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134話

さて。

時は流れ、城の中庭の土下座草は毎日土下座パワーを吸ってすくすくと育ち、綺麗な花をつけた。

毎日きっちり30分、人の目がたくさんある場所で行われる土下座は土下座草にとって最良の肥料になったらしいね。


そして、その一方で俺は王政お試し期間……仮譲位をやっていた。

王が正式に退任する前に、次期国王がお試しで一月間ぐらい王様をやってみよう、っていうシステムね。

つまり、親父のサポートが無い訳じゃないけど、実質は俺がほとんど王の仕事をしてる訳だ。

実際にやってみなきゃ分かんないことってのは案外あるもんで、今も各貴族の所領からの税収が滅茶苦茶あからさまにおかしい事に気付いて、さて、これをどうしてくれようか、と頭を捻ってるところである。

俺、帝王学もその他諸々のお勉強も一通りやってるけど、如何せん妾の子って事で、実地体験みたいなのはちょっと足りてなかったりするんだよね。

ま、そこんところを今、学んでおこうね、っていうお話だからいいんだけどさ。




さて、そんな忙しくも楽しくやりがいのある毎日の中で、俺は『まだかなーまだかなー』と首を長ーくして待っていた。

何を待っていたって、アンブレイルと、エーヴィリトの次期国王であるゾネ・リリア・エーヴィリトとの婚姻の話がどう進んだかな、っつう話である。

俺はずーっと、アンブレイルとゾネ・リリア・エーヴィリトの『私たち結婚します』のお知らせを楽しみに待ってたんだよ。だってそれがエーヴィリト崩壊のゴングになる訳だから。

……ところが、なんか、予想と違った。


「シエル、書簡だ」

慌ただしく右往左往している文官の誰かに配達役を押し付けられたらしい。ヴェルクトが白色の書簡……エーヴィリトからの書簡を届けてくれた。

「おっ、ついに来たか!」

アイトリアの結界の改良案を書いていた紙を放り出して、書簡を開けた。

……そして中を見て、俺はとってもびっくりすることになったのである。

なんと。

『ゾネ・リリア・エーヴィリトはアンブレイル・レクサ・アイトリウスとの婚約を破棄する』という面白い内容が書いてあったからである。




これは……これは、予定が狂ったな。割と盛大に。

まず、これで、アンブレイルをエーヴィリトと一緒にコテンパン、ってのは多分ナシ。

まあいいや。これは良いんだ。俺がコテンパンできなくても、ゾネ・リリア・エーヴィリトに逆恨みされてボコされる可能性は十分あるし……つまり、俺が手を下さなくてもどーせ誰からかは攻撃されるだろうからどうでもいい。

そしてその都合で、アンブレイルとティーナ・クレスタルデをくっつけやすくなったかも。

ここ2人をくっつけると何が良いって、ディアーネがクレスタルデの領主になるための大きな1ステップになるって事なんだよね。

俺としては当然、ディアーネを応援したい立場なので、ティーナとアンブレイルは積極的にくっつけていく所存である。

……そして何よりも予定が狂ったのは、シャーテだろう。

だって、結婚するしないの云々言ってたおねーちゃんがいきなり婚約破棄しちゃった、となれば、立ててた予定が色々危うい。

ゾネ・リリア・エーヴィリトがアンブレイルとの婚約を破棄しただけならまだいいけど、もし、既に新しい婚約者を見つけたりなんだりしてたとしたら……そして、その婚約者が国外の人だったりしたら……エーヴィリト転覆にあたって、その国との衝突も覚悟しなきゃいけないからね。

うーん、これは流石にゾネ・リリア・エーヴィリトがそこまで尻軽じゃないって思いたい……。




まあいいや。とにかく、色々事態が変わった。そして緊急事態だ。お試し王政なんてやってる場合じゃねえ。

緊急事態なので、王様権は親父に一旦返す。親父がやるはずだった仕事俺が大分片付けたんだからこのぐらいは許されていい。いや、許す。俺が許すから許された。

そしたら俺はヴェルクトを連れて瞬間移動。クレスタルデへ向かった。

何をしに、と言われれば、ティーナ・クレスタルデ……クレスタルデ家の長女と話をしに、である。


「あら、シエル。ヴェルクト。久しぶりね」

「ディアーネも元気そーね」

予めディアーネには連絡を飛ばしておいたから、クレスタルデの屋敷の前でディアーネに行きあえた。

「ヴェルクト、貴方の噂を聞いたわ。風変りな戦い方をするとても強い美丈夫がシエルアーク・レイ・アイトリウスの騎士になった、ってね。正式な騎士拝命、おめでとう」

ヴェルクトの噂は国外にももう流れているらしい。まあ、なんといっても『俺の』騎士だからね。そりゃあ噂にもなるだろうよ。

「えー、ディアーネ、俺の次期国王就任については?」

「あら、だってシエルが次期国王に選ばれるのは当然のことじゃなくって?……なんてね。ごめんなさいね。先を越されて少し嫉妬しているの」

さてさて、そして俺については、少々ディアーネ、嫉妬してる模様。

……つまり、ディアーネはクレスタルデを、俺はアイトリウスを手に入れる、っつう野望を、俺が一歩先に叶えてる、ってことにね。

「お前だってそんなにかからねーだろ」

「ええ。ティーナお姉様さえ居なくなれば、メイアお姉様とミーナお姉様はどうとでもなりそうだもの。……驚いたわ。あんなにアンブレイルに夢中に見えたゾネ・リリア・エーヴィリトが婚約破棄を言い渡すなんて」

勿論、ディアーネに連絡するにあたって、ここら辺のお話もした。

流石にこの話はまだ外部に漏れてないらしかった。


「ま、そこら辺はこれから事情が分かるでしょ。……で、おねーさん居る?」

「ティーナお姉様ならお部屋にいらっしゃるわ」

ディアーネに案内してもらうまでもなく、勝手知ったるクレスタルデの屋敷にお邪魔して、そのままティーナ・クレスタルデの部屋に向かう。

「お姉様、よろしいかしら」

一応、といった体でディアーネが声を掛けつつドアをノックすると、中から少し元気の無い声が了承の旨を伝えてきた。ふむ。ならお邪魔しよう。

「お邪魔しまーす」

遠慮なく部屋に入ると、中に居たティーナ・クレスタルデが俺を見て驚きを露わにした。

「えっ!?し、シエルアーク殿下!?何故こちらに……」

「ん。ちょっとね。あ、ディアーネ。これお土産ね」

ディアーネに焼き菓子を渡しつつ『ちょっと席外してくれる?』と遠まわしに伝えると、「すぐお茶を持ってこさせるわね」と言って部屋から出ていった。




俺の作戦はこうだ!

まず、ティーナとアンブレイルをくっつける!

今、アンブレイルは王様を逃すし婚約破棄されるしで傷心なはず。そこにティーナがつけこめばいくらでもなんとでもなると思う!ならなかったら俺特製の惚れ薬(禁呪薬)を処方してやろう。

そして、そこ2人をくっつけつつ、シャーテの方のヘルプに行く。

ゾネ・リリア・エーヴィリトが新たな婚約者を得ているなら、シャーテの邪魔にならないように、その仲を裂いておくなりなんなりする。

じゃないと転覆ほやほやのエーヴィリトに新たな婚約者のいる国が襲い掛かる、とかいう笑えない状況になりかねないし。

そして、俺は王様お試し期間を存分に有効利用して、『アンブレイルに所領を与える』。そこそこにちゃんとした所領ね。

俺は傷心のアンブレイル君に新たな恋と確固たる身分をくれてやる。つまり、恩を売るのだ。

……アンブレイルに所領があれば、ティーナ・クレスタルデはそっちに嫁ぐ事になるからクレスタルデの領主の椅子が空く。

ゾネ・リリア・エーヴィリトの新たな婚約者が居れば、そいつを潰しておくことでスムーズにエーヴィリトを転覆させられる。

そしてアンブレイルに恩を売っておけば、アンブレイルは今後、俺に楯突きにくい。

……いや、これはどっちかっつうと、楯突いたら恩知らずの看板を背負う羽目になる、っていう罠かな。どうせ、楯突きにくくても楯突いてくるんだろうし、そうなったときのためにカウンタートラップをセットしておくのは王族のたしなみって奴である。

うんうん、俺はティーナとアンブレイルのカップルを優しく見守ってやることにしよう。そして、俺はアンブレイルをいじめないであげよう。

ただし、ゾネ・リリア・エーヴィリトがアンブレイルをいじめる事に関しては関与しない。

関与しないからうまいこと暗躍してゾネ・リリア・エーヴィリトをけしかけてみよーっと。




「……シエルアーク・レイ・アイトリウス殿下。失礼を承知で申し上げますわ。……何故、あの人からなにもかもをお奪いになったの?あんまりだわ、なにも、あんなふうに世界裁判を使わなくたって」

さて、ティーナを巧いこと誘導したいんだけど、まずはここかららしい。

まあ、うん、気持ちは分かる。

俺はアンブレイルから勇者の名誉も次期国王の座も奪っちゃったからね。そりゃ、アンブレイルが好きなティーナからすりゃ、面白くはないだろう。

「ティーナ・クレスタルデ。そんなこと、公平な目を持つお前なら分かるだろう?」

まずは、牽制。

俺は何も悪いことをしていない。あくまで、俺の働きに対して正当な評価を得たというだけの事。

アンブレイルが本当は魔王討伐を行っていない、という事は、ティーナ自身が良く知ってるはずだしな。

「それは分かるわ。アンブレイル様は確かに、評価されるべきじゃなかった。……でも、次期国王にあなたが選ばれた理由は、それだけじゃないんじゃないかしら?あなたは何も汚いことをしていないと言えるの?」

言えなーい。だって大臣けしかけてるもん。

……まあ、それを言う必要も無い。

なので、ここは俺の話術で切り抜けつつ、さっさと本題に入ろう。

「……1つ、教えておこう。父上は、俺を次の王にお選びになった。が、その理由は、俺の方が優秀だから、というだけじゃないらしい。……『多分そうした方が俺とアンブレイルが仲良く収まるだろうから』だそうだ」

「……え?」

「俺はアンブレイルに所領を持たせる気でいる。ちゃんとした上級貴族として扱う。……だが、アンブレイルが王になったら、きっと、俺をそういう風には扱わないだろう。父上はそれを見越して、俺を王にお選びになったらしい」

話術その一。

必殺、なんかいい話で煙に巻く。

「……じゃあ、あなた、あなたは、アンブレイル様を嫌ってはいないということなの?」

「いや?俺、俺のことが嫌いな奴の事なんて嫌いだよ。……でも、まあ、あんなんでも兄上だとは思ってる。だからこそ、今回の婚約破棄は許せないんだ」

「え!?こ、婚約破棄、ですって!?」

話術その二。

必殺、爆弾を投下して煙に巻く。

「そのことで、ティーナクレスタルデ。あんたの力を借りたいと思ってここに来た!」

話術その三。

必殺、頼って煙に巻く。




それから、ティーナにアンブレイルの婚約破棄について話した。

まだ詳しいことはよく分かってないけど、そんな情報でもティーナにとっては千金の価値がある情報だ。食い入るように聞いてくれた。

「……という訳で、とにかく事情が分からないってのが現状なんだ。だからまず、俺はエーヴィリトに事情を聞いてみるつもりでいる。その間、あんたには兄上のサポートを頼みたいんだ」

「私が、アンブレイル様のサポート、を?」

「そう。一緒に旅してた仲間であるあんたにしか頼めないんだ」

「……私に、務まるかしら」

それから、ティーナはぽつぽつと、ティーナの事について話し始めた。

次期国王の座を逃してから、アンブレイルはティーナに連絡してきていないということ。

でもティーナはアンブレイルに他愛ない手紙を数通、送っているということ。

傷ついているであろうアンブレイルに会うのが怖くて、まだ会いには行っていない、ということ。

そして、今回の婚約破棄について、恐らくアンブレイルは相当なショックを受けているであろう、ということ。

ふーむ、成程。ほんとにアンブレイルってば、馬鹿っていうかなんというか……。

いつまでもうじうじしてるからあいつは駄目なんだよ。俺みたいにさっさと立ち直ってカウンターパンチの1発2発食らわせられるようでなきゃあ。

「アンブレイル様はきっと、本当にゾネ殿下を愛してらっしゃったから……だから、私、今はアンブレイル様に会えないわ。傷心の殿下につけこむみたいで、そんなこと……」

「だからこそ、誰かの支えがあった方が兄上にとっていいだろうと思うんだ」

そして、ティーナの方はティーナの方で、やっぱりうじうじしていた。

でも、あと一押しってかんじだから、俺、押しに押すよ!

「このままじゃ兄上は永遠に立ち直る機会を失ったままだ。俺が会いに行っても逆効果だろうし。何も、傷心の兄上につけこんじまえ、とは言わない。つけこんでもいいけど。……ただ、傷ついた仲間を労わってほしい、というだけなんだ。兄上が立ち直るきっかけになって欲しいんだ。頼まれてくれないか?」

アンブレイルをおとしちゃえよ!とは言わない。あくまで、良心がOKサイン出すようなアプローチで陥落させていくぞ。

……そうしてひたすら、良心が咎めないように大義名分を重ねて、アンブレイルへの同情と危機感を誘うように言葉を重ねて、聞こえの良い言葉を重ねに重ねていった結果、ティーナは折れた。

「……分かったわ。私で力になれるなら……」

「ああ、助かる。どうかくれぐれも、兄上の事をよろしく」

「ええ。力の限りを尽くすわ」

よし。じゃあ早速帰って惚れ薬の調合に入るか!


それからティーナをシェダーまで連れていき、ティーナを置いたらクレスタルデへとんぼ返り。

ディアーネと一緒にお茶を楽しみつつクレスタルデ近郊の最近の状況を聞いたり、俺の近況を報告したり、根回しをしたりしながら時間を過ごし、適当なところで休憩を切り上げて、また慌ただしく瞬間移動。

……今度の行き先はエーヴィリトの光の塔だ。

尋ね人は勿論、シャーテ・リリト・エーヴィリト殿下である。

例の魔導装置、ちゃんと動くかな?


やっと世界地図を更新しました。世界地図が世界地図になりました。よろしければご覧ください。

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