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117話

 俺はさっさとオヤスミしちゃいたいってのに、わざわざ決戦前夜を狙ってきてくれてどうもありがとう!死ね!

 くそー、なんだってこんな時に……。

「また私が焼き払いつつシエルが魔法を吸収すればいいかしら?」

「俺は撃ち漏らしをやればいいか」

 ……いや、待て。

 逆に考えるんだ。これはチャンスだ。

「いや、ディアーネ、焼き払うな。『逃がさないように』だけしてくれればそれでいい」

 今は、決戦前夜でもあり……『魔力無しの俺、最後の日』でもある。

 なら、今の内に魔力無しっぷりを存分に堪能しておくべきだと、そう考えられる!

「ヴェルクト!安くてでっかい魔石ありったけ買うぞ!ついて来い!ディアーネは魔物よろしく!」

「あまり遅いようなら焼き殺してしまうわよ?」

「すぐ戻る!……あ、すみませーん!そこの魔石下さい!いくら!?」

 ……そう。俺の魔力無しとしての特性……『魔法効かない』、『魔力作れない』、『魔力吸える』、そして『魔力の移動ができる』!これを使っておかない理由はない!

 今の内に魔力を貯めに貯めておいて、俺の魔力が戻った暁にはそれを使って俺専用空間を作って遊ぶのだ!




 流石、地の精霊のお膝元、エルスロア。

 手を加えればいくらでも上質になるであろう魔石がごろごろと売られている。

 つまり、魔力を貯めておく能力は高いけれど、あんまり魔力が入ってない、っていうタイプの魔石ね。

 それをあらん限りのお金と現物(死神草のあまりだったりなんだり)、そしてアイトリウス王家へのツケで買い漁り、時にはおまけしてもらって、更には差し入れという事でプレゼントまでしてもらったりし……大量の魔石を手に入れることに成功した。

「よし、いくか!魔力収穫祭!」

 そうして手に入った魔石は魔鋼の糸で編んだ網に包んで肩に背負う。

 この状態で魔力を吸収して魔鋼の糸に魔力を流せば、中の魔石に魔力が貯まる寸法だ!

「正気か」

 ただし、大量の魔石を背負ってるので、動きづらい。致命的である。

「……ある程度減らしていけ。俺が持つ。魔石に魔力がいっぱいになったら俺の所に置いて、空の魔石をまた持って行けばいいだろう」

「あらっ、いいの?」

「どうせディアーネが魔物を逃がすわけが無い。なら俺の出番はそんなにないだろう」

 まあ、そうね。

 火魔法なんかと違って、地魔法は対処がある程度簡単だ。予め、魔物の近辺の大地から魔力を吸っておけばいいのだ。そうすれば魔法で動かすために莫大な魔力が必要になる。そこをまた吸ってやれば魔力の回収も簡単、魔物の無力化も簡単である!

 ……つまり、ディアーネが魔物を火の外に出さない限り、フェイバランドに被害が出る心配があんまりないんだよね。

「じゃあお言葉に甘えて……へっへっへ」

 早速、ということでヴェルクトに魔石をぽんぽん渡して身軽になる。

 その分ヴェルクトが重い訳だけど、今回はこいつを動かす予定はあんまりないから大丈夫!

 なんといっても、決戦前夜の魔力収穫祭!

 俺の、俺による、俺のためのお祭りなのである!




 街の外ではもう火が燃えまくっていた。ディアーネは今日も元気。

 火の壁の内側では、魔物が右往左往しながら儀式魔法の魔法陣を作っている。

 力を合わせてかなり高度な奴を発動させようとしてるんだろう。多分、一発逆転的な奴を。

 だが無意味だ!全くの無意味だ!むしろありがたい!

「おじゃましまーす」

「貴様はっ!……よくぞ現れたな、シエルアーク・レイ・アイトリウスよ!前回は後れを取ったが、今回こそは」

「そしていただきまーす」

 地のヒュムスさんだっけ?なんか言おうとしたみたいだけど、とりあえず俺は目の前の儀式魔法が気になる。

 これだけ多くの魔物による儀式魔法だ。相当な魔力が大地に注ぎ込まれているはず!

 ……そして実際、魔力がいっぱいであった!

 魔法陣の真ん中、儀式魔法が刻まれた大地に手をついて、そこに注ぎ込まれた魔力を一気に吸い上げていく!

「ワー!なんダこれは!」

「ヒュムス様ー!力が!ぬけテいきます!」

「ぐっ……シエルアーク・レイ・アイトリウス!貴様、何をしたあっ!」

 勿論、そこに魔力を注ぎ込んでいた魔物たちはたまったものじゃない。

 儀式魔法は発動にリスクを伴う為、実戦で使うのは難しい魔法だ。

 なんといっても、儀式のための魔法陣が必要だからそれを描かなきゃいけないし、膨大な魔力や呪物も必要。

 更に更に、莫大な量の術式を分担して発動させていく場合(今回みたいな場合ね)、発動までに時間が掛かるし、キャンセルにも時間が掛かる!

 更に更に更に!……こういう儀式魔法は、魔力を多く持っている者が多く分担するのがセオリー。

 つまり、大将首からいきなり魔力をいっぱい貰える、って事なんだな、これが!

「はい、まいどありー」

 そして倒れていく魔物たちの間を抜け、地のヒュムスが地に膝をつきつつ何か喚くのを背に、俺はまた火の壁を越えて外に出たのであった。

 だって魔石がいっぱいになったんだもん。




「おじゃましまーす」

 ヴェルクトの所にいっぱいになった魔石を置いて、空っぽに近い魔石を背負って、また火の壁の内側へ。

「貴様っ!」

 そして地のヒュムスさんの攻撃を躱しつつ、大地に手をついてそこら辺の魔力を一気に吸う。

 これは地魔法対策ね。魔力が極端に少ない大地から地魔法を使ってフェイバランドを襲うのは無理があるし、こうしておけば安心・安全。

「じゃ、まいどありー」

 そして魔力もいっぱい回収できる。いいことづくめだな!




「おじゃましまーす」

「今だ!撃て!」

 今度は魔法の一斉掃射ときたもんだ。

 ありがたいね!

 魔力吸収剣(ハリセンだけどね!)を取り出して、俺に向かって飛んでくる魔法を全部吸い上げる。

 剣が吸った魔力を手から吸い上げて、魔石に流す。

「はい、ごちそうさま」

「ぐぐぐぐ……貴様!一体何のつもりだ!何故戦わない!怖気づいたか!」

「まいどありー」

 安っぽい挑発に乗ってやるほど俺はお安くないのである。

 また魔石を背負って火の壁の外へ。




「おじゃましまーす……うわっ」

「どうだ!これなら貴様も手も足も出まい!」

 今度は魔物による総攻撃だった。まあ、魔法が駄目なら物理で殴れ、ってのは非常に正しい。今回の場合、最善手。

 だがしかし、相手が悪かったな。

「おじゃましましたー」

「ギャーッ!」

「火ガ!」

 おじゃましますの1秒後にはおじゃましました。

 俺に向かって飛びかかってきた魔物たちは勢い余って火の壁にぶつかり、焼け焦げていくのであった。

 火の壁をすり抜けられる俺ならではの回避方法。

 魔力が勿体ないけど仕方ない……。




 それから、黙って火の壁に手を突っ込んで、手にぶつかった魔物から魔力を吸っていく、という方法で遊びに遊んだ。

 中の魔物が減ってしまってからはしょうがない、リスキーではあるが、火の壁の中に入って適当に魔物を殺していく。

 魔力を吸う余裕があれば吸うし、そうでなかったら剣で斬り殺すなり、火の壁にぶつけて燃やすなりした。

 そうこうしている内に魔石もすっかり魔力でいっぱいになり、俺、とっても満足。

 魔物の軍勢の魔力がほとんど丸ごと。これだけあれば、ちょっと遊ぶ程度の広さの空間なら作れそうね。へっへっへ。

「おのれ……貴様、どこまで我らを愚弄すれば気が済むのだ……!」

 が、最後に高位の魔神がまだ残っている。俺はエコ志向だからね、大事な魔力を無駄にはしない。

「え?別に俺、お前らを愚弄するつもりで愚弄してるんじゃないよ?戦ってたらお前らが勝手に愚弄されてるってだけよー?」

「なんだと……!」

 満面の笑みで煽ってやれば、地のヒュムスはさっさと怒ってくれた。

「ならば、見るがいい!我が最大の魔術を!」

 怒りと共に集まる魔力は、半ば無理やり大地へ注がれていく。

「おっ、すごいね!」

 そして大地は姿を変え、竜の首となり、伸びて……。

 ……それきり、であった。

「何故だ、何故、魔力が通らぬ……!」

「俺が天才だからだよ!」

 そしてそれ以上に、俺が地面に手をついて、片っ端から魔力を吸ってるからである。

 幾ら高位の魔神の魔力が膨大だからっつっても、流す端から魔力を吸われてたんじゃ、魔法の形にすることなんてできやしない。

 ましてや、火や風や水をぽんと出すのとはわけが違う、『大地を動かす』ような魔法なら、尚更。

 魔力が一回地面に入る訳だから、そこを吸っていけば魔法になる前の魔力を貰う事ができるのだ。そして勿論、吸収の精度を高めれば、大地を伝って、地のヒュムスの魔力を俺が俺の意志で吸収することだって可能だ。

 そう。地のヒュムスが『ただ魔法を使おうとする』だけで、その魔法に必要な魔力はおろか、それの二倍三倍、下手すれば十倍以上もの魔力を吸われてしまうのである!


 ただ魔法を撃とうとしたら、いきなりごっそり魔力が減った。

 そんな感覚であろう地のヒュムスにタッチして、残った魔力もがっつり吸収するまでに、そう時間はかからなかった。




 火の壁の中の魔物を無事全滅させたところで、火の壁が消えた。ま、無駄に出しとく必要も無いからね。

 さて、収穫は山の様にあった。

 まず、高位の魔神の死体!ここはエルスロア。素材があれば喜んでそれを使ってくれる国。

 この死体も街に持って帰れば職人たちが喜んで解体して使うだろう。

 そして、この大量の魔石!

 大きな魔石1つ1つに、めいっぱい魔力が詰まってる。

 俺の貯蓄魔力はこれで十分だろう。わーい、魔力を取り戻した暁にはこれでいっぱい遊んでやろう!

 俺はうきうきしながら高位の魔神の死体と、魔力でいっぱいになった魔石を担いで、とりあえずヴェルクト君の元へ向かったのであった。




 荷物をヴェルクトと分担して運んで、魔神の死体だけは街の人にあげてしまって、俺達は宿で寝ることにした。

 ちなみに、魔神の死体はすごい売れ行きだった。

 魔物の軍勢の侵攻におろおろしていた街の人達、心配のあまり家の外に出てきてたからね。俺達が担ぐ高位の魔神の死体にもすぐ気づいた。

 それからはもう、飛ぶように話が付いた。

 つまり、俺がツケで買った魔石の分の値段をチャラにして、さらに宿代をタダにする代わりに、高位の魔神の死体はフェイバランドの街でもらう、という。

 俺としてもこんな死体いつまでも持って歩いてたくないので、さっさと渡しちゃって、俺達は高級なお宿でぐっすり眠ることにしたのであった。

 うん、今度こそ、魔王との決戦に備えて寝ないとな……。

 しかし、魔力たっぷりの魔石がいっぱい……へへへ。空間作っても余るようなら、何に使って遊ぼうか。わくわくする。考えてるだけで楽しい。

 が、体はそこそこ疲れてたみたいで、楽しいことを考えながらも眠気はちゃんとやってきた。

 ……なんかいい夢見られそうだなあ。


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