暁の樹』です」

 庭を連れ回すのもアレなので、挿し木で増やして鉢植えにした奴を1つずつ、各国の王に渡すことでプレゼントと紹介を兼ねることにした。

「なんと……美しい樹だな」

 エルスロア王は多分『これ杖にしたらいい具合になりそう』みたいなこと考えてると思う。

「わあ、メルリントにはこういう樹はありません!」

 シーレ姫はまた珍しい陸の物に興奮気味だけど、『こういう樹』じゃなくても、そもそもメルリントには樹ってもんがほとんどないだろうが。

「この樹の葉は、優れた薬の素材となります。しかし、星屑樹との併用はできません。この樹は星屑樹の効果を打ち消すので」

 それから、暁の樹の説明を簡単に行うと、大体皆、察してくれたらしい。

「……成程。これならば、葉を食しただけでも星屑樹の毒を打ち消す効果がある、ということにも納得がいく」

「ありがたく頂くとしよう。貴国には……いや、『勇者』様には近頃、なにかと世話になってばかりだな。後で埋め合わせはさせてもらおう」

 この樹は、対・フォンネール用なのだ。

 この樹があれば、フォンネールに屈する必要も無いのである。

 ……さて、結局、毒を盛られた全員が完治しちゃった、なんて知ったら、フォンネール王はどんな顔をするだろうね。


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