兄弟2
店に入って小一時間。
驚いたことに翔はその華奢な身体からは想像出来ない程、よく食べよく飲む。
そして飲むとよく喋る。
「蓮さんも飲みましょーよー」
「飲まねぇよ車どうすんだよ、、、」
「えーーーつまんないなーーー」
随分とご機嫌なことで。
「あーーーなんか暑いな、、、」
翔はそう言って鬱陶しい長さの前髪を手首に付けてたゴムで縛った。
普段前髪で隠れていた青いガラス玉みたいな瞳がハッキリ現れる。
カラコン、、、だよな
翔は目鼻立ちはクッキリして整っているがハーフっぽさは感じられない。
「そんなジッと見ないで下さいよ、、、」
なぜそこで顔を赤らめるガラス玉野郎。
「いや、、、カラコン気持ち悪いなと思って」
「え、うわっ、、傷つくな~、、、って裸眼ですよコレ」
「うそつけよ、おまえどう見たって日本人だろ」
「いや日本人ですけど、、、小さい頃、身体が弱くて結構入院とか多くて薬も色々飲んでたんですけど、その副作用かなんかでこの色なんです、、、ってその疑いの眼差し!ホントですって」
翔はそう言って俺の手を掴んで指を自分の瞳に近づけた。
ぬるっとした眼球の感触に俺は慌てて手を引っ込めた。
「ね?裸眼でしょ、、、?」
まるで関西芸人のツッコミの如く俺は翔の頭を盛大にひっぱたいた。
「いっっって、、、何するんですか蓮さん」
「こっちのセリフだバカ」
へんな感触が指先に残ったままだ。
翔はひっぱたかれた頭を擦りながらヘラヘラと笑っている。
「あーーーなんか楽しいなーーー」
「おまえ飲み過ぎ、もう帰るぞ」
「えーーーもう?早ぁーい、やだやだもっと飲みましょうよー」
立ち上がった俺の足首を座敷に寝転んだ翔が掴んだ。
「おい、離せ酔っ払い」
「起きれない、、、抱っこ、、、」
「言ってろ馬鹿」
無視して置いてこうと思ったがこんな酔っ払いを放置したら店に迷惑が掛かるし、海鈴が怒るに違いない。
深く溜め息をついた後、勢いよく翔を担ぎ上げた。
「えっ、わ、ちょっ、、、、」
「じたばたすんな落とすぞ」
軽い、そう感じた。翔は男にしては華奢だし細い、恐らくそこら辺の女と重さは大差無いだろう。
周囲の人間の好機に満ちた視線を無視してさっさと会計を済ませ店を出た。
「蓮さんちょっと、、、降ろして、、、めっちゃ恥ずかしい、、、」
「なんだよお前が起きれないって言ったんだろ」
店先で降ろしてやると翔は顔を真っ赤にしていた。
「ちょっとタバコ買ってくるわ、お前先に車乗ってろ」
キーを翔に渡し近くのコンビニに入った。
そのタイミングでケータイが鳴った。
ディスプレイに表示される見慣れた名前。
「どうした?」
『楽しんでる?男二人水入らずで』
「もう帰るよ、何か買って帰ろうか?」
海鈴の声は何だか楽しそうだ。
『ううん大丈夫、イヴ飲み過ぎてない?』
「飲み過ぎてただの酔っ払いと化してる」
『あはは!見捨てずにちゃんと送り届けてね~』
それだけ言って電話は切れた。
車に戻ると後部座席に翔が寝転んでいた。
「おい、ほら酔っ払い」
コンビニで買ってきた水を差し出すと翔はゆっくり起き上がって受け取った。
「ありがとうございます、、、」
さっきまでの面倒臭い酔っ払いと違い随分としおらしくなっていた。
「蓮さんって結構腕力あるんですね、、、あんな簡単に俺の事担ぐなんて、、、」
「別に、、、お前そこら辺の女よりよっぽど軽いけどな」
「ははっ、、、それって蓮さんは色んな女担いだことあるように聞こえる、、、」
苦笑まじりに翔が呟く。
「蓮さんは、、、椎葉ちゃんの事、、、どう思ってるんですか、、、」
「何だよ急に、、、」
「椎葉ちゃんは蓮さんの事をお兄さんみたいな存在だって言ってるけど、、、蓮さんは、、、椎葉ちゃんのことただの妹として見てるんですか、、、それとも、、、」
どんな表情でその質問をしてるのか
ミラー越しに翔に視線を向ける
それは随分となやましい表情だった
思わず振り向いて直にその表情を見た
翔も俺の目を真っ直ぐ見た
酔っているせいか瞳が濡れていた
「蓮、、、さん、、、、?」
その瞳にゆっくり手を伸ばす、そっと頬に触れた
「海鈴は、、、俺にとって、、、全てだよ」
パッと翔の頬から手を離し、前を向き直してアクセルを踏んだ。
そのまま海鈴のマンションに着くまで翔は一言も話さなかった。