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103話

「何っ、まことか!それは……いや、しかし、海中での戦いともなれば、如何に優れた戦士であろうと動きは鈍るはず。我らとて客人にそのような事は……」

「いいえ。勇者としてこの世界を救うつもりなのです。人魚の姫君一人救えぬようではこの先立ち行きません!」

 ……そんな立派な心構え以前に、『海溝が閉じた』っつう時点でなんとなーく……相手がどんな奴か分かるってもんである。

 だったら、ここは相手の事なんざ言わずに恩に着せとくのがベスト。

「……そうか。ならば心苦しいが、またそなたに頼もう。すまぬが、我が娘シーレを救ってやってくれ。道案内は付ける」

「いえ、案内も結構です。恐らく、現場には魔物が居ます。私の戦い方では案内の方をも巻き込んでしまいかねませんので。……ここは私達にお任せください」

 道案内は欲しいが、うっかり巻き込んだりすると厄介だし、足手まといになられても迷惑だし。

 どう考えてもこの人魚たち、そんなに強くは無いんだよな……。

「分かった。ならばせめて、これを持って行ってくれ」

 道案内も断ると、人魚の王様は腕から腕輪を抜いて、俺に渡してくれた。

「人魚の王の腕輪だ。これがあれば海はそなたのいう事を聞く。心して使うがよい」

 思わず魔力を見る目で観察しちゃう。

 ……複雑な術式が組み上げられて収まっている、不思議な腕輪だ。多分、古代魔法と精霊魔法の掛け合わせだな。とっても複雑。

 けれどもう術式は覚えたから、魔力が戻ったら海も俺のものである。ははは。

「はっ。では、しばらくお借りします。必ずや、シーレ姫と共にお返しいたします」

「うむ。くれぐれもよろしく頼む」

「行って参ります!」

 腕輪を素直に受け取ったら、凛々しくぱりっと一礼。

 その後、多少無礼だけれど、そのままさっさと踵を返して玉座の間を出る。急ぎだからね。


 人魚の兵士達も敬礼しつつ、見送ってくれる。

 街の人魚は何事か、と俺達を見てくる。

 ……そして、島の出入り口の近くまで来たところで、俺は腕輪をヴェルクトに渡した。

「どうせ俺には使えねー。ディアーネにはもっと使えねーからお前が持ってるのがベストだ」

「ああ、分かった」

 なんだかんだ、俺もディアーネも魔力に問題ありだからね。こういう魔道具の類はヴェルクトに任せちまうのが一番だ。

「で、ヴェルクト。ディアーネ。……悪いけどお前らはここから南に行ってくれ。そこの島にきっと逢魔四天王の最後の一人が居るはずだから、殺す気でかかれ」


 そして、俺は2人にざっと作戦を説明して、それぞれ海に飛び込んだ。

 ヴェルクトとディアーネは南へ、俺は北西へ。

 さて、どこから来るかな?




 しばらく北西へ泳いでいくと、突如、海底の岩が隆起して襲い掛かってきた。

 ……来たか!

 魔力を見る目でなんとか動きを予想し、水中という最悪のバトルフィールドでなんとか全部、避ける、避ける、避ける。

 続いて、いきなり頭上に現れた岩は別に避けない。

 海底からせりあがってきた岩の槍は避ける。

 ……これらの地魔法はおそらく、『逢魔四天王』の最後の1人、『地』のなんちゃら、が放ったものだろう。

 本人(人っつうか魔神なんだけどね)は今、人魚の島の南にある島に居る。

 それは俺の魔力を見る目で確認済み。

 ……なのに今、人魚の島から北西に居る俺に向かって、遠隔でこれだけの精度・威力の魔法を繰り出している。

 やっぱり魔神は魔神か。なめてかかっちゃ駄目ってことね。

 しかも、地属性だし。


 ……『地魔法』は、恐らく今の俺にとって最悪の相性の魔法である。


 地魔法には大きく分けて2つの種類がある。

 1つは、『地』に属するものを魔力で形作るもの。さっき、頭上に現れた岩はこっちね。

 これは単に魔力を岩とか土とかの形にして擬態させてるようなものだから、魔力の塊を作り出す、っていう事でしかない。

 よって、俺には無効。一切効かない。

 それはいいんだ。

 問題は、もう1つの方。

 ……『地』に属するものに魔法で働きかけて、動かす。さっき、海底から伸びた岩の槍はこっち。

 これはもう、俺にもどうしようもない。

 動いているのはあくまで『岩』であって、『魔力』じゃない。

 よって、俺がこれを食らうと普通に死ぬのだ。

 ……どう考えても、俺にとって滅茶苦茶分の悪い魔法、って事になる。

 だが、それでも俺はこっちに来た。

 理由は単純。『おうちに帰らせる奴に手の内明かしたくないから』だ。




 水のハイドラと戦った時は、結界に使われた水から魔力を吸った。

 火のパイルと戦った時は、火魔法を無駄撃ちさえまくってバテた所を殺した。

 風のモネアと戦った……いや、風のモネアには戦わずして勝った!

 ……という事で、今まで俺が逢魔四天王と戦った時は全部、決まり手が『魔力吸収』だった訳だ。

 当然、魔力を吸収されるのに抵抗する術は無いし、魔力が無くなれば死ぬ。

『魔力吸収』はリーチの問題さえ何とかなれば、必中必殺の切り札になる訳だ。

 高位の魔神なんて、真っ向から戦って良い事なんかない。馬鹿みたいに出力も精度もある奴相手にまともに戦いを挑んでたら、俺だって命が危ないかもしれない。

 だから、逢魔四天王相手に戦うなら、魔力吸収をいかにして行うか、ってのがポイント。

 ここまでが前提。

 ……さて。

 なら、何故俺も南にある島に行って、地のなんちゃらと相対しなかったか。

『おうちに帰らせる奴に手の内明かしたくないから』。

 ……そう。俺の伝家の宝刀『魔力吸収』の存在なんざ、知られない方が良いに決まってる。

 しかし、俺の存在はちゃんと魔王に認識してもらわないと困る。

 いつまでもアンブレイルと間違われるのも癪だし、そのせいでうっかり、俺への攻撃のつもりがアンブレイルへの攻撃にでもなっちまったりしたら、その時アンブレイルが居る街が魔物の被害に遭いかねない。いや、遭う。絶対遭う。アンブレイルの野郎に街を守る能力なんてある訳が無いからな。

 ……だから、地のなんちゃらは魔王様の元に帰してあげて、『勇者』の名前は『シエルアーク・レイ・アイトリウス』ですよ、っつうことをちゃーんと知ってもらわなきゃいけないのだ。

 そして、だったら俺は地のなんちゃらに直接相対せず、陰でせせこましく暗躍してやった方が何かと都合がいい。

 ……その分、ヴェルクトとディアーネの負担が大きくなるが、あいつらなら上手くやるだろ。多分。




 様々な地魔法を避けながら頃合いを見計らっていると、突然、地魔法の威力もスピードも落ち始めた。

 多分、ヴェルクト達が地のなんちゃらと交戦し始まったんだろう。がんばれ。

 俺はその隙に岩の柱の間を潜りぬけて、海底へ到達。

 そしたら、海底の岩盤に手を触れて、少しずつ魔力を吸収!

 ……そう。これが今回の俺の仕事。

 地のなんちゃらよ。

 遠隔操作ですごい魔法をバンバン使ってきたことは褒めてやろう。

 それと同時に、強い戦士と強い魔女相手に戦っていることも褒めてやる。

 だが、地のなんちゃらは意識も魔力もバラバラにしすぎた。

 それが敗因になる予定だな!


 ヴェルクトとディアーネを相手にしてる時点で、意識はほとんどそっちにもっていかれているはずだ。

 だって、あのヴェルクトとディアーネだ。

 2人は戦い方が全く違う。

 強力な魔法をバンバン撃ってくるディアーネと、魔法よりも物理的な攻撃に特化したヴェルクト。

 パワー型のディアーネとスピード型のヴェルクト。

 ……対照的な戦い方の2人を相手にしているのだ。地のなんちゃらの頭の中はさながらパズルのようになっているに違いない。

 一手間違えれば致命傷になりかねない。

 そんなヒヤヒヤパズルをリアルタイムで解き続けながら、地魔法を展開してなんとかやっているであろう事は容易に想像がついた。

 しかし、地のなんちゃらはそのパズルの難易度を更に上げなくてはいけない。

 そう。俺に向かっての遠隔魔法のせいだ。

 ……俺が岩の魔力を吸い取ってるせいで、こちらに使わなくてはいけない魔力が増えた。

 そう。俺が食らう方のタイプの地魔法って、確かに俺にとっては相性が悪い。

 しかし、それは防御面においてのみ!

 あの手の魔法は『地』に属するものに魔力を流し込んで、それを魔法として織り上げる、って形になるので……岩に入った魔力が魔法になる前に吸収しちまえば、岩が伸びたり尖ったりすることは無い。

 よって俺は攻撃に転じて、岩の魔力を吸い、岩の魔力を吸い、岩の魔力を吸う。

 地のなんちゃらさんがよりこっちに魔力を使わなきゃいけなくなるように仕向けていく!

 当然、地のなんちゃらは、遠隔操作先の魔法の様子に気を配る余裕ないはず。

 だから、遠隔操作先のどこかで魔力が無駄にロスってても気づく余裕はないはず!

 こうして俺は、地のなんちゃらを弱体化させることに成功したのだった。




 俺はひたすら、地のなんちゃらの魔力を岩から吸い取り続けた。

 しばらくすると、岩盤を伝って遠隔で送られてくる魔力がとぎれとぎれになってきた。

 ……奴が落ちるのも時間の問題だな。


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