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137話

 シャーテにGOサインを出した翌々日、王城で王様お試し期間中の俺に大ニュースが飛び込んできた。

 現エーヴィリト国王、ゾネ・リリア・エーヴィリトをはじめとして、エーヴィリトの主要な貴族、聖職者、その他諸々の姿がいきなり消え、その代わり、エーヴィリトの第二子、王位継承権第二位であったシャーテ・リリト・エーヴィリトが『新制』エーヴィリトの王として名乗りを上げたのだ。


 新制エーヴィリトから送られてきた速鳥文には、革命に至る理由なども仔細に渡って綴られていた。

 民の貧困を見て見ぬ振りする王侯貴族。

 聖職者からほど遠い聖職者たち。

 街の裏側に溢れる孤児。飢えて死んでいく民。

 それらすべてを見て見ぬふりするために利用されている『宗教』。

 そんじょそこらのゴシップ誌なんか遥かに上回るであろう過激な批判。

『王とは何のためにあるのか。国のために王があるのではないのか。決して、王のために、ましてや王の養分となって朽ち果てるために国がある訳では無い』。

 そんな内容の『告発文』は、実にシャーテらしい、愚直で真摯で無駄のないものであった。


 そしてこの『新制エーヴィリト国王』からの報告に、異議を唱えた国があった。

 そう。フォンネールである。

 フォンネールはやはり世界全体へ向けて、『ファンス・クロナス・フォンネールが婿に入る予定である、いわば兄弟国となるエーヴィリトを侵略するシャーテ・リリト・エーヴィリトを討伐する』との名目で、エーヴィリトへ出兵する旨を通達したのであった。

 ……予想通りだね!予想通り過ぎて笑いが出ちゃう位である。

 なので俺は、慌てず騒がず、あらかじめ作っておいた文書を持って、各国へ瞬間移動しまくるのだ。




 フォンネールの鳥文に対して、俺は瞬間移動。

 当然、俺の方が圧倒的に速い。

 よって、『フォンネールがエーヴィリトに出兵するお知らせ』よりも先に『フォンネールがエーヴィリトに出兵することへの是非を問う世界裁判のお知らせ』が届いちゃう国もあった。まあどうでもいいけど。

 特に傑作だったのが、ヴェルメルサに行った時ね。

 アポなしだけれど、流石に隣国の王(お試し期間とはいえ、今は一応俺が王様扱いだからね)が直々に訪ねてきたともなれば、すぐに帝王様への謁見が叶った。

 そして俺直々に世界裁判のお知らせを渡して、まだフォンネールからの鳥文が届いていなかったヴェルメルサ帝王に諸々の説明をして、ちょっとシャーテの肩を持つ発言もして……ってところで、窓から鳥文が入ってきたんだよね。

 それを見た帝王様が「今更か……もう内容は把握しておるわ……」ってぼやいたのが本日のハイライト。


 それから各国の王様(エーヴィリトとフォンネールは除く)に会って、世界裁判のお知らせを直々にお届けして、リスタキア以外の国……つまり、ヴェルメルサ、エルスロア、アマツカゼ、メルリントの4国には解毒剤も渡してきた。

 あくまで、『どんな毒でも解く解毒剤です。その内アイトリウスから販売するので試供品がてらお納めください』って体を通した。別に『対・フォンネール用です』なんて言ってないもん。他意は無いもーん。

 ……うん、なんでリスタキアには解毒剤を渡さなかったかって、そりゃ、あそこの国はフォンネールにそこらへんばらしちゃう可能性が高いからね。

 俺、信用できない奴には武器は預けないタイプ。


 それから、フォンネールに鳥文で『お前を裁く世界裁判のお知らせ~首を洗って待っていろ~』を郵送して、俺のお仕事はひと段落。

 あとは『お仕事じゃない用事』で、ちょこっとエーヴィリトにお邪魔してみるだけである。ちょっと観光するだけだから!他意は無いから!




 めんどくさいんで、エーヴィリトの城内にいきなり瞬間移動させてもらった。

 一回中に入ってるからね、建物内部への瞬間移動だって俺に掛かればお茶の子さいさいである。

「あら、『勇者様』。ご機嫌麗しゅう」

 そして城にお邪魔した所、丁度そこに悪魔のクルガ女史がいらっしゃった。

「あ、クルガ女史もご機嫌麗しゅう。シャーテ居る?」

「ええ。各国への連絡に追われているわ。……ところで、面白かったわよ。『不当なる王の子が勇者出し抜いて魔王を殺すショー』は」

 ……あ、そういや、そういう契約だった。クルガ女史に『魔王から魔力ぶんどる装置』の設計図を書いてもらうために、『不当なる王の子が勇者出し抜いて魔王をぶち殺す』っていうのを代価にしたんだよね。

「お気に召したんなら何より。……ま、あんまり締まらない結果になっちまったけどね」

 尤も、魔王ぶち殺すまでは良かったんだけど、それを世間に認めさせる、って点ではちょっと精彩を欠いたなー、とも思う。

 そこはショーのお客さんであるクルガ女史とか、風の精霊様とかに申し訳なかったなー、なんて思うんだけど、ね。

「あら、それはこれからになってみないと分からないわよ?」

 クルガ女史は至極楽し気に笑ってみせてくれた。

「……これから?」

「ええ、これから。まだまだショーは終わらないわ。きっとね」

 ……まあ、そうか。うん。アンブレイルとの決着が完璧についたわけでも無い。

 このエーヴィリトの動乱だって、俺とアンブレイルに関わるものだし、そう考えれば『まだショーは終わらない』ってことか。

 ……どうにも、それ以上の意味もありそうだけど、悪魔にそれを聞くのは野暮ってもんだからね。スルーしとこう。

「それで、シャーテ王子に用事なんでしょう?こっちよ」

「ん。どうもね」

 今は目の前の問題だけ考えていよう。




 シャーテは執務室で書状を書きまくっていた。

 各国の国王だけじゃなく、国内外の貴族なんかにもお知らせを書かなきゃいけないからね。んで、その貴族から更に詳細な説明を、とか言われたら、またお返事書かなきゃいけない。

 それでシャーテはひたすら羽ペンとインク瓶片手にがりがり頑張っているのであった。

 ……余談だけどこれ、結構珍しいことである。

 魔法が得意な王様なら、王族ならともかく、貴族だの民だのへの書状は魔法で書いちゃう。

 無属性妖精魔法には『複写』の魔法があるし、地属性古代魔法には『複製』の魔法があるし、水魔法でインクを操って文字にすればいっちょ上がりだし……光魔法の中魔法程度が使えれば、『転写』ができるのだ。

 しかしこのシャーテ君、俺が教えてあげるまで魔法のまの字も分かってなかったような、魔法ダメダメ人間なのである。当然、そんな器用な魔法、使えないのであった。

 ……その分、手書きの文書になるから、『丁寧な人だな』って印象にはなるけどね。

 特にシャーテは魔法ができない分、それを自覚して補う努力をしてたみたいだから、かなりの速筆にもかかわらず、文字はとっても綺麗だし。

「忙しそーね」

「ん?……ああ、シエルか!ああ、よく来てくれた。お前は魔法が得意だろう!ちょっと複製してくれないか!あて名は私が書くから、本文を12枚程頼む!」

 ……が、まあ、シャーテは割り切るのもとっても得意なので、こういう事を言っちゃうのであった。

 うん、いいよ。俺、こういう奴嫌いじゃないよ。




 こうして俺は雑用係にされてしまった。

 ゾネ・リリア・エーヴィリトとかはどうなったの?やっぱ殺したの?とか、世界裁判の時の流れはどうする?とか、そういう話をしたかったのに!

 ひたすら魔法で文章を転写し、シャーテが宛名や追伸を書いた手紙を魔法で折りたたみ、封筒に入れ、封蝋を押して、鳥文用の鳥さんに持たせて、行き先を教えて飛ばして……っていう作業を延々と20回ぐらいやらされた。

 うん……うん、いいよ。このぐらいは手伝ってやるよ。その代わり光水晶は優先的にアイトリウスに卸させてやる。


「いや、すまない。助かったよ」

「だろうね!」

 そしてお手紙諸々の雑用が終わって、やっと、やっと、やっと!

 やっと俺はシャーテとまともにお話できることになったのだった。

 クルガさんがお茶とお菓子持ってきてくれたので頂きつつ、聞きたいことを聞く。

「……で、魔道装置はどうだったのよ」

「ああ、そのことだが、姉上たちは死んではいない」

 ……あれっ。

「えっ、あの魔導装置、狙った人をピンポイントでぶっ殺すって仕組みじゃなかったっけ?」

「ああ、そうだったんだが、クルガに改造してもらった。姉上も父上も、貴族や神官連中も、今は魔封じをして地下牢に入れてある。……どうも、魔道装置から必要な部品が1つ抜けてしまったらしくてな、人を殺すに足りなくなってしまったんだそうだ」

 へー、そっかあ。魔導装置の部品が無くなったって、そりゃ中々に大事……。

 ……あっ。

「それってもしかして地属性の強力な魔石?」

「ああ。そうだ。琥珀色をした魔石で……なっ!ま、まさか!?」

 どうも、そのまさからしいよ!




 ……ということで、オーリスの森で魔導装置から『守り石』をネコババしたことについて、弁明させてもらった。

 いやだってさあ、一応俺、殺されかけてるのよ?死ななかったけど。

 だから相手の武装を解除しておこうってのは至極当然っていうか……うん、その後に気付いて返すべきだったんだけどね、『守り石』!

「成程、そういう事情なら仕方ない。シエルを襲ったエルフたちにも非はある。それに、結果としてはこれで良かったんだろうとも思う。気にしないでくれ」

 が、シャーテもこう言ってくれてるので気にせずネコババ続行させてもらおうと思う。

 俺、開き直るの得意なタイプ。

「……どうにも、シエルがシエルの兄上と戦っているのを見たら……姉上をただ一思いに殺してしまうのは癪だ、と思うようになったんだ。だからこれでいい。死はある意味では救いだ。私は民を苦しめた姉を救ってやる気はない」

 ほー、そっか。そういう考え方でいくなら確かに、魔道装置でスナイプキルしちゃうよりは生きたまま閉じ込めておいて、世界裁判なんかやっちゃって、国を作り変えて……ってのを見せて反省を促す方が良いかもね。


「なら、フォンネールには『ゾネ・リリア・エーヴィリトの身柄』も交渉材料として使えなくも無いのか」

 ゾネ・リリア・エーヴィリトをはじめとして元・エーヴィリトの上層部が全員生け捕りになってるっていう事実が分かったところで、世界裁判の話に入ろう。

「向こうが姉を欲しがるとも思えないがな」

 ね。どう考えてもフォンネールの『婚約』は、エーヴィリトの動乱を見越してのものだったような気がするんだよね。

 ってことは、フォンネールは……エーヴィリトを潰す気だった、ってことになる。

「フォンネールが何考えてるのか分かんねえのが不気味だよなあ」

「全くだ。……50年以上戦の無かった時代を塗り替えようとでもいうのだろうか」

「可能性はあるかも。つっても、直接的にドンパチはしないだろうけどな」

 ……平和といえば平和的だ。だが、そんな『平和』、俺達は望んじゃいない。

 表立った武力を伴わないからって、侵略は侵略だ。

 各国を自分の思うままに動かそうってのは、やられる側にしてみりゃたまったもんじゃない。

「世界はお前の傀儡じゃねえんだぞ、って事をあのくそジジイに教えてやろうぜ」

 だから、精々あの爺さんに吠え面書いてもらえるように、準備は滞りなくしておかないとね。




 そうして、それから1週間。

 世界裁判の申請のため、フォンネールは出兵を中断せざるを得なくなり、その間、世界中が膠着状態になった。

 多分、世界裁判までの準備期間である1週間の内に、フォンネールはあちこちに裏から手を回して『毒薬』を使ったんだろうけどね。

 ……まあいい。その結果はこれから見てもらえるさ。

「それでは、これより、フォンネールの『エーヴィリトの内政に武力をもって干渉しようとした罪』の世界裁判を開廷します」


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