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107話

 ヴェルクトとディアーネに、人魚の歴史書で読んだ内容について伝えた。

 勇者アイトリウスがその生涯で複数回、魔王の復活に遭遇して、魔王を倒していること。

 それからその強さを恐れられてアイトリウス王国の民に迫害されたっぽいこと。

 そしてアイトリウスが自らをもってして魔王を封印したということ。

 ……そこら辺を話すと、ディアーネは考察に入った顔をして、ヴェルクトはなんとなく感傷的な顔をした。

「そう……魔王はアイトリウスが封印するまで、数年に一度は蘇っていたという事かしら?」

「多分そうなんじゃない?」

「それまでは魔王は存在しなかった、という事でもあるわね」

「そーね。アイトリウスが最初に倒した魔王より昔の魔王は人魚の歴史書にも残って無かった」

「そして、アイトリウスの封印によって、封印を破られるまでの時間が今程度になった、という事ね?」

 ちなみに、今程度の時間、ってのはざっと100年である。

 俺の前の代の勇者は俺のひいひい……?……ええと、とにかく俺の御先祖のおばあちゃんであったらしい。

 その更に前は俺のひいひいひいひい……とにかく、俺の御先祖のおじいちゃんであった。

 先々代勇者の魔王討伐から先代勇者の魔王討伐までが92年。先代勇者から今までがぴったり100年だ。

 ……アイトリウスが生涯に数度魔王をぶちのめしてた、って事の異常さが良く分かると思う。数年に一度復活されてたらおちおち飯も食ってらんねーや。

「そう……なら、アイトリウスの封印はとても強力だったのね」

「魔法的にも気になる所だな」

 アイトリウスが行った、という封印。

『勇者アイトリウス、その力を恐るる民に追われ、1人、楽園ドーマイラへ赴き、その身をもって魔王を封印す。封印の錠はその魂、封印の鎖はその血、封印の楔はその骨、そして封印の対価はその魔力なり。勇者アイトリウス、封印と共に永久の眠りにつく。楽園ドーマイラ、この時より眠りの地となる……』

 一体どういう魔術なのかは全く分からんけど、とりあえず、コストがとんでもない魔術だった、って事は分かる。

 まあ、婉曲なかんじだけど、普通に考えて……この封印を行って、アイトリウスは死んでるんだよな。

 そういう意味ではなんというか……アイトリウスの墓参りをしてやろうか、っていう気分になるっていうか。多分。


「……シエル」

 俺とディアーネが魔術的な話をしていた横でヴェルクトはずっと何かを考えていたが、こちらの話が一区切りしたところでようやく口を開いた。

「もし、魔王の魔力を手に入れてシエルが民に追われる、ような事になったとしても、俺はついていくからな」

 ……妙に思いつめた顔をしていたと思ったら、そんなことを考えていたらしい。

「……あのさ、もしかして、俺が『勇者アイトリウス、その力を恐るる民に追われ』の所を気にしてると思った?」

「ああ。……なんとなくそんな気がした。そのせいで今日、シエルがぼんやりしているのだとも」

 ……まあ、気にしてない、っつったら嘘になる。

 民のために得た力(じゃなかったとしても、結局使い道は民のためになったんだから民のために、ってことにするけど)が、民に恐れを抱かせて、自分の国を追われるに至る。

 単純に1人の人間として、そんな初代勇者の事を……なんだろ、可哀相に、ってのも違うけど、同情しないでもない。

 けど、それが俺自身の事を考えてたか、っつうと……。

 ……どうなんだろうね。

 魔王の魔力を手に入れた時、俺は間違いなく前よりも強くなる。

 その時、初代勇者のような事態にならないとも限らないな、とは思ってる。

 追われる事は無くても、倦厭されるぐらいはありそうだよな、普通に考えて。

 ……俺は初代勇者に自分の行く末を重ねて見てたんかな。

 ……だとしても、まあ、それは決意表明でしかないんだけれどね。

「お前、俺が迫害されてすごすご逃げるとでも思ったの?迫害されたら迫害してきた奴叩き潰してでも玉座に居座ってやるわ」

 アイトリウスがその力故に追われた、というなら、何故彼はその力をもってして国に居座らなかったのか。

 ……きっと、アイトリウスは優しい奴だったのだ。自分を犠牲にすることを厭わないような奴だったのだ。

 だから、自分が居ない方が民が喜ぶとなれば、そういうふうにしたんだろう。

 だが俺は違う。

 俺、俺が楽しいことなら周りが楽しくなくてもやるタイプ。

「……ならいい」

 決意表明してやれば、ヴェルクトは少しほっとしたような顔をした。

 ……ヴェルクトはこういうこと察するのが上手なんだろうな。俺自身も今一つ気づいてない事に気付くんだ。大した奴だな、と思う。

 つまり、俺の人選に狂いは無かったということだ。流石俺。




「しかし、ドーマイラに行く、となると」

「泳ぐ!」

「嫌よ」

「だよな」

 ……そう。眠りの地ドーマイラは、魔王の復活目前、という事もあり、魔物がわんさか溢れている。

 魔王復活前はいつでもこうだから、内海を突っ切るルートで船を動かす人は居ないのだ。

 よって、ドーマイラ行きの船なんて出ていない。

 ドーマイラ行きの船を出してくれる人も居ない。死にに行くようなもんだからね。

 多分、アンブレイルもドーマイラに行くときはアイトリウスの船を乗り捨て覚悟で使うはずだ。先代はそうしたらしいし。

 しかし、俺がアイトリウスの船を使う訳にはいかないんだよな。

 あくまで親父は俺じゃなくてアンブレイルが魔王を封印するものだと思ってるし、大臣をしょっ引いたとはいえ、まだまだアンブレイル派の貴族は多いし、港町リテナの領主はアンブレイル派だし。

 そんな状態でアイトリウスの船を使おうとしたって、手続きにめちゃくちゃ時間をかけられるだけ、っつうのが目に見えてる。

 船が無いなら仕方ない、泳ぐしかない、と思ったんだけど……まだ、船の甲板で戦える分、泳ぐよりはなんとかして船を調達した方が早いか……。

「……ま、ドーマイラに行くとしても、グラキスの後だな。無量大数に1つぐらいの確率で俺に何かあったりしたら、グラキスの人達は永遠に氷像のままだし」

 俺の事だから、そんなに事態にはならないと思うけど、俺がドーマイラで死んだりしたら『永久の火の欠片』は永遠にグラキスに届かない。だから、まあ、念には念を入れてグラキスを先に、って事だな。

「そうだな。グラキスの人もできるだけ早く戻してやりたい」

「ね。恩は新鮮なうちに重ね売りしとかないと」

 ……ということは、とりあえずクレスタルデに戻るか、或いはエルスロアのガフベイに行くか、エルスロアからエーヴィリトに行ける古代魔法の祠を使うか、ってなるんだけど……。

「シャーテの様子見がてら、陸伝いで行くか」

 折角だから、1周目と同じように、エルスロアからエーヴィリトへ瞬間移動して海を渡るルートで行く事にする。

「そうね。もしかしたら光の精霊様に『生命の樹』について聞けるかもしれないわ」

 シャーテの様子も気になるし、光の精霊が光の姫君といちゃこらしてるのをつっつきに行くのも悪くない。




 ということで、心機一転、元気に北上して、その日の夜にはエーヴィリト国内に到着。

 そこから光の塔へ向かう。突然の来訪だから結構迷惑かもね。知ったこっちゃないけど。


「ごめんくださーい」

 ということで、勝手知ったる他人の家ならぬ塔ってことで、前教えてもらった裏口から勝手に入る。

 光の塔の内部を進んで上がっていき、居住区に入ると悪魔のおねーさんクルガ女史に出くわした。

「あら、お久しぶりね。装置の材料集めは進んでいるかしら?」

「うん。ぼちぼち。クルガさんもお元気そーで何より」

 ……勿論、この悪魔に『生命の樹』について聞く気は無い。

 悪魔ってのは悪魔だから悪魔なのである。当然、何か聞こうと思ったらそれ相応の代価を支払わされるのだ。あんまり無計画に色々利用するってのはちょっと俺でもリスキーだからね。

「ところでシャーテは?」

 ということで、さっさとシャーテに会って一晩宿を借りようと思ったんだけど。

「王子様なら城へ戻ったわ。しばらく帰らないそうよ」

 ……えっ?


 シャーテが、城に、帰った?

 あの、城っつうか王様と姉姫がクズだ!俺がこの国を変える!ってやってたシャーテが?

 ……ってことは、なんかあったんだな、きっと。

 うーん……まあ、居ないなら仕方ないか。

 けど、無断で泊まるのもなんか気が引けるので、一応クルガさんに断りを入れてから(どう考えてもこの塔でシャーテの次に偉いのはクルガさんだからね)部屋を借りて一晩泊めてもらうことにした。

「意外ね。シャーテ王子が嫌っていた城へお戻りになるなんて」

 ベッドに腰かけて、ディアーネがそう言う。うん。俺もそう思う。

 だからこそ、『何かが起きた』んだろうな、とも思う。

「……実は俺、察しがついてなくもないよ」

「そうなのか?」

 ヴェルクトもディアーネも意外そうな顔をしているけれど、まあ、推測の域だからね。当たらずとも遠からず、だと思ってるけど。

「多分、姉姫のゾネ・リリア・エーヴィリトがアイトリウスに嫁ぎたい、って言い出したんだろ」


「……それは」

「ありえない話では無いんじゃないかしら。魔道競技大会で見た時、どう見ても王女様はアンブレイルに惹かれてらっしゃるようだったし」

 ね。あのデレデレっぷりはちょっとなかった。大会なんだからまともに戦えよ、って思ったね。

「だが、ゾネ・リリア・エーヴィリトはアンブレイルがアイトリウスを継ぐと思ってんだろうな。だが、アンブレイルがアイトリウスの継承者なら、ゾネはエーヴィリトの継承者だ。別居婚するんでもなけりゃ、どっちかが王位継承権を放棄しなきゃいけない。だからゾネがエーヴィリトの継承権を放棄してアイトリウスに嫁ぎたい、ってことだろ、多分」

 どうせこんなとこだろうな、と思う。

 シャーテがわざわざ城に戻るからにはそれ相応のメリットがあるはずだし、ゾネとアンブレイルの関係とゾネの日和っぷりを見る限り、ゾネが王位継承権を放棄しようとしたっておかしくは無いとも思う。

「……でも、実際にはシエルがアイトリウスを手に入れるのだものね。話がこじれなければいいけれど」

「ね。なんか楽しそうだよね」

 ……シャーテがどうするかは分からない。王位を継承して、内部からエーヴィリトを変革していく方針に変えるのか、それとも、今までの計画通り、一度ぶっ潰してやり直すのか。

 どちらにせよ、シャーテの動きによってはゾネ、並びにアンブレイルに影響が出そうだよなあ……。

 ……魔王を倒す前に一度会っておきたいな。

 俺の人生は魔王から魔力ぶんどって終わり、じゃない。その後の方がよっぽど大事。魔王は過程でしかない。

 話がこじれる可能性があるなら、先に手を打っておかないと間に合わないしね。

 シャーテだって、ぶっ潰す方の選択をするなら、俺が魔王を倒すタイミングは知らなきゃまずい。なら、一度近況報告と相談、意見のすり合わせのために、王都リューエンに行った方がいいだろう。

 ……次から次へと、ぽこぽこやらなきゃいけない事が出てくるね、まったく。

 けどまあ、『生命の樹』の空間にどこから行けるのかも分からないし、できる寄り道はしといた方がいいよね、多分。




 ということで、翌朝ちゃっかり朝ごはんまで頂いてから光の塔を辞して、エーヴィリトの王都リューエンに向かう。

 さっさとリューエンに着いたら、そのまま王城へGOだ。

 アイトリウスの大臣はしょっ引いたし、親父も俺の事を今更とっ捕まえようとはしてないし、もう諸国の城に堂々と出入りできる訳だな。うん。


 リューエンの真っ白い街並みを抜けて、大聖堂前の広場を通り越して、やっぱり真っ白い城へ向かう。

 ……やっぱりこの町はあんまり好きじゃない。白すぎるし、その裏が決して白くないってのも嫌なポイントだな。

 門番に名乗って、シャーテに会いに来た旨を伝えれば、門番は城の中に走っていった。

 他国の王族が王族に会いに来たんだ。アポなしでも無下に追い返すことはできないだろう。

 ……が、まあ、当然だけど時間はかかるんで、その間暇になる。

 なので手持無沙汰になって、城の前、馬車が並んでいるあたりを眺めてみたりしてたんだけど……。

 ……そこに、ちょっと予想外なものを見つけてしまった。

 アイトリウスの紋章つきの馬車である。


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