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一、奈良ホテルで その2

修学旅行は別として、

私が奈良を初めて旅したのは

四十代にさしかかるころであった。

その時私は仕事にも家庭にも行き詰っていて、

どこでもいいから旅をしたかった。

旅先を奈良に選んだわけは、

偶然秋篠寺の伎芸天の写真を本屋で見て

一目で引きつけられたからである。

奈良に着くなり秋篠寺に行った。

伎芸天は写真よりずっと美しかった。

私は仏像の美の虜となった。

美女のいるところ美男もいるものである。

東大寺戒壇院の広目天の前で動けなくなったのだった。

そして奈良に3泊もして奈良公園、西の京、斑鳩の里、

山の辺の道、飛鳥と歩き回ったのである。

それから私は仏像ファンとなり

奈良を訪れるようになったのであった。

そんな話をその時に何故に沙希に話したのだろうか

今考えても私にはその理由をよく思いだせないのである。


沙希とそんな話をした1週間後に

私は京都で行われる会議に出る仕事が出来た。

そしてスケジュールを調整して

一日休暇を貰って奈良に寄ることにしたのである。

奈良のホテルにシングルの予約を取ることになったとき

彼女との「約束」を思い出した。

そして彼女に電話したのである。

2週間後のことであり、無理を承知で声をかけたのだ。

するとほとんど間髪を入れずに

「私も同じホテルを取りますので

よろしければ翌日奈良を案内して頂けませんか?」

と言ってきたのだった。


そして今日私は彼女と落ち合ったのである。

彼女と私はホテルを出て

予約してある猿沢池のそばのレストランに向かった。

夕食をとりながら明日は

どう回ろうかと聞いても

沙希からは

「お任せしますわ。」

という答えなので

私は自分の考えていた大体のコースを説明した。


食事が終わってホテルに戻るとき

私は彼女の部屋の番号を聞いていないことに気がついたが

彼女は押し黙っていて聞き出すことが出来なかった。

ホテルに戻り、

それぞれの部屋に戻ろうというときになって

慌てて私は自分の部屋の番号をメモした紙切れを渡した。

彼女は黙ってそれを受け取り、

小さな声でルームナンバーを言った。


部屋に戻って私は電話の前で迷っていた。

一時間も迷っていたのかもしれない。

このまま明日を迎えようと考えた時にドアがノックされ、

開けるとそこに沙希が立っていたのであった。

翌日の朝早く彼女は自分の部屋に戻っていった。

朝食を二人で食べてから私は彼女と奈良の社寺を回った。

それが彼女との長い付き合いの始めであった。


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