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弁当事件  作者: 万々万々
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第1話 事件解決に向けて

ちゃっかり書いてみました推理物です。

犯人を考えながら読んでいただければ幸いです。

「くそっ、またかよ!」

昼休みの教室で、1人の男が叫んだ。

教室中の注目は、一点に集まった。

「なに、またなってんの?」

隣に座っていた(あきら)が覗き込みながら言った。

もう3回目だよ……と呆れながら叫んだ男は落胆していた。

その視線の先には、食い荒らされたような後が残った弁当箱があった。

この弁当箱の持ち主である昌樹(まさき)は、残念そうに蓋を閉じた。

「お前これで何回目だっけ、4回目ぐらい?」

「3回目だよ、やってらんねー」

茶化すように明は言うが、昌樹としては腹立たしいものである。


この事件が起こるようになったのは、4月の中旬のことであった。

4月の入学式と同時に転校してきたばかりの昌樹は、誰とも仲良くなれず、いつものように自分の机で1人で弁当を食べようとしていた。

鞄から弁当箱を出し、蓋を開けてみた。そこにあったのは食い荒らされた後のような残骸だった。

昌樹はそれを見て、そっと蓋を閉じた。なぜかは分からないが、涙が出そうだった。

そんなとき、ふと後ろから肩を叩かれた。

「よっ、元気?」

振り向くと、そこにいたのは明──まだそのときは名前を知らなかったが。──だった。

昌樹は困惑したが、涙がでそうになるのを堪えて、

「あっ、うん、元気。」

と答えた。

明は机の上の弁当箱に目がいった。

「あれ、もう弁当食い終わったの?」

しまった、と昌樹は思った。

こんな恥ずかしいものを、見られたくはない。

「あっ、うん、そうなんだよ。」

昌樹は嗚咽が混じりそうになった声でそう答えた。

「ふーん……。」

明は疑いの眼差しでこちらを見ていたが、

「それじゃあさ、これ、食べてくれないかな。もう腹いっぱいでさ。」

そう言って明はおにぎりを二つ差し出した。

「え……?」

昌樹は目の前に差し出された二つのおにぎりを見ながら困惑した。

「いや、今日ね。たまたま母ちゃんが弁当のついでにおにぎりを作ってくれたんだけどさ。全然食えねえの。」

明は困ったような笑い顔をしていた。

「だからさ、君いっぱい食べられるようだったらさ、食べてくれないかな。残すと母ちゃんに怒られるんだ。」

またしても、明は困ったように笑った。

昌樹はもちろん腹が空いていたので、

「じゃ、じゃあ、ありがたく貰うよ。」

と答え、明からおにぎりを受け取った。

「おう、サンキュー。」

明は軽い感じで返事をした。

昌樹は急いでおにぎりを口に頬張った。

「あっ、そういえば名前を聞いていなかったな。名前を教えて──」

立ち去ろうとした明が振り返って名前を聞こうとしたが、涙を流しながらおにぎりを食べる昌樹を見て、喋るのをやめた。

明は、静かに昌樹の横に座ると、明が食べ終わるまでずっと側にいた。


それ以来、2人は仲良くなり、登下校はもちろん、休み時間、果てまでは授業中の班作りの際にも一緒になった。

昌樹は、明という友達ができたことで、他にも友達が沢山できるようになった。

これも全て明のおかげだ、と昌樹は明に心の中で感謝をした。

4月が終わる頃には、クラスの全員と友達になっていた。

弁当の事件など、すっかり昌樹の頭からは離れていた。


そんな矢先、5月に入ってすぐのとき、またもや事件は発生した。

いつものように明と弁当を食べようと蓋を開けたとき、その弁当に中身はなかった。

複雑な心境になった昌樹だったが、すぐに蓋を閉じ、

「いやー、今日はどうやらお母さんが作り忘れちゃったみたいだわー。」

昌樹は軽い感じで言ったが、明は異変を感じ取ったのか、

「ちょっと昌樹、中身見せてみろよ。」

明の顔が急変した。

「いや、何も入ってないよ?」

「いいから見せろって。」

否定する昌樹を無視して、明は弁当箱を奪い取り、中身を確認した。

どう見ても、作り忘れたというより、食い荒らされたという表現の方が適切だった。

「い、いやー、どうしちゃったのかな、これ。」

昌樹は笑いながら言った。いつもよりも大袈裟に笑った。

明はしばらく考え込んでいたが、

「本当になっ、どうしたんだよこれー!」

昌樹よりも大袈裟に、大胆に笑った。

教室は、謎の大笑いをする2人に視線が集中したが、やがて、いつもの2人が騒いでいるだけだ、と視線を元に戻した。


その日の放課後、明は昌樹を男子トイレに呼び出した。

「おい昌樹、お前、いじめられてんのか?」

いつになく慎重な面持ちで明が尋ねた。

「いや、分からないんだ。4月のときも一回あったんだけど、原因がわからなくて……。」

昌樹がうつむきながら言った。

「そうか……。まあ、あまり気にするな。俺も付いてる。」

前回のこともあり、落ち込んでいた昌樹に、その言葉はとても温かく、励みになった。

「こういうのは無視が一番だぜ昌樹。反応すると犯人は喜んじまう。」

その通りだな、と昌樹は思った。

確かに、いじめは嫌がったり、拒否したりしても、犯人はその反応が面白くてそれを続ける、とテレビで見たことがあったからだ。

「何かあったら、俺がそいつをぶっ飛ばしてやるからな。」

明が本当に頼りになる友達だ、と明は思った。明と友達になれたことを、ここから喜んだ。


そして5月下旬。またしても事件が起こったのである。

明はまあまあと昌樹をなだめた。

昌樹はそれで冷静になった。この反応で犯人は喜んでいるのだ、と自分に言い聞かせた。


そして放課後、今度は昌樹が明を男子トイレに呼び出した。

「明、手伝って欲しいことがあるんだ。」

あの日の明のような、真剣な表情だった。

「……今日の弁当の話だな?」

ここに呼び出された時点で、明はある程度はどんな話をされるか分かっていた。むしろ、昌樹が呼び出さなければ、明が昌樹を呼び出していたことだろう。明もその気だったからだ。

「犯人を捕まえるのか?」

一瞬、昌樹は驚いたが、コクンと頷いた。

「上等。困ったときこそ、友達の出番よ。」

明の自信に満ちた声が聞こえる。元々、明も犯人を探す予定だったのだ。

「ありがとう、明。助かるよ。」

「いいってことよ。それよりも、どうやって犯人を見つける?」

早速明は本題を切り出した。

「ああ、それなんだがな……」

昌樹は説明を始めた。

今までの事件は全て体育があった日に犯行が行われていた。

つまり、教室ががらあきになった日、犯行が行われていたのである。

「ふむ、つまり、俺らがいなくなった瞬間に第三者によって犯行が行われていると推察できるわけだ。」

「その通りだ。」

そして、体育が行われているときというのは、同じクラスの人は同じ授業に参加している。

つまり、昌樹のクラスの人間は犯行を行えない。

「しかしよお、昌樹。他のクラスの奴が犯行を起こすとは、俺には思えないな。」

それには、昌樹も同感だった。

昌樹は他のクラスに顔を出したことはなく、他のクラスの人とも話をしたことがない。

「と、なるとよお、昌樹。」

明は昌樹の顔を見据えた。

「犯人は俺らのクラスじゃねえかな。」

昌樹も同意見だった。しかし、同じ時間に体育をしている。クラスの皆にとって、これ以上のアリバイはない。

「しかしよお、昌樹。体育中だって、授業を抜け出せるんだぜ。」

「それはつまり、保健室へ行くとかそういうことか?」

「ああ、その通り。」

確かに、体育では体調不良を訴えれば、生徒は保健室へ行くことが出来る。

最近はPTAの苦情により、生徒からの訴えがあれば、どんなに元気そうでも、教師は生徒が保健室へ行くことを許可しなければならない。

「しかし、そのときそのときで、誰々が休んだかまでは……。」

覚えてはいない。そう、昌樹が言い掛けたとき、明が昌樹の口の前で人差し指を立てた。

「甘い、甘いねえ。俺をなめてもらっちゃ、困るぜ。誰が休んだか、はっきりと分かる。」

「なんでそんなことが分かるんだ?」

昌樹は疑問に思って尋ねたが、

「俺の素晴らしい記憶力。」

明はにっこりと笑ってそう答えた。昌樹はあえて詮索はしなかった。

「では、説明するぞ。」

明の話だとこうだ。

4月中旬にあった最初の事件。あのときに体育を休んでいたのは近藤と鈴木。

5月の初めに休んでいたのも近藤と鈴木。

そして、今日休んでいたのはと鈴木──今日休んでいた人については昌樹も覚えていたが。

「あくまで消去法でいくと、犯人は鈴木だな。」

「ああ、しかし……。」

「ああ、分かってる。」

昌樹の台詞を明は遮った。恐らく明も同じことを考えていたのであろう。

鈴木という女の子──下の名前は(さき)という──は、元々体が弱く、体育に参加するのは月に1回か2回だけであった。

そんな彼女が、わざわざ体育を行っている体育館から教室まで戻り、昌樹の弁当の中身をどうにかする、というのはあまりにも不自然であった。

「鈴木さんの確率は少ないんじゃないかな?」

昌樹は明に尋ねる。

「いや、案外あるかもしれねえぜ。人間、誰が悪いことをするか分からねえからな。ってテレビで言ってた。」

明は自信満々に言う。

「でもなあ……。」

「なんだ昌樹、ビビってんのか。」

「ビビってるとかそういうんじゃなくてさ……。」

「ああ、言いたいことは分かるさ。」

つまるところ、あんな病弱な女の子を責めるのは心が痛い。

明もそれは同感であった。

「でもさ、行動を起こさないと進展はないぜ。じゃないとずっとこのままだぞ。」

明はきっぱりと言った。この決断力を見習いたいなと、昌樹は思った。

「分かった。じゃあ、まずは、鈴木さんを監視してみようか。」

「おう!」

かくして、2人の作戦が始まったのである。


次の日。

今日は体育がある日。

明と昌樹は、朝から教室の隅で作戦会議をしていた。

「どうする明。何か犯人を見つける方法はあるか?」

昌樹がひそひそと明に話しかける。その声に、教室の誰も気付かない。

「まあな。今日の体育のときに、体育を休んだ奴の行動を調べてみる。」

「調べてみるって、どうやって?」

「俺も同時に休むんだよ。なに、簡単なことさ。」

明の自信満々な顔は、ずっと続いていた。


そして、4時間目、体育館では昌樹たちのクラスがバスケットボールを行っていた。

この日は珍しく、誰1人として休んでいなかった。鈴木もチームの一員として、バスケットボールに参加している。

「鈴木が参加してるって珍しいな。」

試合中、相手チームである、昌樹に明が話しかけた。誰にも聞こえないように、ぼそりと呟いたような声だった。

「ああ、そうだな。」

対して、昌樹も誰にも聞こえないような声で呟いた。


そして、体育が始まってから30分経った頃だろうか、1人の女の子が先生の元へと駆け寄っていた。

鈴木である。

それを目視した昌樹は明の方を見た。明もこちらを見ていた。どうやら、2人の意見は一致したようである。

しばらく様子を見ていたが、鈴木はコートの外側を歩き、やがて体育館の外へと入り口から出て行った。

すると、明は先生の元へと走り寄って、

「先生、腹が痛いのでトイレ行ってきていいですか?」

と尋ねた。

昌樹はその声が聞こえるような位置にいたが、あまりにも感情がこもっていない。嘘がばればれである。が、しかし──

「分かった。じゃあ、トイレに行ってこい。」

先生はそれを一切不思議に思わず、明の訴えを了承した。

明は振り返ると、昌樹にアイコンタクトを送った。

頼んだぞ、明。

心の中で、明を応援した。

やがて、明も体育館の外へと出て行った。


明が出て行ってから10分が経過した。明が帰ってくる気配は一向にない。

もしかしたら、現場を抑えて言い争いをしているのではないか、と昌樹は思った。

もし、そうなっていれば──昌樹は考えるのをやめた。


明が帰ってきたのは、授業終了5分前だった。

昌樹は明の傍に駆け寄り、

「どうだった?」

と尋ねたが、

「鈴木はずっと保健室にいたよ。」

と、暗い表情で答えた。

「そうか……。」

昌樹と明は、その後体育が終わるまで、会話を交わさなかった。


そして、昼休み。

いつものように昌樹は明と一緒に弁当を食べようとしていた。

そして、昌樹が弁当を食べようとしたそのとき、昌樹は目を疑った。

弁当の中身が、無かったのである。

昨日と全く同じく、食い荒らされたかのような痕が残っていた。

「どうした、昌──」

明が言いながら、昌樹の視線の先を見た。

そこにあったのは、無惨な変化を遂げた弁当箱であった。

「どういうことだ、これは……。」

思わず昌樹の口からこぼれた。

明が鈴木を見張っていた。

そして、鈴木と明以外に体育を抜け出した人はいない。

これはどういうことなのか。

「明……。」

「ああ、分かってる。」

昌樹の言いたいことは、明に伝わっていた。

「また、放課後トイレに集合だな。」


「さて、と。どうやら、これは他のクラスの奴の犯行の可能性が高くなってきたな。」

明が手洗い場に腰掛けながら言った。

「あのさ、やっぱり、これは先生に相談すべきじゃないかな。僕たちだけで、どうにかなるもんじゃないよ。」

昌樹は明に言った。

これは自分たちでどうにかなるものじゃない。

自分たちのクラスの人間が犯人ならば、内々で解決できるが、そうでなかったこの場合、犯人が全くと言っていいほど絞れない。

「無理だな。知ってるだろ?今の先生はPTAとかやらにビビって生徒間の揉め事は何も解決してくれねえよ。」

「そうなの?」

「ああ。だから、自分たちで解決するしかねえんだよ。」

教師陣がPTAに弱いことは、今日の教師の態度をみたところで明らかだ。どうやらこの学校は、生徒を育てるよりも、PTAに媚びを売ることに力を入れているらしい。

「しっかし、確かにこれは困ったな。相手が複数な以上、探しようがないな。」

昌樹は同感だった。

教室に四六時中張り込んでいるわけにはいかない。

「とりあえず、今日のところは一旦帰るか。」

「ああ。」

明の提案に、昌樹は力なく頷いた。


夕食を済ませた昌樹は、自分の部屋のベッドの上で考え事をしていた。

犯人は誰だろう。テーマはそれだった。

明の話によれば、体育を休んでいるのは、鈴木と近藤。

そして事件があった日全てを抜け出したのは鈴木のみ。

当然鈴木が犯人だと思ったが、そうではなかった。

と、なると犯人は誰だろうか。

近藤の可能性は高いと思ったが、今回抜け出していなかったところを見ると、そうではなさそうだ。

では、やっぱり、他のクラスの人が犯人なのだろうか。

しかし、それでも気が遠くなるような作業である。

ずっと、見張っているわけにもいかない。

それに今回はたまたま2日連続で続いたものの、毎日あるわけではない。

こうなってしまっては、いくら自分と明の2人がいても──

そう考えていた昌樹の思考が一瞬止まった。

明?

嫌な考えが頭をよぎった。

いや、そんなはずはない。明にかぎってそれはない。

だがしかし、犯人をクラスの中で特定するならば、明が一番犯人に近い位置にいる。


今日、体育館から出たのは鈴木と明、この2人だけだ。それは、自分が見ていたから一番よく知っている。

そして鈴木は保健室にいた。これは明の証言だが、確定でいいだろう。いや、仮に保健室にいなかったとしても、明が単独で動いていたことに変わりはない。

今まで、明は体育館から出た人物を2人答えたが、これは虚偽の内容ではないのか。そんなことを考えた。自分からの注意を他者に向けるよう仕向けた口からの出任せ。

もしくはこう考えられる。明の証言は本当だが、自分も抜け出しているのではないか、と。

つまり、誰が休んでいたか、を記憶していたのではなく、誰にみつかりそうか、を記憶していたのではないか、と。

それならば、無駄に覚えていることに説明が付く。確かに、注意深く見ているからこそ、記憶に残っているのだろう、と。


しかし、まさか明が犯人なのか。

そんな思いと戦いながら、昌樹は一晩を過ごした。

閲覧ありがとうございました。

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