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弁当事件  作者: 万々万々
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第2話 深まる謎

翌朝、昌樹は明への疑惑が払拭できないまま、学校に着いた。

「よう、おはよう。」

後ろから、肩を叩かれた。

振り向くと、明だった。

昨日まで見方だった明が、敵に見える。いや、敵にしか見えない。

「どうした、昌樹。」

明がきょとん、とした顔で昌樹を見つめる。

昌樹は笑顔を取り繕い、

「ああ、おはよう。」

と返した。

「なんか今日は変だな。」

「え、そうか?」

「まあ、無理もないわな。昨日と一昨日、二連発だもんな。」

昌樹はドキリとした。

もし、明が犯人なら、きっとこの状況を楽しんでいるだろう。

そう考えると、とても明と話すことなんか出来ない。

「ごめん、ちょっとトイレ。」

そう言うやいなや、昌樹はトイレへと駆けだした。


男子トイレの個室の中で考えていた。

明が犯人だという可能性が出てきた以上、迂闊に明と関わることができない。

どうすればいい、どうすればいいんだ。

そんな堂々巡りをしていた矢先、誰かが男子トイレに入ってくる気配がした。

会話しているようだ、声が聞こえる。

昌樹は声を潜めていた。

「どうやらさ、例のクラスであれをやってるらしいぜ。」

「マジかよ、容赦ねえなあ。」

その二言だけ済ますと、2人はトイレを済ませて出て行った。

ここのトイレを使うのは基本的に昌樹と同学年のみ。そして、今の声はクラスでも聞いたことがない。

すなわち、他のクラスである。

ここで気になったのは、今の会話である。

あれ、とは一体何なのだろうか。もしかして、自分に対して行われているいじめのことなのだろうか。

いや、それは考えすぎか。

だがしかし、そのあとに「容赦ない」と言ったのは、どういうことだろうか。

言い方から察するに、とてつもないことなのだろう。

やはり、いじめのことなのだろうか。

昌樹は、気になって気になって仕方がなかった。

今から、さっきの2人を追いかければ、まだ間に合うだろうか。

うん、ここで考えてるよりは、まだマシだ。

昌樹は扉を開けると、素早くトイレの外へと出た。

廊下には、誰もいなかった。

もうあの2人は教室へと入っていったのだろう。

昌樹は、うなだれた。


「よう昌樹、随分とトイレ長かったな。」

教室に帰って自分の席に座るやいなや、明がすぐさま話しかけてきた。

「ああ、ちょっと腹の調子が悪くてな。」

そう笑いながら、ごまかした。

「そうか?もしかして、ストレスからか?」

明は、昌樹を心配した表情で見つめながら言った。

この表情、本当に心配しているようだ、と昌樹は感じた。

「いや、なんでもない。朝食べ過ぎたようだ。」

「それならいいんだがな……。」

そう言うと、明は自分の席へと帰っていった。

これはどっちなんだ。本心なのか、からかっているのか。

昌樹の中で答えが見いだせないまま、朝一番のチャイムが鳴った。


朝、自分は腹の調子が悪いと明に嘘をついた。

だが、それもあながち間違っていなかったかもしれない。

今日の3時間目──国語の時間──に、昌樹は急に下腹部の異変を感じた。

先生、と呼びかける余裕すらないほど急激で、昌樹は教室を急いで飛び出した。

一瞬教室がざわついたが、そんことすら気にする余裕などない。


昌樹は、何とか冷静を取り戻した。

ギリギリで惨事には至らず、洋式の便器に腰掛けていた。

トイレの個室に入った直後、国語の先生──定年間近の田中先生──が心配してトイレに入ってきたが、腹痛のことを伝えると、

「わかった。それじゃあ、先に授業しているから、落ち着いたら戻っておいで。」

と、優しく言ってくれた。

この優しい発言は、昌樹の心に染みた。


5分ぐらい経過してから教室に帰ってきた。

黒板を見ると、先生は授業をほとんど進めておらず、雑談をしていた。

恐らく、少しだけでもゆっくり進めていてくれていたのであろう。昌樹は、心の中で感謝した。

席に着くと、隣の人が心配してくれていた。

昌樹は小声で、大丈夫、とだけ言うと、再び授業を受けだした。


やがて、昼休みになった。

昌樹は明と一緒に弁当を食べようか迷ったが、いつものように過ごすことにした。

明はきっと、昨日も一昨日も、そして今日も変わらない気持ちで弁当を食べているんだろうな、と昌樹は思った。


昌樹はすっかり忘れっていた。

昨日も一昨日も遭遇した悪夢のことを。

昌樹が弁当を開けると、そこにあったのは──いや、なにも無かった、という方が適切だろうか。

弁当の中身が無かったのである。

今回ばかりは、昌樹は隠すことをしなかった。いや、正しくはできなかった。考え事をしていて、それどころではなかったのである。

どういうことだ。今日は体育なんてなかった。朝の4時間、全ての授業において、皆このクラスにいたはずだ。

弁当箱は、机の横にかけてある鞄の中に入っている。自分も一日中、監視していた。

朝にトイレに入ったときだって、そのままトイレに入ったから鞄は持ったままだった。

休み時間だって、片時も目を離さなかった。

唯一、目を離したのは、3時間目にトイレへ駆け込んだときだけである。

しかし、そのときは授業中。クラスの皆が教室にいたはずである。どうやっても、クラスの皆の誰かには犯行が見つかってしまうだろう。

犯人の検討がぜんぜん付かなかった。

「どうした昌樹、まさか……。

表情を変えて明が覗き込んだ。

「おい昌樹、これはいったいどういうことなんだよ。」

「それはこっちの台詞だ、これはいったいどういうことなんだ。」

「俺は今日弁当から片時も目を離していないぜ。もちろん、お前がトイレに行ったときもな。」

「どういうことなんだよ。なんだよこれ……。」

昌樹は気味の悪さすら覚えていた。少し身震いした。

「なあ、昌樹。もしかしたらなんだがな。」

明が言いづらそうに言った。なんでもズバズバ言う明にしては珍しい。

「犯行はさ、学校に入る前から行われていたんじゃないか?」

申し訳なさそうに言った。

確かに、その線はあり得る。学校に着てから、昌樹自身が鞄をずっと監視していたからだ。誰も触りようがない。

「だが明、僕はちゃんと鞄は肌身離さず持ってきたぞ。通行人がどうのこうのできる問題じゃない。」

その通りだ。昌樹は、学校に来るまでの間、鞄を一切手放してはいない。

「ちゃんと自分で弁当箱を鞄に入れてる。そうしたら誰も……触りよう……が……。」

言っていて昌樹は、はっとなった。

昌樹が明の方へと視線を向けると、苦々しい顔をして頷いた。どうやら、明が考えていたことに、昌樹も辿り着いたようである。

「そんな……。」

昌樹は絶句した。そんな馬鹿なことがあってたまるか。あってたまるものか。

「なあ、昌樹……。」

重々しい口調で明が口を開いた。


「犯人は、お前の家族の中にいるんじゃねえか。」

閲覧ありがとうございました。

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