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13話

 さて、崖の下までどうやって降りようかな、と思っていた所、ヴェルクトがやってくれました。

「シエル、失礼するぞ」

 ひょい、と担ぎ上げられたなー、と思ったら、次の瞬間、ダイブ。

 な、何してやがるのこいつ!?

 ……も、心配は杞憂に終わった。

 ヴェルクトは崖下の岩の上に綺麗に着地してくれた。

 ……おお、こいつ、本当に運動能力高いな。

 いいなあ……いいなあ……。




 という事で、着いた。

 洞窟は案外深く、そして曲がりくねって続いており……進みに進んで、ようやくそれは姿を現した。

「これが例の祠、というやつか」

「そ。古代魔法の粋を集めた瞬間移動装置。今となっては失われた技術だな」

 かくいう俺も、実物を見るのは初めてだったりする。

 崖下の洞窟にあった祠は、金属のような、石のような、はたまた何かの生き物の骨かなにかのような……不思議な素材でできていた。

 堅牢さの欠片も無い簡素な造りをしていて、入り口もぽっかりとただ開いているだけだ。

 ……が、侵入者を拒む仕組みは、あった。

「なんだこれは」

「あ、お前は入れねえな、これ」

 アイトリウス城の周りに張り巡らせてあったのと大体同じだ。侵入者を拒む結界ね。

 だから、俺はフリーパスだけど、ヴェルクトは引っかかりまくりである。

「……何故シエルは入れるんだ」

「これから説明するさ。んじゃ、今日は祠の外で野営にしようか。洞窟の中だし寝心地はそんなに悪くないだろ」




 食事は簡単なもので済ませた。

 つまり、携帯していた食料ね。

 まず、俺が城から持ってきてたパンと水。

 そして、ヴェルクトがネビルム村から持ってきてくれた干し肉とチーズ。

 ランプから火種を取って簡単な焚火にしつつ、そこでパンや干し肉やチーズを炙って食うだけの食事だが、これがどうして中々美味い。

 ……というか、炙ってとろけたチーズって、反則だろ!

 串に刺して火で炙って、とろけて……時々、じゅわ、と音を立てながら表面が焦げて。

 串から零れかけたそれをやはり簡単に炙ったパンと干し肉の上に乗っけて、食す。

 ……うん、美味い。すっごく美味い。

「昨夜も思ったが。……美味そうに食うな、シエルは」

「美味そうに食ってるとまたその料理が出てくる確率が上がるんだよ」

 城ではそうだった。『お気に召したならまたおつくりしますよ』、ってな。

 ついでに言うなら、美味そうに食ってるだけで『作り甲斐がある』っつって、料理人たちが喜んでくれるからね。そーすっとまた料理の美味さに磨きがかかるもんだから、得なもんである。


「……ええと、んじゃあ、俺の話、する?」

 チーズ乗っけたパンをかじり始めて5分。

 食いながら話した方がなんとなく話しやすいので、食い始めてから話そうと決めていたんだよな。

「ああ。聞かせてくれ。……何故お前は結界を……いや、結界だけじゃない。領主様に化けていた魔物が放った呪いも、お前をすり抜けた。あれはなんだ。今後共に戦う事になるのだから知っておきたい」

 ああ、目ざといな、こいつ。あの状態で気づいてやがったのか。

 こいつの観察眼の鋭さってのは森育ちだからなのかもね。

「……えっとね。俺、魔力が無いの」

 もう隠す意味も無いので、さっくり言ってしまった。

「……魔力?」

 ……魔力。




 ……という事で説明すること30分。

 ええと、ね。

 ……ヴェルクト、頭は悪くねえんだけど……本人が言ってる『俺は学が無い』は謙遜でもなんでもなかった!

 この世界で常識ともいえる魔法の仕組みを基礎の基礎から説明する羽目になったもんだから、長くなる長くなる……。

 本人も気にしてるみたいだから悪くは言わねえけどさ。


「つまり、お前には魔法が効かないのか」

 という事で、まあそこらへんを理解してもらえた。

 ……結界は単純に、俺が感知される魔力を持ってないから、ってだけで済むんだけど、ドラゴンのブレスも、ネビルムでの呪いも、それじゃあ説明がつかない。

 となれば、そもそも魔法というものがどうやって人に……いや、あらゆるものに対して影響を与えるか、という謎に直面するのだ。


 思うに、魔法とは、『魔力の生産元』に影響を与えるもの、或いは、『魔力同士が干渉して』影響を与えるものだと思う。

 前者も後者も確かめる方法が無い。

 前者の場合は、俺の場合、魔力を生産できないんだから魔法スルー、っていう事象を直接的に解決したかんじ。

 後者の場合は、俺が吸収した魔力が存在するはずだから疑問は残る。なら、俺は魔力を吸収した瞬間、その魔力が『魔力じゃ無いもの』に変わっている、とでもしないと説明がつかない。吸った魔力の量が少なすぎる、ってだけかもしれないけど……。

 ……まあ、とにかく、だ。

 結論だけ見て、俺は、魔法オールフリーパス。

 結界も呪いも、スルーできる、って訳だ。

 ……スルー『している』のであって、スルー『されている』訳じゃないと言い張らせてもらおう。


「……しかし、魔力を失って尚、生きているとは……本当に女神の意思かもしれないな」

「どうだかな」

 ……色々と話しはしたが、結局、俺は俺の前世の記憶についてはヴェルクトに話さなかった。

 別に話さなくてもいいだろ。ここは。……直接は『シエルアーク・レイ・アイトリウス』に関係しない部分だし。

「だが、これでシエルがあまりに中庸すぎる事に納得がいった」

「……中庸?」

「ああ。小柄な大人にも大柄な子供にも見える。男にも女にも見える。話してみればもっと分からなくなる。……魔力を持っていないからだったんだな」

 ……まあ、そうね。

 発達途上の体から魔力が失われちまった結果、成長に大いに影響が出てるからね。

 ……こう、多少伸びはしたし、重くもなった。小柄ではあるが、まあ、15歳です、と言ってもギリギリ許されるぐらいには育った。ある程度は魔力が無くても食事が体を育ててくれたらしい。

 が、8歳で魔力を失った、っつう事が何に一番影響したって……『第二次性徴』!

 ……おかげで、今の俺は老若男女問わず虜にできる中性的な美貌を兼ね備えてしまっている。

 これに運動能力を犠牲にしただけの価値があるかは知らねえけど、どっちつかずってのはそれはそれでそれなりに利用価値があるもんだ。精々有効利用してやるつもりでいる。

 ……というか、こうなっちまった以上は有効利用しないとやってらんねえのである。

「ちなみに俺って何歳ぐらいに見える?」

 ちょっと気になったので聞いてみた。

「……15歳だと聞いてしまったからな。今は15歳に見える。その前までは少し大柄な12歳ぐらいの子供、だと思っていた」

「ああそう。運動能力は12歳レベルだと思ってくれていいぞ」

「元々運動ができそうな体だとは思っていない」

 ああそう!


「しかし……大丈夫なのか」

 食事も終わって、月虹草の花の砂糖漬けをデザート代わりに食べていた所、ヴェルクトが眉根を寄せつつ聞いてきた。

「何が」

「定期的に魔力を摂取しなければ死ぬような体なんだろう。……村を出てからまだ、お前が魔力を吸収しているところを一度も見ていない」

 あー、そういう事。

「ああ、それならへーき。別に、四六時中吸ってても余った分が全部垂れ流しになるからいいんだけどさ、逆に言うと、そんなにちょくちょく吸わなくてもへーきなのよ」

「具体的にはどの程度の頻度だ」

「1日2回、ってところかな。今日はあと1回、吸うつもり」

 答えると、ヴェルクトは、ならいい、と言って、安堵したような表情を浮かべた。

 ……いいのか?そんな表情してて。

「ちなみに、その1回はお前から吸うからな」

「なっ!?」

 俺の言葉に、ヴェルクトは機敏に反応して立ち上がり、後ずさった。

 ……大方、始めて会った時の事でも思い出してるんだろうけど。

「お前が動けなくなる程吸うつもりはねーからだいじょーぶだいじょーぶ。な?ちょっと分けてもらうだけだって」

「し、しかし、お前が俺から魔力を吸った時は」

「あれはお前を動けなくすることが目的だったんだから仕方ないだろ?大丈夫だよ、お前、魔力量無駄に多いし。ちゃんと加減もするって」

 ……。

 じりじり、と、お互い、見合って距離を詰めて離して。


 ……折れたのはヴェルクトの方だった。

「……好きにやってくれ。こうしないとシエルが死ぬというなら仕方ない」

 まるでこれから打ち首にされるかのような表情でヴェルクトはその場に座り込んだ。

「あらそう、どうもね。じゃ、いただきまーす」

 ぺと。




「……なんともない」

「だから言っただろうが」

 ……ヴェルクトの魔力は無駄に多い。歩く魔力タンクみたいな奴だ。

 だから、俺が生命維持するのに必要な分の魔力をちょびっと分けてもらう程度、こいつにとっては苦でもなんでもないはず。

「急に立ち上がったりしたときにふらついたりするかもしれないから、ま、俺に魔力を吸わせた直後は一応気を付けてくれ」

「分かった」

 不思議そうに触れた手を握ったり開いたりしながらヴェルクトは体の感覚を確かめているらしい。

「万一異常が起こったら言えよ」

「当然だ」

 ……ま、これから長い旅路になると思うけど、生命維持には困らなくなったんじゃないの?




 その日はそのまま眠って(毛布なんて無くても、マントに包まって鞄を枕にすれば眠れちゃう)、翌朝。


 洞窟の入り口の方から差し込む光の気配に目が覚めた。

 熾になった焚火を挟んで向かい側では、まだヴェルクトが眠っていた。

 ヴェルクトを起こさないように、もそもそこっそりマントから抜け出て、洞窟の入り口の方に行ってみる。

 ……吹き込んできた潮風に髪を躍らせながら進むと、そこには視界の限界を超えて広がる海。

 やっと水平線から顔を出したばかり、という様子の太陽に染め上げられた波は、岩礁に当たって砕ける度にキラキラと光の粉になる。

 潮風を胸いっぱいに吸い込んで、ああ、俺、旅してるんだなあ、と、感慨深くなってみたり。

 ……そこらへんの波間に魔力を感知して、腹が減ったり。




「すまん、寝坊した」

 声に振り向くと、少々申し訳なさそうな顔をしたヴェルクトが居た。

「疲れてたんだろ。昨日はお前、朝っぱらから呪われて解呪されて、ってやってたんだから。ま、そんなことより見ろよ。このお魚達を!」

 丁度いいところに来たヴェルクトに簡易生け簀を見せる。

 海の一部を石で囲って小さな生け簀のようにした中に、銀色の鱗を煌めかせる魚が数匹、泳いでいる。逃げた奴もいるが、ま、そんなにいっぱいは食えないし。

「釣ったのか」

「うん。釣りもやってみると案外楽しいな」

 ヴェルクトが起きるまで暇を潰す目的で始めた釣りだったが、案外釣果ができてしまった。

 崖の上から垂れてる蔓と落ちてた木の枝で竿にして、蔓の先に短く鋭く削った木の棒と錘の貝殻を括りつけて、木の棒に岩の下でうようよしてた虫をぶっ刺して海に投げ込んだんだけど……なんとかなっちゃうもんである。

 短く削った木の棒を針の代わりにする、という知識は前世の記憶である。

 こんな知識、城で手に入らないからな。

「焼いて食うか」

「ん。塩焼きでいいよな。海水は大量にあるし」

「構わない」

 ヴェルクトと何匹食べるか相談して、結局4匹の魚を串に刺して焼いて食って、残りはリリースすることにした。

 恩返ししに帰ってきてもいいんだぜ。




 さて。

 魚を食って腹も膨れたことだし、そろそろ出発しようじゃないの。


「……俺はここをどう突破すればいいんだ」

「気合で何とかしろよ」

「無茶を言うな」

 ……そして、昨日もぶち当たったばっかりの難関にもう一度ぶち当たる。

 そう。入り口の結界、俺はスルー放題なんだけど、ヴェルクトはそうもいかないんだよね。

「これはどうやって開けるものなんだ」

「多分、これを開くための鍵みたいなのがあったんだろ。その鍵が長い時間の間に失われちまった、ってだけでさ」

 俺に魔法が使えりゃ、こじ開けられるんだけどね。

 残念ながら、今の俺は超低級の魔力錠ですら正規の方法で開錠できないのであった。


 ……だが、逆に言えば、不正規の方法でならいくらでも開けられる、という事なのである。




 魔力の流れを観察すると、祠の入り口の結界を構成する魔力が見えるようになる。

 それがどこから流れて来てるのかな、って目で追って、魔力源を探す。

 ……しばらく探せば、複雑に行ったり来たりする魔力の流れの中の1つが海に繋がっているのが見えた。

 多分、潮の満ち引きとかを魔力に変換できるような古代術式の産物なんだろうけど。

 ……って事は、魔力源を空っぽにするのは無理だな。

 じゃあ、回路を切るか。

「ヴェルクト、俺が3つ数えたらすぐ、こっちに飛び込んで来い。多分、1瞬だけ結界、消えるから」

「分かった」

 比較的、切っても問題がなさそうな、かつ、切りやすそうなところを探して、そこに指先を当てる。

「じゃ、いくぞ。3、2、1。今だ!」

 そして、そこから一気に、かつ、少量、魔力を吸い取る。

 その途端、入り口の結界が見事にぶれて薄れて……その隙を狙って、ヴェルクトが飛び込んできた。


「……本当に通れた」

 ヴェルクトは内側から結界をぺたぺた触って不思議そうにしている。

 結界はまたすぐに元の状態に戻り、侵入者を拒むようになっている。

 これなら魔物だのアンブレイルだのに使われることも無いだろ。

 ……さて、じゃ、進むか。


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― 新着の感想 ―
確かに!結構動けてた気がする
12歳の身体能力に攻撃を当てられない山の守護者って実はクソ雑魚だったってことか
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