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138話

 今回は原告がアイトリウスで、被告がフォンネール、裁判長を務めるのはエルスロアの大臣である。

 会場はアイトリウスの大会議場ね。

 会議場の真ん中、フォンネール王はもう勝った気でいるらしく、悠々と笑みを浮かべているばかり。

 それに向かい合うようにした位置に俺。俺は勝った気でいるけど顔に出すなんて真似はしない。

 俺に隣にエーヴィリト王としてシャーテが来ていて、その横にはいつにもましておどおどしているリスタキア王。

 俺の反対隣りにはいつものエルスロア王とヴェルメルサ帝王、そして前回と同様に水の浮輪でぷかぷかしているシーレ姫、と続く。

 エーヴィリトがシャーテになってる以外は前回とほとんど変わらない面子だね。一部、貴族が増えたり減ったり変わったりしてるけど。主にエーヴィリト。


「では、原告より今回の訴えについてどうぞ」

 ということで早速裁判が始まる。

 ……裁判っていうか、どっちかっつうとお互いの意見を主張しあって多く得票させた方が勝ち、みたいな……相手を負かす事に目的があるディベートみたいな……そんなかんじではあるけども。


「では、私シエルアーク・レイ・アイトリウスより、今回の訴えについて。……今回、フォンネールはエーヴィリトに対して出兵する旨を全世界に通達しました。しかし、現在エーヴィリトの情勢は落ち着いており、出兵を必要とする状況ではありません。また、今回の出兵はフォンネールによるエーヴィリトの内政干渉であるととらえられるでしょう。内政干渉は円環条約に反する行為であり、許し難い行為であります。よって今回の訴えにおいてはフォンネールに対し、エーヴィリトへの内政干渉および出兵の中止を要求します」

 一息に要求を言って、俺は着席。

 これに対して、当然フォンネール王は不愉快そうな顔をするわけだ。でも俺にとっては嬉しい以外の何物でも無い。

 だって俺、俺が嫌いな奴が嫌な思いするのが大好きなタイプ。


「以上が原告の訴えですが、これに対してフォンネールの自己答弁を」

 そして次に、フォンネール王が喋る番である。

「まず、原告と我らの間には大きな認識の違いがあると申し上げよう。原告は『エーヴィリトの情勢は落ち着いている』と言っていたが、現在のエーヴィリトは正当なる王が武力によって廃された状況。これはフォンネールの兄弟国となるエーヴィリトの滅亡の危機であり、出兵、また正当なる王の復活の助力は至極当然なものであると主張する。過ちを正すことが内政干渉だと言うのであれば、そこの……エーヴィリト王の椅子に座っている賊こそ、今回の罪人となるべき人物ではないのか?」

 会場の視線が一斉にシャーテに向く。

『賊』呼ばわりされているにもかかわらず、シャーテは至って涼しい顔をしていた。

 ……いや、多分、相当怒ってるんだろうけども。


「さて、シャーテ・リリト・エーヴィリト『王子』。武力によって正当なる王と正当なる次期国王を廃した罪に対する自己答弁をお聞かせ願いたい」

 フォンネール王の言葉に裁判長がどうしたものか、と迷っている数秒の間に、シャーテが動いた。

 エーヴィリトの席から中央へやってきて、俺と位置を交代するように立つ。

「円環条約によって我々の立場は平等と定められている。フォンネール王、あなたはあなたと等しき位置にいる他国の『王』を前にしているのだ。無礼は慎んで頂こうか」

 そして、第一声がこれである。

「……なんだと」

 シャーテの正論に対し、フォンネール王、怒りを隠そうともしない!

 いいぞー、もっと煽れ煽れ。んであのくそジジイの血管ぶち切れさせて脳溢血で殺しちゃいなさい!

「……だが、貴国の言い分は分からないでも無い。折角自己答弁の機会を頂けたのだ。発言させて頂こう」

 シャーテの話が長くなりそうなんで、俺はさっきまでシャーテが座ってた席に座って待たせてもらう事にしよう。


「私はこう考える。王のために民があるのではなく、民のために王があるのだ、と。民が王の奴隷なのでは無い。王が民の奴隷、国の奉仕者であるべきなのだ」

 ……そういや、前世の法律にはそんなんあったな。『公務員は全体の奉仕者である』みたいなやつ。

「国にとって王とは、民の言葉を聞き、民に尽くす者。……ならば、民の言葉を聞く耳を持たない者など、王であるべきでは無い」

「ならば『エーヴィリト王子』よ。『だから正当なる次期国王を武力をもってして廃して良い』とでも仰るおつもりか?」

 これから武力使おうとしてる奴が良く言うよね、とは言わないでおこう。

 それを言ってたらシャーテのカッコいい所が台無しである。

「では、逆にお伺いするが、人間の言葉を解さない獣をその場から退かすにはどうする?言葉を尽くすか?餌で釣るか?……殴り飛ばす以外に在るべきやり様があるとでも?」

 シャーテの、いっそ独善的ともとれる言葉は、会場をざわめかせた。

 この場に居る全員が知ってる『元』エーヴィリト王を『人間の言葉を解さない獣』扱いしてる訳だからね。

「私が父上や姉上をはじめとして、腐った貴族や聖職者共を捕らえるために武力を使ったのは他でも無い。私の武力は民の声だからだ!民の声を理解できない愚者にも分かるよう、武力を用いて伝えたまでのこと!」

 うん、分かる。

 相手が極度に馬鹿だと、もう、話しても通じないからね。

 かといってほっといても害悪にしかならないから、もう、そういう奴らはぶん殴って黙らせるしかない。

 逆に、ぶん殴られたくなかったら、馬鹿に甘んじている己を恥じろ、って事になる。

「はて。そのように理性からかけ離れた言葉しか発せない民の言葉が聞くに値するとでも?王子がすべき行いは、そのような野蛮な……暴力しか解さぬ民を『武力をもって』制圧することだったのでは?」

「民の言葉が始めから武力であったとでも?今回、私が武力を用いたことに咎があると言うならそれはお門違い甚だしい。武力によって言葉を伝えられる事を避けられなかった父上と姉上の咎だ。父上も姉上も、始めから民の言葉に耳を傾けることていればこんな事にはならなかっただろう」

 フォンネール王も色々言うけど、結局のところ、お互いに『理想とする国の形』が違うんだから、永遠に平行線である。

 ……そして、その2本の平行線のうち、シャーテが描く線の方が、より多くの王を惹きつけていることは間違いなかった。

「民の言葉を武力に代えさせておいて、何が王だ、何が国だ!フォンネール王!あなたは民の言葉を聞く能力を持たぬ愚者を玉座に据えろと仰るのか!それとも、あなたの理想とする国とは、愚者が治める国なのか!答えよ、フォンネール王!」

 シャーテの叫ぶような答弁に、まばらながらも拍手が起こり……やがて、会場全体を包み込んだ。




 拍手が収まったところで、苦り切った表情をしたフォンネール王が発言した。

「シャーテ王子は少々理論が飛躍しすぎている。王として国を導くことと民の言いなりになる事は必ずしも一致しない。そして、民の言いなりにならぬ王が愚者であるなど、言語道断。……どうも、我々は思い描く国の形が異なるようだ。これ以上答弁を行っても、我らの意見が近づく事は無いだろう。これ以上の判断は他国の王に委ねよう。どうだろうか」

「ああ、それで構わない。あなたの言い分を聞くのもうんざりだ」

 つまり、もう口で勝てないことが分かっちゃったから、さっさと多数決に持ち込んで勝ちたい、っていう事なんだろう。

 勿論、その考えは甘いのだ。それをこれから見せてやる。

「原告としてアイトリウスも多数決に賛成しましょう。……裁判長」

「ならば……これより、決を採ります」

 フォンネール王がにやり、と笑ったのが見えたので、俺もフォンネール王ににっこり微笑んでおいてやった。

 この笑顔の代金は、フォンネール王の吠え面で支払ってもらうことにしよう。

「今回の、フォンネールによる出兵は中止されるべきである、とお考えの王は、挙手を」

 ……そして、各国の王が、手を挙げる。


「……なんだと」

 リスタキアを除くすべての国が、確かに手を挙げていたのであった。

「では、賛成多数により、原告の主張を認めます。……今回の決定は円環条約に基づき、フォンネールに強制力として働きます。フォンネールは直ちにエーヴィリトへの出兵を取りやめるよう、お願いします」

 裁判長の言葉も耳に入らない様子で、フォンネール王は他の国の王を見回し……俺に目を止めて、壮絶な目で睨んできた。

 なので俺はもう、満面の笑みで応えてあげる。

 悔しい?ねえ悔しい?どんな気持ち?裏から手を回して、貴重な星屑樹の葉を毒に加工して使ったのにこの結果ってどんな気持ち?……ってかんじの笑顔は、確かにフォンネール王に通じたらしい。

 フォンネール王が答弁台を殴る音が、勝利のファンファーレにすら聞こえた。




 裁判が閉廷すると同時に、フォンネール王はさっさと帰ってしまった。

 ははは、負け犬がお帰りあそばしたぞ。これだから嫌いな奴が嫌な思いするのって気分いいよね、まったく!

「シャーテ、お疲れ!」

 そんな万感の思いを込めてシャーテの背を叩けば、緊張の糸が切れたらしいシャーテはよろめく。

「……だいじょぶ?」

「大丈夫だ。……まったく、アイトリウスが原告だというのに、私ばかりが喋らされるんだからな……」

「しょーがないじゃん。これからお前を王と認めるのはエーヴィリトの民だけじゃ足りないぞ。お前が王と認められないと、エーヴィリト自体が認められないって事なんだからな。そのためにお前が喋る必要があったんだから文句は受け付けねーぞ」

「ああ、分かっているさ」

 ため息をつきつつ、シャーテは、「これからだな」なんて呟く。

 うん、本当にその通り。

 エーヴィリトはやっと今、スタートラインに立ったところなのだ。

 これからシャーテが頑張らないと、また内部から腐敗王国になりかねないし、フォンネールとかの外国からの圧力がかかるかもしれないし。外にも中にも向けて頑張らなきゃいけないから、シャーテは本当に大変だね。

 ま、俺もお手伝いぐらいはしてやってもいいと思ってる。

 その代わり、光水晶や発光銀は優先的にアイトリウスに流してもらおう!




 さて、このままシャーテと貿易の話でもするか、なんて思っていた所、後ろからむんず、と肩を掴まれた。

「シエルアーク・レイ・アイトリウス。申し訳ないが、エルスロアへ来てもらおう」

 ……エルスロア王だった。

 そして、反対の肩をまた掴まれる。

「すまないが、ヴェルメルサにも頼む」

「ああ、アマツカゼにも来てほしい。……薬が足りないのだ」

 ……これは、予想外だ。

「え、薬が足りないって」

 つまり、解毒剤が渡した分で足りないって事は……つまり、それ、そのまんま、命が危ない人がいる、ってことじゃん!

 しかも、俺がどうにかできなかったらその人達、そのまんま死んだ、ってことで……それって、それって……。

「賛成票を入れてやったのだ。すぐに我が国の民を助けてくれ。……お前ならできるであろう?『不動』の勇者、シエルアーク・レイ・アイトリウス!」

 それって、俺の能力を信頼して、人の命を俺に預けてくれた、って事である。

「ええ、勿論です。すぐに向かいましょう。材料を持って参ります。暫しここでお待ちを!」

 この信頼に応えられない奴は、勇者じゃないよね。


 ……さて、遂に『暁の樹』のお披露目、ってことになるかな?


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