異世界で
少女につれられてきた場所は大きな建物の中ではまだ小さい建物の中であった。もちろん、日本の建物よりは全然でかい。ユラドラ、魔法大国ユラドラ。確かそんな名前だっけ。大国、ということはやはり国なんだろうな。
「解除」
そう言うと俺の浮いた状態は解除された。浮くのが普通かと思って甘んじて迷子のような扱いを受けていたのだが、普通は箒に乗って空を飛ぶらしく、一人が歩き、一人が浮くという光景はあまり見ないらしい。奇異の目で見られてしまった。
「一応案内しますけれど」
すごく奇異の目で見られている。
「ここは国にいくつもあるテレポートホームです。ここでテレポートできます」
テレポートできるの、とか言われても。
俺はよほど間抜けな顔をしていたのか、すごい怪訝な顔された。お前俺年上だぞ。でも最初に紳士的に過ごすと決めた。本当の理由はこれが夢だとして、少女に怒るというのはなんだか虚しいから。俺の作った夢に怒るってわけわからん。
「テレポートも知らないのですか?田舎の方なのかしら・・・?」
「む」
確かに日本でも田舎の方ではあるが、それを悪いことのように言うことはいいことではない。田舎には田舎の良いところがある。
「あのな、お前まだ子供だから分からないだろうけれど、田舎はな・・・」
「はいはい、分かりましたから機械に乗って」
無理矢理押され、円形状の機械の上に乗る。ちょっと待て。話はまだ・・・。
するとその円形の中に少女も乗ってきた。
「ん・・・ちょっと狭いかな・・・」
「テレポートってこんなに不快になるものなのか・・・」
人に近づくのは苦手だ。
人と近づくたびに自分と他を比べてしまう。その結果、俺の考えに揺らぎがでるかもしれない。揺らいでも俺の考え自体は変わらないが。
「では飛びます」
「え、これ痛くないよね?」
しーと口元に人差し指をあてる少女。全然関係ないがスタイルいいな、こいつ。ただ背が低いけれど。
背以外のことでだ。
「行き先指定」
少女の声が聞こえる。
「場所はアルデラード宮殿」
すると回りが光だし、その青い光で包まれる。驚いて声をあげるところではあったが、それは防がれた。他ならぬその光自信に。端的に言えば光がすぐに消えたのだ。
そして見えたのは今まで見たことのないスケールの建物。俺が先ほど見た、国いっぱいに広がっていそうな信じられない建物が目の前にあった。ここからじゃこの建物のてっぺんも、端も見えない。
「ここがアルデラート宮殿。国全体にかかるとても大きい建物です。ジジ様がいる場所。正確にはそのことだけじゃないんですけど、今はそれでいいです。」
「要するにでかい建物ってわけね。というかさっきの魔法恥ずかしいからあんまやってほしくな・・・」
「さぁ、はやくジジ様のところにいきますよ」
俺の文句を全部スルーして再び魔法をかけられる。これ恥ずかしいんだけど。しかし少女はそれを気にすることなく俺をひっぱりながら移動した。
宮殿の中に入るとまっすぐ歩いたり、エレベーターらしきもの(なんかすごい光ってたし、ワイヤーなどもなかった)に乗って上に行ったり、角を曲がったり、なぜかエレベーターらしきもので下に行ったりと様々な移動を繰り返した。
どこの部屋も場所もスケールが桁違いで、俺の一番分かりやすい例え方である体育館何個分を使おうとしても無駄なぐらい大きかった。野球場何個分でも無理だろう。
そうして30分くらい移動しただろうか。少女は「魔法使えばこんな道簡単なんですけれど」と軽いお荷物発言。俺が今回はスルー。
そうこうしていると目の前にこれまたスケールの違う大きな扉があった。
「ここがジジ様のいる間です。失礼のないようにしてください」
してください、のあとは俺を睨んでいる。してねギロリ、という感じだ。俺はわかったわかった、とうなずく。所詮は俺の夢。もし失礼をしてもなんやかんやで助かるのだろう。だが、どこか嫌な予感もする。第六感というのだろうか、よくわからないが。
大きな扉がゆっくりと開く。ギギギィ・・・という音がした後、中に広がったのはこれまたスケールの違う大きな部屋だった。ただ、そこには机や椅子などの生活感漂うものがあちこちに置いてある。
そしてその部屋のど真ん中に位置する椅子に座っている人が1人。まわりには何人もの人がいて、その人を警護しているようであった。
「よくきたな、アンジェ」
「ジジ様」
そこにいたのは初老の男性。いや、見た目は『初』老ではない。長い白ひげと長い白い髪。完全に何歳、いや何百歳と生きているんじゃないかという感じである。だが顔はそこまで歳をとっているとは思えないものだった。ジジ様というだけあってやはりおじいさんであったか。
その頭にはとんがり帽子をのせている。魔法の国の長老としてぴったりの風貌だ。
「そちらの方は?」
「漂流者です。異世界からきたそうなのですが」
「ほぉほぉ。なるほどね」
ジジ様とやらは俺の体全体を見る。
「で、どこの国の者なのかな?」
正直に答えていいものだろうか。しかし嘘をついてもしょうがない。というよりいい嘘が思い浮かばない。何が良くて何が悪いのかが分からないのだからどんな嘘をついていいかも分からない。
「日本です」
「日本・・・とな?はて、きいたことがない」
「どうやらこの人の国、魔法がないみたいなのです」
「魔法が・・・」
ジジ様の目が大きく見開かれる。そんなにありえないことなのかよ。
「ではどうやってこの国に来たというのだ・・・ありえない。魔法が使えずして異世界から来るなど考えられるわけがない・・・しかも、なぜあなたは私たちと同じ言語を話せるのか」
「え・・・」
その言葉に今度は俺が驚く番であった。
「いや、あなた達が俺と同じ言語を話しているんじゃ・・・」
「むむ・・・」
俺のセリフに何か思い当たるものがあったのかジジ様は何か考えるようなしぐさをした。
「ここに、このユラドラという世界にテレポートした際、光が見えたはず。正しいかな?」
あたりだ。授業を受けようとトイレに行ったことを俺は先ほど思いだした。ドアを開けるとそこからは目を開けられないほどの光があふれ出てきたのだ。
「その光は何色だった?」
「え・・・と」
思い返してみる。ここ、アルデラート宮殿に来るためのテレポート装置は青色の光を出していた。そして俺がこの世界に来た(夢という仮定を捨てれば)ときの光は確か・・・。
「緑色・・・だったと思います」
「そうか・・・やはりな・・・」
ジジ様は納得いったような顔をして、ゆっくりと頭を下げた。
「ジジ様!?」
それに驚いたのは子供体型(背だけ)の少女。いかにもなんでこんなやつに頭を下げるの?というようなニュアンスを感じ取った。俺は御堂にプライドが高いのにメンタルが弱いと表現されていたが、それでも俺の考えすぎではないはずだ。
「すまない、少年。それは私たちのミスだ」
「は、はぁ・・・」
「ジジ様、どういうことですか?」
少女が聞く。なぜかまわりの警護している兵士らしき人々もざわめき始めた。なんだこれ。
「本日、我が国、ユラドラにはアルバザードの長が来るはずだった。アルバザードも異世界の国。お互い魔法があるとはいえ、言葉は通じない。そこで通訳テレポートを使ったのだ」
「通訳テレポート・・・?」
「テレポートの際に言語を合わせることができるテレポートよ。とても魔力を使うけれど通訳なしでお互いの言語が通じるから国の取引や話し合いの時に使われるの」
説明したのは少女だった。
「先ほどきたアルバザードの長は当初の予定より遅刻してきた。ユラドラ側からの通訳テレポートがなかったため、自分の国からテレポートしたと言っておったが・・・なるほど、ユラドラ側の通訳テレポートはニホンとやらに繋がっていたというわけか」
なんだかよくわからないが、ここで分かりやすく整理しようと思う。
国同士の話し合いの時はその話し合い開催場所の国がテレポートを用意する。今回はユラドラがテレポートの準備をしなければならなかった。しかしそのユラドラの通訳テレポートは座標指定を間違えただかなんだかで日本に繋がった。そして俺がこの異世界に飛ばされたというわけか。
そしてアルバザードの長は通訳テレポートが来ないことを不審に思いつつも、自分達の国で通訳テレポートを用意して遅刻しながらも登場という流れらしかった。
「なるほど・・・」
確かに納得できる理由ではある。だが。
「だがこれは俺の夢だろ」
「・・・・・・なるほど」
今度はジジ様がうなずく。
「確かに魔法のない国から見れば我が国ユラドラは夢のような場所ではあるのだろうが、少年。ここは現実だ。その証拠を見せてやろう」
そうするとジジ様のコップに入っていた水(?)が空に飛び出し、そして1つの四角を描く。水面の鏡のようになっていた。
「さすが、ジジ様。浮遊魔法とテレポート魔法と光魔法を同時に使うなんて」
いや、それがなんなのか何1つ分からないんだが。俺の夢の癖に俺に対してとても冷たい設定のようだ。これでは自己満足すらできないじゃないか。
「ここを見ろ」
その水面の鏡にはなんと御堂が映っていた。
「御堂・・・」
その御堂は一生懸命ノートをとっている。かと思えばスマートフォンをいじり、たまに隣、俺の席を気にしていた。この光景はいつ通りである。俺の夢なのだから俺の知っている光景が映るのは当たり前だと思うのだが。
すると次にアングルが変わった。黒板である。そこには・・・。
「なっ・・・」
今日の授業内容が映されていた。知っている。なぜなら俺はこの授業の予習をついさっきまでしていたのだから。俺の知らない板書が次々と書かれていく。これは・・・。
「夢じゃない・・・?」
「そうだ。これは夢じゃない。ちなみにこの光景は未来だ。浮遊魔法で水を四角の形に浮かべ、光魔法で鏡を作りだし、テレポート魔法で日本の未来へと座標を合わせたものだ」
「未来・・・」
「どうやらユラドラとニホンでは時間の進み方が違うようだな。こちらでの1日がニホンでの1秒にあたるらしい。なるほど、確かに魔法はなさそうだな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・」
ここに来て俺の混乱はピークに。今まで冷静だったぶん一気に恐怖が俺を襲う。
「異世界。現実?そんなわけあるか!魔法なんか創作だし、俺は授業に出なきゃいけない!このままだと単位もとれない!卒業できない!俺は・・・俺は完璧じゃなきゃいけないんだ!」
「単位、授業・・・それらの概念は我が国にもあるから理解できる。だからとりあえず落ちつくのだ。冷静になれ。こちらに来れたということは向こうに戻れるということだということに気付くんだ」
「・・・・・戻れる・・・?」
俺はその言葉に思わず自分の言葉を止めた。
「そのためにはあなたの信じない魔法を使うことになるがな」
「分かった、魔法は信じる。だから俺を今すぐ戻してくれ!」
「それは無理だ」
あっさりと返され、俺は言葉を失う。
いや、じゃあ期待持てる言い方をするなよ。
「通訳テレポートはかなりの魔力を消費する。そもそも異世界移動だけでも大変なんだ。普通の異世界テレポートですらできない魔力しかない。それに今はユラドラ語を話せるよう設定している。普通のテレポートだとあなたはニホンでもユラドラの言語しか話すことができない。ならば確実に通訳テレポートが必要だ」
じゃあ、魔力が回復さえすればいいということか。
「そういうことだ。魔力とは人1人ずつ持つものではない。一家にいくつか、国にいくつかと持つ共有物なのだ。少年、えぇと名前はなんだったか」
「五百蔵桃夏」
「それはフルネームだろう?我が国も和名を持つが・・・トウカとはどう書くのだ?」
「桃に夏だ」
「桃に夏・・・なるほどな。そのどちらも我が国にあるよ。ではモモと呼ばせてもらおう」
「モモ!?」
それじゃ女の子の名前になるだろ!
しかしまわりの警護団が怖くてそのようなことを言えない。どの国でも力とは恐怖なのだな。
「で、モモ。魔力だが、モモの国で一番近いものをあげるとお金、だな」
「お金」
なるほど確かにそれは共有物ではあるな。お小遣いやらで個人のものになったりもするが。
「もちろん魔力で物を買うことはできないし、お金も別にあるが、毎月国から出る限られた魔力で節約し、過ごしていくというのが普通だな。貯蓄したりする家もあるが、毎月十分な魔力が配給されるから普通は使いきる場合が多かったりする。テレポートで異世界に旅行するとかなら別だがな」
この世界の人たちも旅行するために節約したりするということか。そのことを考えると軽く親近感がわいてくる。
で、とジジ様は話を区切った。
「国同士の問題では国の魔力が使われる。魔力は魔力発生源である場所で得られるが、それも限られているからな。金脈、鉱山と同じように魔力も得られる場所があるのだよ。で、配給することも考えると何回も連続で使うわけにはいかない。いや、使えない」
「じゃあその魔力発生源で魔力がたくさん溜まればもう一度できるということですね」
「ああ。すでに今から一年分の配給すべき魔力は会社に送ってしまって今、国が使える状態ではない。申し訳ないが、溜まるまでこの国にいてはもらえないだろうか」
もらえないだろうかと言われてもここで過ごす以外に選択肢がない。
「溜まるまでにどれだけ時間がかかるんですか?」
「分からないな。発生源による」
「普通なら?」
「2年だ」
「2年!?」
「はやくても1年だな」
「1年・・・」
おいおい・・・1つ学年上がってしまうじゃないか・・・。それこそまさに進級できない可能性がある。このままでは完璧から離れてしまう。
「先ほども言ったようにこちらの1日は向こうの1秒に相当する。そこまで気にすることではないと思うぞ。これからの授業には遅れるだろうが」
しかしそれでも遅刻だ。単位がとれないでも、授業が受けれないわけでもない。まだマシなほうか。御堂が珍しく、本当に珍しくノートを書いていることだし、後で帰ったら聞こう。いや、そんな簡単な話でもないのか。
1年。見知らぬ魔法の国で1年。なかなか大変そうだ。
「しかしこちらの完全なミスだ。お金はいらないし、住む場所も見つけよう。買い物も全てタダ。もちろん働かなくても問題はない。さらに普通なら1,2年かかる魔力補給を急ピッチでやらせる。それで1カ月後には帰れるだろう。それでどうかな?」
断る理由が見当たらない。
これは人を頼るうちには入らないだろう。なぜなら向こう側のミスであり、すなわちこれはお礼と、お詫びと同じなのだから。俺はとりあえずそう思うことにした。よくよく考えてみれば少し考えにおかしいところもあるが、そんな場合ではない。
「分かりました、1年、いや2年でもここに住ませてもらいます」
「そうか、よかった。だが、1カ月後には帰ることになるとは思うぞ」
ジジ様はにっこりと笑った。悪い人ではないよな、たぶん。
俺は思わず、頭を下げた。よろしくお願いします、とそう言って。少女がすごい顔でこちらを見ていたが無視。
「さて、では魔法を習ってもらおうか」
「え」
「ここで住むにはモモも魔法を覚えた方が便利だから。こればかりは才能だが、とりあえず短期のカリキュラムを受けてみるのはどうかな?」
「い、いや、待ってください」
その魔法を使うことは魔法を頼ることになってしまう。これはお願いでもお礼でもお詫びでも命令でもなく、ただの勧めなのだから。
魔法。
俺は俺だけの力で過ごしていきたい。
「魔法って例えば発動までに結構な労力とか、努力とかいりますか?」
「いや、特にないな。ちゃんと使いたいわけではなく、短期ならば尚更。才能は関係するが、あまり努力をするわけではないかもな。全くの0ではないけれど、勉学の中では少ない方だ」
名前を呼ぶだけで、発動する簡単な便利な道具。それを使うことは今までの俺の努力を否定することになる。否定して、俺を見失うことになるだろう。それは避けなければならない。
俺は間違っていないのだから。
「魔法を習うのは遠慮させてください」
「魔力は別に体に悪いものではないよ」
「そうではなく・・・その魔法っていわゆる便利なものじゃないですか。俺はそういうの使わないようにしてきたんです。そういうずるいことを。そもそも魔法がなくても過ごしていけるのでしょう?」
「ちょ、ちょっとあなた!」
急に少女が怒りだすもジジ様が手で制する。
「そうならばあまり強くはいうまい。すでに家などは手配した。アンジェに地図を渡すから案内してもらいなさい。それとニホンの様子を見たかったら私に言いなさい。モモをここの部屋の出入りを許可する」
「ジジ様!よそ者ですよ!それに・・・」
それになんなのだろう。急に悲しそうな顔をする。
「いいんだ。アンジェ。モモと仲良くしなさい」
「なんで・・・・・・・・・・・・・・」
少し少女は黙る。
「そうね」
アンジェは何か納得したのだろうか。諦めたような表情を見せて少し笑った。それは決していい笑顔ではなかったかもしれない。少なくとも俺はそう思った。
「私は和名だと慈子杏。ユラドラ名はアンジェ=マトラーシカ。よろしく」
「俺の名前は五百蔵桃夏。ユラドラ名は・・・・・」
軽くジジ様を見る。超笑顔。子供と間違うくらい無邪気。
「モモだ。モモ=イオロイ。よろしく」
軽く握手。だがなぜか握手の力が強い。ならばこちらもと力を入れる。お互い痛い痛い痛いと叫びながら地面に倒れ伏すことによって喧嘩終了。
ほんとにやっていけるのか・・・?
書き溜めしていたので。
あらすじにも書いていましたが、バトルはありません。恐らくもう1話投稿すると思います。そちらもよろしくお願いします。
ではまた次回。