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119話

 神殿の中が一気に魔の空間と化す。

 重く濃く魔力が漂い、それらが圧倒的な威圧感となって俺達に襲い掛かる。

 その中心に居るのは、『魔王』。

 魔物とも魔人とも悪魔ともつかない容貌。

 手足の先の爪や牙は鋭く、頭部からは長く角が生え、背には翼まで備えている。

 巨体を包む皮はきっとドラゴンの皮より頑丈で刃を通しにくいのだろう。

 そして複数備えられた瞳が、俺達を見下ろした。


 こいつが魔王。魔を統べる世界最強の生き物。人類の敵。

 ……そして、これから俺のごはんになってくれる生き物である!




「我は魔王。魔を統べる唯一無二の存在なり。人間よ、貴様が我が封印を解いたのか」

 そして、そんな要望にもかかわらず、一応理性的な生き物らしかった。

「理由は問わぬ。だが、忌々しき封印を解いてくれたことには感謝しよう」

 おっ、おっ、感謝のしるしに魔力丸ごとくれちゃったりする?

「その礼に……復活に当たって始めの贄に、貴様らを選んでやろう!」

 あっ訂正!全然理性的じゃない!

 いや、理性的なんだけどそれ以上に独善的で利己的だ!

「おいおい、勘違いしてもらっちゃあ困るぜ、魔王よお」

 ……しかし、独善と利己の度合いで俺に勝とうってのがそもそも間違ってる!

「俺達が贄になるんじゃない。お前が贄になるんだよ!」

「なんだと?」

 魔王の魔力が感情の動きに伴って膨れ上がる。

「よっしゃー!早速ディナータイムと洒落こもうぜ!」

 それに呼応するように、俺達は一斉に動き出した。




 最初に動いたのはヴェルクトだった。

「悪いな、俺の主人がお前を晩餐にご所望だ。狩らせてもらう」

 ほとんど捨て身に近いような動きで、魔王の懐に入り込む。

 そしてそのまま魔王の胸を切りつけ、確実に深く抉った。

「おのれ、人間風情が!」

 魔王も黙ってはいない。

 ヴェルクトを振り払うと、その鋭い爪をヴェルクトに振り下ろした。

 ……が、その爪はヴェルクトに届かない。

「焼き方はウェルダンでいいかしら?」

 勢いよく吹きだした炎が魔王の腕を襲い、軌道を変え、それのみに留まらず一気に焼き焦がしていく。

 絶対ウェルダンで済んでない。

 その隙に俺が投げた魔石が魔王にぶつかって魔王の左目の1つを凍り付かせ、ヴェルクトの一撃が焼け焦げた魔王の腕を切り落とした。



「調子に乗るなよ、人間風情が!」

 そう思ってたら魔王が吠え、巨大な氷柱が地面から突き出した。

「お前こそ調子に乗るなよ、生贄風情!」

 なので吠え返しつつ、魔力吸収ハリセンを抜刀(刀かどうかはおいといて)し、氷柱を一気に消してみせる。

「なっ」

「ぼさっとしてんじゃねえぞ生贄!」

 そのまま魔石を立て続けに投げつけてやると、ディアーネが援護射撃で魔石に火を付ける。

 光の魔石に炎の魔法が合わさり大爆発となって、魔王の左肩を爆破した。


 立て続けにディアーネが魔王を焼き焦がし、ヴェルクトが斬り、或いは切断し、俺が魔石だのなんだので賑やかす。

 それだけで魔王の左半身はボロボロになる。

 ……あれっ、案外こいつ弱い?

 確かに攻撃自体はとんでもない威力なんだけど、気を付けてれば避けられるし、いなせる。

 それにバトルフィールドが狭いから、一番脅威になる魔王の魔法は俺が全部吸収できちゃう。

 そして俺達の攻撃はその隙間を縫って、案外通る。

 ……こりゃ、まだ何かあるな、多分。




 と思っていたら、案の定、なんかあった。

 魔王の左腕と左足を吹っ飛ばして、右腕にも致命的な損傷を与えた頃。

「人間にしては中々楽しませてくれたが、いくら貴様らが足掻こうが無駄な事……!」

 魔王の周りに魔力が満ちたかと思うと、魔王の傷が全部治っていた。

「我が魔力は無限にも等しい。貴様らは永遠と戦い続けるというのか?」

 成程、魔王が魔王たる理由はこれか。

 魔法によって瞬時に再生する肉体。

 そして、そんな魔法を撃っても目減りしない程の膨大な魔力。

 魔王の魔力切れを狙うには俺達の体力や魔力は少なすぎ、回復の前に致命傷を与えようにも、回復のタイミングは完全に魔王次第。

 つまり、魔王を殺すことはできない。

 こりゃあ、勇者アイトリウスが魔王を殺そうとせずに封印しようとする訳だよ……。




 魔王は回復してしまうが、俺達だって魔王の攻撃を受けてはいない。

 つまり、今の所俺達と魔王は互角。

 ……だが、それも長くはもたないだろう。

 魔王の魔力はほとんど無限、らしいけど、俺達の方はそうでも無い。

 魔力タンクのヴェルクトだって魔王から比べればちっぽけな魔力量でしかない。

 魔王の魔力切れを狙う前に、こっちの魔力が切れて戦闘の均衡が崩れるか、或いは、こっちの体力が切れて戦闘の均衡が崩れるか。

 どっちにしろ、崩れるときは俺達側に、って事になる。

 うーん、これが、『攻撃が一切通らない』とか、『相手の攻撃でこっちがすぐ虫の息』とかじゃなくて、『攻撃は通るし相手の攻撃は避けられるけどすぐ回復される』って所がいやらしいというか、なんというか。

 魔王ってのは膨大な魔力にあぐらをかいて鍛錬ってものを怠っていたのか、それとも戦いのセンスが絶望的に無いのか。

 或いは、強者としての自信があるからこんな舐めプしてるのか。


 ……なんにせよ、このままじゃいられない。

 このままじゃジリ貧である。俺はこんなところで負ける訳にはいかない。

『無限にも等しい』ほどの魔力とあったら、奪わない訳にはいかない。これだけの魔力があったらそりゃ楽しいだろうしな!


 無限の回復力を持っている相手を半殺しにして、魔力を奪う。

 ま、普通に考えて無理である。

 相手が持っているのは無限の回復力だけじゃない。

 高位の魔神以上の魔法と、鋭い攻撃。

 魔法は俺が全部吸収できてるからまだいいけど、爪だの牙だの尻尾だの翼だのが飛んでくるのは結構ぞっとする。油断してたらこっちで物理的に一発貰っちゃいそうである。やってらんないね。

 ……が、魔力を奪う云々を抜きにしたって、この魔王を倒す手段はたった1つ、『魔力吸収』だけなのだ。

 魔王の魔力切れはまずありえない。ちまちまやってたらこっちが死ぬ。

 となれば、もう一気に片を付けてやるしかないだろう。

 つまり、魔王を半殺しにするなんて諦める!

 焼き加減はウェルダンじゃない、レアどころか活け造り、いや、踊り食い!

 そう!俺は魔王の踊り食いに挑戦する!




「ディアーネ!ヴェルクト!一回戻って来い!」

 俺が声を掛けると、ディアーネはでかい火魔法一発撃って魔王を足止めし、ヴェルクトは飛びのきざまに魔王の脚を光の短剣で切断し、それぞれさっさと俺の所へ戻ってきた。

「何かいい案でも浮かんだか」

「おう。……まず、ディアーネ。これから5分で力を使い果たしていい。魔王を足止めし続けろ。方法は問わない」

「ええ、分かったわ」

 無茶ぶりだが、ディアーネは快諾。

 それに伴って、瞳の奥で炎が激しく燃え盛り始める。

「それから、ヴェルクト。お前はとりあえず、炎耐性付ける薬を飲め。魔王の攻撃から俺を守る盾になれ。俺が攻撃を受けたら薬ぶっかけて治せ」

「ああ。任せろ」

 そしてこっちも無茶だが、ヴェルクトも快諾。

 どこか誇らしげですらあるね。ま、多分こいつはやり遂げてくれるでしょう。荷物から薬を出して飲んで、準備完了、ってかんじだ。

「……が、それは途中までだ。途中からは役割を交換しろ。どこかのタイミングで『俺は魔法の影響を受けるようになる』し、『魔王は魔法の影響を受けなくなっていく』はずだ。そうなったら、ヴェルクトが魔王を攻撃して、ディアーネは魔王の魔法から俺を守れ」

 俺も何が起きるか分からないが、魔王だって同じこと。

 俺がアンブレイルから魔力を奪われたあの時の感覚から察するに、魔王だって魔力を奪われたら碌に抵抗できないだろう、とは思うんだけどね。

 一体どのぐらいの時間が掛かるかも分からないし、俺がどうなるかも分からないし。

「そしてお前らに守られつつ、俺は魔王から魔力を奪う。……半殺しにするのを待ってられるか。魔力を奪う事で半殺しにしてやる!」

 が、やらなきゃ世界は滅ぶ。そして何より、俺の魔力が手に入らない!

「じゃ、いくぞ。……3、2、1!」

 明確な目的をもって、俺とヴェルクトは同時に走り出した。




 急に突っ込んできた俺に対して、魔王は少々驚いたらしかったけれど、それだけだった。

「何を考えているかは知らぬが、無駄な事よ」

 そして迫る爪は……ヴェルクトが弾いた。

「悪いが、無駄かどうかはシエルが決める」

 ヴェルクトは爪を弾いたその空中で、ありえない方向転換を行ったかと思うと、不意を突いて魔王の目玉を抉り抜いた。

 魔王はそれに対してすら特に反応もせず、次の一手を俺に繰り出してくる。やっぱり俺が切り札だって事は魔王にも分かってるらしい。懲りずに俺に向かって攻撃が飛ぶ。

 が、俺の仲間は優秀だぞ。

「命ず。怒りを供覧せしめよ。世界は炎によって生まれしもの。世界は炎によって栄えしもの。忘れし世界へ供覧せしめよ!世界に鉄槌を、世界に終熄を!裁きの時は今!燃え上がれ、世界はお前の物!」

 そんなかんじの詠唱を美しい精霊言語で罵る様に叩きつける様に叫び、世界一の魔女は世界一の杖を掲げた。

 その途端、魔王は燃え上がる。

 炎は魔王の腹部から右足を残して魔王を包み込み、その手足を端から焼き崩しさえするのだ。

 恐らく、魔王は焼かれる端から再生してるんだろうが、それに対抗し、競り勝つほどの威力の炎。

 流石、ディアーネの本気、5分で己を使いきる覚悟をした世界一の魔女の最大の魔法である。

 ヴェルクトはディアーネ謹製の炎耐性の薬を飲んで、それでも尚肌を焼かれる感覚に顔を顰めているのも無理はないだろう。

「無駄だと言っているだろうが!うっとおしい!」

 炎を纏った尾が俺を薙ぐように飛んでくると、ヴェルクトがそれを半ばまで切り裂く。

 立て続けに襲い掛かってきた爪は、ヴェルクトが言葉通り、身を盾にして俺から遠ざける。

 そうして生まれた隙に、俺は『魔王の魔力ぶんどる装置』を装着した左手を伸ばし……。

「弱肉強食だ!悪く思うなよ!」

 魔王の腹に、拳を叩き込んだ。


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