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131話

「受け取れ。シエルアーク・レイ・アイトリウス」

 国王の手から、次期国王の証として、天空石のブローチを受け取る。

「謹んでお受けします」

 それを胸に留めれば、俺の血が、古い魔法によって震えるのが分かった。

 きっと王位の継承の魔法なのだろう。随分古い上に薄い魔法で、どういう意味があるのかは分からないけれど、悪いものじゃない事は分かった。多分、加護とかそういう類のものの継承なんだろう。

 これで、法や決まり事の上でも、魔術的な意味でも、俺は次期国王として認められたことになる。

 認められたことになる、のだが。

「認めない……認めないぞ!父上!何故私ではなくシエルアークをお選びになるのですか!」

 アンブレイルは、認めないらしかった。


「それはお前自身に聞くが良い、アンブレイル。……もう分かっておろうに」

 だが、アンブレイルだってまあ、馬鹿は馬鹿だけど、救いようのないほどの馬鹿じゃあないのだ。

 親父が諭すように言えば、黙って俯いた。

「……では、私は何のために」

「それはこれからお前自身で見つけるのだ、アンブレイル」

『何のために』のあとに続く言葉が何だったのか気になる所だけど、ま、それが何だったとしても、今のアンブレイルにあるのは無力感と絶望と後悔。それにもしかしたら屈辱感だの怒りだのもまだ残ってるかもしれないけど……もう遅い。

「その代わり、お前が犯した罪は不問ということにしよう。シエルアーク、よいか」

「はい。構いません」

 んで、俺としては、女神のご意志を偽った罪、或いはシエルアークの魔力を強奪した罪……その他諸々へのアンブレイルの関与については、もうつつく気は無かった。

「なっ」

 尤も、アンブレイルは俺があっさりOKしたことにびっくりしてたみたいだけどね。

「そういうわけだ。……ではそれぞれ、また日々励め。……それから、もしこれから儂に相談事があるならば、何時如何なる時であろうとも、可能な限り時間を割くことを約束しよう。以上だ」

 こうして、謁見ならびに次期国王の決定は終了した。

 玉座の間を出ていくアンブレイルの顔はよく見えない。

 だが、『王になるのは当然』という顔をしている俺と正反対の表情をしているであろうことは確かだろう。




 次期国王の発表はその日の内に行われた。

 国民は国を守った俺が王になることを喜んだ。アイトリアの広場で次期国王として挨拶したけど、まあ、俺の人気っぷりったらないね。流石俺。

 こんなに強くて賢くて美しい王様の下で生活できるんだから、この国民共も幸せ者である。もっと俺に感謝してもいいぞ。


 ……それからアイトリアでは、次期国王決定の祭が開かれた。

 飲んで歌って踊って、時々魔法が飛び交う。そんな祭である。

 俺にとっても国民の声を直に聴いたり、貴族に媚びを売られたり、魔法を披露してまた名声を上げてしまったり……と、中々楽しい祭だったな。




 当然、俺が次期国王として正式に選ばれた事は他国にも知れ渡った。

 これについては、エーヴィリトから抗議の声が上がった。

 が、アンブレイルからも何か手紙を出したりしたのかな。あんまりつつくとアンブレイルの傷口抉る事にしかならない、って分かったらしいゾネ・リリア・エーヴィリト殿下は大人しくなった。

 フォンネールは……縁談を断る手紙を親父が書いて以来、返事も来ていない。諦めてくれたんだったらそれでいいや。


 そして、ヴェルメルサ、エルスロア、アマツカゼ、メルリントの4つの国からは俺宛にお祝いの手紙が届いた。

 ヴェルメルサ王からの手紙は、ドラゴン皮の皮紙にドラゴンの血のインクでかっちり書いてあった。

 エルスロア王からのは、薄く削った魔石を掘って、そこに魔鋼を流し込んでから磨き上げて文字を浮き上がらせたメッセージカード。うーん、洒落てるけど多分これ、メルリントから入った魔石を使ってみたくて使ってみたくて使っちゃったやつなんだろうな。多分。あの王様の事だし……。

 アマツカゼ王からの手紙は、花扇鳥の尾羽らしきものが添えられた巻物であった。とっても達筆な筆文字はなんとなく前世が思い出される風合いである。

 ……それから一応、リスタキアからもご挨拶のお手紙が来た。

 リスタキアの定型の書簡、かつ定型文で来ただけだけどね。




 ……それから、大臣についての発表も慎ましやかに行われた。

 つまり、女神の意思を騙っていた、っていうことね。

 ……ただ、勿論、ここにアンブレイルは関与しなかった事になってる。そういう約束だったしな。

 それだとあまりにも大臣が哀れなんで、俺から親父にお願いして、大臣は聖水牢からちょっといい牢へ移した。

 ちょっといい牢とは言っても、牢屋は牢屋だ。でも布団はちゃんとあるし、立ったまま寝なくてもいいし、ずっと水に浸かりっぱなしでも無い訳だから、いきなり生活の質アップである。

 大臣は俺にいっぱい感謝してくれていいよ。




 ……と、こんなことをしながら、俺は俺でやらなきゃいけない事もあったし、シャーテとの作戦会議もあったし、何かと忙しい日々が過ぎていったのだった。


「魔力を奪われたことを黙っていて良かったのか」

 ということで、部屋でのんびりティータイムである。

 忙しいんだからちゃんと心のゆとりを持つ時間は必要だよね。

 ……それから、こういう時でも無いと、ヴェルクトとのんびり話す時間がとれないのだ。

「魔力を奪われたことをあんなに怒っていただろう」

「あー、うん。だって凹んでる相手に追い打ちかけても楽しくないじゃん。追い打ちかけるんだったら、相手が立ち直ってからだよ。……例えば、エーヴィリトの姫君との婚姻が決まってから、とか」

 アンブレイルはというと、すっかり凹んで、『休暇』をとってシェダー領の別荘に引きこもってしまっている。

 よって、まだエーヴィリトとの婚姻の話も正式に出ていない状態だ。

「……そういえば、エーヴィリトの事もあったな」

「うん。今、俺がいじめなくてもどーせ、そこのゴタゴタでアンブレイルは酷い目に遭うだろうから」

 その時、俺はアンブレイルが手出しできない位置からのんびり眺めていればいい。わざわざいじめなくたって楽しめるのだ。あんまりいじめて再起不能になられたらつまんないし、こんなもんで丁度いい。


「ま、エーヴィリトのゴタゴタの前に、お前の試験だな。当然、一発で通れよ?」

「……分かっている」

 が、目下の所、俺達の障害はエーヴィリトのゴタゴタでは無い。

 まず、ヴェルクトの武官試験が明日に迫っているのだ。

 緊張しているのか、やや硬い表情を浮かべるヴェルクトの背を叩いて気合を入れてやる。

 俺の部下なんだ、優秀でいてもらわなきゃ困るからね。……じゃないとその後のゴタゴタに対応できないし。

「ま、お前の事だからどーせ受かるんだろうと思ってるけど。……アイトリウス兵法9条は?」

「アイトリウスの兵の種類の規定だ。大きく分けて、国王親衛隊、国王以外の王族の騎士、国付きの騎士。国付きの騎士はさらに階級と種別ごとに分かれる」

「はいはい、上出来。……お前、無駄に神経太いから、口頭試問がいかに圧迫面接でもふつーに通りそーね」

「その程度で怯んでいたらお前の騎士でいられないからな」

 まあ、ヴェルクトの事だ。今まで頑張ってお勉強してくれたし、実技試験で通らないわけが無いし、武官試験に落ちるとは思って無いんだけどね。


 ……けど、それでもゴタゴタするもんはゴタゴタするのである。

「殿下、お茶をお持ちしました」

 丁度いいというか、悪いというか、『ゴタゴタ』の原因が、やってきたのであった。

「ヴェルクト」

「分かっている。追い返す」

 俺の傍を離れたヴェルクトが部屋の扉付近で何か言い争っている。

 ……言い争いの相手は、あれだ。

 俺の、『元』侍従、である。




 元・侍従。つまるところ、俺が魔力を失う前まで俺の世話してた侍従達。つまり、俺を裏切ってくれた連中である。

 内訳は世話係が3人と、国付きの騎士が3人だった。(当時俺は8歳だったから、まだ騎士が『俺付き』じゃなくて『国付き』だったんだよね。俺を守る仕事してても、所属は俺じゃなくて国、つまり親父、って事。)

 その内、世話係2人は辞職からのシェダー領(アンブレイルの母親の実家ね)へ就職。世話係1人は『不慮の事故』で死亡。

 3人の騎士の内の1人は、俺にボディーブローかまして禁呪の魔法陣まで運んでくれやがった野郎だけど、そいつはなんと、アンブレイルの騎士として取り立てられている。

 いやー、出世したね。よかったね。そのままアンブレイルが国王になれれば国王親衛隊っていうエリート中のエリートになれたんだろうけど、それは出来なかったね。可哀相に。

 そして、問題なのは残った騎士2人。

 ……今うっさいのはこの騎士2人である。


「追い返してきた」

「ん。ありがと。……ったく、駄目だな。早い所信頼できる騎士連れてきて侍らせとかねえと『次期国王の騎士』狙った連中が雪崩れ込んでくる」

 そう。今や俺は、次期国王。

 国王付きの騎士は『国王親衛隊』という、アイトリウスの騎士のトップ、エリート中のエリートになれるのだ。

 ……そして、幸か不幸か、俺は7年間幽閉されてたもんだから、『騎士が居ない』。

 つまり、国王親衛隊候補の空席がいっぱいあるって事で……そりゃーもう、俺の騎士の座を狙って国付き騎士どもがゴタゴタするよね。

「……しかし、シエルを守れなかった奴が今更どの面を提げて……」

 そして、さっき来た騎士2人も、俺の騎士の座を狙っているのである。

 ヴェルクトが渋い顔をするのも分かるよね。

 だって俺の事守れなかったどころか、多分、自ら進んで俺を裏切ってくれたであろう奴らが俺の騎士になろうと媚び売ってるんだからね。どんだけ面の皮が厚いんだっていう。

「魔力強奪に関しては、表向きじゃ事件ごと伏せてあるからな。そこらへんに関して俺は、『記憶喪失』っつう設定だ」

「……それで、か」

「うん。7年前にお付きだったのだから7年経った今もお付きは自分達のはずだ、っていう厚かましい主張を繰り広げてる。俺が色々忘れてると思って色々言ってるよ」

 そう。アンブレイルの罪を隠してあげる都合で、事件ごと隠す事になってしまい……その結果、あんなにも面の皮の厚い奴が誕生してしまったのだ。あいつら、面の皮の厚さ選手権とかあったら優勝狙えるかもしれないね。


「……という事で、ヴェルクト」

「なんだ」

「お前が正式に武官になり次第、すぐに俺の騎士として、正式に国に手続きする。そしたら……覚悟しとけよ?」

 ぽっと出の農民上がりがいきなり国王親衛隊候補になっちゃったら、そりゃあもう、嫉妬の雨が降り注ぐだろうから。


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