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魔法の国でひたすら日本生活。  作者: 花澤文化
魔法の国で日本らしい生活をする。
7/24

第5日 魔法の国で育む。①

 暑さも本格的になり、外を歩く人たちもだるそうにしている。空を見るとまだ午前中だというのに太陽が強く照りつけていた。

 地球ならばここでセミの鳴き声でも聞こえるのかもしれないが、生憎ここは地球ではない。魔法が当たり前の魔法の国。その国にはセミではなくドラゴンの咆哮が聞こえていた。

 それは恐らく、俺の今いる場所が問題でもあるのだろう。

 俺が住んでいる場所から電車で30分。箒だと20分ぐらいで、テレポートだと瞬間。その位置にある牧場。牧場といっても俺の知っている牧場とは大分違ってはいるのだが。

 駅から歩いて10分程度のところ。

「・・・・・・」

 そこにいたのはつい最近会ったばかりのメッカおじさんことメッカさんである。

 今日も一日中家の中にいて、好きなことをやろうと思っていたのに、朝、太陽の日差しを浴びるため外に出るとそこにはドラゴンにまたがったメッカさんがいた。

 偶然だな!と快活に笑い、俺に地図を渡し、その場から去っていった。

 その地図はこの牧場とやらの場所を示したものだったのだが・・・。やっぱ律儀に行かなくてもよかったような気がするな。

 しかし前にメッカさんが言っていた俺のやりたいことが見つかるかもしれない、という一言がなんとなく気になっていたのだった。

 にしても暑い。いずれ行くにしろ今日という日はやめておけばよかったと後悔する。

 今からでも遅くない、引き返すかと踵を返すと、

「おーい、こっちだ、モモ」

 遠くから俺を呼ぶ声。

 そちらのほうを向くとごっつごっつの髭を生やした中年男性がこちらに無邪気に走ってくるというこの場で一番見たくない光景が広がっていた。

「今日来てくれるとは思っていなかったぞ。そんなにも俺のこの牧場を見たかったのか」

「いえ、別にそうではなく」

「ははは!気にするな気にするな。そのぐらいの年頃は大人に反抗したくてしょうがない時期だからな。20歳こえているとはいえ、俺らおじさんからしてみればまだまだ子供だ」

「・・・・・」

 この人には人の話を聞くという姿勢が欠けていた。

 地味にこのタイプの人間が一番苦手だったりする。

 今日もメッカさんはなんで?ってぐらい暑苦しかった。アンジェからきいたところによるとそれがいつも通りらしいのだが、疲れないんだろうか。メッカさんもその相手をするアンジェも。

「よろしくお願いします」

 とりあえず最低限の礼儀は守ろう。俺は頭を下げてそう言った。

「うーん、堅苦しいな。実の父親だと思って接してくれても構わないぞ」

「遠慮します」

 そこはきっぱりと断った。

 照れるな照れるな、と言いながら牧場の中に歩いていく。俺はその背中を追いかけた。

 メッカさんは今日もタンクトップに下はつなぎのような作業着、頭にはタオルを三角巾のようにしばっている。本当、外見だけでまわりの気温が10度近く上がっているのでは、と錯覚する。

「それでは一番最初は・・・そうだな。コトリトトスでも見るか?」

 確かこちらの世界で卵を産む、鶏的存在だったっけか。

 一度見ているのだが、あれば鶏でも、名前にある小鳥でもなく、怪鳥だ。

「いえ、それはもう見たんで・・・」

「そうか、餌づけしてみたいか!ははは!喜ぶぞ、あいつ」

「話を聞けよ!」

 なんでこんなに一方的なのか、不思議である。

 しかしそのつっこみにも聞く耳もたず、メッカさんはずんずん歩いていく。外からじゃ分からなかったが、この牧場相当広い。

 個人経営できる広さではない。歩いている最中には畑なども見えていたし、どうやら生き物だけではないようだ。それなのに他の従業員の姿は見えない。

「メッカさんのこの牧場って何種類ぐらい生き物や植物がいるんですか?」

「そうだなぁ、数えられないぐらいかな。畑に植えてあるものもそうだが、あいつらドラゴンなどに与える餌も自給している。さらに生き物もそれなりにいるからな」

「それを1人でやっているんですか?」

「いいや、俺1人じゃさすがにできないよ。従業員2人に俺の息子と娘を入れて5人で経営している」

「5・・・」

 それでも全然少ない。

 この牧場の規模だとざっと10人以上は必要だと思うんだが。

「そうか、モモは異世界から来たのだったな。忘れがちかもしれないが、この世界には魔法があるんだ」

「魔法・・・」

「創作ではよくバトルやらに使われている魔法だが、うちの国では違う。生活に必要な魔法を必要な強さで使うんだ」

「・・・・・・」

 魔法。

 人員を減らし、魔法で作業をする。それは果たして楽をするため、なのだろうか。

 俺は魔法とは自分が楽をしたいかた使うものだと思っている。それはこの牧場にも当てはまるのか、それを決めることはできなかった。

「モモは魔法嫌いか?」

「嫌いなわけじゃ・・・」

 否定する言葉は途中で切れた。

 嫌い・・・なのか、俺は。努力を踏みにじる行為は嫌いだ。例えばカンニング、例えば替え玉。

 しかし魔法はこれに当てはまるのか。

 卑怯なものとはいえない。けれど、魔力はこうやって人手の代わりになっている。すなわち楽をしているのだ。それは俺の嫌いなものの1つなのではないだろうか。

「分からない。俺は魔法をどうとらえたらいいか分からないんです」

「そうか・・・まぁ、ゆっくり決めればいいさ」

 いや、もう元の世界に戻るまで3週間もないんだが。

「さて、着いたぞ」

「うわー・・・」

 目の前にはあのバカでかい怪鳥が10羽もいた。首に首輪みたいなものをしており、それを怪鳥がいる建物の鉄柱にくくりつけてある。

 その怪鳥は俺の見たコトリトトス。

 こうして10羽並べてみれば羽毛の色などがところどころ違う。主に黄色を基調としているが、ちょいちょい濃かったり薄かったり、微妙にオレンジや赤が混じっていたりとしている。

「どうだ、こいつらがコトリトトス。可愛いだろ」

「可愛い・・・?」

 ゴギャー!だとかうばぁー!だとか叫んでいるこいつらが可愛い?

 俺を見るなり急に興奮したこいつらは確実に俺を食おうとしている。そうとしか見えない。

「餌をあげてみるか?」

「それは俺自身が餌とかそういう・・・?」

 そのセリフにがははと快活にメッカおじさんは笑った。

「モモのいた世界にはこういうやつはいなかったのか?」

「いないですね」

 人を食うようなやつはいるけれど、それでもここまで大きくない。

「それにまずそういうやつらを飼おうとする人は稀でした」

「なるほどな・・・じゃあ安心しろ」

 そう言うとメッカおじさんはその建物の横についている小さな小屋に行き、

「ほれ」

 とスコップのようなものに干し草をたくさんのせて持ってきていた。

「こいつらはな、草食なんだ」

「えぇ!?」

 このガタイでしかもこんなに怖そうなのに。

「こいつらが今暴れているのは単に腹が減っているだけだからな」

「どう見ても食べに来てますよね、俺らのこと」

 怪鳥の名にふさわしい狂い具合だった。

「まァ見てな」

 そう言うとメッカおじさんは干し草を思いっきりぶんなげる。

 するとその干し草は抵抗を受けながらも上へと上がり、それはコトリトトスの口の近くへといき・・・

「がばぁあああ!ギャぁあああ!げばっばばばば」

「・・・・・」

 見事首を巧みに動かし、全てを食いつくした。

 その姿はまさに化け物。

「メッカさん・・・」

「なんだ?」

「やっぱこいつら可愛くないです・・・」

「ははは!そうかそうか、そんなに気に入ったか」

 話を聞けよ。

「次はだな・・・ドラゴン、見てみるか?」

「ドラゴン・・・」

 空想の世界の産物だと思っていたドラゴン。それはこの国に来てからまるで犬を見るかのような頻度で見ている生き物でもあった。

 飛んでいる遠くにいるやつしか見ていないが・・・。

 少し歩くと巨大な倉庫のようなものがあった。外見的には中にダンプカーでも収容してるの?というぐらいでかい倉庫としか思えないが、どうやら天井がないらしい。

 ところどころ魔法の国っぽい不思議な装飾も見えて豪華さもある。

「ここだ」

 満足げに微笑むメッカさんの目の前には・・・。

「あ・・・・」

 コトリトトスの2倍の大きさのドラゴンが2頭いた。

 爬虫類のような目も皮膚も、力強い腕や爪も、強靭な足も、大きな翼も、でかいしっぽも全部空想の世界のものだったはずなのに。

 俺の目の前にそれはいる。

 驚いて声さえ出ないのをまたもやこのオヤジは気に入ったのと勘違いしているのか快活に笑い続けている。はっきり言ってドラゴンは怖い。死ぬほど怖い。

「いや、今度こそこいつら肉食うでしょ。俺らのこと食うでしょ、これ・・・」

「肉、食うぞ」

 なにをさらっと・・・。

「でもこいつらは飼いならされてるからな。移動用のドラゴンなんだよ、こいつらは」

「移動用・・・?」

「そうだ。ドラゴンには食用と移動用の2種類がある。食用は主に肉だ。ドラゴン肉。大まかにいえばドラゴンって名前なだけで実際は1種類1種類名前があったりするんだが・・・それはまたでいいか」

 永遠に知らなくてもいいです、その知識。

「で、移動用はそのまんまだ。背中に乗るからこそこうして飼いならされている。野生のドラゴンは危ないが、こうして飼いならされたドラゴンはおとなしいもんだぞ」

「へー・・・」

 絶対に近付かないでおこう。俺はそう思い1歩後ろに下がった。

「というか・・・少なくないですか?」

 ドラゴンの数。

 コトリトトスは10頭もいたのにドラゴンは2頭。確かに体は大きいから飼いにくいのかもしれないがこれとは別に食用というドラゴンもいるのならばもっといてもいいはずだ。

 別のところにいるのか?

「食用のドラゴンはここにはいない」

「いないんですか?」

「ああ。ドラゴンはこうして飼いならしてしまうとな、卵を産まなくなるんだ」

 卵で生まれるのかよ、ドラゴン。

「子孫を残すというのは危険があるからだ。敵がいるから自分の子孫を残そうとする。逆にいえば、敵がいなくなると、自分が死ぬこともなく、卵をたくさん産まなくなるんだよ。こうして飼いならしてしまえばあたりに敵がいないことぐらい分かってしまうからな、ドラゴンは。バカではないのだよ」

「本来はたくさん産まれるもんなんですか?」

「ああ。じゃないと食用にはされん。野生のドラゴンは溢れるほどいる。しかしこうして飼いならしてしまうとどんどん数は減っていく。だから1つの家に2ドラゴンまでしか認められてないんだ」

「じゃあ食用はどうやって確保を・・・?」

「狩りだ」

 にやりとメッカさんは笑った。

「野生ならたくさんいる。だとしても月に1、2回しか行ってはいけないのだが、狩りというものがある。それはな・・・」

「なんとなく説明されなくとも分かります・・・」

 狩り。

 その言葉を聞いて分からないわけではない。

 すなわち野生のドラゴンを仕留めるのだ。

「うちの世界には、便利なことに魔法がある。それを利用するんだ」

「でもでかい炎だしたり、水を滝みたいにぶしゃぁああって出せる魔法なんてないんですよね。なら、どうやって・・・」

「もうそろそろ狩りの時期だ。その時になったらまた呼んでやるよ。うちにはプロのドラゴンハンターがいるんだからな」

 ドラゴンハンター・・・?

「今日もドラゴンじゃないにしろ、何か狩っているはずなんだが・・・」

 そう言った瞬間ずずず、ずずず、と何かを引きずる音が聞こえてきた。

「お、帰ってきたか」

 メッカさんが俺の後ろを見る。

 すごく嫌な予感がするのだが、ここで見ないわけにもいかない。見ないようにするためにはここから今すぐ逃避する以外ないのだ。

 そして迷う。この牧場というか農場は広すぎるから。

 心を決め、後ろを振り返ると、

「ちっ、パパ。何度も言うけどさ、こういうことやらすのもうやめてよね」

「ははは、似合ってるぞ、その姿」

「・・・・・・」

 少女。高校生か中学生ぐらいの少女がそこにいた。

 しかし異質なのがいくつか。まず、手には小さな刀をもっており、体も簡易的な鎧で包まれている。そしてもう1つ。

 少女は見たことのない生物を背負っていた。タコのようではあるが、足は20本近くあり、大きさも普通のタコの10倍以上。それも十分驚くことではあるのだが・・・。

 それをかつぎながら、引きずりながら歩くその女の子が一番何よりも異質であった。

「あたし、今年で高校2年よ、もう17歳。結婚もできる。でもなんでそんなあたしがこうして狩りをやらせれているのかって聞いてんのよ!パパがやればいいじゃない!」

「俺はこの畑で忙しいからなぁ」

「じゃあお兄ちゃんは?」

「あいつは・・・弱いからな・・・」

 何やらよく分からない会話をしているのだが・・・。

 俺は完全に蚊帳の外。そこらへんでも適当に眺めていようと動きだそうとした時、少女と目があった。

 そこで初めて俺はその少女を認識する。

 髪の毛はネズミのようにお団子を2つ作っている。そして頭、胸、手、足と簡易鎧で包まれていて、目も大きく、可愛らしい。

 しかし後ろの死んでるようなタコと手に持つ刀で台無しだ。

 コスプレという一言ですませることもできなくなった。

「なっ・・・」

 そして驚かれる。

 しばらく顔を赤くして下を向いたのかと思いきや、小声で何かぶつぶつ言い、そして思いっきり顔を上げるとそこにあったのは笑顔。

「あら、お客様がいらしてたのね。よろしく、あたしはナルミル=アルバ」

「あ、あぁ、よろしく。俺はモモ=イオロイ」

 どうやら先ほどのことはなかったことにしたいらしい。

 驚きの変わり身。驚きの猫かぶり。

「後、畑に行くが、ナル、案内任せたぞ」

『えぇ!?』

 俺とナルミルが同じように驚く。

 だって俺は今、こいつと会ったばかりだし、こいつは猫かぶり続けなければいけないでいいことが1つもないじゃないか。

「あ、あの・・・」

「仲良くやれよ」

 そう言って俺らの肩をばしんと叩くと快活に笑い去っていった。

 ほんと1度でいいから話を聞いてくれよ。

続きます。といってもどこから見ても大して困らないというのがこの小説のいいところ??で後半もそんな感じです。

魔法の国のことだらけではあるのでそろそろ日本のことをいれたいなぁと思います。


ではまた次回。

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