第21日 さらに魔法の国で住む。
もう風が冷たい。夏は終わりを告げ、季節は秋となっていた。木は紅く、紅葉が綺麗である。俺はそれを見ながらひたすら台所に立っていた。朝ごはんである。
トマトをきり、それをお皿に盛る。一度水で洗ったからか、水滴がついていて普通のスーパーで買ったものなのにいつもよりも新鮮に見える。今度は卵を割り、その卵をとく。ボウルに箸があたる小気味いい『かっかっかっ』という音が気持ちいい。フライパンに油をたらし、卵、トマトを軽く炒める。
それをお皿に盛って、完成だ。小腹が空いたときに簡単に作れる卵とトマトの炒め物。一緒にネギを入れることで触感まで楽しめるようになっている。一口食べてみると上出来と思える味だった。
俺は台所から出て、食卓へとそれを持っていく。
考えながらも俺はひたすらご飯を食べていく。それでも考え事は消えない。考え事というか何か、こう、もやもやしたものが俺の中に渦巻いている。確かに知らない土地に来て不安ということもあるのだが、それにしても、何か他のものが。
ピンポーンというインターホンの音。なぜか少し懐かしく思えたけれど、気にせずに玄関へ。
「はいはい」
「おはよー、モモくん」
俺をさも当然かのように出迎えて、というより向こうから来た女の子。年齢は18歳だったか。ヴィーパ=チーという名前の彼女は俺が道路で倒れているところを救ってくれた人物である。危うくよく分からない浮いた車に轢かれるところであった。
「ん・・・」
何か、前もこんなことがあったような気もするが。
「というか、ヴィー。もう俺は結構回復したし、ケガすらもない。わざわざ学校行く度に見に来なくてもいいんだぞ。朝早く家を出る分大変だろうし」
「いいんだって、どうせ暇なんだから。それにもう推薦で学校も決まってるしね」
「それで遅刻したらいろいろ取り消されたりしないのかよ・・・」
よくも悪くも前しか見ないやつである。前、目の前だけ。少し先のことも昔のことも見ない、そんなさっぱりした女の子。この子を見てると俺も今だけを楽しんで行こうと思える。
「ケガがなくても記憶はまだ思いだせないんでしょ、じゃあ安静にしてなさい。私が見に来てあげるから、ね」
にっこりと笑う。
「心配されているところ申し訳ないが記憶がないかどうかも分からないんだ。俺の中では街に出かけて、買い物をしてる途中で意識がなくなって倒れたって感じだったんだけど・・・」
「それは覚えてるってことなのかな。でも自分の家とかも忘れちゃったんでしょ」
「まぁ・・・・・確かに」
忘れたというより、最初からどこにも住んでいないような気がするのだ。それを忘れたといえばそれまでなんだけど・・・なんだか、不自然。忘れたと思われないように誰かがフィルターをかけたかのような脳内。でもそれをこいつに伝えるのはやめておこう。無駄に心配させてしまう。
「ほんと世話焼きたがりだよな、世話されておいてなんだけど。普通倒れた男を拾って新しい住居探して住まわせたりしないだろ」
「んー?そうかな。お金はどうやら支給されたカード持ってたみたいだし、私がしたことってこの物件を探しただけなんだよね。だから気にしなくてよし」
またもやその笑顔だ。なんだか安心する。
「じゃあ、もう行くね」
「ん?上がって行かないのか?確かに見ず知らずの男の家は危ないかもしれないが、朝ごはんぐらい・・・ほら、弁当作ってやるから」
「モモくんも相当世話焼きだよね・・・」
でも、とヴィーは区切る。
「いいにおいがする。学校終わったら来るね、その時になんか食べさせて。もう電車きちゃうから」
「電車・・・」
聞きなれた言葉であったがこの世界からしたら若干の違和感を覚える。
「確か学校割と近いよな、それこそ歩いて行ける距離じゃないにしろ、箒とかに乗れば・・・」
「私魔法へたくそなんだよね。だから推薦も実技じゃなくて座学でとったの。普通魔法へたくそなやつは就職するなりした方がいいんだけど・・・どうしても魔法をもっと学びたくて」
「そうか・・・俺はいいと思うぞ。勉強は大切なことだ」
「モモくんに言われなくても分かってる」
そういうと走って電車乗り場まで行ってしまった。少しだけ話し過ぎたか。
普段の俺だったら年下の人間にため口をきかれると若干いらっとするのだが・・・もうそんな気持ちもない。救ってもらったからか、それとも・・・俺が変わっているのか。
またごちゃごちゃ考えそうになっていたのをやめ、あいつが帰ってくる前になにかおやつ的なものを作っておくかな、と別のことを考え始めることにした。
○
「ヴィーパちゃんおはよー」
間延びしたような声がヴィーパの耳に届く。このような特徴的な声はヴィーパが知る中でも1人だけだ。ヴィーパの親友、キロである。キロ=メートル。珍しい名前ではあるが、ヴィーパはそのようなことを気にする人間ではない。
箒に乗らず歩いていることからキロも魔法の才能がないように思える。
「おはよう、キロ」
「元気そうだねー。というかそんなことよりもあの男の人どうなった?」
「あぁ・・・」
実はヴィーパはモモを少しだけ魔法で浮かせ、自分の家に向かわせている最中にキロに見られていたのだ。すぐにキロから電話がかかってきて、説明をすることとなってしまった。
ヴィーパは誰にでも世話を焼くような性格で、リーダーシップをとることが得意の生徒である。本人自身はそれを否定しているが、他称というべきだろうか。まわりからは認められている。ヴィーパは人を差別せず、どんな人にも同じように接している。それで勘違いするような男もちらほらいるのだが。
「すぐに家が見つかって、もう平気よ。というか自分でもびっくりなぐらいすぐに見つかったなぁ。なんでだろ。でも本当にもう大丈夫そうだったよ」
このような性格なのだ。周りの人間も次第にああ、あの好意は自分だけにむけられたものではないのだな、と気付くのである。しかし学校ではなく、プライベートな時間に男に会うことなどまるでなかった。それでキロは驚いたのだった。
キロがきいたどうなった?とは男の無事も半分、残り半分はヴィーパがどうなったのか?という少しだけ恋愛面を含んだ質問だったのだが。
「ヴィーパちゃんはヴィーパちゃんだよね」
と、いつものように評価するのだった。
「ん?」
歩いている最中、そんな話を最初から気にしていなかったヴィーパはたまたま近くにあったマンションの壁に人探しのチラシが貼ってある事に気付いた。
ヴィーパは先ほども説明したとおり、世話焼きである。そういうのには目がない。
すたすたすたと歩いて行くヴィーパ。しかしそれをとめたのはキロであった。
「どこいくの、ヴィーパちゃん」
「どこって向こうのマンションの貼り紙よ。なんか、人探しがどうのって・・・」
「ヴィーパちゃんそういうの見たらしばらくそれに熱中しちゃうんだからだめー。これから私たちは学校行くの。推薦決まってても出席日数だってあるし、休んでいい理由にはならないんだからー」
「キロ、待って!見るだけ!見るだけだから!」
というヴィーパの叫びもむなしく、キロにひっぱられていく。ちょうどそのヴィーパ達の姿が見えなくなった後、その貼り紙の近くに人影が現れる。
「アンジェ、もうそろそろ学校行かないと」
「分かってます。ここらへんはこんな感じではいいと思うんだけど・・・」
アンジェとロメリア。2人は学校に行く前にこのように貼り紙をはる許可を得ては貼るの繰り返しをしているのだった。
「なんか随分と原始的なやり方ですね。みんな普通は空を飛んでいますし、このチラシを見てくれるかどうか分かりません」
「でも私たちには他に方法はない・・・捜索魔法なんか警備隊じゃないし、使えるわけない」
「じゃあ、通報して助けてもらった方が・・・」
「無理よ。警備隊は本人から発する魔力を辿って見つけるの。でもモモさんは魔法を使えない。だから彼らにも見つけることは不可能だし、協力すらしてくれないでしょうね。ポケットに入っていた毛糸のくずを落としたので探してくださいって言ってるのと同じよ」
「でもここらへんにいるのでしょうか。だいぶお兄さんの家からは離れていますし、こうして朝ここに来れるのも箒があるからで、移動手段のないお兄さんがこんなところまで来れるかどうか」
「いいの。やりたいことは全てやるんだから」
「・・・・・分かりました。私もアンジェに付き合います。遊んでもらいたいのは私だけではありませんし、アンジェだけでもありません。あの人は案外まわりに認められていたのですから」
寂しそうな顔をして2人は箒にまたがり、全速力で学校に向かった。
なにやらややこしくなってます。
しかし本質は日常ものであるので、そこまで大きなことでもないですが。
頭の中では第2部みたいなもので、しかし元からあまり長く続かせるような作品ではないので、2部という言い方もいいのかどうか。
もう少しだけお付き合いください。
ではまた次回。




