二人の生活2
椎葉ちゃん(本名海鈴ちゃん)のマンションに居候することになって1ヶ月以上経ったわけで、初対面であったクールな彼女のイメージは一変し、実は幼くて甘えんぼで可愛らしい女の子なのだ、、、
そして貞操観念がなく、あけすけで、酒癖が悪く、お腹が空いてると不機嫌、、、
僕がお風呂に入ってる時にも躊躇なく洗面所で歯磨きしたり、先日は寒いからという理由で僕のベットに入ってきた事もあった。
まぁ、ゲイなのでヘンな事にはならないけど二人で同じベットで寝たなんて蓮さんには口が裂けても言えない、、、。
昼型の椎葉ちゃんと夜型の僕、たまたま休みがかぶって夕方過ぎに外食に行くことになった。
繁華街、人ごみをスルスルとよけて歩く椎葉ちゃん。
僕は幼い頃から女の子に関心が無かったから、あまり気にしてなかったけど街中にいる他の女の子と比べると椎葉ちゃんはなんというか、、、、
めちゃくちゃ可愛い、、、
「ってか歩くの早、、、、」
少し先を颯爽と歩く椎葉ちゃんは先程から何回もキャバクラだか風俗だか分からないキャッチに声をかけられは無視を決め込んでる。
僕と並んで歩けば声掛けられないと思うんだけどな、、、
「イヴ、、、歩くのおっそ、、、」
「え~、、、椎葉ちゃんが速いんだよ~、、、何その早さ、、、競歩選手、、、?」
僕のその言葉に眉間にシワを寄せつつ手を握ってきた。
「もぉ早く歩いてよ、キャッチが鬱陶しいからさっさとお店入りたいの」
「僕と並んで歩けば大丈夫だよ」
僕のそう言うと椎葉ちゃんはこちらをジーッと見つめた後
「だってなんかイヴ弱そうだし頼りないから、、、」
「えー、、、地味に傷付くなぁ、、、そりゃ蓮さんと比べたら俺は頼りないかもしれないけどさ、、、」
「イヴ男にしては華奢だし、いつも青白い顔してるし、、、パッとみ病弱っぽいよね、、、顔は綺麗だけど、、、」
椎葉ちゃんは思ったことはズバズバ言うタイプだ。
僕はどちらかというと言葉を選んで発言するタイプなのでこのズバズバ感は実に爽快で羨ましい。
「ってかさっきのキャッチ超しつこかった、、、ホント死んで欲しいわキャッチ、、、」
ズバズバ言うプラスこの口の悪さである。
椎葉ちゃんが選んだのはイタリアンバルの店だった。
予約してなかったので入り口で20分程待たされたが僕らは手を繋いだまま、くだらない話で盛り上った。
他人から見たら恋人同士に見えるかもしれない。
僕らがゲイセクシャルとエイセクシャルだなんて誰も知らないわけで、、、。
「お待たせしましたご案内します」
スタッフに声をかけられ椎葉ちゃんはビクッとした。
「はーい、行こう椎葉ちゃん」
僕が立ち上がると椎葉ちゃんは“イヴ先歩いてよ”と小さく呟いて人のTシャツの裾を掴んだまま後ろからちょこちょことついてきた。
注文する時も椎葉ちゃんは僕をジッと見たまま
“イヴが全部言ってよ”
と無言の圧をぶつけてくる。
そう、椎葉ちゃんは子供並に人見知りなのだ。
この可愛いお子様は店の予約電話すら出来ないのである。
キャッチもなんだかんだでガン無視決め込んでるんじゃなく人見知り炸裂してるだけなのかもしれない、、、
なぜここまで人見知りする子があの日僕に声を掛け家にまで入れてくれたのか、、、
最大の謎だが本人曰く“イヴだったから、、、”と、、、
「椎葉ちゃん口の端にソース付いてるよ」
「ん、イヴとって。」
指で拭ってあげたソースをそのまま舐めると、隣の席に座ってた女の子達の視線を感じ少し照れくさくなった。
「イヴの一口ちょうだい」
そう言って椎葉ちゃんがパカッと口を開けたので僕は女の子達の視線を感じつつもアーンしてあげた。
「イヴの頼んだの微妙だね」
「僕も椎葉ちゃんの食べたい」
「いいよ、はいアーンして」
「いや、大丈夫」
僕がそう言って椎葉ちゃんの手からフォークをとろうとすると
「なんで?駄目!はいアーン」
「、、、、はいはい」
椎葉ちゃん、絶対隣の席にいる女の子達の反応面白がってるな。
「ねぇイヴの前の恋人はどんな人だったの?ってかイヴはどんな人がタイプ?」
“元カレ”と言わずに“前の恋人”という言葉をチョイスしたのは周りへの配慮なんだと思う。
椎葉ちゃんは普段ズケズケ思ったこと言うくせにこういう所、きちんと気を使ってくれる。
「僕より一回り以上年上で、優しくて、、、尊敬出来る人だったよ、僕の絵の先生だったからね、、、」
「一回り年上、、、ふーん、ねぇそれって不倫?」
こういう所は気を使わない。あたってるけどさ、、、。
「まぁ、、、そんなとこ、、、」
僕が苦笑してそう答えると椎葉ちゃんはふーんと呟いた。
「先生は家族をとても大切にしてた、、、僕はそれでも構わないと思ってたんだ、、、最初は、、、」
人は強欲だ、、、
一緒にいる時間が深まるにつれどんどん欲深く我が儘になっていく、、、
「自分の強欲さが先生を傷付け困らせ、どうしようもなくなって逃げ出した、、、自分からね」
「あ、ちょっとトイレ行ってくる」
「えー、、、このタイミングでトイレって、、、」
僕は思わず笑った。
そう、逃げ出して途方に暮れて無茶苦茶に酒飲んで倒れてたところを椎葉ちゃんに救われた
椎葉ちゃんはなんて事無い感じで助けてくれたうえにゲイの僕を受け入れてくれたけど、僕にとってそれはとても大きな救いだった
だからたまに不思議に思う
どうしてこんな良い子が風俗なんてしてるのかな、、、とか、エイセクシャルなのかな、、、とか、、、
それとなく聞いてもはぐらかされるばかりだ
椎葉ちゃんの為に、何か僕に出来ることはないかな、、、
恩返しが出来れば、、、。