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102話

 さて。

 一応、『生命の樹』までの切符は手に入れたものの、どこで乗車できるのかは不明なままだ。

 何と言っても、俺ですらつい最近なんとなく分かった、程度の『空間』が相手なのだ。入り口不詳の空間になんて、見つけようとして見つかるもんでもないだろう。

 そこら辺についてロドールさんに一応聞いてみたんだけど、「分からん」の一言で済まされてしまった。

 ちなみに、『永久の眠りの骨』についても聞いてみたけどそっちも「分からん」だった。

 まあ分からんもんはしょうがないので、俺達は当初の予定通り、彷徨い歩くことになるのだった。

 ……まあ、うん、生命の樹の方の気が向いたら多分招待してくれるよね、多分……。




 その日はオーリスの長の家に泊めてもらった。

 エルフは流石森の民、と言うべきか、珍しい果物や捕らえるのが難しい獣までもが食卓に並んでいた。

 水晶杏の透き通った甘酸っぱさや岩盤牛の凝縮された旨味をすっかり堪能させてもらって、割と満足。こういう食材は王族とはいえどもアイトリウスじゃあ滅多にお目に掛かれないものである。

 いつか品種改良してアイトリウスでも栽培したり畜産したりしたいもんだ。


 そして翌日、俺達は『彷徨い歩く』べく、オーリスを出発した。

 ……行き先が特に決まってないんだから、なんというか、やる気の出ない出発ではある。




「とりあえず歩きまわるだけじゃやってらんねーから、森の中通って人魚の島目指すルートで彷徨うか」

「それは彷徨う事になるのか?」

 だってしょうがないじゃん。意味も無く森の中をぐりぐり動き回れって?

「いいんじゃないかしら。エルスロアの国王陛下は鉱山の中から『生命の樹』の空間へ行ったのでしょう?なら、彷徨うのは別に森でなくたって構わないはずだわ」

「実際、どこに空間の入り口ができるかも分からないしな。条件も何も分かっちゃいないんだ。だったら並行して他の作業を進めちまった方がいいだろ」

『人魚の真珠』を採りに人魚の島まで行くのもそうだが、その後リスタキアのグラキスまで行って氷像にされた人達を『永久の火の欠片』で戻してあげなきゃいけないし、『永久の眠りの骨』の情報は未だ皆無だし。

 それに加えて、どこかではきっと逢魔四天王の地のなんちゃらがどうせ襲い掛かってくるんだろうし。

 やる事はまだまだあるのだ。だから最悪、『生命の樹の実』は最後まで後回しにしちまうつもりでいる。


 ということで、俺達はルシフ君たちをのんびり走らせつつ、森を超え山を越え、エルスロア側の古代魔法の祠の側にまたやってきた。

 なんとなく分かってたけど、案の定、『生命の樹』の空間に導かれるようなことも特になかった。

「ここから泳ぐのか」

「うん」

 今日は昨日よりは風も収まり、昨日よりは穏やかな海模様。これなら十分泳げるな!

「波があるように見えるけれど」

「昨日よりはマシだろ」

 こっちには人魚の鱗と秘薬があるのだ。泳げないわけが無いな!

 流石にこれ以上延期延期にしていると、今度はアンブレイルが先に魔王まで到達しちまいそうだし、できる限り急ぎたい。




 という事で、さっさと準備して海に飛び込む。

 ディアーネもヴェルクトも、多少渋りはしたけど案外潔く飛び込んできた。

 さて、後は楽しい水泳の時間である!


 波があるとはいえ、水中に潜っちまえばそんなに気になるものでもない。

 ましてや、人魚の鱗によって人外の泳ぎの能力を発揮している最中なら、余計に。

 馬車の速さより速く、下手すりゃ船よりも速い位のスピードで海の中を進んでいき、そして、やがてその島は現れる。

 灰色の岩に覆われた小さな島の入り口は水中にある。

 そしてそこにはゲートが張ってあるはずで……更に、今日はそこに人魚の兵士が2人、槍を持って番をしていた。

 人魚の門番に近づくと、門番達は警戒して槍を構えるが……俺、いや、ディアーネの姿が見えるようになると、慌てて槍を下ろした。

 ……まあ、民衆にとって印象深いのは俺よりも『焼き払え!』してたディアーネだろうからね。ディアーネを目印にするのも仕方ないね。

『これはこれは!あなた方は島を救って下さった人間の方ではありませんか!』

 人魚は水中でも何故か発声してくるけど、俺達は水中で喋れない。

 笑顔で俺達を迎えてくれた人魚の門番達に笑顔でジェスチャーして、『やっほー』みたいな挨拶をすると、門番は笑って、どうぞこちらへ、と、島の中へ招き入れてくれた。


 島の中には空気もある。

 島の内部に入れば、もう俺達も普通に歩くことだってできるし、喋ることもできる。

 人魚の島の内部は、戦禍(大体ディアーネのせい)の後もそろそろ消え、元の美しい姿を取り戻しているようだった。

 前回来た時は観光どころじゃなかったけれど、今回は王城へ向かいつつ、のんびり島の様子を見て、挨拶してくれる人魚たちに挨拶し返して……中々楽しく人魚の島を歩く事ができた。うん、本来こうあるべきなんだよな、異文化交流。




 王城に着いたら着いたで、そこに居た兵士が王様に取り次いでくれた。

 待つ時間も無く、さっさと玉座の間に通されて、俺達は人魚の王様にお目通り叶ったわけである。

 ……まあ、よく考えたら大きめの街1つ分ぐらいの国だし、外交もしてないんだから、王様がそんなにそんなに忙しい訳も無いのだった。


「よくぞ来た、シエルアーク・レイ・アイトリウスよ。……変わりないようだな」

「国王陛下もお変わりないご様子で何よりでございます」

 人魚の王様……メセラ・メルリント陛下は前回よりも幾分柔らかい表情をしていた。

 この変化は俺達がもたらしたものなんだよな、と思うと、なんとなくちょっと嬉しい。

「うむ。この島も元の姿を取り戻しつつある。楽しんでいってくれ」

 国王はそう言ってから、一拍間を置いて、再び言葉を発した。

「して、シエルアーク・レイ・アイトリウスよ。此度は何か、人魚の島に用があったのではないか?」

 うん。ご明察。

 ……まあ、まだ魔王を倒したわけでもないのにもう一回人魚の島に来た、って時点で、察しが良ければ分かる事なんだけれどね。

「はい。……実は、『人魚の真珠』を探しております。お心当たりはございませんか?」

 ということで、俺もさっさと本題を出させてもらった。話は早い方が良いに決まってる。

「なに、『人魚の真珠』?加工したものならこの島にもいくらでもあろうが……一定以上の品質を求めるなら、少々骨かもしれぬ」

 うーん、加工、って多分、装飾品にしたり薬にするために粉末にしたり、って事だと思うんだけど、一応、加工してない素のものが欲しいんだよね。

「この島より北西に向かったところに、人魚の真珠を作り出す貝がある。そこに行けば人魚の真珠はいくらでも落ちているだろう。好きなだけ持って行くがいい」

 が、国王様ったら太っ腹!

 装飾品にしても良し、薬にしても良し、魔石としても使える、ってな代物を『好きなだけ持って行くがいい』とは恐れ入る!

「ありがとうございます!」

 もう、俺、満面の笑みでお礼言っちゃう。

「よい。案内に誰か兵士をつけよう。人魚なら誰でも場所は知っておるからな」

 しかも道案内までつけてくれるという。ありがたいね。海の中って如何せん海の中だから、方角を言われても今一つ分かりにくいのだ。人魚の道案内があるなら道に迷うことも無いだろう。

 俺はもう一度王様に満面の笑みでお礼を言っておいた。




 そして、王様が道案内につける為、手すきの兵士を見繕わせていた所。

「陛下!陛下ぁ!」

 騒々しく兵士が玉座の間に飛び込んできた。

「どうした、シーニス」

「大変です、大変です!」

 飛び込んできた人魚兵士の表情には、焦りしか無い。

 ……どうにも、嫌な予感しかしないね。

「北西の『真珠の溝』が……消えてしまいました!人魚の真珠を採りに行っておいでだったシーレ姫のお姿も……!」

「なんだと!?」

 ……ほらぁ、やっぱり……。

 しかし、『溝』が消える、ねえ……。

 どうにも俺には、犯人が見えちまうね。

「陛下、なら、私がそちらへ向かいます。必ずやシーレ姫をお救い致しましょう」

 そいつは間違いなく、俺へのお客さんだ。


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