表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の領主さま! 悪魔召喚されたけど、オレはただの人間です! 〜魔女と悪魔の異世界領地経営〜  作者: ふろんちあ
最終章 ただの人間として

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/90

フロイド・ウィンドミルの誤算

「なぜだ……なぜ、こんなにもビート・シュガーの出来高が少ない!」


「わかりません……第一段階から甘みがほとんどありません。なにか、さらに秘匿された製法があるのではないでしょうか?」


「バカな……」


「フロイド、広大な耕作地を使い、農民に重い労働を課し、あげく加工場まで作ったのだ。失敗は許されんぞ」


「……申し訳ありません、父上」


「砂糖の注文は各地より届いておる。直ちにハイランドに赴き、製法を確立させよ。さもなくばありったけの砂糖を仕入れてこい」


「……かしこまりました。直ちに早馬を出します」


 ――


「あら、フロイドさん。まだ砂糖には早いわよ?」


「レディ・ハイランド、突然の訪問失礼致します。商隊を出す前に、至急確認したいことがございまして……」


「なにかしら?」


「聖都では既にてん菜の収穫が始まっております。しかし、どうしても砂糖の精製がうまくいかないのです」


「そうなの? どうしてかしら……」


「少量なら精製できるのですが……なにか製法に違いがあるのでしょうか?」


「まってね、夫を呼ぶわ」


 ――


「カケル、どう思う?」


「うーん……工程をみないとわかりませんが、第一段階で沸かしすぎていませんか? 沸騰させると苦みが出てしまいますが」


「いえ……それは資料にあった通りのとろ火で、煮沸魔法も試しました」


「……ちゃんととろ火で煮出してもその時点で甘みがないなら、てん菜が糖分を持っていません。まだ秋ですし、収穫期には早いでしょう」


「は……? いえ、南の肥沃な大地ではもう丸々と実をつけております」


「あ……それだ。てん菜は寒くないと甘みを蓄えないんですよ」


「な……」


「すいません、こちらの落ち度ですね。秘匿の鍵はあくまで製法しか記載してませんでしたから」


「ふ、冬になればてん菜の甘みは増しますか?」


「多少は増えると思いますが……元々寒冷地向きの根菜ですからなんとも」


「ぐ……でしたら、今季の砂糖を先物買いさせていただけませんか?」


「ごめんなさい……あちこちからお手紙が届いていて、お友達や水の姫にも贈る約束をしてるのよ。出来高が見えないうちから売れないわ」


「そんな……増産されていないのですか?」


「えぇ。今年は砂糖……と言うか飼料より農作物がたくさん必要で」


「……風読みが甘かったか……」


 なんか、困ってそうだな……先走って南で作りすぎたんだろうか? てん菜についてちゃんと教えてあげれば良かったな。


「ビィ、送り先はだいたい聖都周辺か?」


「そうね。セイレムと聖都が中心よ」


「ならウィンドミル商会に売れるだけ砂糖を売って、そこから届けてもらえばいいんじゃないか?」


「あぁ、それはいいわね。送料も手間も省けるわ。フロイドさん頼めるかしら?」


「そ、それで砂糖を売っていただけるのでしたら喜んで」


「量が必要なら、焦らず冬を待ってください。できるだけ多く精製しておきます」


「承知いたしました」


「それと、家畜と一緒に余ったてん菜をこちらで買い取りましょうか? てん菜を一番食うのは……豚がいいかな」


「大変ありがたい申し出なのですが……その、てん菜の量に見合うほどの家畜を用意する資金が……先払いでしたら……ウィンドミルの名にかけて」


 先物買いといい、先払いといい、本気でヤバそうだな……。スライム討伐で値下りしそうだし、魔石ならいっか。


「魔石払いで良ければ、先にお支払いしましょう。ビィ、いいか?」


「うん。今年は戦争もないし、アヴィからもたくさん届いてるものね」


「それと、魔石は早めに捌くことをお勧めします」


「それはなぜでしょうか? 魔導蒸気機関で需要は高まり続けておりますが」


「そろそろスライム討伐を完了した領地が出る頃合いなので……まぁ値下がりしなければ逆にそこらと商売するといいでしょう。鍵の送り先も教えましょうか?」


「……いえ、そこまでしていただくわけには……むしろ、なぜそこまで?」


「ウィンドミル商会が来なくなると、妻の好きな白パンが作れなくなるので」


「そうね! それは困るわ、ローランドの麦は硬いものね!」


「そ……それだけ……?」


「遠慮しないでいいのよフロイド。去年いい取引してくれたじゃない。それじゃあ今年は、麦と豚とてん菜ね。砂糖を作って待ってるわね」


「旦那様とレディ・ハイランドの御慈悲に……感謝申し上げます」


 ――


 負けた……完敗だ。先読みも、技術も、発想も。ただの従者だと思っていたあの男が、裏で全てを動かしていたのだ。魔導蒸気機関もおそらくは……。


 だが最も恐ろしいのは、あの男は私が商人としてバニシュ同然の窮地にあると知ってなお、私を『再利用』したことだ! 値下がりする魔石を処分させ、麦と砂糖を運ばせるために!


「首の皮一枚は繋がった……だが、砂糖利権も粉挽き利権も失い、足枷をつけられた……なんとしても、強く新たな風を吹かせなければ……」


 若き豪商フロイド・ウィンドミルは、心に寒風を吹かせながら、聖都への帰路を駆け抜けた。落ち目となった彼がその後、死中活路を蒸気機関に見出すのは、必然のことであった。


 やがてウィンドミル商会は蒸気機関を研究し、魔導蒸気機関の出力では動かしたり得ない、巨大蒸気機関車を開発する。


 それはエセルに新たな交易路と戦略ドクトリンを生み出しつつも、エセルの支配層から独立した資本勢力となり、黒煙と内乱の風を吹き起こすことになる。


 歴史にIFがあるとすれば、カケルがフロイドを救わなければ蒸気機関車は生まれず、ハイランドはフロストランドに滅ぼされていただろう。


 その歴史の分岐点が、家畜の餌として誰も見向きもしなかったてん菜にあったことは、誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ