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114話

 亀さんは意外と早く泳いだ。でかいからかね。いや、それ以上に速いね。

「これ、これから大陸の移動する時は亀さんに来てもらったら速くていいね」

「そうね。泳ぐより余程いいわ」

 人魚が泳ぐより速いのではないか、という速度で進む亀さん。

 俺達を甲羅に乗せて海を進む亀さん。

 海は青く、空は青く、日差しはあるものの柔らかく、白い綿雲がメルヘンな雰囲気。

 そんな、とっても和やかな雰囲気ではあるが、一応、進んでいる海域はドーマイラ近海。

 つまり、魔物がうようよいる魔の海である。

 魔の海、である。

 魔物いっぱいな、『今一番危険な海!』ってかんじの海である。

「……轢いている、いや、撥ねている、のか……?」

 しかし、そんな魔物もりもりな海でも、この水晶亀には関係ない。

 元気に進む亀さんは襲い掛かってくる魔物を次々に跳ね飛ばし、まるで通行人を轢き殺しながら進む軽トラのような様相で海を進んでいく。とっても気分爽快。

 横からくる奴に関しても、亀さんのスピードについてきながら襲い掛かってくるなんて至難の業。

 そして至難の技をクリアしてみせた強者も、ディアーネの火魔法に焼かれて海の藻屑となり果てる。

「ま、いいじゃん。快適な海の旅でさ」

「快適か……?」

「速さでは申し分ないんじゃないかしら。水飛沫が気になるところだけれど」

 ……まあ、問題点があるとすれば、亀さんが甲羅を海の上に出しながら猛スピードで泳ぐ為、水飛沫がもろに掛かる、ってところか。

 ドーマイラについたら真水で流してディアーネに乾かしてもらおっと。




 そんなこんなで、俺達は世界の中心……眠りの地ドーマイラの土を踏みしめる事になった。

「お疲れー」

「きゅー」

 水晶亀は俺達を陸に降ろすと、海の中へ潜っていった。

「帰りはどうするんだ」

「こうする」

 亀さんに貰った結晶の欠片を海に漬すと、泳ぎ去りかけていた亀さんが振り返って、不思議そうな顔でまた寄ってきた。

「……成程、この結晶を海に漬ければ呼べる、という事か」

「みたいね」

 ごめんね、もういいよ、と亀さんに合図して海へ帰す。……ま、これで呼んでも来なかったら、その時はその時でなんか考えよう。うん。




 さて。

「ここがドーマイラか」

「シエルも来た事は無かったのか」

「うん。アンブレイルは多分来た事あると思うけどね」

 つっても、こんなに魔物がうようよな状態では来た事無いと思う。

 ドーマイラだって、平素は穏やかな土地なのだ。『いずれあなたはここに来て魔王を倒すのですよ』って事でアンブレイルが社会科見学できる程度には穏やかな土地なのだ。


「静かね」

「眠りの地、だからな」

「もっと魔物が大量に居るものだとばかり思ってたが」

 さて、海はともかく、陸に上がっちまえばドーマイラは静か極まりない場所だった。

「眠りの地、なんだよ。ここは」

 魔王は封印されている。魔物が湧くのは封印の力が多少薄れた場所……つまり、ドーマイラ近海が一番、続いて他の諸大陸、って所になるんでないかな。灯台下暗し、っていうか、なんというか。

 魔王が封印されてるのは『空間』だから、その入り口がここにあるとはいえ、魔物を出せる出口がここにあるとも限らないんだろう。多分。よく分かんないけど。

「魔王が眠り、そして、勇者が眠っても居るんだよな」

 魔物はもとより、他の生物の気配も無い、静かな静かな大地を踏みしめて少し歩けば、すぐにドーマイラの中央にある山と、その麓に作られた神殿が見える。

「きっと、両者とも、あそこに」

 あそこが魔王封印の地……そして、初代勇者の墓である。




 神殿に踏み入ると、いよいよ『眠りの地』らしくなってきた。

 異様なほどに音が無く、俺達の足音も吸収されてしまうのか、あまり響かない。

「あれが魔王か」

「いや。あれはシンボルでしかないらしいよ。実物はまだ別空間の中だ」

 そして、そんな静かな静かな神殿の中、入ってすぐの祭壇に浮いているのは、巨大な結晶。

 結晶の中では濃い魔力が渦巻き、蠢き、今にも結晶が割れ砕けて、中から何かが飛び出してきそうな雰囲気すらある。

 あれが魔王を封印しているシンボル。魔王の居る空間とこの空間を繋げるために作られた、古い古い魔導装置の一部である。


 さて、魔王を封印するこの魔術。

 古い魔法だし、複雑怪奇すぎるし、正直何が何だか分からんトンデモ奇術なんだけど、空間魔法を使えるようになった(ただし魔力が無いので使えない)俺にとっては、一応解読可能な代物であった。

 魔力を見る目で目の前の魔術を少しずつ観察して、あっちへ絡まりこっちへ絡まり、という魔力の流れを確認しつつ、あれがこうなってどれがどうなってるのか、把握していく。

 つまるところ、『見て盗む』。この複雑怪奇なトンデモ封印空間魔法を俺のものにしちゃえ、ってことである。

 だって折角ここにあるのに盗まないとかもったいなさすぎるもんね。

 うーん、魔力を失ってから俺の魔法習得スピードはとんでもなく上昇してるんだよなあ。これ、魔力取り戻しちゃうのがちょっぴり惜しいなあ。いや、取り戻すけど。


 そうして魔術を解析していたところ、『隠されていたもの』を見つけてしまった。

「んっ?……なー、ヴェルクト」

「なんだ」

「お前、この神殿の地下になんか部屋とかある気配、する?」

 埋め込まれてんのか、とも思うけど、一応可能性を考えて、気配とかそういうものに聡いヴェルクトに聞いてみる。

 ……すると、ヴェルクトは意識を研ぎ澄ますようにしてやや目を伏せ……頷いた。

「ああ。隠れているのか分かりづらいが、足元に空間があるように思う。空気の流れはほとんどないが、確かに空気がある。部屋があるということだろう」

 目の前の封印の魔法。

 その魔法の端っこが幾つも束になって、祭壇の下へと伸びていくのが見えるのだ。




 とは言っても、神殿はワンルームに見える。

 つまり、入って来たらすぐ魔王封印の祭壇があって、その周りにふっとい柱が7本。それだけである。

 入ってすぐに部屋の全貌が見えちゃうし、中に入って色々見てみてもその印象は変わらない。

 だが、確かに、魔法の端っこは祭壇の下にあるであろう部屋に向かって伸びているのだ。という事は、どこかに地下への入り口があって然るべきなのである。

 早速、検討をつけて探してみれば……案外あっさりと見つかってしまった。

「おーい、あったぞー」

 ヴェルクトとディアーネと一緒に、それを見る。

 7本ある柱の内の1本……水地火風、光闇、そして空の7つの内の一本。

『空』を象徴する柱の裏、天井に近い位置に、隠し扉が付いているのが見えたのだ。

「……ありゃ、どうやって入ろうね」

 つまり、遥か上空10mはあろうか、という位置にある扉なのだ。ちょっとどうしようか困っちゃう。

「任せろ」

 が、俺には強い味方が居るのだ。

 ヴェルクトはロープを持つと、壁と柱を蹴って、空中多段ジャンプなんかも混ぜながら上空へ上がっていき、柱の裏にあった隠し扉を開き、うまくそのあたりにロープの一端を固定した。

 これで俺も中に入れるね!


 柱についていた隠し扉、という時点で分かる通り、隠し扉の内側は柱の中なのであった。

 どうもこの太い柱、内部が空洞になっていたらしいね。強度に不安があるけど、多分他の6本の柱はこんな中空構造じゃないんだろうし、例え中空構造だったとしても、上手い具合に魔術で補強されてるんだろうから心配はしない。

「……深いな」

「ね」

 そして俺達は柱の内側を降りているところなのであった。やっぱりロープを降ろして、それを伝って降りてるわけなんだけど、一向に地面に到着しない。

 ランプはヴェルクトがベルトにつけてるのがあるから、一応明かりが無い訳じゃないんだけど、底までは届かない模様。下を見れば真っ暗。

 間違いなく柱の分は超えたから、もう神殿の地下に入ってると思うんだけれど。


「……そもそもこんなにロープ、長かったっけ?」

「実際、長いだろう」

 延々と降り続けてるんだけど、未だ、到着せず。

 それどころか、長さに限度のあったはずのロープすらいまだ途切れず、っていう具合。

 こりゃもう絶対に魔術的な何かが働いてるよなあ……。


「まだかしら」

「みたいね」

 延々と降り続けて、最早どれぐらい降りたかも分からん状態。

 上を見てももう入り口が見えない。これ、大丈夫なんだろうか。俺、帰れるんだろうか。




 色々心配になってきた頃、急に視界が明るくなった。

「まぶしっ」

 そして、地面にやっと足が着く。

 久しぶりの地面との再会を嬉しく思いつつ、辺りを見回して確認……してみるんだけど、何故か、霧が濃くて周りが良く見えない。

「ヴェルクトー?ディアーネー?」

 ついさっきまで俺の後ろをついてきていたはずの仲間の姿すらよく見えない。

 なので声を掛けてみたんだけど……残念ながら、2人とも返事はせず。

 よく見たら、さっきまで俺が手繰っていたはずのロープはどこにも無いし、上を見ても霧が濃く立ち込めて全体的に白っぽく明るくぼんやり光って見えるだけ。

 ……これはいささか面倒な事になりましたなあ。

 俺、ここに来ての迷子である。




 迷子になった時はどうするか。

 その場で迎えを待つのも1つの方法だろう。

 しかし俺は、どっちかっつうと自分で歩いて迷子を脱出したいタイプ。

 ということで現状維持なんてしてらんねえ、俺は歩き始めた。


 さっきまで灰色の大理石を踏んでいたはずなのに、いつの間にか草を踏んでいた。

 何の音も聞こえなかったはずなのに、いつの間にか鳥のさえずりが聞こえてきた。

 霧のせいで何も見えなかったはずなのに、いつの間にか『それ』は姿を現していた。

 霧が晴れた。


 そこにあったのは、1本の大きな樹。

『生命の樹』だ。


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