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一、奈良ホテルで その1

今から10年以上も前のことで

まだ携帯電話は普及していなかった時期の話である。

私が奈良のホテルに着いたときは日も暮れていて、

約束の時間はだいぶ過ぎていた。

ロビーに行くと沙希は何か本を読んでいるようであった。

私が、立ち止まりしばらく遠くから彼女を眺めていたのは

彼女の美しい横顔をもう少し眺めていたいだけでなく

何と言葉をかけてよいか迷ったためである。

しかし適当な言葉も思いつかないで、

私が近づくと顔を上げて微笑んだ。

「本当に来たのですね。」

と私は言った。

「奈良に一緒に行きますか?」

と彼女に話をしたのはひと月ほど前のことだった。

彼女は仕事でのパートナー的な存在であったが、

プライベートでは時折食事をともにするくらいであった。

しかしその日彼女との打ち合わせが長引いて、

夜も遅くなり、

行きつけのバーに誘い

二人ともかなり酔っていた。

話は奈良のお寺のことになった。

そのころの私は仏像に魅了されていて、

年に数回は奈良を訪れていた。

彼女は私の話に興味をもったようであった。

私は話の流れとして

「今度ご案内しましょうか」

と軽い言葉で言った。

沙希は下を向いてしばらく考えたあとで

「是非お願いします。」

と答えてきた。

私は少し狼狽して

「奈良だと泊まりでゆっくりと回りたいですね。」

と笑いを作りながら言うと

ええとだけ

彼女は答えた。

真剣な顔つきであった。


バーを出て歩きだした廊下の暗がりで

彼女は手を繋いできて言った。

「奈良はきっとですよ」

私は返事の代わりに

彼女の肩に手を置いて軽くキスをしたのであった。


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