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125話

「人魚!?人魚だと!?」

 混乱の中、真っ先に発言したのは、エルスロア王。

「はい!この通り、人魚です!」

 そして、シーレ姫はそんな混乱ぶりにもにこにこぴちぴちである。

 能天気にも見える(そして本当に能天気な)シーレ姫をつついて合図すると、シーレ姫は思い出してくれた模様。

「人間の国の皆さんにお近づきのしるしに、私達の国の宝玉をお持ちしました。どうぞ!」

 シーレ姫は水の浮輪でふわふわ宙に浮かびながら、各国の王や貴族に『人魚の真珠』を配っていく。

 珍しい宝石に心を奪われる貴族は少なくないし、多少の宝石じゃあ靡かない王たちも、人魚の姿と人魚の国の物には興味があるらしく、しげしげと『人魚の真珠』を眺めている。

 ……そして。

「こ、これは……!杖にするなら海神珊瑚樹か、いや、海鳴り柳も捨てがたい……装飾品にするなら鯨鋼……では無骨すぎるな。性能なら鯨鋼もいいが……美しさも生かすなら水面銀がいいかもしれん!」

「それなら私達の国にも銀線細工の職人がおります!私達は水面銀では無くワタツミ深層銀を使いますが……」

「ワタツミ……?それは一体どのような鉱石なのだ!?」

「あ、これですこれです。このブローチの銀線細工がワタツミ深層銀で……」

 俺の狙い通り。

 珍しい鉱石鉱物その他諸々に目が無いエルスロアの王は、すっかりシーレ姫(のもたらす鉱物)に夢中である。

 これは落ちたな!




 このままだと延々とエルスロア王がシーレ姫と話し続けてしまうと踏んで、リスタキア大臣が咳払いしつつ、話を戻した。

「……して、シーレ・メルリント王女。『人魚の国』とは一体?」

「私達人魚の済む国です!ええと……西大陸の更に西、海流に囲まれた島にある国です。初代勇者アイトリウスの時代より前から私達はメルリント王国を築き、そこに住まっていました。人間との交流を断ったのは勇者アイトリウスの死後まもなくです」

 ……そして、シーレ姫は話し始める。

 人魚が人間に受けた仕打ち。人魚を哀れに思った水の精霊が空の精霊と協力して、人魚の島の周りに海流を作り出したこと。そして、人間が人魚を忘れ去った今日に至っても尚、人魚は人間を警戒している、という事。

 身に覚えのない罪ではあるが、実際に人魚極まりないシーレ姫に淡々とそういう事を言われると、流石に全員、なんとなく気まずくなる。

 そりゃーね、「あなた達に私はいじめられてたんですよ」とか言われて、微妙な気持ちにならない人はあんまりいないと思うよ。

「……ですが、その時代ももう終わるのだと思うのです」

 人間たちが全員微妙な気持ちになったところで、シーレ姫は話を明るい方向へ切り替えていった。

「私達の国は、魔物の襲撃に遭いました。危うく、人魚は滅ぼされるところでした。……でも、そんな私達を助けて下さったのは人間でした」

 その人がここに居るシエルアークさんです、と、シーレ姫ははにかむように笑う。

 さりげなく俺の功績アピールである。うんうん、どんどんやってくれたまえ。

「私達は長い時間を隔ててしまいました。でも、人間だって悪い人ばっかりじゃないって、もう分かったんです。人魚は今まで閉じこもりすぎていたんです。人間の世界にはたくさん美しいものがあって、たくさん素敵な人たちが居るんだって、教えてもらえました。……これから人魚は、少しずつ人間の国の皆さんと仲良くなれたら、と思っています。時間はかかるかもしれないけれど、昔々の様に、人間と人魚が助け合うようになれたらいいなあ、と思っています」

 シーレ姫の主張は、各国の王にとって身に覚えのない「あなた達に私いじめられてたんですよ」から、超純粋な「あなた達と仲良くなりたい!」に変貌していく。

「だから、本日はお願いにきました!……人魚の国メルリントを、世界の国の仲間に入れてください!」

 王たちは当然、この意見を肯定的に受け入れざるを得ない。「いじめられてたんですよ」の方を受け入れたくないからね。藪蛇は避けたい以上、人魚を受け入れる姿勢ぐらいは見せてくれるだろう。

 計画通り、である。




「エルスロアはメルリントを歓迎しよう」

 最初に意を評したのはエルスロアだった。

「我が国は職人の国。道具にお困りになったなら我が国を頼って頂きたい。その代わり、鉱石で世話になることもあるだろうが……ドワーフもエルフも長命だ。時間はいくらかかっても構わぬ。良好な関係を築けることを期待している」

 エルスロア王は鉱石大好きだからね。そりゃ、珍しい鉱石が交易で手に入るチャンスなら逃したくはないよね。

 ……それに、エルスロアはエルフとドワーフの国、だ。人魚を受け入れる心だって持ち合わせているのだろう。


「ヴェルメルサもメルリントを歓迎したい。聞けば、我らがヴェルメルサの隣国であるというではないか。長い時を経たが、これも1つの縁。失われた友好を取り戻す機会だ」

 そして、ヴェルメルサもあっさり意思表明。

 ま、貿易の国だもんね。貿易相手は多いに越した事は無い。それに隣国だから、立地的には一番ヴェルメルサが恩恵を受けられそうだしね。


「アマツカゼも賛成しよう。……人魚の姫君よ、是非一度、我が国へ遊びにいらして頂きたい。きっとお気に召されるはず」

 そしてアマツカゼも賛成。

 ……アマツカゼ王、単純に公正・公平の観点だけじゃなくて、多分、妖怪関係の意図が働いてるんじゃないかな。

 まあ、ああいう妖怪とお付き合いしてりゃ、人魚程度には驚かなくもなるか。


「リスタキアも続きましょう。我らは水の民。海の方々は我らが友です」

 ここで意外な事に、リスタキアが票を入れた。

 うん、まあ、理由は妥当だよね。

 ここで友好結ばなかったら、国に戻った時に水の精霊の機嫌をおおいに損ねる恐れがあるからね。

 これは嬉しい誤算だな。




 ……さて。

 これでもう、7つの国の内4つの国が、人魚の国の仲間入りを認めた。

 多数決の原理で、これにて可決、って訳だ。

「ええと、一応お伺いしましょう。……アイトリウス王は」

「賛成しよう」

 親父に話は一切してなかったんだけど、流石にここで反対するほど馬鹿じゃなくてよかった。

「フォンネール王はいかがですか?」

「賛成だ」

 そして、フォンネールも賛成。

 ……まあ、反対したってもう過半数が賛成してるんだから、メリットが無い。

 ここで人魚の心象悪くする意味も無いしね。

「エーヴィリト王は」

「……賛成しよう」

 そしてエーヴィリトも陥落。

 エーヴィリトとしては、多数決の票の数が1つ増えるのは嫌なんだろうけど、反対する訳にもいかず……ってところで、渋々賛成してくれた。


「で、では……我らの世界の円環の中に、人魚の国『メルリント』を加えることをここに決定します!」

 リスタキアの大臣がそう言って締め、とりあえずこれでこの話は終わり。

『メルリント』は国家として認められ、『円環条約』の中に入った。

 シーレ姫が王の代理として条約にサインして、終了。

 シーレ姫が可愛らしくぴょこぴょこお辞儀してにこにこしてるもんだから、全員思わずにっこりしちゃうよね。

 これで多数決の分母が増えるにしても、ね。




「で、ではこれより予定通り……『シエルアーク・レイ・アイトリウス被告が女神の意思を騙り、勇者を騙り、魔王討伐を騙った問題について』の世界裁判を開廷致します」

 そして、シーレ姫と俺がバトンタッチ。

 今度こそ、俺が会場の中央へ進み出たのだった。




「では、今回の原告であるエーヴィリトのゾネ・リリア・エーヴィリト殿下より、訴えをお願いします」

 会場の中央、全方向から見える位置に立つ俺に対して、壇の上からゾネ・リリア・エーヴィリトが『訴え』を述べていく。

「一。シエルアーク・レイ・アイトリウスは、創世の女神様の意思を騙っている。二。シエルアーク・レイ・アイトリウスは勇者の名を騙っている。三。シエルアーク・レイ・アイトリウスは魔王討伐を行ったと騙っている。これらを許すべきではなく、我らは世界裁判によってこれを裁くものである」

 神妙な顔をして聞いてあげると、ゾネ・リリア・エーヴィリトの声はますます朗々と響き渡った。

「今回、世界中へ届けられた書状には『勇者シエルアーク・レイ・アイトリウスが魔王討伐を行った』とありました。しかし、『勇者』たる者は女神様の神託を受け、女神様の加護を受け、精霊様の加護を受けた勇者アンブレイル・レクサ・アイトリウス様1人。アンブレイル様以外の者が『勇者』を名乗る事は、『勇者』をお選びになった女神様のご意志に反することであり、即ち、創世の女神様への反逆です。また、アンブレイル様こそが今回の魔王討伐をなさったお方なのです。偽りによって『勇者』の功績を騙るなどもっての外。許し難いことです。……以上が今回の訴えと、その詳細です」

 言うだけ言って、ゾネ・リリア・エーヴィリトは着席した。


 そして、俺のターンが回ってくる。

「……では、被告に問います。原告の訴えに異論はありますか?」

「はい。しかし、その前にいくつか訂正して頂きたい箇所が」

 ……俺の答えに、会場が静まり返った。

 俺が何を考えているのか測りかねるように、ゾネ・リリア・エーヴィリトやアンブレイルが不審がるのが面白い。


 俺は、勿体ぶる様にゆっくりと喋り出す。

「まず。『勇者』とは、女神によって選ばれた者のことではありません。世界を救った者の事です。ここしばらくの勇者の『世界を救う』手段が魔王討伐であるというだけの事」

「同じことでは?魔王を倒す事ができるのは女神様のご加護を受けた者だけで」

「2つ目」

 ゾネ・リリア・エーヴィリトの言葉を遮って、俺は続ける。

「『魔王討伐』は正確には『魔王を倒す』ことではありません。……『魔王討伐』は魔王の再封印を指すことであり、『魔王殺し』では無い。そして3つ目」

 いよいよざわめく場内に叩きつけるように、俺は言う。

「私が成し遂げたのは『魔王討伐』では無い!『魔王殺し』だ!」


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