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魔女の領主さま! 悪魔召喚されたけど、オレはただの人間です! 〜魔女と悪魔の異世界領地経営〜  作者: ふろんちあ
第九章 蒸気の時代

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魔導蒸気機関

 蒸気機関、煮沸装置、駆動装置……全て揃い、ついに魔導蒸気機関が完成した。完成してしまった。これでもう、蒸気機関を隠すことはできない。


 燃料は火と水の魔力。蒸気機関は安全機構あり。駆動装置は実用化済み商品、風力トロッコ。


 できれば、稼働させるために風の力も加えたかった。だが風ではせいぜいかき混ぜるか、蒸気の行き先を変える程度。運用向きではない。


 火と水の一族はこの技術の発展を喜ぶだろう。水は燃料と冷却に、火は稼働中ずっと必要だ。それだけに、魔導蒸気機関は風の一族の反発を招きかねない。


 ――ウィンウィンウィン


「すごいわ、お湯を沸かせるだけで木材を持ち上げるなんて。これがカケルがずっと作ってたものだったのね」


「この魔導蒸気機関があれば、どこでも風車や水車の機構を動かせる。それだけじゃない、レールを自走するトロッコや滑車も高低差に関係なく作れる」


「大発明ね! さっそくアヴィに鍵を取得してもらいましょう!」


「いや、この魔導蒸気機関の開示は、ビィに頼みたい」


「私?」


「まず、動力部となる蒸気機関はフロストランド製だ。フロストランドに勝利し手に入れた、ハイランドが所有権を持つべきだろう」


「そうだったの……カケルがそれを見つけて、再利用したのね」


「そうだ。元は魔法を使わず炉で水を沸かして動く機構だったんだろう。オレはそれを魔法で動く形で再現した」


「どうして魔法で動かしたかったの?」


「そうすることで火と水の一族からの反発を防げる。それに蒸気機関は増えすぎると、燃料のために山と森林を削り、空気を汚す。ハイランドには似合わない」


「色々考えてくれてたのね……ありがとう、カケル」


「蒸気機関の扱いは、危険性を伝えて国家に託すといいだろう。恐らく危険物指定が入る。あえてそこは国家に委ね、続く魔導蒸気機関をハイランドの鍵にする」


「大胆ね……根本を握らない理由は?」


「オレにもハイランドにも、重すぎる。蒸気機関から発展する技術の責任まで、オレは負えない」


「……それは、私もわかるわ。魔導蒸気機関は、これからどうするの?」


「小さいものだけ鉄火村で作っていこう。大きいものは、いずれ聖都で開発されるだろう。魔導蒸気機関は聖都のように貴族が多いほど有用だからな」


「わかった。準備ができたら、水の姫に伝えるわ」


「もう一つ、頼みたいことがある」


「なに?」


「水力と風力を元にしていた機構の持ち主に、魔導蒸気機関との鍵の連結依頼を出してほしい」


「そうするとどうなるの?」


「彼らが魔導蒸気機関を使ってこれまでの機構を改良できる。そして、魔導蒸気機関から派生する商品の利権を得られる」


「……なんだか複雑だわ。どうしてわざわざ利権を譲るの?」


「元々の利権の持ち主を敵に回さず、むしろ味方にしたい。そしてハイランドが困った時に助けてもらえばいい。フロストランドの脅威は、これからどんどん大きくなる」


「……そうね。私もお金より、安全がいいわ」


「奥さんのこと、よくわかってるだろ?」


「ええ、いい旦那様だわ」


「ビィの外交手腕なら、きっとできる」


「うん、頑張るわね」


 ――


「これが……魔導蒸気機関か」


「素晴らしいでしょう? ハイランド女爵から送られたのよ。これがあれば聖都の治水は上流から下流まで完全に網羅できるわ」


「蒸気機関との差はなんだ?」


「燃料が魔法か否か、ですわ。フロストランドでは魔法を使わず炉で動かすそうです」


「ふむ……貴族でなくば扱えないのが魔導蒸気機関、平民でも使えるのが蒸気機関というわけか」


「……火の王よ、どちらも封印指定にするべきです」


「なぜだ、風よ」


「それはエセルに硝煙よりも恐ろしい風、黒煙の風を呼び込みます。風車の丘は煙にまみれ、街は蒸気で覆われ、水と石の都は汚水と鉄の都に代わるでしょう」


「……風の先見が外れたことは無いけれど」


「それは我らが制御すれば良い。火の薬ですらしていないのだ。封印指定はやりすぎだろう」


「蒸気機関だけでも封印するべきです」


「だめよ、それじゃあハイランドしか魔導蒸気機関を作れないわ。あんな遠くの小さな町で、聖都の需要を満たすなんて不可能よ」


「蒸気機関が無くば魔導蒸気機関も成り立たん。火の薬と同じ、国家管理の危険物指定としよう。フロストランドがこれを使う以上、最低でも技術の開発は不可欠だ」


「しかし……」


「風の先見は疑っておらん。しかし魔導蒸気機関はどうあがいても聖都を汚さんだろう? 風が不要となるわけでは無い、火と水に新たな道が拓けるだけだ」


「……」


「反論はないな? では大司教。認可を」


「……大司教さま、起きてください」


「あん……? 話は終わったか?」


「はい、風の子がすねてますから、飴でもあげてくださいな」


「なんじゃ風の。いじめられたんか?」


「……風が呼んでいるので、失礼します」


「……なんじゃい?」


「そんなことより魔導蒸気機関だ。これは素晴らしいぞ。さっそく騎士になれずくすぶってる連中を集めなければ」


「まずは上水の治水から始めましょうね」


「おい、そっちの話が終わったなら、バニシュされた呪殺の魔女を教会に戻す方策を考えてくれ」


「それは教会のお仕事ですわ」


「そもそも呪殺の魔女制度を作ったのは教会だ。知ったことではない」


「なんじゃいもう……ちょっとは手伝ってくれよう」


「ポーションの元となる水でしたら、魔導蒸気機関で教会に流れるようにしてあげますわ」


「そんなことしたら、姫が教会にこんようになるではないか……」


 ――


 その日、神聖エセル王国に革命を起こす技術、魔導蒸気機関がアカデミーに認定された。開発者であるベアトリクス・ハイランドはその権利のほぼ全てを国家に譲り、その功績は大いに讃えられた。


 後に、魔導革命と呼ばれるこの時代の節目以降、エセルは魔法と科学の融合した魔導文明として、発展していくことになる。


 その栄光の裏に何者かの存在が示唆されているものの、歴史にその名は残されていない。

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